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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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ファイナルマッチ『澄空悠斗vs臥淵剛』6

「悠斗ーー!!」

「最高ですーーーー!!」

「あれ、私が! 私が描いたポーズ!!」

「考えたのは、姉御でしょう!?」

「どっちでもいいよ! 悠斗ーー! 悠斗! 悠斗!」


万雷の歓声の中、小学生ズが、澄空悠斗の身体のことも鏡明日香の運命のことも飲み込んで、飛び上がって喜んでいる。

ある意味では、この三人が、一番異常な状況に置かれていた。

そして、一番不幸だった。


優しい迷宮に囚われ、後悔と絶望だけを毎日のように突き付けられる日々。

どんな思い出も笑顔も、幻でしかないという結論。


だが、もう違う。

後悔は終わってしまった。


悲しみはあっても、あとは希望しかない。


鏡明日香の人生は、本人がかつて……いや、今でもずっと望み続けていた通り、どんなところで困っている誰をも救う、無敵のBMP能力として昇華されたのだから。


「……っ」

明日香の頬を涙が伝う。


「悠斗……大好き……!」



☆☆☆☆☆☆☆



「聞いたことないぞ、そんな能力……。いったい……。いや、そもそも、この体格差で強化系能力のパワー負けをするはずがねぇ……」

唇を拭いながら、信じられないという顔をする臥淵さん。


「ちょっと特殊なスキルでして……」

と言う俺の身体から、七色の燐光が立ち上る。

極限まで圧縮した『BMP能力の素』とも言える力を、全身の筋力に上乗せしているためである。


「筋力を強化するのではなく、全身にBMP能力を纏って力に上乗せするイメージです」

「なっ……」

……いや、少し補足。

これはそんなに高尚なものではない。有り余るBMP能力値に任せた、力の垂れ流しである。

制御するとか絞り出すとか、そういうテクニックとは一切無縁の。

蛇口全開の垂れ流し。

命の垂れ流しと、もうあと紙一重。


「俺も大抵無茶な方だと思ってたが……。正気の沙汰とは思えねぇ……」

「残念ながら、極めて正気です」

悪いのは俺じゃない。

超級の美少女のくせに、こんな生き方をしている明日香が悪いんや。


「行きます」

戦術も何もない。

身体一つで無防備に突っ込む。


「ふざけんな!!」

ハンマーのような拳が俺の頭を跳ね上げる。


「…………」

効かない。

……訳ではなく、普通に痛いが。


耐えられる。


「……はぁっ!」

分厚いタイヤを一瞬で爆散させたような音と共に、俺の拳が臥淵さんの腹に埋まる。

「……が……ぁ」

背中まで貫通しかねない勢いだったが、もちろんそんなことはない。

しかし、ダメージは深い。


「おおおおぉぉぉぉ!!」

くの字に身体を折った臥淵さんが、凶暴な雄叫びと共に、右フック。

「…………っ」

アドレナリンが出始めたのか、あまり痛くない。

なので、さきほどよりも余裕をもってボディブロー。


「が……ぁ……あ!」

痛みをこらえながら放たれたローキックを、ふくらはぎで受け止める。

絵面的には、虐待レベルで痛々しい体格差だが、痛くない(※と思い込む)!


「おおおお!!」

今度は俺が吠える。

三度のボディブロー。

別に賢崎さんの真似をした訳ではない。

……顔まで背が届かないのだ。


仕方がないので、動きの止まった臥淵さんを賢崎さん仕込みのサイドキックで蹴り飛ばす。



☆☆☆☆☆☆☆



「な……ナックルウエポン?」

「はい……。ビックリですね」

驚愕の剣麗華と、ぽかんとしている賢崎藍華。


「断言します。あんな正気を疑うようなBMP能力は、この世の中に存在しません。……創造次元クリエイト、できちゃったみたいですね……」

賞賛というよりも、『もう好きにしてください』といった雰囲気の藍華。


「能力もそうなんだけど、あの体術は?」

「? 私の動きを真似てるんでしょうけど、それが何か?」

「ちょっと下品……とまでは言わないけど、乱暴すぎる気がする。悠斗君には似合わないかも」

「……人類かどうか疑わしい強敵を相手にしているのに、お上品な技を教えてどうするんですか……」

地獄の炎剣を振り回す麗華に言われたくないらしく、さすがの藍華も口を尖らせる。


一方、麗華は。


「やっぱり、私がひと肌脱ぐ必要があるかもしれない」



☆☆☆☆☆☆☆



俺のサイドキックで豪快に吹っ飛ばされた臥淵さんだが、立ち上がって来る。


効いていない訳ではない。

殴る蹴るだけとはいえ、体感の出力はレーヴァテイン並みである。

……ビルくらい壊せるんじゃないだろうか。

それにもう一つ気がかりなことが……。


「ふ……臥淵さん……?」

「正解だ、悠斗」

唇から血を滲ませながら、臥淵さんが答える。


「そのBMP能力。ダメージ無効化結界を貫通してやがる」


……やっぱり!!

威力が大き過ぎるせいか、能力自体の特性かは分からないが、これはまずい!


「ふ……臥淵さん……」

「止めようなんて言うなよ」

唇を拭いながら言う、臥淵さん。

しかし、このままでは、半分殺し合い……いや、俺はダメージ無効化結界に守られるけど……。


「あの時の続きだ」

「!!」

それは……。


「思い出したぜ、悠斗。このどうしようもなく絶望的な感じ……」

臥淵さんの言葉に、初めて本物の感情が籠った気がした。

「どうしようもなく絶望的で、どうしようもなく屈辱的で、どうしようもないほど高い壁を感じるのに……」

「……」

「どうしても、もう一度挑みたくて、何度も夢に見る」

「…………」

俺にとっては、曖昧な、遥か昔の記憶。

だが、それが間違いなく、俺と臥淵さんの闘いの記憶だったと言うのなら……。


「ようやく会えたな、『澄空悠斗』」



☆☆☆☆☆☆☆



国立武闘館を見下ろせる場所で、二宮修一は唇を噛んでいた。


「駄目だ、剛様……。その少年は、本当に危険だ……」

ダメージ無効化結界は、彼の分身のようなもの。

臥淵剛と、同時に殴られたようなものなのである。


だから分かる。

あれは、ただ『強力な物理攻撃』というだけではない。

もっと異質な……、あるいは、上位の……。


と、そこで、修一は、ふっと息を吐いた。


「そんなのに惚れるから苦労するんですよ、剛様」

穏やかな微笑みと共に、決意が漲る。


臥淵剛は知る由もないが、貧弱少年だった自分を変えてくれたのは、ハンマーウエポンだった。

そして、臥淵剛は冗談だと思っているが、ぶっちゃけ、修一はガチのゲイだった。


澄空悠斗のように拳で語り合うことができないのなら、せめて。


「俺の結界で、貴方を守ります」



☆☆☆☆☆☆☆



俺も覚悟を決める。

いくら(※臥淵さん側にのみ)具体的な危険があるとはいえ、それで諦められるくらいなら、もともとこんなところに出場していなかった。

もちろん手加減はできない。

ただ、俺の感覚だと、 永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイルは、ダメージ無効化結界を完全に無視出て来ている訳ではない。

ここは、国内最高の結界士との触れ込みの、二宮さんを信じるのみだ。

イケメンなんだから、ちゃんとして欲しい。


「いくぞ、悠斗!!」

「了解です!!」

覚悟を決めて殴り合う、俺達二人。


が。


「……あれ?」

まっすぐに突き出した拳が、ふわりと横に逸らされる。

賢崎さんを彷彿とさせる動きで俺の拳をいなした臥淵さんが、凶悪なアッパーカットで俺の顎を捕える。


「……っく」

痛みを堪えながら。

右フック→一歩下がられて、当たらない。

左フック→もう一歩下がられて、当たらない。

右ストレート→ふわりといなされて、当たらない。


そして。

臥淵さんの右ストレートが、俺の頭を貫く。


「っ!!」

痛い。

さきほどまでとは比較にならないダメージが、芯に残る。

もちろん、臥淵さんがさらなる秘蔵パワーを駆使し始めた、という訳ではない。

俺の力が抜けたタイミングを狙われたのだ。


「ふ……臥淵さん……」

「笑うか、悠斗?」

別に笑いはしませんが!!


「パワー系最強の誇りはいいんですか!?」

「勘違いすんなよ、悠斗」

見よう見まねで繰り出す賢崎さんの体術が、片っ端から臥淵さんにあしらわれていく。

これは……とてもパワーに頼り切った人の動きじゃ……!?


「俺はそんなもん、一瞬だって誇った覚えはねぇ」

「!?」

は……初耳や、そんなん!


「澄空悠斗に勝とうってのに、そんなもんに頼ってられるかよ!!」

左→右→左と、芸術的なまでのコンビネーション。

俺の頭が、ピンポン玉のようにあちこちに跳ね飛ばされる。


このパワーでテクニックまで使われたら、もう鬼に金棒レベルの話じゃない!

ならば!!


「!? 血迷ったか、悠斗!」

突然棒立ちになり力を抜いた俺に、臥淵さんが驚きの声をあげる。


だが、戦闘モードになった臥淵さんは止まらない。


勢い良く踏み込み。

激しく突き出した拳が。


空を切った。


「な……!」

それは、残像。

懐に潜り込み。

驚きの声をあげる臥淵さんを、超至近距離から見上げる俺。

臥淵さんには、きっと、深緑色に染まった俺の瞳が見えていることだろう。


「し……正気か……?」

アイズシリーズは、他のBMP能力と相性が悪い。

発動するためには、一時的に、 永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイルを解除するしかない。

ついでに言うと、アイズオブエメラルドはクリムゾンほど精神支配に向いていない。

ダメージ無効化結界があるとはいえ、怪力無双ドラゴンバスター相手の戦術としては、まったくもって自殺行為。


だからこそ、有効。


「ゆ……!」

創造次元クリエイト!  永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイル!」

臥淵さんの拳が頬を掠める。

俺の拳が、臥淵さんの腹部にめり込む。

下がって来た頭を力一杯、アッパーカットで跳ね上げる。


どこか遠く。

客席のあたりで、巨大なガラスにヒビが入ったような音がした。

だが、気にしない。


臥淵さんのダメージは深く。

俺のBMP能力も息切れしそうで。

次の一撃は、お互いに命取りになる可能性がある。

だが、気にしない。


思い出した。

あの時と全く同じ。

確かに、あの時、俺は、クリスタルランス・ハンマーウエポンと闘った!


「悠斗ーー!!」

「臥淵さん!!」

互いの声が混じり合い。


拳が交錯する。

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