表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
235/338

ファイナルマッチ『澄空悠斗vs臥淵剛』5

★☆★☆★☆★



空が赤かった。


比喩ではなく、本当に血のように赤い空。

幻影獣を追い出そうとして失敗した都市の末路。


血色の空に負けないくらい赤く燃える炎が迫ってくる。

逃げる途中で離ればなれになった親達は、『やっぱりもう少し早く逃げれば良かった』と何度も謝っていたが、今さらもうどうしようもない。

行くところがあれば、もっと早くに逃げ出してる。


幻影獣に身体の半分を吹っ飛ばされた人を見た。

爆発に巻き込まれて動かなくなる人達を見た。

怪我もないのに、突然発狂して事切れた人を見た。


そして、自分はもう動けない。


○○を庇った際にドジをした。

幻影獣の攻撃で崩れてきた瓦礫に、下半身を押しつぶされた。

あまり痛みはない。

たぶんもう二度と動かないと、何となくわかった。


だから何度も、自分を置いて逃げろ、と言っているのに、みんな動こうとしない。


○○は、私のせいだと泣きじゃくり。

□□は、幻影獣なんか俺がやっつけてやると、震えながら強がって。

△△は、姉御がいないと駄目なんです、なんて叫んでいる。

こんな時まで名前で呼べないとは、情けない眼鏡だ。


本当に困った。

私を置いていってもらったところで、こんな三馬鹿がうまく生き残れるとは思えない。

困ったな。

BMP能力。使えるようになってれば、どうにかなったかもしれないのに……。


こんなピンチすぐに脱出して。


幻影獣なんか蹴散らしながら、ただの小学生の女の子として生活するんだ。


恋もして、美味しいものいっぱい食べて、勉強とか部活とかもして……。


何て言ってかなぁ……。

あのアニメの主人公は、何もかも、凄くうまくやってたのに。


とてもとっても格好良かったのに……。


ああ……。


ヒーローに……、なりたいなぁ……



★☆★☆★☆★



「…………」

ゆっくりと目が覚める。


反射的に下半身を確かめるが、別になくなってたりはしない。

感覚もちゃんとある。


「夢……?」

にしては、妙に生々しかった。

まるで誰かの記憶が流れ込んできているみたいに……。


「縁起でもない……」

ゆらりと立ち上がる。

あまり気分は良くない。

下半身では無事でも、殴り飛ばされたであろう顎のあたりは、凄い痛い。


というか。


「いくら何でも、手を抜き過ぎじゃないですか?」

抗議の意味も込めて、臥淵さんを睨み付ける。


「別に抜いてねぇよ。直撃を避けると同時に、防御スキルを発動したおまえが巧かったんだ」

「…………」

そんなことは聞いていない。

戦闘中にぐーすか寝ていた俺を、爽やかに見守っていたことについての異議である。


まぁ、臥淵さんの気持ちも分かる。

こんなにあっさり勝負が付いてしまっては、気持ちが収まらないんだろう。

とはいえ、ここまで対人……というより、対澄空悠斗仕様の能力にされては、俺もどうしようもない。


相性が悪かっただけ……といえば、姉御達は信じてくれるだろうか……。


「あ……」

と、そこでようやく気付いた。

俺が、この試合を最後に選んだ理由。


なんのことはない。

姉御達に認めて欲しかったのだ。

中途半端にしか助けられなかった臥淵さんじゃなくて、俺こそが本物のヒーローだと。


「は……はは」

これは笑える。

ヤレヤレ系巻き込まれタイプだと思っていたけど、こんなくだらない意地で寿命を減らす闘いをするなんて……。

「ははは……」

渇いた笑いが漏れる。

まぁ、なんだかんだ言って、みんなを助けてチヤホヤされるのは、悪い気分じゃなかったんだろうなぁ……。

「はは……はぁ」

全身の力が抜けた気がする。


これはこれで良かった。

何となく色々なことが諦められる気がする。


世間の人達にとってもそうだろう。

絶望の幻影獣を倒した澄空悠斗より、もっと強いハンター達が世界を守っているということなんだから……。


それを言うのが、俺の最後の役目。うん、悪くない。


「えーと……」

俺は両手を挙げ。

「この勝負……」

声はマイクで拾ってくれているだろうが。

「俺の……」

それでもできるだけハッキリと大きな声で。

「ま……」



「こ! の! ア!ホ!悠!斗!ーーーーーー!」



「……」

「……」

俺と臥淵さんが顔を見合わせる。


万単位の歓声を貫いて響いた一つの怒声。

とても聞き覚えがある声だった。


「姉御……?」

俺の視線が、遥か遠い観客席から、まるで奇跡のように姉御の顔を捕える。


怒声に続く言葉は歓声にかき消されて聞こえない。

横で同じように叫んでいる、ハカセとガッツとエールが何を叫んでいるのかも分からない。


まぁ。

ただ。


あいつらにとっては。

もうすでに。


臥淵さんでなくて、俺がヒーローなんだと、分かった。


「悠斗?」

「あー……」

やっぱり。


ヒーローというのは、ブラックな商売である。



☆☆☆☆☆☆☆



「きょ……局長……?」

「ん? どうしました、志藤君?」

国立武闘館の貴賓室。

剣首相をはじめ、多くの閣僚を招待したその場で、志藤美琴と城守局長は言葉を交わす。


「どうしましたじゃないですよ、顔です。顔」

言われて、城守蓮は自分の部下が何を言いたいか悟る。


「ちょっと良くない顔になってましたか?」

「ちょっとどころか、政府のみなさん、ドン引きですよ」

と志藤美琴の言うとおり、強面の高官達は皆、さりげなく蓮から距離を取ろうとしていた。


「し……城守局長、『血まみれ凶戦士』は卒業したのではなかったのかね……?」

「いえ、もともとそんなおかしなクラスに就いた覚えはないのですが」

蓮の戦闘を目撃したことのある議員の質問に、蓮はしれっと返す。


「や……やはり、あの男に文官など向いていないのでは……」

「『これからは文武両道だ』とかいうスローガンで出世させたのは、あなたでしょうが……」

「余計な刺激をするな。人間相手のSPでは、盾にもならんぞ……」

「というか、あの女性職員何者だ? あの状態の城守蓮の肩を平然と叩いていたぞ……」


高官達がひそひそ話を始める。

城守蓮は、やってしまったと思った。


特に古い議員連中には、自分の現役時代がトラウマになっている者もいるから、気をつけていたつもりだったのに。


つもりだったのに……。


「局長ー……」

「だって見てくださいよ、志藤君」

志藤も、それからクリスタルランスメンバーさえも呆れたように見つめるなか。

城守蓮は言った。


「あの悠斗君を見て、我慢ができると思いますか!?」



☆☆☆☆☆☆☆



コツ……というと、良く分からない。

姉御が持ってきたスケッチブックは、本当にポーズくらいしか参考にならなかった。


耽美な男キャラによる、ちょっとクドい立ちポーズ(※キャラ設定に多少無理があるが)。

乗算ではなく加算するという、机上の理論。


「行きますよ」

ふわりと地を蹴る。

どうということのないスピードで臥淵さんに迫り。

適当なモーションで繰り出した右拳が。


防御ごと、アリーナの壁際まで臥淵さんを吹っ飛ばした。


あまりの手ごたえに、眩暈さえ覚える。


何て言ってたか……、あのアニメの主人公なら、ともかく。

こんなに簡単にできるなら、そもそも修行の意味ないじゃないか、という話である。


まぁ、それでもあえて成功の秘訣を語るなら。

それはイメージ。

実際に目撃するのと同じくらい精密ではっきりとしたイメージが見えた気がした。


強く。

賢く。

力強く。

そして、あくまで優雅に。


「なんなんだ、そりゃ!! 悠斗ーー!!」

「新スキルなんですが」


スキルの構成ではなく、一人のちょっと口の悪い……しかし、とてもしなやかで揺るぎない小学生女子のあり方そのものが。


創造次元クリエイト永遠の淑女ベアトリーチェ・スタイル

……なのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ