ファイナルマッチ『澄空悠斗vs臥淵剛』3
ルーキーズマッチのファイナル。
そして、クリスタルランスの参戦。
さらには、BMP能力者の歴史上、最大の戦果を挙げたと思われるルーキーの出場。
しかも、直前まで賢崎ルーキートップの美少女が出る予定だったこともあって、その筋からの観客も多く。
結果、国立武闘館は超満員だった。
剣首相はじめ政府の閣僚も観戦に来ており、イベントとしての格も最上級(※首相と一緒に剣麗華にも挨拶してもらおうという案もあったが、他ならぬ首相の意向で却下された)。
そんなファイナルマッチは、開始早々、観客席が静まり返る事態となっていた。
「ド……、ドうしタンでショウ、悠斗さん……」
エリカが呟く。
古代ローマを彷彿とさせる、円形闘技場形式の国立武闘館。
澄空悠斗の仲間達(※小学生ズ含む)は、城守蓮の貴賓席への誘いを丁重にお断りし、コロシアムの中ほどに席を取っていた。
「試合開始と同時に、砲撃城塞で牽制。数歩踏み込んで、右手から超爆裂。炎をブラインドにして、カラドボルグ。……速さも重さも、言うことなしの連携だが……」
「……殺す気か……?」
エリカの隣で、三村と峰も感想を言う。
いくらダメージ無効化結界があるとはいえ、もちろん上限を超えたダメージは危険である。
真剣勝負とはいえ、普通なら、大出力系能力者は少しは考慮する。
特に、最後のカラドボルグはまずい。身体を両断される痛みは、下手をするとショック死しかねない。
「ソードウエポン。澄空さんはどうかしたんですか?」
「私にも分からない……。試合の直前まで普通だったのに……」
「そうですか……。私のEOFでも分かりませんでしたから、どこか悪いという訳ではないようですが……」
「ナックルウエポンにも?」
剣麗華と賢崎藍華も困惑顔である。
普段は冗談めかして言っているが、実際に戦闘時においては、澄空悠斗は異常なほど冷静なのである。
誰もが驚く強力な戦術も、万に一つを手繰り寄せるような奇跡的な逆転劇も、それを最後まで遂行できる冷静さがあってこそ。
だが、今日の彼は……。
「悠斗君。何だか、焦ってる……?」
という剣麗華の言葉を聞いて、後ろの席に座っていた鏡明日香とその仲間たちが、びくんと背中を震わせた。
「や、やっぱり、あんな状態で試合させるのまずかったんじゃないかなぁ……。姉御……」
「だからみんなで今日の朝、悠斗に棄権を勧めにいったんじゃないの。剣さん達には内緒にして……」
「むしろそれで逆に追い詰めてしまった感があるんですが……」
「ふみゅう……。悠斗、繊細……。私達どうすれば良かったの……?」
前列の高校生達に聞こえないように、ひそひそ話をする小学生ズ。
事情を知っている分、高校生ズよりも小学生ズの方が深刻そうな表情をしているが、中でも明日香は特別だった。
「悠斗は確かにヒーローだけど。私、無理してまで勝って欲しいという訳じゃないんだよ。悠斗……」
☆☆☆☆☆☆☆
「ぜっ……は、ぜっ……は……」
片膝を着いたまま動かない臥淵さんを見ながら、必死で息を整えようとする俺。
そして、息を整えながら思う。
……やり過ぎたかもしれない。
身体の状態については、ある程度覚悟していたつもりだった。
もちろん、実際に試合が始まったら準備段階とは話が違う、というのはあるが、それだけではない。
……なんというか、ヤバかった。
臥淵さんとは10年ぶりに闘うことになるわけだが、あの時はこんなヤバい感じはなかった。良く覚えてないがたぶん。
いや、それどころか、再覚醒してから立て続けに闘うことになった強敵たちと比べても……。
「ふぅ……。やべぇやべぇ。死ぬかと思ったぜ」
「!?」
俺の予想を裏付けるように、何食わぬ顔で臥淵さんが立ち上がって来た。
ダメージ無効化結界がある以上、外見上のダメージがないのはいい。
けど。
「けど、こういうんじゃないよなぁ? 『澄空悠斗』の強さは。エキシビジョンだと調子がでねぇか?」
……全く効いてないのは、どういう訳だ!?
☆☆☆☆☆☆☆
「蓮。これは一体どういうこと?」
バトルアリーナが見える一番いい部屋。いわゆる貴賓室。
その一角で、クリスタルランス・アローウエポン茜嶋光が、城守蓮に詰め寄っていた。
緋色瞳・犬神彰とともに、招待されていたのである。
「何故、私に聞くんですか?」
「まず一つには、管理局が内的ダメージまで無効化する結界を張ってないか疑っている」
「そんなもの張れたら、試合にならないじゃないですか?」
それだとただの演武である。
「あと、蓮。戦闘狂だから」
「引退して管理局長までになった元チームメイトに、なんてことを言うんですか……」
溜息を吐く蓮。
そもそも蓮は、管理局長として閣僚の応対をしないといけない立場であり、あまりクリスタルランスとばかり話していられないのである。
が。
「しかし、城守君。分かるのだったら、わしも教えてもらいたいのだが」
と、剣首相に言われてしまっては答えるしかない。
「実はしばらく前から気になってはいたんですが、最近、一部の幻影獣を相手にした時の剛の被ダメージが、極端に低いんですよ」
「? 防御を覚えたってことかいな」
「『被弾』はしてるんです。ただ、それが『効いていない』。しかも、それに反比例するように継戦能力が落ちている」
犬神彰の質問への蓮の答えを聞いて、閣僚からも何かに気付いたような声が上がる。
「そうです。あれはおそらく、変質した剛のBMP能力の一部。多大なコストと引き換えに、特定のBMP能力のダメージをカットする能力だと思います」
「どのくらいカットするんですか?」
「私の予想では、約9割」
簡潔な城守蓮の予想に、貴賓室にざわめきが走る。
「9割もカットされたら、さすがにかなわんなぁ……」
「その『特定の種類』のBMP能力を使わないよう、ユトユトに言わないと……!」
犬神と茜嶋がそれぞれ心配する。というか、ナチュラルに悠斗の味方に付いている辺りは、臥淵剛が御愁傷様ではあるが。
「それは難しいかもしれません」
「? 何故?」
首を振る蓮に、茜嶋が疑問を返す。
「剛がカットしているのは……。おそらく、『直接物理攻撃以外全て』です」
☆☆☆☆☆☆☆
「いくぞぉ!」
豪快な怒声と重量に見合わない、恐ろしいほどのスピードで臥淵さんが間合いを詰めてくる。
まるでダンプカーが迫ってくるような迫力だが、ここは引いた方が危ない。
「劣化複写・砲撃城砦!」
十分に引きつけたうえで、超至近距離から砲撃城砦を叩きこむ。
対戦車ロケットを撃ち込んだような猛烈な音とともに、臥淵さんが2・3歩あとずさるが……。
それだけだった。
「この……!」
「劣化複写・引斥自在!」
ダメージはないだろうが、引斥自在で露骨に距離を引き離す。
「劣化複写・捕食行動!」
《おい!》
あ……。
ガルアの大口を召喚してから気付く。
異次元に送るこのBMP能力は、ダメージ無効化結界でも防げない!
やばい!
と、思ったのもつかの間。
なんと、臥淵さんは捕食行動に真っ向から掴みかかった。
「…………ぎっ」
大口の上唇と下唇を掴み、ギリギリと音を立てながら握りつぶしていく。
あの人、ホントに人間か!?
《……辞めたのかもしれん》
が、それならそれで好機。
「おおおおぉおお!!」
バトルアリーナ全体を震わせるような轟音と共に、捕食行動が地面に叩き付けられる。
捕食行動は消滅していくが、代わりに臥淵さんも隙だらけである。
「劣化複写・砲撃城砦・全力突撃!」
身体能力を強化して突撃し、至近距離で砲撃する、砲撃城砦の派生技。
本家の峰もあまりやらない技らしいが、教わっておいて良かった。
「これじゃ、軽いぜ!」
俺を真正面から受け止めた臥淵さんが吠える。
「知ってますよ!」
臥淵さんが掴みかかってくる前に。
幻想剣レーヴァテインを召喚する。
「ゆ……!!」
ほぼ禁じ手。
至近距離からの……。
「爆ぜろ炎剣! レーヴァテイン、解放ー!!」