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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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ちょっとした気がかり

『クリスタルランス2人目:ハンマーウエポン・臥淵 剛(能力名:怪力無双ドラゴンバスター』の場合


麗華さんのお祖父さんと、麗華さんと同じくらい綺麗な謎の美人のツイン攻撃で消耗しきった俺は、なんとか解放されたあと、ふらふらしながら首相官邸の廊下を歩いていた。

『麗華さんが戻るまで待っていては?』と勧められたが、あれ以上消耗させられては、家探しどころではなくなってしまう。


「にしても、一体、麗華さん、どこ行ったんだろうなー?」

と、歩き慣れない広大な建物内をうろうろしていると。


前方から、2メートルはありそうな、がっしりした体格の男が歩いてきた。


「な、なんだ、あれ!?」

思わず叫んでしまったのも、無理はないと思う。

大男は、なんとハンマーを担いでいた。

それも、漫画とかで出てきそうな、コテコテのハンマーだ。

しかも、でかい。大男の背丈くらいある。


大男自身も、ガラが悪いというわけではないが、異常な威圧感がある。

『近づくだけで怪我をしそうな』という形容詞がぴったりの大男だ。


だから、俺は、端に寄った。

それも、壁に触れそうなくらい端にだ。

なのに。

気がつけば、大男は、俺の目の前に来ていた。


「な、何でしょうか?」

近くで見ると、ほんとにでかい。目の前に壁ができたみたいだ。

「ふん……」

大男は俺の質問には答えず、軽く鼻を鳴らすと、いきなりハンマーを振りかぶった。

「『怪力無双ドラゴンバスター』」

まさしく、ドラゴンをも倒せるくらいの威力を持ったハンマーが迫ってくる。

あまりに突然の出来事で、俺は対応どころか、走馬灯すら見る暇がない。


そして。


俺の鼻先数センチのところで、大男のハンマーはピタッと止まっていた。

こんな馬鹿でかいハンマーをあれだけの速度で振り下ろしたのに、ほんとにピタッと止まっていた。


「避ける必要もなし……か。つれねえなぁ。相変わらず」

ハンマーを背中に戻し、大男は、にっこりと獰猛な笑みを見せた。

いや、反応できなかっただけっすよ。

だいたい『相変わらず』ってなんだよ。出会いがしらにハンマーを振り上げられた経験は、今まで生きてきた中で、なかったぞ。

「あの時は、不意を突かれたからだ、なんて言い訳はする気はねえけどな、今の俺は、あの時よりさらに強ええぞ。失望させるつもりはないぜ」

「???」

何を言っているんだ、この人?


「ああ、そうか。一応、自己紹介する必要があるんだったな」

いかにも『馬鹿らしいけどな』と言わんばかりの口調で、大男が言う。

「俺は、ハンマーウエポン・臥淵 剛。能力は『怪力無双ドラゴンバスター』。ま、典型的な怪力戦闘タイプだ。よろしくな』」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

この人の名前も聞いたことがあるな。


クリスタルランスのメンバーで、身体能力を飛躍的に向上させる『怪力無双ドラゴンバスター』の使い手。

身体能力自体を向上させるから、攻撃にも防御にも隙がないのはもちろんだが、特筆すべきは、その攻撃力の上昇幅。

あのハンマーで、まるで虫をつぶすように、直接幻影獣を叩き潰すらしい。


……さっき止めてくれなかったら、首相官邸の壁に、俺の顔がコレクションされてたな……。


「ところで、おまえ。ストリートバトルは知ってるな?」

「は、はい」

ストリートバトルって、確か、能力向上を目的にBMP能力者同士で私闘をするやつだよな。

話は聞いたことがあるけど、俺には無縁のものだ。


「俺は、ストリートバトルは基本的に誰からでも受けてるが、おまえは特別だ。ファイトマネーなしで最優先で受け付けてやる。俺の懸賞金はなかなかのもんだから、その気になったら、いつでも連絡してくれ」

「は、はぁ」

なんで、そんな危ないものを、こんな化け物と俺がしないといけないのだ?


「じゃあな、『主都橋の……』じゃなかった『BMPヴァンガード』。ストリートバトル待ってるぜ」


最初から最後まで、意味不明のまま。

謎の大男は、去って行った。



結局、この日は部屋探しどころではなくなった。



◇◆◇◆◇◆◇



「澄空。ちょっと、小耳に挟んだんだが……」


次の日。

俺の通うBMP能力者養成校『新月学園』に登校した俺は、朝の教室で一人の弱ナンパ男風イケメンに話しかけられていた。


こいつの名は、三村宗一。

風貌こそ弱ナンパ男だが、一応BMPハンターだ。おまけに、麗華さんと同じく『ウエポン』の称号持ちだ。

また、学力に応じたクラス分けがされるこの学校で、このクラス(学年一位だったりする)にいるということは頭もいいということだ。

じゃあ、俺も頭がいいのかというと、そういうわけでは無かったりする。


「おまえ、家を探してるんだってな?」

「そうだけど。誰から聞いた?」

疑問に思って聞き返す。

この話は、麗華さんにしかしていないと思っていたんだが。


「いや、剣に『なんか面白いことないかなー』って聞いたら、『うん。悠斗君が部屋を探している。私も、できる限り助力しようと思う』って答えてくれたもんでなー」

……なるほど。

別に『面白いこと』ではないと思うが。

「というわけで、おまえにはこれをやろう」

と、封筒を渡される。


「なんだ、これ?」

「中には、地図と入場券が入っている」

指を意味なく左右にチッチッと振りながら、三村が言う。

こういうことするから、弱ナンパ男とか言われる(※俺に)んだがな。

「そこで、おまえは求めるものを得るだろう」

「要するに、住宅展示場の案内か何かか?」

「……ま、平たく言えば。バイト先なんだけどな、ノルマが結構、きついんだよ。助けると思って、頼む!」

拝むような仕草をする。

コイツは、弱ナンパ男のくせに、なかなかの苦学生らしい。

一か月前までは、こいつに輪をかけて苦学生だった俺としては、なんとか力になってやりたいところだ。


「じゃ、とりあえず、週末に行くよ」



◇◆◇◆◇◆◇



その日の放課後。


俺は、こども先生に呼び出された。

ちなみに、こども先生というのは、俺が勝手に(※心の中だけで)呼んでるあだ名で、本人に言うと怒る。

というか、本当に子供の年齢なんだよな?

もし仮に年齢が大人だとしたら、さすがに失礼極まりない。

やっぱり、ちゃんと緋色先生と呼ぼう。


「失礼します」

頭を下げて、職員室に入室する。

入室すると同時に、他の先生たちが『今度は何があったんだ?』みたいな顔をするが、もう慣れた。別に濡れ衣でもなし。


「ん?」

と、そこに予想外の人物を見つけた。

麗華さんだ。


「悠斗君」

おいでおいでをする麗華さん。

「あ。ちゃんと来たみたいね」

続けて、やたらと幼い声がする。


声が幼いのも当然で、麗華さんの前に座っているのは、どう見ても小学生の女の子だった。

俺が反射的に『こども先生』と心の中で言ってしまうことが、決して身体的特徴を揶揄している訳ではなく、心からの衝動だということが、実際に彼女を見ればご理解いただけるのだが。

まあ、右目に物凄く無骨な眼帯をしているのが、子供らしくないと言えばないけど。

もっと、ファンシーなのにすればいいのに。


「ちょっと待っててね」

と言って、こども先生は、右目の眼帯を外す。

そこから、深緑の瞳が姿を現した。

こども先生のBMP能力『アイズオブエメラルド』だ。


「んー」

視力検査のような格好で、麗華さんの瞳を覗きこむ。

ああすることで、その人のコンディションやBMP能力の状態が分かるらしい。

俺も、ああやって、良く『診ら』れている(※ちなみに、俺の場合は、あの後、頭をシェイクされる)。


「んー?」

眼帯をかけなおして、難しそうな声を出す、こども先生。

「麗華さんが、どうかしたんですか?」

ちょっと心配になって声をかける。

「うん。ねえ、剣さん。最近、身体の調子が変とか、熱っぽいとか、感じることはない?」

「特には。私は、風邪などはひいたことはないから」

「そっか。美人は、風邪引かないっていうしね」

……初耳だ。


「こども先生?」

「うん。悠斗君にも聞いてもらった方がいいかな。でも、こども先生言わない」

こん、と叩かれた。……また、言っちまったか。俺の馬鹿。


「わずかにだけど。麗華さんに、BMP過敏症の兆候が出てる」

「BMP過敏症?」

花粉症と響きは似ているが、BMPと入っていると不吉だ。

「BMP能力の強さに身体が付いていかなくなった時に起こる不具合の総称。進行してBMP中毒症になると命に係る」

自分のことなのに、さらっと『命に係る』とか言う麗華さん。

「高BMP能力者ほど、かかりやすいの。まあ、その年になってから能力覚醒して、覚醒時衝動も起こさないような鈍感な男の子は大丈夫でしょうけど」

く、さっきの仕返しか。緋色先生、意外とSだな。


「ま。このくらいなら問題ないでしょ。でも、しばらくはBMP能力の乱用は避けること。進行が進む時もあるから」

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