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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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内緒の話

今日は、本当に良い日だった。


ミーティングが終わった後の賢崎さんとのトレーニングは、本当に『仕上げ』だった、

もちろん、大変な訓練ではあったが、ルーキーズマッチに向けて気持ち良く強化を完了することができた。


余力を持って一日を終えたこともあり、夕食はとても楽しめた。

雪風君の料理が上手いのはもちろん、皆でわいわいやれたのが嬉しい。美人も多いし。

あと、姉御達が料理に挑戦していたらしい。

『見るな』と言われたので調理風景は見なかったが、特別まずい料理は入っていなかったし、姉御の料理の腕もそれなりに期待していいのだろう。


そして、風呂。

さすがに懲りたのか三村が変態行為をしなかったおかげで、俺は心ゆくまで疲れを癒すことができた。

風呂上りのコーヒー牛乳はまさに至高である。是非、世界的に広めたい。

三村も峰も小学生ズも存分に大浴場を楽しんだようだった。

ただ、最後に三村が「あとは風呂上りの美少女の香りを嗅ぐだけだな!」とオチを付けてくれたが。

……あいつ、ひょっとして、本当はモテたくないのかもしれん。

…………。


……………………。

……………………。

…………まぁ。


「……なんというか、反対、という訳でもない」

こともなくはないとは限らない訳ではない。


特に意味はないが、麗華さんを探してみるか。

特に意味はないが。


「どこかな、麗華さ……ん!?」

いきなり後ろから口が塞がれる。

油断した!

……というか、もともと警戒してないけど!


細いのに物凄い力で後方に引きずり込まれる。

目の前で閉まる扉。


ここ、物置か!?


「静かにして、悠斗君」

「へ……へいははん……!?」

凄まじいパワーとスピードの割に、明らかに女性の腕だったので、未知の敵でなければ十中八九春香さんだと思っていた俺は驚いた。


「静かにして、悠斗君。大事な話があるの」

「ひょ……ひょれは、ひはしはいほいへはいはなしはのれひょーか?」

「そういう訳じゃないけど、前にデパートで、こうやると話しにくいことでも話せると分かったから」

「ひょれはよくはい! ひひひふいほほへほ、ひひんほふひはってはらほう!」

「……分かった。でも、せっかくだから、今回だけはこのまま聞いて欲しい」

「ひょ、ひょうはいへふ」

で、ようやく麗華さんが口から手を放してくれた。


結構騒いだから、麗華さんの手、俺の唾液でべとべとになっているけど、匂ったりしないだろうか……。

いや、というか。

たぶん、麗華さんも風呂上りなんだろう。

これだけ近いと……。


「悠斗君、どうかした?」

「い、いや。麗華さん、凄い良い香りがするから……」

「? 私の体臭くらい何時嗅いでもいいから、今は話を聞いて欲しい」

「りょ、了解です」

怒られてしまった。

すまん、三村。


などと言う俺の葛藤はおいておいて、麗華さんが話し始める。


「悠斗君。この間の幻影獣、『ザクヤ・アロンダイト』の言ったこと……」

「え……」

「……どう……思う?」

耳元に囁くような、小さな声。

もちろん、麗華さんが『澄空悠斗にとても酷いことをした』という話だろう。

左腕うんぬんの件は麗華さんには話していないが、あれが普通の幻影獣でないことくらいは、誰にでも分かる。


「鵜呑みにするつもりはないけど、アレが何か知っているのは確かだと思う」

「……うん。私もそう思う」

麗華さんが頷いた気配。


「それで、その……。私がしたという『酷いこと』について、悠斗君に聞きたいことがあるんだけど……」

と、麗華さんが俺の腕と足に掌を添わせる。

「? 麗華さん?」

「その……悠斗君?」

「あ、ああ……」


「義手や義足だったり、内臓が人工だったりすることはない?」


「怖いよ、麗華さん!!」

俺は思わず、叫んだ。

いくらなんでも、それは怖い。


「だって、だって、私がする『酷いこと』なんて、他に思いつかない」

「もうちょっと! もうちょっとでいいから!! 頑張っていい案出そう、麗華さん!! せっかく美少女なんだから!!」

「美少女と、私が破壊的であることは関係ないと思うけど……」

「そもそも美少女は『破壊的』なんて単語を使わないんだよ!!」

せいぜい『暴力的』までである(※「暴力ヒロインも時にはよいものだ」by三村)。


「……まぁ、これだけ長く一緒に居るんだし、悠斗君の内臓が天然のものでなかったら気が付いていると思うけど」

俺の言葉が通じたのかどうかは分からないが、麗華さんはとりあえず納得した(※「内臓が天然」などという単語が出るあたり、あまり通じていない気はする)。


「だいたい、俺と麗華さんは、今年の4月まで会ったことなかっただろ?」

記憶がない俺はともかく、麗華さんに覚えがない以上、俺達は会ったことが……。

「ううん、悠斗君」

が。

「ほんのわずかな期間だけど、私にも記憶がない時がある」

麗華さんは言う。


「記憶が……?」

「私だけのことじゃないけど。BMP能力者は、高い確率で記憶を失う期間がある」

「あ……」

言われて気付く。

BMP能力者、特に高能力者は避けて通ることができない試練。


「覚醒時衝動……」

「そう。私も、その前後の記憶がない。そして……」

「…………」

時期が合う。

俺が首都に居た時と。


麗華さんが気にしている理由が分かった。


「麗華さん。俺には、身体的に後遺症の残る大きなダメージを受けた形跡はないよ。上条博士に何度も検査してもらってるから間違いない」

「身体的には大丈夫でも、精神的には? 女性が苦手になったとか? 女性に苛められやすくなったとか?」

それは、たぶん、麗華さんとは無関係に、生来のものである。あと、賢崎さんのせいである。


「悠斗君の記憶が戻ると嬉しいはずなのに、怖いと感じるのはいけないことなのかな?」

「そんなことは……」

嫌なことがあったら喧嘩しようと誓い合った仲である。

もちろん、どんなことがあっても麗華さんを嫌いになるなんてことはないが……。


たぶん麗華さんも同じことを考えている。

『今からの出来事』なら、どうやってでも乗り越えていけるけど……。


過去から蘇る記憶なんて、一体、どう対処したらいいんだ?


「悠斗君」

「ん」

「小さい頃のことだから……。というのを理由にする気じゃないんだけど。私が何をしたとしても、悪意があったわけじゃないと思うの」

「ああ」

「だから」

「うん」


「あまり怒らないであげて。……ください」

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