私の考えた最強の必殺技
「今日の昼御飯は、お腹いっぱい食べても大丈夫ですよ」
と賢崎さんが言ってくれたので、いっぱい食べた。
雪風君の作る昼食は物凄く美味しかったが、賢崎さんのボディブローで吐くといけないので、2日目・3日目は控えていたのである。
ただ、少し食べすぎたかもしれない。
食休みを長めに取ってくれないか、賢崎さんに交渉してみることにした。
すると。
「いいですよ。昼食後はミーティングです」
とのことだった。
ということで今に至る。
◇◆
ミーティングということで、俺達はレクリエーションルーム(※初日にマッサージ騒動があったところ)に集められた。
集められたメンバーは、俺・麗華さん・賢崎さん・春香さん・雪風君・三村・峰・小野・エリカ・天竜院先輩・五竜の皆さん……、要するに全員である。
特に天竜院さんチームはあんまり関係ない気がするんだが、自分達の合宿はいいんだろうか……?
「本日のテーマはこれです」
と、畳に座らせたみんなの前で、賢崎さんが持ち込んだホワイトボード(※これいいんだろうか?)に何やら書き始める。
書かれた字は……。
『最強のBMP能力について』
だった。
…………。
「あの、賢崎さん……?」
「まぁ、まずは聞いてください」
と、俺の質問を遮って賢崎さんが話し始める。
「澄空さんのBMP能力、劣化複写は、とても異質なスキルです」
そうなの?
「複写できる量にも種類にも制限がないとか、見ただけで複写できるとか。性能だけ見ても十二分に異常なスキルなんですが、一番恐ろしいのは、『複写ではない』こと……」
賢崎さんが一度言葉を切る。
「目撃したBMP能力の構成を一瞬で把握・理解、さらには自分に使いやすいように作り変えて習得……。脳が焼き切れないのが不思議なほどの神業です。なんちゃってバカとか言われる訳です」
……なぜ今、非難された?
「スキルを奪っている訳でも、スキャンしている訳でもないんです。これがどういうことか分かりますか?」
言われても、もちろん分からない。
と思っていると……。
「完全な形でイメージができるならば、複写元自体必要ない、ということ?」
麗華さんが言う。
複写元が必要ない?
それって……。
「そうです。模倣は、発展を経て、創造へ至る。自分で新しい能力を創り出す……、創造次元、とでも名付けましょうか」
賢崎さんの発言に、皆が言葉を失う。
た、確かに、それはほんとに無敵のBMP能力だとは思うけど……!?
「け……賢崎さん……」
「分かっています。これはあくまで理論上可能であると言うだけの話です。いきなり、やれ、というつもりはありません」
「言われても困るんですが……」
「ラスボス戦までに間に合わせてくれれば大丈夫です」
「そもそもラスボス戦をする予定がないんですけどね!?」
本気か冗談か分からない賢崎さんのセリフに、一応全力で突っ込む俺。
「しかし、澄空。セカイ系のラスボスだったら、こっちもイミフな能力を用意しておかないと太刀打ちできないぞ……」
「わざわざセカイ系にしなくていい」
真剣な顔で向き直ってくる三村にも、一応突っ込んでおく。
「セカイ系? どんな恐ろしい属性なんだ?」
「知らなくていい」
峰にも釘を指しておく。
そんな俺達を見ながら、賢崎さんが口を開く。
「まぁ、セカイ系かどうかはともかく、これからどんな幻影獣が出て来るか分からないんです。こういう話をしておくことは意味があると思います。その場のノリと主人公補正で、魔女の魔眼さえ覆すような澄空さんでも、伏線は必要ということです」
「…………」
やっぱり、賢崎さんが少しツンだ。
まさかとは思うが、まだレオの前に闘った時のことを根に持っているんだろうか……?
「そもそも、今日はルーキーズマッチのための合宿最終日なんだし、わざわざ今やらなくても……」
と言いかけて気が付く。
ひょっとして……。
「はい。今回の特訓はほぼ完成しています。あとは気分転換と、思い出作りもいいかと。澄空さんもせっかく合宿に来て、皆さんと遊べてないのは寂しいでしょうし」
「…………」
わ、分かりづらい……。
賢崎さんの気遣いが分かりづら過ぎる……。
女心は、レベルが高すぎるぜ……。
「では、始めましょう。みなさん、自分の考える最強のBMP能力を。どんどん上げていってください」
眼鏡をくいっと上げながら、皆に促す賢崎さん。
さすがに、皆呆れているだろうと思っていると。
「はいっ! はいはい! 私は、澄空さ……君には、透子様の極天光がピッタリだと思います!」
いきなり、五竜の青っぽい人(※確か、風間さん)が勢いよく挙手して発言した。
「ちょ、ちょっと、いきなり、何言ってるの仁美?」
「だってリーダー。ひょっとしたら契約するんだし、ツイン極天光とか、凄く燃える展開じゃない?」
「か……軽々しくそういうことは言わない方がいいわ。契約のことは私達のでる幕じゃないし……」
「それに、天竜院流の秘奥義だぞ……」
「…………」
いきなり、五竜が(※無口な黒っぽい人を除いて)ワイワイやり出した。
というか、まずい。
実は最初から気づいていたのだが、五竜が俺に対して明らかに好意的になっている……!
「ちょっといいか、三村。俺の印象では、五竜の人達、澄空にあまり良い感情を持ってなかったと思うんだが……」
「覚えておけ、峰。澄空は、少し目を離すと、受動的かつ積極的にフラグを立てる。いつの間にやら、五竜と和解したとみた。しかも、原因も良く分かってないままで……!!」
小声で戦慄する峰と三村に、それ当たり、と心の中で頷く俺。
ちなみに、和解したのは今日の午前中です。
「それくらいにしておけ。そもそも、最強の能力を『創り出す』と言っていただろう? 既存のBMP能力では駄目なんだ」
天竜院先輩がぴしゃりと締める。
そうなのだ。
既存のBMP能力では、劣化複写してしまう。
創造次元で俺の全BMPを使い切るためには、新能力でなければ意味がないのである。
「はい!」
「はい、次、三村さん」
「時止めはどうでしょうか? ぶっちゃけ、無敵だと思います」
「時空操作系は負担が大きいですから……。どう見ても相性の悪い澄空さんでは、焼き切れてしまうかもしれません。脳が」
……焼き切らんで欲しい。
「いいか?」
「はい、峰さん」
「勇気の咆哮では駄目なのか。あれを融合進化なしで使えるようになれば、問題ないと思うんだが」
「発展継承は、少し扱いが特殊なので無理ですね。もちろん、強力な切り札ではありますが……」
ボス戦の度に融合進化したのでは、身がもたないしね……。
「ハイ! 私ハ、真・豪華絢爛がイイと思いマス! 世界デ、最モ華麗な技名デス」
「エリカさん。ネーミングではなく、内容の話し合いをしているんですが……」
珍しく突っ込まれるエリカ。
「小野さん、発案者として、何かないんですか?」
「ごめん。僕は、創造力はないんだよ」
小野が今回の件の発案者という重要情報を、あっさりと暴露したうえ特に説明もない賢崎さん、素敵です。
と。
「明日香さん? 案があるのでしたら、どうぞ?」
「あ、い、いえ。違います。いいんです……」
明らかに何か言いたげにそわそわしていたが、姉御は発言しなかった。
少し、興味あったんだが……。
「仕方ありませんね……」
と、賢崎さんが俺の方を向く。
「え……えと」
「えと、じゃないです。自分のことなんですから、しっかり考えてください。どんなBMP能力がいいんですか?」
「い、いや、ちょい待ち」
どんな仕事がしたいんですか、並みに難しい質問である。
「そ、その前に、賢崎さんの案を聞かせて欲しいな」
「? 私ですか?」
苦し紛れに言ったセリフに、ぐいぐい来ていた賢崎さんが止まる。
「そうですね。やはり、事象の書き換え、ではないでしょうか。起きたことをなかったことにしたり、起きるはずのないことを起こしたり。これができれば、たいていの敵には勝てると思うんですが」
「…………」
…………。
「「…………」」
えと……。
「な、なんですか! 何故、皆さん下を向くんですか!?」
賢崎さんがプリプリと可愛く怒る。
ただ、賢崎さんの場合本気で言っているので、実行させられる側としては、普通に困る。
と。
「ナックルウエポン。私も賛成」
「なんと!」
と賢崎さんが言った。
「ソードウエポン。貴方が私の味方をしてくれるなんて……」
「別に味方をしたわけじゃないんだけど」
と前置きしながら、麗華さんが発言を始める。
「私のおばあ様が、そういうBMP能力だから」
「? 剣碧氏ですか? 魔剣クラウ・ソラスは、空間を概念的に切断するBMP能力だったはずですが?」
「普段それしか使わないけど、おばあ様のBMP能力名は、聖魔剣士。もう一本の剣がある。といっても、私も見たことはないんだけど」
「それが、事象を書き換える剣だと?」
「うん。私には幻創できないみたいだけど、極めて限定的ではあるけれど、世界のあり方そのものを制御する魔法剣。名前は……」
と、俺の方を見ながら。
「聖剣エクスカリバー」