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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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お風呂に入ろう

結局、天竜院先輩プラス5名の風紀委員も一緒に合宿をすることになった。


雪風君は、このような事態を想定していたのだろう。特に遅延することもなく、我々は夕食にありつくことができた。

しかも、ボリュームたっぷりで美味かった。

さらに、俺達は今から、雪風君が用意してくれた大浴場に入ろうとしているところである。


実に頼もしい。是非、一家に一人欲しい性能の美少年執事である(※ただし、姉を除く)。


ところで、あの5人だが、どうもただの風紀委員という訳ではなく、天竜院の分家筋の娘さん達らしい。

いずれは、天竜院先輩を補佐して天竜院を共に支える実力者達。

……なのだが、せっかく自己紹介してくれたのに、俺の残念おつむでは一回では覚えられなかった……。

なので、後から復習するとして、とりあえず便宜上『赤っぽい人、青っぽい人、黄色っぽい人、白っぽい人、黒っぽい人』と覚えておいた。単なる雰囲気からのイメージであるが。


「しかし、まさか風紀委員会の『五竜』が揃うとはなぁ……」

脱衣所で服を脱ぎながら三村が話しかけて来る。

風紀委員は、イケメンで変態だが素行の良い三村にとっては敵対する存在ではないはずだが、怖いものは怖いらしい。


「まぁ、天竜院先輩は別格として、やっぱり五人の中では、土御門さんが一番美人だよな?」

「……」

「……?」

「…………」

「…………澄空?」

「あ、あぁ。黄色っぽい人だな!?」

「……凄い覚え方してるな……」

三村に褒められてしまった。


それはともかく。


「やっぱり、男の子、だよなぁ……」

三村と二人で深く頷き合う。


もちろん、雪風君の上半身を見ての感想である(※さすがにタオルで覆われている下半身を確かめる度胸はない)。


当然のように男湯に入って来た(※当たりまえではあるが)雪風君に、少し心配を抱いたが、やっぱり雪風君は男の子だった。

まぁ、あっという間に服を脱ぎ捨てて湯船でクロール対決しているガッツ&ハカセとは、物腰も色気も段違いだが。


なにはともあれ、俺達は、一日の疲れを癒すべく、大浴場に入った。


◇◆


大浴場に入ってまず目を引いたのは、上の部分で女湯と繋がっていることだった。

ジャンプしたくらいで届くような高さではないが、万一三村が暴走した場合には、止めないと三村が物理的に死ぬ。


それ以外は、特に変わったところはない。別荘にしては少し豪勢な大浴場といった雰囲気だ。


「じゃあ、まずは身体を洗うか……」

湯船に浸かる前に、体を流すことにする俺。

が、洗い場に腰掛けたところで、肩をツンツンと突かれた。


「雪風君?」

「……(こくりこくりと)」

ボディタオルを手に頷いているのは雪風君。


背中を流してくれるということだろうか?


「いや、凄い嬉しいけど……。ここに来てから、雪風君には迷惑掛けっぱなしだし。むしろ、俺が背中流すくらいしないと」

「……(ぶんぶんと)!」

顔を赤くしながら首を振る雪風君。

まぁ、してくれると言うのなら断ることもないのか?


「じゃあ……、お願いしていいかな?」

「……(こくこくりと)」

嬉しそうな顔で了解する雪風君。

クロール対決からメドレー対決に移行しているハカセ&ガッツとは雲泥の差だった。まぁ、麗華さんの夕食にインスタントラーメンを出す俺と比べても天地の差だが。


「……っと」

絶妙な力加減で背中をこすられる……のは予想通りだが。

なんだろう。筋肉がほぐされているというか……、ちょっと気持ちいい。


背中の泡を流されたあと、ついでに髪も洗ってもらう。


「なぁ、澄空……」

「何だ? 三村?」

「他意はないんだが、若干色気を感じる俺は異常だろうか?」

「変態だとは思うぞ」

ただし、三村はデフォルトが変態なので、決して異常ではない。


そして、シャンプーも流してもらう。


「ありがとう雪風君」

「……(こくこくちらりと)」

俺の感謝を受け入れた雪風君は、微妙に視線を洗い場の鏡に向けた。

「……え……と、ひょっとして、前も洗ってくれるとか?」

「…………(こくりと)」

「い、いや。とても嬉しいが、遠慮します」

遠慮する俺。

ロリはともかく(※いや、ともかくじゃないが)、ショタに目覚めると、さすがに麗華さんに捨てられる……。


「ところで、澄空」

「なんだ、三村」

「あそこの空間、おまえならもう気が付いていると思うが……」

と、三村が女湯と繋がっている上部の空間を指差す。

誰でも一目瞭然で気付く構造に、『おまえなら』と付けるのは、仲間になれという意思表示だろう。


「三村……。風呂に入る前、賢崎さんに『覗かないでくださいね三村さん。このメンバーの火力では殺してしまいます』と悲しそうな顔で言われただろ?」

「悲しそうな顔……してたか?」

「してなかった自覚があるのなら、なおさらやめとけ」

ソードウエポン・ナックルウエポン・ブレードウエポン・式春香の揃い踏みである。あと、能力不明の五竜もたぶんヤバい。


「澄空……。お前は危険だから覗くなと言うのか……!?」

「まず犯罪だから止めろと言ってるんだ」

物理的に死ぬのは、ただの結果である。

「お前にはあの女湯の声が聞こえないのか? 天竜院先輩は春香さんより大きくて、エリカは意外と着やせするタイプらしいんだぞ!?」

「すまん。聞こえない」

妄想聴力を現実化するのは止めて欲しい。

「お前は勝算がなければ闘えないというのか? 何物も恐れないBMPハンターの誇りはどこに行った!? エリカの裸を覗けるチャンスは今しかないかもしれないんだぞ!」

「勝算があっても覗きは止めろ」

あと、BMPハンターの誇りと覗きを並列で語る三村は、もう少し恐れを覚えた方がいいかもしれん。


と。


「僕も同じ想いです、三村さん」

さっきまで湯船で泳いでいたはずのハカセが、いつの間にか傍に来ていた。

「ハカセ……」

「姉御の生まれたままの姿を拝めるチャンスは今しかない。BMP能力のついでにハーレムスキルを実装しているような悠斗には所詮分からないんです」

え? ここ、俺が非難される流れなの?


思わず、湯船のガッツを見ると、『放っといてやってくれ……』みたいな顔で首を振っていた。


「ハカセ……。ただの眼鏡要員だと思っていて悪かった。賢崎さんが居る以上、眼鏡にこれ以上の需要はないのに」

「三村さんこそ……。そのイケメンを劇的なまでに無駄にする残念スキル。なんか、生きる希望が湧いてきます」

固く手を取り合う、馬鹿二人。


……確かに、もう、放っておこう。


◇◆


結論から言うと、当然のように失敗した。


流れはだいたい、こんな感じだ。


①三村、ハカセを抱えて上に超加速システムアクセル手加減起動。

②女湯からの桶が飛んできて撃墜。

③湯船に墜落。


以上である。

賢崎さんがEOFで展開を読んでいたんだろう。

三村とハカセの挑戦は、0.5秒で終わった。

二人ともたらふくお湯を飲んだらしく、洗い場でむせている。


「……というか、こんなことでBMP能力を無駄遣いするなよ……」

湯船に浸かりながら、思わず愚痴が漏れてしまう。

こっちは、もう、何回も使えないのに……。


「なぁ、澄空」

「なんだ、峰?」

「三村が行き過ぎなのはともかく、美しい女性の肢体を眺めたいという欲求は理解できないか?」

「そりゃまぁ」

「むしろ、こんな状況で道を踏み外さない俺の方が異常なのだろうか」

「いや、それはない」

どうか、そのまま堅物の峰でいて欲しい。マジで。


「しかし、澄空も、見たくない訳ではないんだろう」

「そりゃまぁ」

覗きはしないけど。


と、ふと考える。


正直なところ、俺が覗いても風紀委員組以外はそんなに怒らないかもしれない。

むしろ、春香さんに襲われてしまうかもしれない(※正直、こっちの方が怖い)。


しかし、それは俺が『BMPヴァンガード』だから。

BMP能力を無くした俺には許されない。

というか、まず、この別荘に来ている人間達と友人関係を続けられない。


世界を守る義務から解放される代わりに、今、当たり前に享受している特権を手放すことになるのだ。


「…………澄空?」

「……なんでもない」

頭を振って湯に身体を沈める。

秘密を明かすと使えなくなるような特権なら、もうそれは使うべきじゃないってことだ。

猶予期間が少し長引いただけで、俺はもう、元の一般男子高校生……。


「……(つんつんと)」

「ん、何だ、雪風君?」

雪風君に肩をつつかれて振り返ると、とても心配そうな顔の美少年。


「大丈夫だよ、覗かないって」

相変わらず喋ってはくれないが、『そんなことをしては駄目です。貴方の格を落としますし、その前に確実に姉さんに襲われます』といった意味の視線だったんだろう、たぶん。


「……(こくこくりと)」

その推測はだいたい合っていたようで、雪風君は安心したように頷いた。


それから、雪風君はおもむろに自分の胸を指差した。


「?」

「ひょっとして、『どうしても覗きたくなったら、自分を見てください』という意味じゃないか?」

「んな馬鹿な」

と、峰の推論を否定するが。


「……(こくこくりと)」

どうも当たりらしい。


「いや、雪風君。確かに雪風君は美少年……それも下手な美少女顔負けの美少年だと思うけど。この場合、女湯を覗きたいというのは、単に美しいものを眺めたいというだけの欲求ではなくて……」

くどくどと雪風君に説明しようとしながら、ふと気づく。


雪風君の顔の輪郭が丸っこく……というか、さらに優しい曲線になったというか。

全体的に色気が増したというか。

胸が膨らんでいる、というか!?


「す……すすす、澄空……?」

峰が俺に救いを求めるように視線を向ける。

「が……ガッツ?」

視線を受け止めきれずにガッツに流す。

「ミ、ミミミミ、峰さん!?」

ガッツが峰にすがる。


こうして、世界一役に立たないループが完成した。


いや、そんなことを言っている場合ではなく!!

下を確認するような度胸はないが、これはまさか……。


「どうしたんだ、みんな? 何を固まってる?」

そこに、ようやくお湯を吐き切った三村が戻ってくる。


「っ………」

雪風君を見て。


「神よ。ちょっと年齢が低過ぎる気もしますが、感謝します」

神に感謝した!?


「最近のJSは、とても発育が良いのですね」

しかも、分析している!?


「って……」

と。


「言ってる場合か、澄空ーーーー!!」

「当たり前だ!!」

一人ツッコミする三村に、叫び返す俺。


そして、俺と三村は大慌てで、雪風君を大浴場から連れ出した。

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