表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
222/336

合宿を始めよう

合宿をすることになった。


もちろん、ルーキーズマッチファイナルバトル・澄空悠斗vs臥淵剛に向けての特訓である。


賢崎さん曰く「これまでの対戦成績は1勝2敗。いくらルーキーズマッチとはいえ、BMPヴァンガードとその仲間達が負ける訳には行きません。ファイナルバトルを制して、我々の力を見せつけてあげましょう!!」とのことだ。

BMP能力を使い続けると死ぬ体質だからして、早いところ引退しなければならないのだが、とても言い出しづらい状況になっていた。


まだ上条博士にも相談していないが、正直なところ、あと一回や二回で死ぬほど切羽詰まっている訳ではないと思う。ただの体感だが。

だからと言って、ずるずると闘い続けてもいいことはないのだが……。


「見てみてガッツ! 別荘だよ別荘!! 森の中の別荘!!」

「くそったれ!! 本宅もない俺達は現実が身に染みるけど、テンションが上がってしまうぜ!!」

「いい加減にしなさい!! 賢崎さんのご厚意で連れて来てもらってるんだから、迷惑かけない!!」

「全くです……。しかし、姉御と旅行に来れて、密かにテンションを上げている僕がいるのも、また事実です……」


という具合に、森の中にそびえ立つ賢崎さんの別荘を前にして、大変に盛り上がっていらっしゃる小学生ズを前にして、「ごめん、俺、ルーキーズマッチ出ないわ」と言えない状況なのである。


「特訓と直接関係ないとはいえ、あれだけ喜んでくれると嬉しいものですね」

本合宿の主催者である賢崎さんが話しかけて来る。

「直接関係ないなら、なんで連れて来たんだ?」

「……『ユウト』の正体を隠していたでしょう?」

「ん、ああ」

突然何を……?


「やっている最中は楽しかったんですが、冷静になって良く考えてみると、アレ、賢崎の頭首としてはあまり好ましくない詐欺行為なんですよね……」

「は、はぁ……」

「つまり、今私は、若干弱みを握られている状態です。別に脅されている訳ではないですが、先手を取って懐柔しようとしています」

「…………」

すげぇ。

色々な意味でスケールが大きい人だ……。


「まぁ、明日香達はいいとして……」

と、俺はその他のメンバーに視線を巡らせる。


「三村さんと峰さんは退院祝いも兼ねてます。首都の懸案だった新型Bランク幻影獣を澄空さんが倒す間、為す術なく病院のベッドで寝ていたからといって、役立たずなどと言ってはいけませんよ」

「…………」

言っとらんがな……。


「エリカさんと雪風は、可愛いから呼びました」

「直球ですね」

まぁ、別に、呼んだらいけないと言う気はないけど。


「ソードウエポンは本当は呼びたくなかったんですが、大人気ないかなと思って呼びました」

「……そういうこと言わなければ、もっと大人っぽくて素敵だと思うよ」

微妙な間柄である。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……以上です」

「り、了解」

と、言ったところで、後ろから柔らかなものに抱き締められた。


「は……春香さん、ちょっと……」

「さっきからずっとさり気なく至近距離をキープしてたのに……。こんな私に敢えて言及しないなんて、Sですか? Sなんですか?」

「そ……そういう訳ではないんですが……」

ぐいぐいと抱き締められながら、何とか逃げようとする俺。


「春香。澄空さんはSなのではなく、単に貴方に会いたくなかっただけですよ」

「ぎゃふん! お嬢様は、間違いなくSですね!!」

ぎゃふんと言いながら、ますます俺に胸を押し付けてくる無敵の春香さん。

後ろで、『年頃の女性に興奮する分には問題ないか……』と呟く麗華さんが怖かったり怖くなかったりする。


「ここは、式家に管理を任せているんですよ」

と、そんな俺のために解説をしてくれる賢崎頭首。

「なんでまた、式家に?」

普通に管理会社とかでいいと思うのだが。


「この辺は、式の鍛練場なんですよ」

「? 鍛練場?」

やっと俺を解放してくれた春香さんに聞き返す。


「はい。精霊の力が強いとかで、小さい頃から良く訓練に来てました」

「へぇ……」

精霊ね……。

やっぱり属性攻撃を扱うから、そういうのに詳しいのか?

同じBMP能力者でも、俺には良く分からないけど……。


「まぁ、私はそういうファンシーな存在は、全然感知できませんけど」

「…………」

嘘でも『今日は……少し、風がざわついていますね……』とか言えば、美人なのに。


「では、早速ですが、特訓を始めましょうか?」

と言いながら、賢崎さんは俺から荷物を取り上げて三村に渡す。


「え……いきなり……?」

「というか、俺らはどうすれば?」

俺と三村が同時に疑問を口にする。


「時間はあまりないですから。春香達が案内しますので、三村さんは……じゃなかった、三村さん達は適当に遊んでいてください」

「……了解です」

「ちょっと待って」

了解する三村の直後に、麗華さんのちょっと待ったが入る。


「なんですか、ソードウエポン?」

「三村達はゆっくり遊んでいたらいいと思うけど、私は特訓に付き合いたいと思う」

「と言っても、対臥淵さんの特訓をするんですから、ソードウエポンの出番はないですよ? 私に任せていただいていいのでは?」

「……適性に関しては疑ってないけど、ナックルウエポンがやり過ぎないか心配」

ジト目で言う麗華さん。それは確かに俺も心配だ。


が。


「そうやってすぐ特訓を止められたら、私もやりづらいです」

「う……」

「相手はあのハンマーウエポン。中途半端な特訓で恥を掻くのは、澄空さんなんですよ?」

「それは……」

「三村さんの時とは違います。試合前に壊してしまうような真似はしませんよ」

「俺の時、壊れてもいいと思ってたのか!?」

三村の悲鳴が挿入される。


「分かった……。ただ、悠斗君、ある意味で病み上がりだから、注意してあげて」

「分かっています。春香、雪風。みなさんを案内したら、特訓を手伝ってください」


雪風君はともかく、なぜ春香さんを呼ぶのかは分からなかったが、俺もなんだかんだ言って賢崎さんのことは信頼している。


そういう訳で。

ルーキーズマッチラストバトルに向けての最後の特訓が始まった。


◇◆


三村達と別れた俺と賢崎さんは、別荘近くの湖のほとりで向かい合って立っていた。


「私のコーチは一流だと自負していますが、なかでも対臥淵さんに関しては最適のパートナーだと思っています」

と言いながら、賢崎さんはなにやらボクシングのグローブのようなものを両手に装着する。


「さ……最適と言うのは……?」

「もちろん同じ打撃系だからですよ?」

当然のような回答をよこす賢崎さんだが……。


「ちょ、ちょっと待って! 俺、殴り合うのか!? 臥淵さんと!?」

初めて会った時(※正確には二回目だが)の圧倒的な存在感と迫力を思い出す。

ただでさえ体調に不安があるのに、あんな化け物と殴り合えるか!!


「空気読めてないのは承知だけど、遠距離で闘った方がいいんじゃないかな」

提案してみる。

幸い俺には、幻想剣イリュージョンソードという超威力の遠距離攻撃がある。

近距離で闘った方が観客は盛り上がるだろうけど、正直、そこまでサービスするようなゆとりはない。


「当たり前ですよ。間違っても、近づこうなどと思わないでください」

「へ?」

意外なことを言う賢崎さんに、少し驚く。

「これは、『やむを得ず距離が詰まってしまった時』のための訓練です」

「あ、ああ」

なるほど。

遠距離で仕留められれば良し。

そうでなくても、距離を詰められた時に凌げる特訓をしておけば、勝率はあがる。


「さすが賢崎さん!」

「いえいえ」

と、少し照れながら賢崎さんはグローブでこめかみのあたりを掻いた。


「という訳で、今から可能な限り私の攻撃を避けてくださいね」

「…………え?」

え?


「……あの、防御の型とか教えてくれるんじゃないの?」

「そんな時間はありません。これから相手をしようとしてるのは一撃必殺のハンマーウエポンなんですよ?」

「い、いやでも。基本を怠ったら上達もしないんじゃ……?」

「大丈夫ですよ。最初は私の構えを真似て。しっかり私の姿を見ていてくれれば、後はうまく誘導します。私の攻撃を一分も耐えられるようになれば、綺麗な型が身についていますよ」

自信ありげに断言する賢崎さん。

それ自体はとても頼もしいのだが、俺は途中に挟まれた単語に凄い危機感を持った。


「耐えるって……。寸止めじゃないの?」

グローブの時点で何となく嫌な予感はしていたのだが。


「大丈夫ですよ。このグローブは賢崎技術部が総力を挙げて突貫作業で作成した逸品です」

「…………その『大丈夫』は、つまり、殴るという意味なんですよね?」

「装着者のBMP能力を使って、グローブ周辺に極小のダメージ無効化結界を張るという、特訓仕様のアイテムです。どれだけ殴られても、痛いだけでダメージは残りません」

「でも、痛いんですよね!?」

「澄空さん。痛みを伴わない特訓には効果がありません」

「そらそうかもしれませんけど!?」


最後に名言っぽいことを言って。

地獄の特訓が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ