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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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魔人 with EOG

『どうも』はないだろう、とは思った。

いくら慌てて駆けつけたとはいえ、さすがに『どうも』はない。


これが最後の幻影戦闘かもしれないのに、な。


劣化複写イレギュラーコピー……」

頭痛は、ない。

頭の中は驚くほど澄んでいる。

異能の力の発動と、命が削られる感覚が、はっきりと分かる。


砲撃城塞ガンキャッスル!」

空圧弾を全力で撃ち込む。


「す、すげ……」

ガッツの賞賛の言葉通り、頭を吹っ飛ばされた個体から分離した個体の全身に穴が開くが……。


「だめか……」

ベルゼブブが消滅する瞬間、新たに3体のベルゼブブが現れる。

そのスピードも過程も、分裂と言うよりは出現。

茜嶋さんでも仕留め切れなかったというのも頷ける。


「ユウト! 姉御に!!」

ハカセが警告を発してくれる。

新たに出現した3体が、なぜか俺を無視して明日香に向かって飛ぶ!


おまえらの相手は、こっちだ!!


劣化複写イレギュラーコピー引斥自在ストレンジャー!!」


手を真上に上げ、小野のBMP能力を借りてベルゼブブを引き寄せる。

俺の頭上5メートルくらいの場所を中心に生成した重力場が、3体のベルゼブブを拘束する。


が。


「こ……こいつら……」

3メートル級の幻影獣が3体。

しかもBランク。

率直に言って、拘束を続けるのはキツい。


と。


「げ……!」

唐突にベルゼブブが2体増える。

何の脈絡もなく唐突に。

出現場所が元の3体に近かったから5体まとめて拘束できたが、脱出しようとするパワーも1.5倍強に膨れ上がった。

耳障りな奇声を発しながら、俺など眼中にないかのように明日香に牙を向けている。


『分裂するのはダメージを受けた時だけじゃねぇ。距離的な制約はあるが、こいつら自分で勝手に増えるぞ。回数制限もねぇ』

「マジか……!!」

さすがはハエの王、とか言っている場合じゃない!!


これ以上増えられたら、引斥自在ストレンジャーで拘束し切れない。

一か八か、レーヴァテインに切り替えるか?

しかし、一体でも逃したら、姉御が危ない。


というか、こいつら、なんで明日香を狙う!?


《どうする、悠斗?》

「麗華さん、来てくれないかぁ……」

泣き言が漏れた。

犬神さん×茜嶋さん、の案の通り、俺が拘束している間に麗華さんが焼いてくれれば全く問題ない。


《来れねぇだろ、たぶん》

「この際、小野でもいい」

アイツが拘束している間に俺が焼いてもいい。

麗華さんに助けられた場合と違って、感激のハグとかできないけど、贅沢は言わない。

というか、今助けてくれるなら、小野とハグしてもいい!

ベルゼブブの圧力がますます強くなって、こっちの息が上がってきた!!


《だから、来れねぇって……》

「だったら!!」

だったら、もう、いっそのこと!!


《悠斗》

「なんだよ、翔!」

《俺の眼を貸してやる》

「へ……」

眼……?


《コストが軽いだけが取り柄の、ピーキーで微妙な性能のカス能力だが……。おまえなら分かるよな? どんなBMP能力も使い方次第だ》

「いや! だから! どんな能力か説明してくれないと、使い方もなにも……!」

子ども達に不安そうな目で見られながらも、中の人に反論する俺。


《『制限』を破壊する》


「は?」

《使用者が最も煩わしいと思っている『制限』を》

「制……限?」

《リミッターの解除と同義だ。使用は計画的にな……》

翔の言葉が頭に響くと同時に、左眼に熱い感触。


「き、金色!?」

エールが叫ぶ。

自分では確認できないが、どうやら翔の『アイズオブゴールド』が発動しているらしい。

瞳さんの『クリムゾン』や、緋色先生の『エメラルド』とは違う感覚。

翔の言葉が真実だとするなら……。


「す……すーはー……。すーはー」

深呼吸しながら、慎重に引斥自在ストレンジャーの出力を弱めていく。

拘束を弱めるわけにはいかない。

拘束力はそのままに、効率的な運用で、出力だけを下げる。

「すーはー……」

可能な限り下げて。

「合わせて……」

残った力で……。


劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード・炎剣レーヴァテイン!」

余った左手にレーヴァテインを召喚する。


「ふ……二つのBMP能力を同時に!?」

姉御が驚きの声を上げる。

何か、初めて褒められた気がするなぁ……。


《悠斗!》

了解!!


「爆ぜろ炎剣! レーヴァテイン、解放ーー!!」


幻想剣の発動の瞬間、拘束していたベルゼブブが7体に増えた。

が、麗華さんの炎剣は、全く問題なくハエの王を包み込んでいく。


炎の状態を見る限り、10体くらいに増えているようだが、やはり全く関係ない。

増えた炎の球体はやがて少しずつ数を減らし。


燃え残った最後の一個が地面に落ちて来た。


「これが……『澄空悠斗』……」

ハカセが呆然と呟いている。

が……。


「ユウ……」

「来るな、エール!」

燃え残った残骸から生命反応が消えていない。

……ような気がする。


《アイズオブゴールドの解析能力は、おまけだからな。あんまり信用するなよ……》

という、とても心強いアニキの助言。


が。


「! 劣化複写イレギュラーコピー汎用装甲エンチャント!」

突然、炎の中から突撃して来た黒い物体を、二雲先輩の虹色障壁で受け止める。


「こいつっ……!」

汎用装甲エンチャントに突撃し喰い破ろうとしているのは、黒く焦げた芋虫のような幻影獣。

分裂能力はなくしたようだが、大きさは先ほどと変わらず3メートルほど。装甲は格段に厚くなっている。

それから、パワーが凄い。


《ヤバくないか? コレ、一分と持たないぞ……》

「そんなに」

要らない。


「合わせて、劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード・断層剣カラドボルグ」

《あ》

左手で虹色障壁を。右手で断層剣を。

どれだけ装甲とパワーに優れていようと、膠着した状態の標的など、カラドボルグにとっては薄紙同然。


「斬り裂け断層剣! カラドボルグ全開!」


黒い装甲ごと横一文字に切り裂かれたベルゼブブ(※芋虫Ver)の上半身が、地面に落ちる。


《ひゅう……》

「ユ、ユウト……。テラ強ぇ……」

アニキとガッツが感想を言っている。


が、なんだろう?

この芋虫、なんかまだ生命力が消えていないような。

さすがに、今度こそアイズオブゴールドの誤作動か……?


「!」

《何!?》

芋虫上半身の黒い装甲が突然はじけ飛ぶ。

慌てて破片をかわした俺の目の前で、蛾のような幻影獣が姿を現す。


「し……しぶとい……。っ!」

蛾が黄金色の鱗粉をまき散らす。

一瞬だけ視界が奪われる。

「ちっ」

距離を開いて体勢を立て直す!


が。


「きゃっ!!」

「あ、姉御!!」

別方向から悲鳴。


見ると、ベルゼブブ(※蛾Ver)が鋭い脚で姉御を抱きかかえていた。


「この……!!」

《待て悠斗。おまえの腕じゃ無理だ!》

「確かに!」

放とうとしていた砲撃城塞ガンキャッスルを止める。

俺は、茜嶋さんでも十六夜さんでもなかった。

間違いなく姉御に当たる。


劣化複写イレギュラーコピー引斥自在ストレンジャー

まずは引き寄せにかかる。


「ん?」

が。


ベルゼブブは耳障りな奇声と共に黄金色の鱗粉をまき散らすと、そのまま姉御を抱えて飛んで行ってしまった。


《……無効化されたな》

「マジで!!」

そんなんありか!


ベルゼブブの飛ぶ速度はそれほど速くはないが。

高い。

あんな高さまで届く飛び道具は持ってない。


「ゆ、ユウト! 姉御が!」

「わ、分かってる……!!」

駆け寄って来たハカセに揺すられながら考える。


飛び道具は無理。

助けは間に合わない。

だが、今の俺は二つのBMP能力を同時に使うことができる。


組み合わせて何か。

何か。

何か!

何かあったはず!


《籠城戦の時のやつでいいんじゃねぇか?》

「それだ!!」

さすがアニキ!!


「ゆ、ユウト……?」

劣化複写イレギュラーコピー豪華絢爛ロイヤルエッジ!」

突然奇声を上げた俺を心配そうに見るエールを尻目に、エリカの半透明の刃を召喚する。


召喚は、とりあえず階段状に10個。

間隔は5メートルほど。

もちろんこれで届くわけではないが、足りない分は、上まで行ってから再召喚すればいい。


問題は……。


「ユ、ユウト? こんなの乗れるんですか?」

とハカセが言ってくる通り。

なるべく乗りやすいように生成したつもりだが、明らかに楕円である。

たぶん滑る。

これで空中戦をやるのは間違いなく自殺行為……というか、たぶん上まで行けない。


が。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル

一つ目の刃に飛び乗り、力場を下……いや、豪華絢爛ロイヤルエッジの中心に向けて展開する。

管理局Aブロックで三村がやったのとたぶん同じ。


「嘘……」

とエールが言うように。

乗れた。

大丈夫。

これなら少々踏み外しても落ちることはない。


「ハカセ」

「は、はい!」

「明日香を助けて来る。麗華さん達への連絡は頼むぞ」

「は、はい!! 待ってます!! 『澄空悠斗』!!」

心強いハカセの声援を背に受けて。


俺は、上空に向かって刃の階段を駆け上る。

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