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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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『覚悟』の選択

「つ……う……」

気が付くと、俺は大地に横たわって寝ていた。


さっきまで立っていた石畳の上ではない。大地の上だ。


「……というか、どこだここ?」

周囲を見回すと、見えるのは緑の木々。

率直に言って、林の中である。

周りには誰も居ない。


「……なんなんだ、一体……?」

麗華さんがフラガラックを召喚して、片翼の幻影獣が出て来て、話をしたところまでは覚えている。

幻影獣の最後の言葉を聞いた後、意識が途切れて……。


「……待てよ」

時刻を確認する。

現時刻は、賢崎さんの試合が終わってからおよそ30分後。


ということは……。


迷宮ラビリンスか……》


だな。


おそらく、片翼の幻影獣に、何らかの手段で麗華さんのフラガラックが封じられた。

その後、迷宮ラビリンスに嵌められて、ここまで自分で歩いて来たんだろう。

時間と、このテーマパークの周辺マップから考えて、たぶんここはテーマパーク南東にあった林のあたりだな……。


しかし、30分も意識を操られていたとは、迷宮ラビリンス、恐ろしい能力だ……。

この幻影獣にその気があったら、俺なんて、60回は殺されていたところだ。

対抗できるのは、麗華さんだけ……。

でも、その麗華さんもさっきの幻影獣にフラガラックを封じられていた。


……というか、あの幻影獣、何者だ?

麗華さんの様子は、明らかに普通じゃなかった。

そもそもあの幻影獣。何というか、俺も……。


「いや、そんなことより!!」


今は、この状況をどうにかするのが先だ!


分断されたのは間違いない。

BMP能力が使えない以上、襲われたら確実に死ぬが、たぶんそれはないような気がする。

殺すことが目的なら、さっきの迷宮ラビリンス中にとっくに殺されている。

前二回の襲撃を考えても、俺の周りの仲間が襲われる可能性が高い。


「しかしなぁ……」

と、首を捻ってみる。


三村達は病院で、俺にちょっかいを出すのが目的なら、さすがに遠すぎる。

テーマパークの方は、賢崎さんが眠っているとしても、麗華さん+春香さん、という超強力タッグである。むしろ、襲えるものなら襲ってみろといった感じだ。

無差別攻撃だったら俺の出番もあるかもしれないが、敵の今までの手際を見る限り、さすがにそれは少し大ざっぱすぎる気が……。


……いや。

待てよ……。


「…………」


顔から血の気が引いた気がする。


そうだ。

極めてターゲットにされやすい人物が居る。

というか、どうして俺はあいつらをここまで連れてきた!?


「ユウトーー!!」

「!」

と、俺の悪い予感を裏付けるかのように、俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる女の子がいる。


「エール!?」

「ユ、ユウト!! ユウト!! ……ユウト!!」

「落ち着けエール! 何があった!?」

駆け寄り、背中をさすりながら問いかける俺。


息を完全には整えられないまま。

上目使いに俺に訴えてくる言葉は。


「姉御が……。明日香が、幻影獣に襲われているの!!!」


予想通りだった。



☆☆☆☆☆☆☆



「完璧な展開だね」


片翼の幻影獣の去った後の、城の客室。

その幻影獣が座っていた椅子に腰を下ろしている小野倉太が呟いた。


「はじまりの幻影獣様の力を借りたのは癪だけどね」

「でも、あのBランク幻影獣……ベルゼブブだったかな。あれを呼んだのもミーシャなんでしょ? 凄いよねぇ」

「雑魚じゃ盛り上がらないからね。手なずけるの苦労したわよ。言っとくけど、私はハエの眷属じゃないですからね」

「誰もそんなこと言ってないよ……」

いつも通りのやりとり……に見えないこともないが、二匹ともどこか元気がなかった。


「ベルゼブブに喰われたら……、さすがに死んじゃうよね、あの子」

「当たり前でしょ。そうじゃないと生贄にならないわ」

「……」

「大丈夫よ。どうせ、貴方の悠斗君が倒しちゃうわよ」

「……そだね」

が、小野倉太の顔は晴れない。


「そうなっちゃうんだろうね……」



☆☆☆☆☆☆☆



「ユウト! あれ見て、あれ!」

「っ! ガッツか!?」

エールと二人並んで林を駆け抜けている最中に、もう一人の小学生ズを発見した。

しかし、様子がおかしい。

木の根元に頭を押し付けるようにして、うつ伏せに倒れている。


「どうした、ガッツ! 大丈夫か!?」

大慌てで助け起こす俺。


「ゆ……ユウトか? 悪い……。走っている途中に足ひっかけて、木と正面衝突しちまった……。情けない」

「ホントに情けない。あと、紛らわしい」

「! ご、ごめん、エール!! ほんとごめん!!」

真顔で駄目出しするエールに、土下座して謝るガッツ。

紛らわしいのは確かだが、エールも真剣な時は迫力あるな……。


いや、そんな場合ではなく!!


「どういうことだエール? ハエ型幻影獣に襲われて、全員バラバラの方向に逃げたんだろ? どうして、姉御を追ってる俺達とガッツが合流できる?」

「そりゃ、どっちかが迷ったに決まってるだろ? こんな見通しの悪い森の中じゃ……」

「どっちかじゃないわよ。ガッツが迷ったの。私は姉御を一直線に追いかけてるわよ」

「ご……ごめん、エール」

と、いつもとは全く立場が逆のエール×ガッツ。

こんな状況だし、ガッツが少々情けないのは仕方がないが、エールの頼もしさは意外だった。

やはり、一般的に、いざという時は女性の方が強いのかもしれない(※俺の周辺は、平常時から女性の方が強い)。


「狙われてるのは姉御で、姉御はテーマーパークの方向目掛けて逃げて行った。……で間違いないんだな」

「うん……。テーマパークの方を危険にさらしちゃうけど、剣さん達ならきっとなんとかしてくれるって……」

気まずそうな顔で言うエールだが、恐らくその判断は正しい。

むしろ、この状況で他の観客の心配ができる姉御達に敬意すら覚える。


が。


「でも、ユウトなんか連れて来てどうするんだ? 姉御は、剣さん達のところに向かってるんだろ?」

「そ……それはそうなんだけど……。姉御、まるで、あの時みたいで……」

「…………」

俯いて黙り込むエールとガッツ。


そう。

BMP能力の使えない今の俺では、麗華さん達に危機を伝えるくらいしかできない。

案の定、携帯は使えなかったので、走って伝えに行くしかないのだが、姉御がそっちに向かって逃げている以上、あまり意味はない。


だが、俺には確信に近い予感があった。

麗華さん達は助けに来れない。

今までの敵の行動から考えて、それを許すほど甘いわけがない。


「俺が倒すしかない……」

とは思うのだが……。

「これじゃ、いくらなんでもなぁ……」

と、手首に装着したディテクトアイテムを見る。


相手はおそらく、ベルゼブブ。

無限に分裂するとかいう化け物相手に、こんなもので対抗するのは無理がある。


「BMP能力……」

プールの件で、使えない訳じゃないことは分かった。

しかし、あの耐え難い頭痛。

気絶覚悟で一回使えるかどうか……。


…………いや。

一回でも使えるのか?


「ユウト、どうしたの? 早く行かないと!」

「悪い。ちょっとだけ待ってくれ」

そうエールに言って、意識を集中する。


劣化複写イレギュラーコピー……。っ!! い、いだだだだ!!!」

「ゆ、ユウト!?」

「なにやってんだよ、ユウト!?」

「い、いだいだいだだ……!!」

エールとガッツの声を聞きながら、頭を抱えて地面を転げまわる俺。


これは……無理だ。

確実に悪化してる。


勇気と無謀は違う。

これはもう、物理的に無理だ。絶対途中で気絶する。


「アニキ!! ヤツの核みたいなのはないのか!? 一撃でそれを破壊できれば……!!」


《ねえよ。どころか、分裂抜きにしても相当しぶといぞ、あれは。》


「じ、冗談だろ……!?」

無限に分裂する上に、本体まで頑丈なのか!?


「……ね……ねぇ、ユウト、どうしちゃったんだろ……?」

「わ……分からない……。お、おい、ユウト。俺が言うのもなんだけど、落ち着け。な」

アニキの声が聞こえないエールとガッツに危ない人扱いされてしまっているが、もちろんそれどころではない。

「せめて、弱点くらいあれば、望みがあったのに……」


「弱点があったところで、その玩具で闘うのは少し無理ではないでしょうか?」


「「!!」」

俺達三人は同時に振り向く。


いつの間にそこにいたのか。

片翼の幻影獣が、俺達の背後5メートルほどの場所に立っていた。


「さ、さっきの……!?」

「ザクヤ・アロンダイトと申します。澄空悠斗。正確ではありませんが、『はじめまして』」

俺の声に、機械音声のような声音で答える片翼の幻影獣……ザクヤ。


「エール。一応聞くが、姉御を襲ってるのは、こいつじゃないよな?」

「こ、この人のどこがハエに見えるの!?」

「というか……天使……?」

俺の確認に驚愕の表情を浮かべるエールと、呆然とするガッツ。


「鏡明日香を襲っているのは、貴方がた人間が名づけるところの、Bランク幻影獣・ベルゼブブ。なかなかの難敵です」

「あんたの差し金じゃないのか……?」

「無関係とは申しませんが、仲間ではありません」

警戒する俺に、表情をまったく崩さないザクヤ。


「私は、貴方に、選択肢を持って来ました」

「……選択肢?」

「今、BMP能力が使えなくなっているはずです」

「っ!?」

「「!!」」

不意を突かれた俺の後ろで、エール達が息を呑んだのが分かった。


「だとしたら、どうだと言うんだ?」

というか。

「耐え難い頭痛がするはずです」

「だったら、どうした?」

この幻影獣……。

「それは、貴方の魂が限界を訴えているのです」

「何の限界だよ?」

どこかで…………。


「P値の測定をしたはずです」

「……そんなことまで知ってるのか……」

「その値『103』は嘘です。貴方の本当のP値は『18』」

「じっ!?」

18!?

『100で標準、80を切ると危険』

なのに、18!?


「レオと闘った時の、調律メンテナンス融合進化ハイブーストがきっかけになったのは確かですが、そもそも貴方の身体は187ものBMP能力を扱うようにはできていません。再覚醒した瞬間から、BMP能力を使う度に、急速に寿命を縮めていました」

「…………」

別に真に受ける必要はない。

どう見てもコイツは仲間じゃないし、真実を話す義理も必然性もない。

だが。

逆に嘘を吐く必要性も思い付かない……。


「上条博士は、『P値が95以下になった者は見たことがない』と言ってた……」

「そうですか」

「『強力なBMP能力を使う者は、必ずそれに見合った身体を持って生まれてくる』とも」

「それは真実です」

「なら、どうして俺は違う。超レアケースとでも言うのか?」

矛盾点を付いて論破しようとしているつもりなのに。

何故か、自分から墓穴を掘っているような感覚がある。


「貴方も同じです。標準的なBMP能力と、それに見合った肉体を持って生まれた。『187』は、後天的に獲得したBMP能力です」

「それこそ不可能なはずだ」

「人間には不可能です。ですが、幻影獣……いえ、私には可能です」

「っ!?」

麗華さんの……言っていた意味が分かった気がする。

こいつは……確かに……。


「世界で貴方にだけ。私の左腕を取り込んだ貴方にだけ起きる現象と代償です。澄空悠斗」

「…………」

確かに、不吉だった。


「もう少し……。その時のことを話してくれないと、判断できない……」

「それは私の役目ではありませんし、そもそも、そんな時間はないはずです」

「あ……」

言われて、俺の背後の二人のことを思い出す。

そうだ。確かに、今はそんな場合じゃないかもしれない。


「結論から言うと、私ならその頭痛、一時的に無効にすることができます」

「そう……なのか?」

「ただし、身体への負担がなくなる訳ではありません。というより、痛みを無効化してしまうと、死ぬまでBMP能力が使えてしまう」

「!?」

「私の見立てでは、未だこの戦闘で死ぬほど衰弱してはいないようですが。『使えないより使えた方がいい』程度の考えであれば、辞退することを勧めます。『自分が死んでも誰かを助ける』のか、『誰かが死んでも自分は闘わない』のか。どちらかの覚悟が必要です」

「…………」

賢崎さんにも同じことを言われたような気がする。


「ゆ、ユウト……」

「ユウト……」

縋るような、あるいは心配するような目で俺を見上げて来るエールとガッツ。


視線を戻すと、ザクヤは、まさしく天使のように残酷に告げる。


「では、選択をしてください。澄空悠斗」

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