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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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ルーキーズマッチ『賢崎藍華vs坂下陸』4

賢崎藍華の身体は動かせない。


足元から見えない糸でがんじがらめにされたように。

心得のある人が見れば、地面を伝ってその足元に伸びて来ている波紋が見えたのかもしれない。


これが坂下陸の連携攻撃ラピッドアタックの真の力……!!

……という訳ではなく。


「お互いの脚が止まっている状態で、ほどほどの距離で、それなりの時間をかけて、しかも動きを止められるターゲットは一体のみ……。制御力はなかなかですが、実戦向けではありませんね」

「これは実戦じゃないからね」

身動きできないのに酷評する賢崎に、悪びれずに坂下が答える。


「無意味なのは承知のうえ。これは君に勝つためだけに調整した技だよ」

「……無意味とまでは言いませんが。それほど、ソードウエポンに最短勝利時間記録を献上したのを気にしてるんですか?」

歯に衣着せない賢崎。


「剣さんに負けたことは全く気にしてない。……というより誇りに思っている」

と、少しずつ慎重に距離を詰め始める坂下。

もったい付けているのではなく、下手に動くと拘束が解けてしまいそうなのだろう。


「ただ……、僕も人並みには仲間に認めてほしいんだよね」



☆☆☆☆☆☆☆



「麗華さん麗華さん麗華さん! 賢崎さんがピンチだ!」

「そうだね、悠斗君」

「だ、大丈夫だよね、麗華さん!!」

「私には、なんとも」

組んだ腕を揺すりながら訴える俺に、クールに返してくる麗華さん。


「そんな……。いつもみたいに『大丈夫ですよ、まだ完全に決まっていません』とか言ってくれると安心するのに……」

「それ言ってたの、ナックルウエポンじゃないかな?」

……そういやそうだった。


「まぁ、私もナックルウエポンが負けるところは想像できないけど」

「そ、そうだよな!」

「でも……」

と、麗華さんは少し迷ったような表情をして……。


「個人的には少し……ううん、かなり負けて欲しい」

「麗華さん、そういう本音は言っちゃ駄目だ!!」

自分に正直な麗華さんをたしなめる。

……そういや、この二人、微妙な関係なんだった……!


「大丈夫ですよ、悠斗様」

と、麗華さんと組んでいない方の腕を春香さんに組まれる。

ただ、麗華さんのように普通の(※それでもドキドキはするけど)組み方ではない。露骨に胸の谷間に腕を挟み込む組み方である。

「は……春香さん」

「大丈夫ですよ。これはただの痴女行為です」

「だったら止めてください!」

叫んではみるが振りほどけない。

麗華さんが摂氏零度の視線を向けて来てる(※ような気がする)のに!!


「まぁまぁ。お嬢様が心配なんでしょう?」

「ということは、春香さんは、『お嬢様大丈夫派』なんですね」

心配する俺は春香さんにもすがる。


「大丈夫ですよ♪ あの人、他人のことは良く、『規格外』とか『天才』とか『人外』とか『強力』とか『変態』とか『痴女』とか言いますけど……」

「…………」

最後の方、春香さん個人のことだよな?


「本当の強キャラは、あのヒト本人なんですよ。それこそ、詐欺かしら、ってくらいに」


☆☆☆☆☆☆☆



「これでもいろいろ考えた結果だよ」

拘束が解けないよう慎重に距離を詰めながら、坂下が賢崎に話しかける。


「接近戦最強にして、未来予知で遠距離攻撃は当たらない。おまけに範囲攻撃を無効化する裏技まで持っている……。いくら、先輩方の信用を勝ち取るためとはいえ、難易度高過ぎるな、とは思ったよ」

「で、これが回答ですか?」

「そう。格闘戦でもなく砲撃戦でもなく、中距離で動き自体を封じる。格好は良くないかもしれないけど、君に勝つにはこれしかない」

どこか白けた雰囲気の賢崎に、ダガーを握り直しながら近寄っていく坂下。

お互いの距離はあと5メートルほど。


「降参してくれないかな? いくらダメージ無効化結界があるとはいえ、女の子にこんなものを突き刺すのは気が進まない」

ダガーを正眼に構えながら、坂下が告げる。


「なるほど……。これは……」

「ん?」


「5点くらいですね」


『何点満点の?』と言いたくなるような微妙な点数を挙げて、賢崎藍華は身体に力を込める。

右手が僅かに動き始める。


「中途半端ですねぇ。地面から遠い部位は動かせますよ?」

「右手だけ動かして何かできるとでも?」

「右手だけじゃないですよ」

と、彼女は右手のオープンフィンガーグローブを口にくわえる。


描写が少ないせいで忘れられがちかもしれないが、賢崎藍華はずっと眼鏡とオープンフィンガーグローブを装備して生活している。


その右手側のオープンフィンガーグローブが、賢崎自身の口で脱がされる。


「ほら。掌が露出しましたよ」

融合進化適用ハイブーストアクセプト……。『右の掌で触れた現象』を強制的に同調させて、範囲攻撃を無効化する。素晴らしい裏技だと思うけど、僕は範囲攻撃なんかできないよ?」

「それを知っているのなら……」

「え?」


「どうして、『これ』ができるかもしれないと想像できませんかね?」


「…………」

風が吹いた気がした。


いや、実際に吹いている。

賢崎藍華を中心に、明らかに自然ではない風が。

そして、より正確に言うなら、その風は『賢崎藍華を中心に』ではなく。


「右……手?」

「触れてますからね。『空気』に」

賢崎藍華の発言に合わせて、より強い風が吹く。


「ま……まさか……」

坂下陸が必死で踏ん張るが、局地的な暴風は、どんどん強くなっていく。


「コストパフォーマンスが悪すぎるのであまり好きではないんですが、別にこの能力は相手の攻撃に対してしか使えないという訳ではありません」

「そんな……」

「本当に悪いんです、燃費が。ソードウエポンなら気にしないんでしょうけど」

「それなら……」

炎に触れれば炎の攻撃が。

水の上ならほぼ無敵。

そして、空気に触れれば。


いや、それどころか、下手すると空間そのものが。


「無茶苦茶だ! 勝てるわけがない!!」

連携攻撃ラピッドアタックの支配を放棄して叫ぶ坂下。


が。


「だから5点だと言ったんですよ」

賢崎藍華は溜息を吐く。


「燃費も悪いですが、これだけタメが長くて隙だらけなんです。攻略法くらい思いつきませんか?」

「あ……」

坂下陸もようやく気が付いた。

そう。接近戦ならば、こんな技、絶対に成功しない。

『未来予知で遠距離攻撃は当たらない。範囲攻撃を無効化する裏技まで持っている。そして、接近戦最強』。

そんな彼女を倒す可能性がある唯一の方法。


『それでも前に出る』。


「無理だ……。そんな人間が居るわけがない」

「そうでしょうか。貴方の前任者ならやりそうですけど?」

「それは……」

城守蓮の顔を思い浮かべて、一瞬迷う。

確かに、彼ならやるかもしれない。

だが、あの人は特別中の特別で、あまり参考には……。


「まぁ、実際に私がやられたのは同級生の男の子ですけどね」

「は?」

予想外のセリフに、思わず坂下が間の抜けた声を出した途端。


最大に高まった風力が、彼の身体を上空高く跳ね飛ばした。



☆☆☆☆☆☆☆



少し賢崎さんのことを甘く見ていたのかもしれない。

と、横にそびえている城と同じくらいの高さにまで跳ね上げられた坂下さんを見ながら思う。


いや、もちろん強いのは知ってたけど。

こういう、『開いた口が塞がらないようなデタラメさ』とは無縁の人かと思ってた。


「悠斗様? そんな大口開けていると、舌を入れられますよ? 主に、私に」

「こ……怖いこと言わないでください」

春香さんに腕を組まれていることを思い出して、俺は麗華さんと組んでいる方の手で慌てて口を抑える。


しかし……。


「これは……凄いですね……」

「いえ、あれでも、融合進化ハイブーストの余技に過ぎないんですよ」

「え?」


「評価され過ぎるというのも大変ですね、悠斗様♪」



☆☆☆☆☆☆☆



城を越える高さまで上昇したところで、ようやく坂下の身体が落下を始める。


ダメージ無効化結界があるとはいえ、痛みは感じる。

あの高さから落ちれば、勝負は確定である。


が。


「あの闘い方はあまり良くありませんからね。反省を促す必要があります。……決して、少しイラついたからではありません」

と、ブツクサ言いながら、賢崎藍華が構えを取る。


右拳を固めて、極端に下に引く異様な構え。

およそ実践的な構えには見えないが、不吉な予感に会場中がざわめき始める。

というか、坂下のファンと思しき女性たちからは悲鳴が上がっている。


どんどんスピードを増しながら落下してくる坂下。


「決して、イラついた訳ではありませんからね」

改めて言い訳をして。


賢崎藍華は、空高く拳を突き上げた。


◇◆『ルーキーズマッチ賢崎藍華vs坂下陸』結果報告

・勝者:賢崎藍華

・試合時間:3分00秒

・フィニッシュ:ジャンピングアッパーカット(KO)

◇◆

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