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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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『境界』の定義

麗華さんと俺の同居が(※少なくとも二人の間で)正式に決定した日の放課後。

これからの俺達の関係性はどうあるべきか、とか。

おじい様になんて言おうもしくはやっぱり黙ってよう、とか。

色々悩むことはあるのだが。


とりあえず、俺と麗華さんは上条総合病院に来ていた。


以前に検査していた『P値』の測定結果が出た、とのことで、上条博士から呼び出しを受けていたのだ。


忘れている人も多いと思うので、さっと説明しておこう。

●P値:BMP能力と身体の適合性を示す指標。100で標準。

・それを切ると、能力の使用による身体へのダメージが、わずかながら発生するようになる。

・80を切ると危険。ただし、95以下になることはまずない。

・100を超えると、能力を使いきれていないということにもなる。

 』

以上。


つまり、検査の結果、とてもP値が低いということになれば、俺はBMPハンターを続けることができない。

せっかく(※あくまで二人の間で)合法的に同居関係が成立したのに、即別れなければならない悲しい運命なのである。


……冗談を言っている場合じゃないな。

マジで頼むぞ……。


「悠斗君?」

「あ、ああ。ごめん、行こう」


そして、顔パス状態の俺は、麗華さんを連れて、上条博士が待つ診察室へ向かった。


◇◆


「あのな悠斗君。一応、診察室は関係者以外立ち入り禁止なんじゃが……」

と、上条博士に言われて、そりゃそうだと気が付く俺。

当然のように麗華さんを診察室の中まで連れてきてしまっていたのだ。


「ごめん麗華さん。そういう訳だから……」

「ううん。問題ない」

と素直に出ていくかと思いきや……。


ばっ、と、理系女子を思わせるような気がする仕草で自分を指し。


「私は博士号を持っている。故に看護師のようなもの」

と言い切った。


「博士号と看護師免許は別物なんじゃが……」

「私の記憶では、上条博士も医師免許をもっていないはず」

「そ……それはそうじゃが、儂が見んことには、ムチムチボインの美人女医を悠斗君の診察に付けねばならんぞ……!!」

「? 腕がしっかりしていれば問題ない」

「く……。これだから自分の容姿に自信がある女子は厄介じゃ……!!」

……何言ってるんだ、この人達は?


「……上条博士の論文には、私が名前を出さずに協力しているものも結構ある」

「ふ……ふん! 名前を出さずにどころか、実質君が書いたに等しいようなものもあるがな。そんなことで儂を脅せると思わんことじゃ! 儂はパクリ学者の汚名なぞ、ちっとも怖くないからの! もともとさして優秀でもない儂を、この分野の第一人者にしてしまった社会が悪いんじゃ!!」

胸を張って宣言する『世界的権威』上条弦博士。

恐ろしい人である。

……というか、何を言ってるんだろう、この人達は?


「つまり、私がプロジェクトチームを抜けてもいいということ?」

「もちろん、いいわけがない。さぁ、どこなりと好きなところを好きなだけ見るがいい!!」

…………だから、なんなんだ、この茶番は?

まぁ、麗華さんに反論できるのが賢崎さん以外に存在しそうにないことだけは分かったが。


「という訳で、私も同席するね、悠斗君」

と、自分で椅子を探して来て俺の横に座る麗華さん。

淡泊に見えて押しの強い美少女だ。

「すまんの。年を取ると若い娘と話す機会が減るもんじゃから、ついついはしゃいでしまうんじゃ、悠斗君」

と、俺に頭を下げる上条博士。

恐ろしい高齢者だ。


「まぁ、それで結果なんじゃがな」

「え? は、はい!!」

麗華さんが座った瞬間いきなり本題に入る上条博士にビビりながらも、真剣な顔で向き合う俺。


「P値『103』じゃ」


「え?」

「『103』じゃ」

俺のハテナマークに、再度数値を繰り返す上条博士。


しかし、103?

標準値が100だから、ほぼ標準?

BMP能力を使っても、身体への悪影響はない?

え?


「むしろ、わずかとはいえ、まだ使いきれてない部分があるということじゃな。とんでもないBMP能力者じゃ……」

「ちょ、ちょっと待って。さすがに100を超えているというのは……。誤診の可能性はないの?」

「無論、儂も目を疑ったが……。もう一度、検査してみるかの……?」

と、パソコンの画面を示しながら麗華さんに応える上条博士。


麗華さんはしばらくパソコン画面と睨めっこしていたが。

「とりあえず、少し様子を見る。次検査するときは、私も立ち会わせて」

言った。


……とりあえず、異常なしと言うことだろうか?

だが、もちろん、俺がBMP能力を使えなくなった理由が解明できたわけでもない。

あくまで『BMPハンターを辞めないといけないと決定した訳ではない』というだけの話だが。

それでも……まぁ、良かった。


「じゃ、帰ろうか、麗華さん」

「ちょっと待って」

帰ろうとした俺を麗華さんが止める。


そして、俺の右手……というより俺の右手に装着された腕時計型のディテクトアイテムを上条博士に見せる。


「このディテクトアイテムについて説明してほしい」

「ふむ、これがそうか……」

腕時計型のディテクトアイテムをカチャカチャといじり始める上条博士。


「……ふむ」

と、その手が止まる。

「見ての通り。つくり自体はシンプルだけど悪くない。ううん、今の悠斗君の状況を考えるとベストとも言える。でも、そのディテクトアイテムには、とても高度なモニタリング機能が付いている」

「モニタリング機能?」

予想外の単語に、俺が疑問符を浮かべることになる。

……いや、モニタリングの意味くらいは知ってるよ?


「事後報告じゃったが、鮫島君からは聞いておる。戦闘能力はあくまで付随機能。これは、悠斗君の状態……特にBMP能力に関するデータを収集する装置じゃ」

「…………」

いや、そんな機能が付いていたからと言って衝撃を受けたりはしないけど。

というか、むしろ、モニタリングしてくれるのならいざという時、安心だけど……。


「どうして、黙っていたの?」

「儂がやるのなら、ちゃんと最初に説明しておった。麗華君が先に言わなければ、今回説明するつもりじゃった……」

「聞き方が悪かった。どうして、今まで上条博士はこれをやらなかったの?」

「…………」

麗華さんの質問で、上条博士が黙る。

何だ? 一体、何が起きてる?


しばらくの沈黙。

と。


「……時に悠斗君。幻影獣は、どうやって生まれてくるか知っておるかの?」

「へ?」

唐突な質問にビックリする。

が、どうも、話を逸らそうとしている訳ではないらしい。


「謎……だったんじゃないんですか? 少なくとも、宇宙から飛来した、とか、地底から現れた、とかじゃないらしいとは教わってますけど……」

「そうじゃな。どこから来たのかは謎じゃ。……というより、奴らは『生まれてこない』」

「え?」


「『出現する』んじゃ」


「…………」

言いたいことは分かる。

緋色先生の授業でも習った。


『幻影獣は親から生まれては来ない、と思われる』

『全て単体で出現する、と考えられる』


「そもそも死体すら残さず消滅するような連中じゃ。生物というより現象に近いという理論も決して大げさではない。これに、幻影獣と人間に同じ『BMP値』という尺度が使えるという事実を当てはめれば、一つの仮説が生まれる」

「…………幻影獣は、人間から生まれる」

上条博士の言葉に反応して、麗華さんが静かに告げる。

その考え方自体は、実は革新的でも何でもない。

そう考えると説明できる事象がたくさんあるし、そう信じている人が一定数居るのも確かである。

ただ……。


「証拠が全くないし……。誇大妄想レベルの学説、じゃないんですか?」

「神話級の魔剣を現出させる人間が居る御時世じゃぞ? 誇大妄想でもないし、幻影獣の現象には基本的に証拠なぞ残らん」

「……」

発言しない麗華さんにも異論はないらしい。

ということは。


「この説が積極的に主張されないのは、ひょっとして政治的な理由ってやつですか?」

「それもあるが……。研究のしようがない、というのが本音のところじゃな。現象の端緒すら掴めんのじゃから、威勢よく主張してもどうにもならん。……弊害ばかりじゃ」

溜息を吐く上条博士。

が、その目が俺に向く。


「……しかし、一つだけそれを確認できる現象がある、と言われている。こちらも可能性は非常に低いが……」

「もういい。分かった」

と、何が分かったのか、麗華さんは腕時計型のディテクトアイテムを上条博士に押し返し。

「帰ろう、悠斗君」

と言った。


「い、いや、ちょっと待って、麗華さ……」

「待つんじゃ、麗華君」

しっかりした声で麗華さんを制止したのは、上条博士。


「儂が勧めんかったのは、まさしくそれが理由じゃ」

「私だって勧めない。お返しする」

「しかし、それは純粋なモニタリング装置としても使える。今の状況を考えると、悠斗君の身体の状態を把握するのは大事なことじゃ」

「それには異論はないけど。……そもそもの考え方が気に入らない」

「れ……麗華さん……?」

らしくない物言いに、違和感を感じる俺。

こんな麗華さんは、あまり……。


いや。

最近、良く見るな……。


「麗華さん」

「……なに? 悠斗君」

「教えてくれ。『一つだけそれを確認できる現象』って何だ? どうして、俺にモニタリング装置を付けたら、それを確認できる?」

「…………言いたくない。この件については、悠斗君は信用できない」

「……………………」

その言い方でどういう内容なのか予測できるくらいには、俺と麗華さんはそれなりの時間を過ごして来た。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

見つめ合う、俺と麗華さん。

上条博士は口を出さない。

俺が麗華さんから聞かないといけない。


と。


「境界の定義……」

麗華さんが口を開く。


境界?

確か……。


「BMP200。人と幻影獣を分ける、絶対の境界線……」

三回目となる回答が、麗華さんの口からもたらされた。


「それを超えると、コアを破壊して副首都区を救えるかもしれない、って話だったっけ……?」

レオの言によると、世界が救われるらしいが。


「それも一つの可能性。何が起きるかなんて誰にも分からない。これも、可能性は、凄く低い」

だったら教えてくれてもいいだろ、とはとても言えない雰囲気である。


だから。

俺は待つしかなかった。

上条博士には悪いが、診察室でじっと向き合う俺と麗華さん。

時間なんか確認してないけど、折れてくれたのは麗華さんだった。


「そんなことはさせないけど……」

と、前置きしたうえで、

「悠斗君。BMP200を超えたBMP能力者はね……」

告げる。


「幻影獣になるかもしれない」

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