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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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ルーキーズマッチ『峰達哉vs茜嶋光』5

「け……賢崎さん賢崎さん!!」

「ユウト、『賢崎さん』に戻ってますよ?」

「そんなんいいから!!」

賢崎さんを揺すりながら問う俺。


ダメージ無効化結界があっても、強烈過ぎるダメージを受けるとショック死することはある(※by緋色先生)。


今のはかなり危険な激突だった。

水しぶきが収まるまで待てばいいだけだが、一刻も早く魔女さんから峰の安否を聞き出したい。


「賢崎さん!?」

「大丈夫です、直撃はしてませんよ」

という賢崎さんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。


「あの状況でほぼ五分の状況にもっていったのは大したものです……けど」

「ん?」

なんか、賢崎さんの様子が微妙だ。


「誰か止めなかったんですかね。あの水着……」



☆☆☆☆☆☆☆



「つ……ぅ……」

天閃レイ同士を激突させた後、大慌てで距離を取った峰が、板の上で呻く。


(右腕の感覚がない……!?)

ダメージ無効化結界は、『痛み』は感じるものの、あらゆるダメージを無効化する。

しかし、あまりに大きな『痛み』を受けた場合は、それ自体がダメージになる。


(ダメージ無効化結界なしなら、右腕が千切れ飛んでたってところか……。あと、頭もまずいな……)


さっきから、脳震盪を起こしたように視界が定まらないのだ。

けれど。


「上等だ。まだ闘える!!」


『茜嶋光と闘える一分一秒が自分の宝物になる』。

真行寺真理に語った言葉に嘘はない。

あれだけの決定的な状況を経ても、まだ闘える力が残っていることを感謝し、水しぶきの向こうの天閃レイを睨み付ける。


メインプールの高い天井にまで届く勢いだった水しぶきもやがて収まり。


「え?」

「失敗した……」

眼を丸くする峰と、困ったような顔の茜嶋光。

なんと茜嶋光も、峰同様、片腕が使えない事態となっていた。


『な、ななな、なんとぉー!! 茜嶋光選手、ビキニトップのヒモが切れてしまったぁー!』

『ほ……ほんとにポロリが出てしまうなんて……!! 実行委員会のメンバー、賢崎のお嬢様に殺されるんじゃないでしょうか……』

『私達のクビも心配だけど……、結城ちゃん!! この場合、茜嶋選手の負けでいいのかな!?』

『か、かろうじて手で抑えてますからセーフです。ただ、ほんとにポロリ……胸が露出したら、その段階で負けです!!』


状況は、志藤×雛鳥コンビの実況の通り。

茜嶋光は、左手でビキニトップを抑えたまま、峰と対峙している。


「こんな戦術があったなんて……。油断した……」

顔を赤くして呟く茜嶋。

「い、いや、違います!」

動く方の左手をぶんぶん振りながら否定する峰。


そもそもそんな水着で来る方が悪い、とか。

右腕一本失う級のダメージと引き換えにそんな戦術はしない、とか。

色々な言い訳が浮かんでは消えていく。


そして、最後に残ったのは三村の顔だった。


「お、俺は三村じゃありません!!」

「そんなの見れば分かる」

……それはそうである。


峰渾身の言い訳を一蹴した茜嶋は、右腕を天井に向かって掲げる。

そして。


天閃レイ

無数に放たれた光の矢は、天井近くで方向を変え。


峰目掛けて降り注ぐ。



☆☆☆☆☆☆☆



「け……賢崎さん賢崎さん!」

「あんまり、揺らさないでくださいユウト。あと、私はネタバレマシンではないですよ」

「んなこと言っても……!!」

未来が見えるんだから、ちょっとくらい俺の不安解消に協力してくれたっていいじゃないか!!


「……まだ直撃はしてないみたいですが、時間の問題です」

「そ、そうなの……?」

「大丈夫ですよ。あれでも威力はちゃんと絞ってるみたいです。危険はありません」

「でも、勝つのはもう無理?」

と聞かずににはいられない俺。


「適当に撃ってるように見えて、きちんと考えて追い込んでる。峰が飛び込んで来た時の対処もできてるみたいだし、打つ手がない」

着弾の水しぶきが上がり続ける水面を食い入るように見つめながら、麗華さんが答えてくれる。

「駄目か……」

「まぁ、ほんとに胸部露出する前に勝負が付きそうで良かったですよ。私も好きで怒りたい訳じゃないですかね……」

あ……若干、まだ怒ってる。


「まぁ、しかし……やっぱり、峰も駄目か……」

『決着は付いた』と言いながら食い入るように試合を見つめるダブルウエポンとは対照的に、俺は少し気が抜けてしまった。

なんとなく、後ろの座席に座っている小学生ズの様子を窺う。


ガッツ:「そこだ、いけー!」と、普通に茜嶋さんを応援している。

エール:「光ねえさんの攻撃をあんなにかわすなんて……。峰さんも結構格好いいです」と、せっかくの美少女候補が尻軽女になってしまいそうで心配だ。

ハカセ:「追いかけるだけでなく、逃げる先を塞ぐように……。そうです! その調子で!!」と、茜嶋さんを応援しながら、ちらちらと姉御の水着姿を窺っているむっつりスケベである。


「ん……」

いや?

ハカセの様子が少しおかしい?

……というより、ハカセが様子を窺っている姉御が少し……。


「……姉御。どうかしたのか?」

試合に集中している麗華さん達の邪魔をしないように、小声で姉御に話しかける。


「う、ユウト……」

「ど、どうした、姉御?」

顔が青い……?


「あの……プールの隅っこなんだけど、何か……変じゃ……ない?」

「プールの隅?」

と、姉御が指差した先、この客席とは反対側のプールの隅に目を凝らす。

が、特に異変は感じられない。

……というか、この会場は城守さん率いるBMP管理局が目を光らせている。

異変があれば、とっくにアナウンスが入っているはず。


「何もないと思うけど?」

「そ……そうよね? ご、ごめんね……変なこと言って」

おかしい。

外見抜きで姉御が可愛い。

いや、そうではなく。


「……そんなに気になるのか?」

「わ、分かんない……。けど、震えが止まらなくて……」

「…………」

未来を見通す賢崎さんが何も言ってない以上心配はいらないと思うのだが……。


「どう思う、麗華さ……」

「違う、峰! かわすこと自体を目的にしてどうするの?」

「そうですよ! あくまで勝利のために避けるんです! 複数のパターンを交えて……隙を作り出すくらいの気持ちで!!」

「…………」

駄目だ。お二人は完全に観戦モードに入ってしまっている。

……邪魔するのも悪いか。


「ユウト、どこへ?」

と問いかけてくるハカセを、人差し指を立てて静かにさせる。


「ちょっとトイレに行ってくる。麗華さん達には内緒な」



☆☆☆☆☆☆☆



澄空悠斗から適度な距離をおいた客席の一つに、黒いドレスを着た女性が座っている。


全員に水着の着用が義務付けられた試合なので、当然目立つ。

……はずなのだが、観客席の誰も、彼女に視線を向けてはいなかった。


「男子トイレの中まで付いて行けるんじゃなかったのかしら、女神様?」

一人で席を離れる澄空悠斗を見ながら、幻影獣が笑う。


「ま、どんな勇者も英雄も聖者も、自分が迷宮の中に居ることに気付けなければ、絶対に抜けることは不可能なんだけどね」

媒介を必要としない彼女のBMP能力は、それを可能にする。

迷っていることにすら気づかせないからこその、迷宮ラビリンス


「破れるとすれば……。って、あのバカ……」

と、不敵な微笑を不意に崩して、ミーシャ・ラインアウトは立ち上がる。


そのまま、客席の間の階段を上り。

客席間通路を澄空悠斗が通るのをやり過ごし。

……その後ろを付けていた生き物にラリアットを喰らわせた。


「ぐはっ!」

「……なにやってんのよ、あんたは」

ラリアットを撃ち終わった体勢のまま、尻もちをついた小野倉太を見下ろしながらミーシャが言う。


「い、いや、剣さんのかわりに、僕が男子トイレまでお供しようかと」

「お供してどうするのよ?」

「あらゆる陰謀から悠斗君を守る」

「あ・ん・た・は、陰謀する側でしょうがっ!!」

全力でボケる小野の顔を、両側から力いっぱい抓るミーシャ。


「み、みーひゃ、いはい……」

「全く、時々、あんたがどこまで本気か分からなくなるわ……」

ミーシャが、呆れ顔で手を離す。

「いやでも、ミーシャも細かい調整はできないんだよね? 悠斗君はBMP能力が使えないし、危ないじゃないか?」

「近くに居たらすぐ助けちゃうでしょ、あんたは……。これだけBMP能力者が揃ってるんだし、大丈夫よ」

「他の人間なんかに、悠斗君の命は任せられな……ぶはっ!」

真剣な表情で訴えかけた小野が、ミーシャの前蹴りで沈黙する。


「まったく……。敵役の自覚があるのかしら、こいつは……」

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