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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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戦慄の水着売り場

水着売り場は、デパート『新月』の7階にある。


そして俺は知らなかった。

ここは基本的に男が出入りする場ではない。


「悠斗君? どうしたの?」

自然に先頭に居たものの立ち止まった俺に、後ろから麗華さんが聞いて来る。


今からでも順番を代わってもらうことも考えたが、さすがにそれは格好悪い。

代わりに、一番度胸がありそうなガッツを後ろから押してみるが、入ろうとしない。

どうやら、こいつも実はヘタレのようである。


と。


「は……ハカセ」

「意識しすぎですよユウト。僕らは女性がたのエスコート役なんですから、堂々と入ればいいんです」

などと男前のセリフを吐きながら、先頭を切ってハカセが水着売り場に突入していく。


「「か……かっけぇ……」」

俺とガッツは思わず呟く。

本当になかなか格好いいので、さりげなく姉御をガン見しながら水着姿を妄想している(※と思われる)のは気付かないふりをしてやることにしよう。


水着売り場はなかなかに広い。

俺達は、二手に分かれて探すことにした。


姉御達は小学生用の水着を買いに。

そして、俺達は……。


「これでいいか」

「うん。特に問題はないね」

特に問題なくノーマルな男性用水着を選ぶ俺と小野。


「…………」

一瞬で買い物終わってしまった。

この後、どうしよう?


と悩んでいると……。


「じゃあ、この水着は僕が買っておいてあげるよ」

小野が俺の水着を奪う。


「小野……?」

「いいからいいから。麗華さんを一人にしたらダメでしょ? 一緒に選んであげなよ」

と言い残しながら、自分と俺の(※御揃いの)水着を持って、小野はレジに消えていった。


という訳で。


「よろしくお願いします」

「こ……こちらこそ」

無表情で頭を下げる麗華さんに、思わず頭を下げ返す俺。


しかし、どうしよう?


素体は確かに最上級だが、だからといってどんな水着でも良いというものでもあるまい。

むしろ、下手な水着を選んでしまうと、麗華さんの魅力を損ねることになりかねないのでは……?

これは、高貴かつ危険な任務かもしれん。


と、真剣に悩み始めた俺の隣で、麗華さんが突然吊ってある水着を掴む。


「じゃあ、これでいいかな」

「ちょっと待った!!」

「?」

ちょっと待ったコールを入れた俺に、麗華さんがハテナを浮かべる。


「そ、そんな適当に選んでいいのか?」

「? 悠斗君も適当に選んでたけど?」

俺と比べてどうする!?


「ま……まぁ、麗華さんがいいならいいけど……」

「うん?」

「それ……ちょっとダサくないか?」

「ダサいかな?」

水着を掲げながら首を傾げる麗華さん。


水着はフリルのついたワンピースタイプのもの。

可愛らしい感じはするが、麗華さんには少し合わない気がする。

いや、麗華さんが来たら可愛いかもしれないけど。

というか、麗華さんは何着ても美少女だとは思うけど。


「これでいいと思うけど」

「い、いや、せっかくだからもっと粘ろうよ。そんな適当に選んだら、三村も悲しむよ」

全然関係ないけど、三村を引き合いに出して説得にかかる俺。

「あんまり時間はかけたくないんだけど……」

「いやいやかけようよ時間。むしろ、ここでかけなきゃどこでかけるって感じだぞ?」

何故か早めに切り上げようとする麗華さんに対し、説得を続ける俺。

たとえ麗華さん本人が自分の魅力に無自覚でも、男としてここは見過ごせない。


「じゃあ、悠斗君はどんな水着がいいの?」

「ど……どんなのと言われましても……」

ど……どんなのがいいんだろう。


顔はもちろんスタイルも完璧だから、どんな水着でも似合うと思うけど……。


お嬢様だから、清楚に締める?

天才肌だから、アーティスティックに?

スタイルを生かして、露出を多めに?


スタイル……。


「れ……麗華さんって実は……。いや、実はでもなんでもないけど、スタイルムチャクチャいいよな……?」

至近距離で麗華さんの身体を眺め続けたせいか、変なセリフが俺の口から洩れる。

「?」

「て……天竜院先輩ほど胸は大きくないけど、全体のバランスが完璧というか……。美しさの中にエロさを感じるというか……」

「? 悠斗君? 発言の趣旨が分からない」

すみません。俺にも分かりません。


「悠斗君?」

「つ……つまり……。麗華さんのスタイルの魅力をストレートに引き出せる、白のビキニなんかど……どうだろう?」

「じゃあ、あれかな?」

ワンピースを戻して白のビキニを手に取る麗華さん。


「じゃあ、行こう。悠斗君」

「いやいやいやいや。試着しよう麗華さん!」

「? 大きさだいたい合ってると思うけど、悠斗君だって試着してなかった」

だから、男はいいんだよ!!


◇◆


妙に買い物を急ぎたがる麗華さんを何とか試着室に押し込んで、俺は一息ついた。

女性水着のことは良くは分からんが、やっぱり試着ぐらいは必要だろうたぶん。


というか、レストラン出たあたりから、麗華さん妙にソワソワしてる気がするんだよな……。

何か言いたいことでもあるんだろうか?


「って、別に試着室を凝視する必要はないか……」

さすがに麗華さんも、試着途中で試着室を脱出したりはするまい。


試着室のカーテンを睨みつけているのも不毛だし、背を向けてさりげなく待つことにしよう。


「しかし、女性の水着の試着を待つなんて、なんか恋人っぽ……!」

最後まで言えなかった。

しなやかな腕が背後から口元と胸元に回され、引きずり込まれる。


『試着室』の中に。


「ふ……ふぇいかはん?」

「悠斗君、静かに」

混乱する俺の前で、試着室のカーテンが閉められる。

なぜか俺は、麗華さんに背後から羽交い絞めにされている。


「悠斗君、静かに」

という麗華さんの再度の指示に首を縦に振って応えると、口元の手は外してくれた。


「麗華さん、一体何事が……」

「悠斗君、大事な話があるの」

「そ……それは、試着室の中で話さないといけないようなことなんですか……っ!?」

「できるだけ早い方がいいから」

なら、仕方ない。

だが、一つだけ。


「麗華さん、ひょっとして上、着てないことないか……?」


「試着の途中だったから。悠斗君が背後を向いてチャンスだと思った」

「放してくださいぃ……」

マジで泣きが入った。


「悠斗君、冗談を言っている場合じゃない」

「じょ……冗談なんか言ってない」

背中に感じる感触と、耳元で囁くような声。

これはエロいとかエロくないとかいう次元の問題ではない。

万が一にでもおじい様の耳に入れば、合法的な処刑を待たずに処刑される!


「いいから聞いて悠斗君。鏡さん達には聞かれたくないの」

「明日香達に?」

予想外の一言に、わずかに冷静さを取り戻す俺。


「悠斗君、さっき鏡さん達の前で、副首都区の奪還について話をしたよね?」

「あ、ああ」


「私は、副首都区へは行けないの」


「え?」

意外な一言に驚く。


「いや、俺もすぐに奪還に行けるなんて思ってる訳じゃないけど」

「そういうことじゃないの、悠斗君」

麗華さんが首を振る(※ような気配が伝わってくる)。


「現政府……おじい様は、少なくともコアを制御できる技術的な確証が得られないうちは、副首都区への侵入を禁止している」

「え?」

「副首都区奪還に現実味がないのは誰もが分かってる。けれど、この案件は争点化されてる」

「争点化……って」

「野党に攻撃の機会を与えることになる。首相の孫娘である私が副首都区に向かえば、おじい様に迷惑がかかる」

「あ……」

思わず、俺の口から声が漏れる。


「期待に副えなくてごめん、悠斗君。私は副首都区には行けない」

「…………」

レストランからの微妙な表情は、それを伝えたかったのか……。

やっぱり、俺にはイケメン属性が欠片もないらしい。


「ごめん、麗華さん。俺が無神経だった」

「え?」

「もう言わないよ、約束する」

と、言ってみたが、麗華さんの腕にさらに力が込もる。


「……一人では行かないよね?」

「へ?」

今、何て言った?


「私が行けないからって、一人で行ったりしないよね?」


「……」

「……」

「……いや、それはないよ」

うん、普通にない。

それは控えめに言っても、自殺の一類型だ。


「俺一人じゃ何もできないのは、教えられるまでもなく知ってるし。突然無謀な正義感に目覚めたりする属性もないから大丈夫」

「…………」

「……大丈夫ですよ……?」

「……自覚がないのが、一番タチが悪い……」

「え?」

今何て、と聞き返そうとしたところで、後ろからトンと押される。


「何でもない。とにかく約束したから」

と言われてしまっては、これ以上試着室に留まると犯罪行為になる(※すでにだいぶギリギリだが)。


釈然としないものを感じつつも、俺は試着室のカーテンを開けて、外に出た。

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