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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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水着を買う

「と、言う訳で週末にデパートに行くことになった」

「そう。なら、私も時間を空けておく」


病院から帰った日の夜。

麗華さんが買ってきた『新月学園学食名物ささみチーズフライ完全再現版』を食べながらの夕食の席での会話である。


「? 麗華さんも来るの?」

「駄目かな?」

「いや、駄目ってことはないけど……」

というか、普通に嬉しいけど。


「俺と明日香……あの小学生達の水着を買いに行くだけだぞ?」

「私も一緒に買わないといけない」

「へ?」

「私も水着を買っておかないと、峰の試合が観戦できない」

「……」

麗華さんの発言に、思わず言葉が止まる。


「……?」

「…………」

「…………水着を持っていないから、試合までに買っておかないといけない」

「水着、持ってないの?」

「持っていない」

「美少女なのに?」

「? 美少女は関係ないと思う」

「……」

そりゃそうだが。


少し考えをまとめるために、『新月学園学食名物ささみチーズフライ完全再現版』に箸を伸ばす。

タルタルソースをたっぷりとからめて……。

「駄目だ、やっぱり何か違う……。ささみ本体はともかく、ソースが違う……」

「確かに……。そんなに難しいのかな、あのソース……」

っといかん。思わず脱線しそうになった。


「でも、麗華さん。仮にも首相の孫娘なんだから、良く分からないけど、オーダーメイドとかの方がいいんじゃないのか?」

「プールに行くだけだし、既製品でいい」

「そ、そっすか……」

慎ましいのか合理的なのかは知らないが、とにかく麗華さんは庶民的な選択をしたようである。


「とーこ姉くらい胸が大きかったら、既製品では合わないのかもしれないけど」

「な、なんで、そこで天竜院先輩が出るの!?」

「? 単なる比較対象だけど、何かまずかった?」

「あ……いや」

しまった、自爆した……。


「……悠斗君。とーこ姉は確かに昔、私の姉のような存在だったけど、今現在悠斗君が欲情の対象とする分には特に問題ないよ?」

「してないよ!」

「でも、鏡さんと同時期に仲良くなろうとするのは、三村言うところの『ストライクゾーン広過ぎ』の汚名を免れない」

「広くないよ!! というか、普段三村と一体何話してるんだよ、麗華さん!?」

思わず叫ぶ俺。


「とにかく週末。駅前のデパート『新月』でいいんだよね?」

「あ、ああ」

ということで。


何はともあれ、麗華さんも一緒に水着を買いに行くことになった。



◇◆◇◆◇◆◇



「……ということで、週末麗華さんも一緒に水着を、いててて!!」

小学生ズの水着購入に麗華さんも付いて来ることが決まった日のさらに翌日。

ホームルーム前の教室で昨夜の出来事を話すと、小野にいきなり抓られた。


「僕の前で、同棲している女とのノロケ話をするとは……。いけない悠斗君だ」

「の……ノロケてはないと思うんですが……」

耽美な雰囲気でため息をつく小野に、とりあえず俺は反論してみる。


「じゃあ、何なのさ?」

「いや、麗華さんは水着を持ってないから一緒に買いに行くだけで、小野まで付いて来る必要はないと言いたかったんだけど……」

「僕も水着持ってないよ」

「……」

「持ってない」

「美少年なのに?」

「キミに見せるために取っておいたんだよ」

「……怖いこと言うなよ」

絞り出すような声で答える俺。

最近、小野が本気でそっちの人じゃないかと思える瞬間があって怖い。


「うーん……」

と、賢崎さんが会話に入りたそうに会話に入ってくる。


「賢崎さん?」

「いえ、澄空さんと小野さんって仲がいいなぁと思いまして」

「そりゃ、悪くはないと思うけど……」

断じて、そっち系の仲ではないが。


「いえ、何というか、幼馴染というか……。お互い昔から知っている仲のように見えるんです」

「賢崎さん。君は宇宙一素敵な女性だ。悠斗君が居なければ結婚を申し込んでいたところだ」

「男性と比較されるのは微妙ですが、とりあえずありがとうございます」

突然派手に持ち上げた小野に、賢崎さんがクールに返す。


しかし、『昔から知っているような仲』ねぇ……?


出会ってからの期間を考えたら比較的仲良くなった方なのかもしれないけど。

気安い仲、というだけなら三村の方が……。


「って、入院中だったな……」

空席になった三村の席を見ながら俺は呟く。


と。


「澄空。ちょっといいか?」

今度は、峰が話しかけてくる。


「何だ、峰? ひょっとしてコーチの話か?」

峰のコーチを、魔弾グレイズの十六夜朱鷺子さんになってもらおうという話である。

賢崎さんがうまく説得できたんだろうか?


「いえ、それが……。昨日、急に峰さんから、『こっちでお願いできるようになったからもう大丈夫だ』と電話がありまして……」

「へ?」

なにそれ?


「いや、実は昨日、偶然真行寺と会ってな……」

「え?」

「彼女が、師匠である十六夜さんに俺のコーチを頼んでくれることになった」

「?」

どういうことだ?

真行寺真理が『魔弾の後継』で、十六夜朱鷺子さんの弟子である。ってことくらいは俺も知ってるが、何故、峰のためにそこまでしてくれるんだ?


「峰って真行寺さんと知り合いだったのか?」

「いや、初対面だ」

「え?」

「どうも気に入られたらしくてな」

「??」

さっぱり分からん。

確かに峰は男前だが、男前というだけで、あの十六夜さんがコーチを引き受けてくれるものなんだろうか?

賢崎財閥の次期頭首が頼んでも駄目かもしれない、って言ってたのに。


「ま、まぁ、何はともあれ、良かったということでいいのか?」

「ああ。結果としては最高だ。最高過ぎて怖いくらいだが……。とにかく、今日から早速特訓を付けてくれるらしい」

「それは良かった」

三村があんな目にあった後の『特訓』という単語に、ここまで目を輝かせることのできる峰は、素直に凄いと思う。


「それでな、澄空。君に聞きたいのは、真行寺のことだ」

「真行寺さんのことだって?」

「ああ。君は真行寺のことを知っているのか?」

「『魔弾の後継』。十六夜朱鷺子さんの弟子で、何故かKTI四天王の一人で、ハンター稼業に精を出し過ぎて学校にあまり来ない、真行寺さんだろ?」

「いや、そういうことではなくてな……」

峰の歯切れがイマイチ良くない。


「君は、昔、真行寺と会ったことはないか?」


「いや、ないけど?」

「本当か?」

「真行寺さんが会ったことがあるといったのか?」

「いや、そういう訳ではないが……」

峰の歯切れがやっぱり良くない。


「彼女が、君のことを嫌いと言っていてな」

「嫌い? なんで!?」

KTIと敵対したからか!?


と、俺が焦り出すと。

首を振りながら、峰が言う。


「いや、やっぱりいい。何でもない。今聞いたことは忘れてくれ」



◇◆◇◆◇◆◇



新月駅前にあるデパート。その名も『新月』。

その歴史の長さから、地域のおば様がたからはデパート自体がブランドとみなされ。

最先端の流行を発信する姿勢は、若者達からも愛される。

まさしく、新月地区の覇権デパート。


近くは良く通るが、基本的に用はないので、あまり何度も来たことはない。

水着を買うだけなら別にここじゃなくても良かったのだが、俺の頭ではここしか思い浮かばなかったからここに来た。


ただ、それだけなのだが……。


「これが、デパート『新月』……!」

「う、噂だけは聞いていましたがね……」

「ふ、二人とも大丈夫よ……。しょせんただのデパートなんだから、特別な作法なんかないから私達でも恥なんてかかないよ……。作法なんてない……。ないよね、姉御!?」

「あるわけないでしょ……」

小学生ズが非常に盛り上がっていらっしゃる。


複雑な事情がある子達だとは思っていたけど、ここまでストレートに喜ばれると若干困惑する。

……姉御まで少しウキウキしているように見えるし……。


「ほら、ユウト。さっさと水着売り場に案内しなさいよ。私達はともかく、剣さんをこれ以上待たせるつもり?」

「いや、その前に昼飯食べないか?」

やっぱり少しウキウキしているように見える姉御の催促に、提案をもって返してみた。


「ひ……昼御飯って……。こんなおしゃれタウンのどこで昼御飯なんか食べるつもりなのよ……?」

姉御が何故か戦慄の表情を浮かべる。


「デパートの中のレストランでいいだろ? 最上階にあったと思うけど」

「「!」」

ずざざーっという効果音を出して、姉御達が後ずさる。


「わ、私達、お金ないですよ!?」

「い……いきなり手のうちを晒さなくていいんですよ、エール!?」

「い、いやでもマジ無理なんだよユウト!! 病院の売店すら行けない立場なんだって俺達!!」

エール・ハカセ・ガッツが悲壮な顔で訴えてくる。


「別に小学生に昼食代を出させるつもりはないんだが……」

「ゆ、ユウトがおごるとでも言うの!?」

妙にドラマチックな仕草で姉御が叫ぶ。


「ああ。おごるよ。金はちゃんと下ろしてきてるし」

と言うと、小学生達の顔が青くなった。


「や……ヤバい。抱かれてもいいと思ったぞ」

ガッツが妙なことを言う。

「侮っていました……。確かに、これはモテる」

ハカセが買い被る。

「ゆ、ユウトって実はイケメンですよね!?」

エールのてのひら返しが凄ぇ。


そして、姉御は……。


「し……しょうがないわね。私も空気くらい読むし。ここは黙って奢られてあげるわ」

ぷんぷん怒りながらにやけている。

もともと美少女なものだから、確かにこれは可愛い……。


「いててててて!!!」

緩んだ頬を、小野が抓る。


「お、おろ……! いひゃい……!!」

「今回は感謝してほしいね。今の顔、ばっちり剣さんに見られていたよ」

「ひゅ……ひゅみましぇん……!!」

涙目になりながら謝る俺。


そして、ようやく一つの真実に気が付き始めていた。

『三村が居ないと、三枚目の役目が俺に回ってくる』……!!

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