おめでとうタケゾウお兄さん
『
シンイチクン:く………くくくくくく。まさかまさか本当に、こんな冴えない中年ライターのネタ番組がレギュラー化するなんて……。我が国のテレビはいつからこんなにコンテンツ製作能力が落ちたんだよ……。くくくく……。
メロンさん:ふ……うふふふふ。たとえ後世に黒歴史と呼ばれようがなんだろうが、このメロンさんこと桃空純代がレギュラー枠を確保したのは厳然たる事実……。視聴率なんかクソ喰らえです。一回でも多く公共の電波に載ってやるんです……。うふふふふ。
タケゾウお兄さん:あ……あの二人とも? も、もう番組始まってるからね……?
※以下、面倒くさいので、タケゾウお兄さん→タ、シンイチクン→シ、メロンさん→メで。
シ:という訳で大盛り上がりでした、ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』! さすがは痩せても枯れても『魔人の下側』! ルーキーが勝つことなどまずありえないルーキーズマッチで、あのクリスタルランス相手に、歴史に残る名勝負を演じてくれました!!
メ:もう! 二人とも格好良かったですよねー!! 最後、犬神さんが三村君に肩を貸して一緒に降車したところなんて、もう! 涙とかが出てきちゃいましたよ!!
シ:一生に一度かもしれない名勝負を見逃してしまったテレビの前の貴方!! 落ち込むのはまだ早い。二週間後には、『峰達也vs茜嶋光』が待ってます!!
メ:峰君もイケメンなんですよねぇ……。しかも、相手は天閃の茜嶋さん! 今年のルーキーズマッチは本当に、本当に!! 面白いです! 燃え上がります!! そして、気になる対戦方法は!!
シ:さぁ!! タケゾウお兄さん!!
タ:あ、ああ。次戦は『ウォーターバトル』。ちょっと……というか、かなりエンターテイメント色の強い対決だね。
シ:というと、どんなのさ!!
タ:特番とかで見たことがないかな? 要するに、水着で水上に立ってバトルをする。プールに落ちると失格になる。
メ:なるほど!! だから私、こんなに胸を強調した際どいビキニを着てるんですね!?
シ:クソビッチが露出過多なのは前回もでしょうが……。僕だってふんどしで出るって言ったのに……!!
タ:そんなことしたら教育委員会が黙ってないよ……。ただでさえ、君のキレ気味のキャラは強制されてるんじゃないかって抗議の電話が絶えないのに……。
メ:とにかく、遠距離攻撃で相手をプールに落としたら勝ちなんですね?
タ:そういうこと。対決内容はともかく、茜嶋さんは最強の遠距離攻撃系能力者だからね。BMPハンターを目指す良い子のみんなにとっては、絶対に参考になる。もちろん、悠斗君と共に死線を潜り抜けてきた峰君の底力にも期待大だ!!
シ:お、おお……。タケゾウお兄さんがちょっと格好いい……。
メ:タケゾウお兄さん。他に何か注意事項はないですか?
タ:ダメージ無効化結界は張られてるけど、観客席に水がかかる可能性が大だからね。観客も水着着用がルールになってる。売店の在庫がどれだけあるか分からないけど、直前になって慌てないように忘れず用意しておくこと。
シ:では、ルーキーズマッチ『峰達也vs茜嶋光』に……
メ:レッツゴー!!
』
という番組を、俺は、人気のない喫茶室の中央のテーブルで見ている。
一緒に見ているのは、天竜院先輩と小野と姉御達。
天竜院先輩と話しているところを姉御に見つかり、そのまま喫茶室に引っ張り込まれたのである。
賢崎さん達と話している時はどこか演技っぽい雰囲気も感じる姉御だが、天竜院先輩には本気で懐いているらしい。さすが天竜。
「ふむ……。天閃の茜嶋さんか……。是非、観戦したいところだが……」
と、その天竜さんが言う。
「来れないんですか?」
「実家がごたごたしていてな……。まぁ、三村君の試合が見れただけでも幸いだったが……」
俺の質問に、残念そうに答える天竜院先輩。
「泳ぐのは好きなんだがな……」
「あ、やっぱり」
天竜院先輩のボヤキに、思わず声を漏らしてしまう素直な俺。
何が素直かというと、ナチュラルに天竜院先輩のダイナマイトな水着姿を想像してしまったからだ。
……やばい。三村じゃあるまいし。
BMP能力が使えない反動でムッツリスケベになってしまっているのだろうか?
「ほぅ。澄空君にも分かるか?」
「え、ええまぁ……いてててて!」
言い終わらないうちに、小野に頬を抓られる。
「悠斗君。知り合いを使った妄想は、たとえ本人が許しても僕が許さない」
だから、なんで小野が許さない!?
「でも……そうですか。天竜院さんは来られないんですね……」
と、今度は姉御が沈んだ声を出す。
「済まないな。まぁ、私の分までしっかり峰君を応援してやってくれ」
「…………」
天竜院先輩の慰めに対し、気まずそうな顔をする小学生ズ。
「ひょっとしてチケットがないのか? なら私の分と……同じく観戦に行けない風紀委員の分があるが?」
「あ、いえ、チケットはユウトが用意してくれるので大丈夫です」
とナチュラルに回答する姉御に、『なんで今回も俺が用意することになってるんだよ!?』と突っ込んだ方がいいか、誰か教えてください。
「なら、どうしたんだ?」
「その……」
「水着が……」
「……ないんです」
天竜院先輩の疑問に、エール・ガッツ・ハカセが順番に答えた。
「私達お小遣いなんて持ってないし……」
「というか、ここの入院費とかでぶっちゃけ借金漬け……?」
「一応、この病院に居る間の分は管理局が負担してくれることになってますよ。その後のことは正直、考えたくもない状態ですが……」
同じくエール・ガッツ・ハカセの順番で落ち込んでいく。
と。
「仕方ないわね」
姉御が口を開く。
そのまま俺の方を向いて。
「ユウトお兄ちゃん。水着買って(棒)」
滅茶苦茶棒読みで言った。
「もう少し頑張ろうぜ、姉御」
苦言を呈する俺。
「頑張ったら買ってくれるの?」
「そりゃまぁ」
と、半分冗談で返すと。
「あ……姉御?」
姉御が俺の手を握ってくる。
そのまましゃがみこんで、俺の顔を上目づかいで見つめ……。
「ユウトお兄ちゃん……。水着買って(特大はあと)」
「う……!」
あ、あかん!
これ、あかんレベルや!!
「で……出た、姉御の本気モード!!」
「か……可愛い……!!」
「さ……さすが姉御」
エールとガッツとハカセが顔を赤くしながら解説する(※なぜかハカセの顔が一番赤い)。
というかヤバイ。
ただでさえ欲求不満気味(※なのかもしれない)のに、下手をするとマジでロリコンに目覚めてしまう。
が。
「冗談よ」
と、ふいっと姉御が自分の席に戻る。
「さすがにそこまで面倒は掛けられないわ。居候の身でプールもないしね」
殊勝な顔で言う姉御。
毒舌小学生とはいえ、美少女にこんな顔で言われたら、さすがに黙ってはいられない。
「仕方ないわね……。今回は諦めるとしましょう。茜嶋さんが不覚を取るとは思えないし。ユウト、私達の代わりにせいぜい楽しんで……」
「いや、行こう」
「え?」
俺の唐突なセリフに、姉御のセリフが止まる。
「俺も水着持ってないから、一緒に買いに行こう。水着代くらいなら出すよ」
「ほ……ほんとに……?」
「ああ」
「そ……そう。それは嬉しいわ。いくら三枚目とはいえ、賢崎さん達に気に入られているだけあって、女の機嫌の取り方はそこそこできるのね」
ぷいっとそっぽを向きながら、わざわざ毒舌を絡めてくる姉御。
だが、これは可愛いと言っていいのでは……。
「って、いてててて!!」
「悠斗君。ロリコンは犯罪だ。たとえ天が許しても僕が許さない」
「だから、何で小野が許さないんだよ!!」
ついに叫ぶ俺。
まぁ、何はともあれ。
水着を買いに行くことになりました。