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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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誰にでもある可能性

「みんな、今日も一日授業お疲れさま」


放課後のホームルーム。

いつものように一日の勉学を頑張った生徒に、緋色先生が労いの言葉をかけてくれる。

姉御もそうだが、たとえ性格がSでも、やはり可愛い女の子に微笑まれると悪い気はしない。

……相変わらず、さっぱり分からない授業の疲労感も少しは癒されるというものだ。


「さて、ここで皆さんにお知らせがあります」

という言葉に、クラスメイトが俺の方を向く。

『また、緋色先生に澄空が弄られるのか?』という視線だ。

だが、俺の偏向描写のせいで誤解させてしまっているかもしれないが、緋色先生は別に俺だけに構っている訳ではない。


「昨日、惜しくも敗れたとはいえ、我がクラスの三村宗一君は、あのクリスタルランスをあと一歩のところまで追い詰める大健闘をしてくれた訳ですが……」

「…………(誰かが唾を飲む音がする)」


「その三村君が入院しました」


「…………」

なんだその話か……、というようにクラスメイトの表情が緩む。


別に驚く話でもない。

校門くぐったところでぶっ倒れて、そのまま救急車で運ばれて、一日居なかったんだから誰にでも分かる。

登校時には普通だったのは、やせ我慢をしていたのか、疲労を感じ取るセンサーが一時的に全滅していたのかどちらかだろう。たぶん。


「なので、三村君の入院している病室を教えます。昨日のルーキーズマッチで『新月ちょっとイケてるイケメンランキング』も急上昇中のようだし、落としたい女子は、今のうちに落としてきてくださいね」

「…………」

相変わらずだが、なんて教師だ……。

というか、『新月ちょっとイケてるイケメンランキング』は公開されてるのか?


「ま、冗談はさておき……」

「……」

しかも冗談にされてるし。


「次は、峰君の出番よ。三村君の時以上の難敵だけど、覚悟はできてる?」

と、水を向けられた峰が立ち上がる。


「実力差は歴然です。しかし、これは一生に一度あるかないかのチャンス。目標とする存在がどれほどのものか体験するために、できることを全て出し切りたいと思っています!」

拳を握りしめて力説する峰に、クラスメイトから拍手が上がる。


昨日の三村は文句なしにイケメンだったが、そもそもの動機はエリカの取り合いである訳で……。

色々な意味で好対照な二人であると思った。


◇◆


ホームルーム後、峰が賢崎さんのところに来た。


「賢崎さん、俺に過剰負荷ブーストを教えてくれ!」

「駄目です」

そして、瞬殺された。


「何故なんだ……?」

「あれは本来、賢崎本家の者も使用しない禁術なんですよ」

伊達眼鏡をくいっとやりながら語る、賢崎さん。

「『成長』の特性持ち。おそらく世界で一番あの技に適合している三村さんですら、この有様です。他の人には決して勧められません」

と、賢崎さんは空席になっている三村の席を指差す。


「しかし、今の俺が茜嶋さんと少しでもまともにやりあうためには……」

「無駄です。あの技は基本的に単発なんですよ。峰さんの探索事象が絶望の幻影獣並みの殲滅攻撃ならともかく。……アローウエポンは甘くありませんよ?」

「…………」

賢崎さんに諭されて峰が黙り込む。


「なら、三村のように特訓してもらう訳にはいかないか……?」

「……協力を惜しむつもりはないんですが……」

言いにくそうに額に手をやる賢崎さん。


「私は、遠距離に関しては門外漢なんです。もちろん、それなりに優秀なコーチを探してみるつもりですが……」

「いや、もちろん! それで十分だ!!」

「しかし、相手が悪すぎます。峰さんは三村さん以上に基礎ができている人ですし、短期間で戦闘スタイルをいじると、かえって逆効果かもしれません……」

賢崎さんの表情は明るくない。

難しい勝負なのは分かるけど……。


「け、賢崎さん? できたら、もう少し明るい話題はないかな……?」

「残念ながら……。隠しても逆に良くないと思うので言いますが、勝つ確率はほぼゼロです」

俺の渾身のフォローは、完璧なカウンターで粉砕された。

EOFが完全無欠じゃないのは、俺と賢崎さん自身で証明したが、それでも奇跡はそんなにぽんぽん起こるはずがない。


「別に勝てるなんて思ってないさ」

峰が言う。


「ただ、少しでもまともな勝負がしたいだけだ。コーチの件、頼むよ。蓄えが少しはあるから、ちょっとくらい高く付いても大丈夫だ」

「いえ、コーチ料は構いません。峰さんに払えるような人ではありませんから」

「え?」

「受けてくれるかどうかは分かりませんが、十六夜朱鷺子氏に頼むつもりです」

「「な!!」」

と、聞き耳を立てていたクラスメイトとともに、峰が驚愕の表情を浮かべる。


「ま……魔弾グレイズの十六夜さん……?」

「はい。現役の時は『双璧』とまで言われた人ですから、少しは抗う術を教えてくれるかもしれません。……ただ、受けてくれる可能性が5割ほどなので、あまり期待されても困るんですが……」

「とんでもない!! 深く感謝する!!」

がばっと頭を下げる峰。


「し……しかし本当にいいのか? 俺など、たまたま澄空にくっ付いているだけの2流砲撃手なのに……」

「ちょ……」

ちょっと待て!

俺、全然関係ないだろ、今回の話!!


「いいんですよ。私自身も『たまたま』峰さんの仲間ですから」

「あ……ありがとう!! 君の卵子を断る澄空は、本当に見る眼がない男だ!!」

「ちょっと待て、峰!! おまえ、絶対に三村か委員長に変なこと吹き込まれただろ!!」

なかなかに良い雰囲気のところ悪いが、ここだけは俺が突っ込まない訳にはいかない。


「委員長……!!」

振り返って、マスコミヴァージョン(※眼鏡・三つ編み非装備)の委員長を睨みつける。


「全く……三村君にも困ったものね」

「本当に!?」

「私が、そんなに品のないことを言うとでも?」

物凄く言いそうだが、証拠がない。

というか、俺の勘では十中八九、二人の共同作業なのだが、やっぱり証拠はない。


などと、俺が馬鹿をやっている後ろで。


「あくまで好奇心からで、深い意味はないんだが……。賢崎さん、一つ聞いていいか?」

と、峰が賢崎さんに話しかけている。


「俺の『最強の可能性』は、茜嶋さんに通じるのか……?」

「EOFは遠い未来は見えないんですよ」

「そ、そっか……」

ほっとしたような落胆したような、微妙な表情を見せる峰。


「峰さん……。澄空さんの『学習』や、三村さんの『成長』などの『特性』は、上位の個性、という訳ではありませんよ」

「え?」

唐突な話題に、峰が軽く驚く。


「特化しているというだけの話です。プラスと同じくらいマイナス面もありますし、単純に『性能』として考えても、決して完全な上位という訳ではありません」

「そ……そうなのか……?」

「三村さんのためとはいえ、少し余計な技を見せてしまったのかもしれませんね」

と、峰ではなく、教室全体に聞こえるような声で言う。

決して大きな声ではないのだが。


「気休めでも綺麗ごとでもなく……、可能性は誰にでもあります。信じるのも疑うのも無意味です。あるのは間違いないんですから、探すだけです」

「賢崎さん……?」

峰の一言のほかは静まり返った教室で……。


「と、なんちゃって魔女が言ってみました」

賢崎さんは、眼鏡をくいっと持ち上げた。

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