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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』9

『み……三村君、端に向かって歩いていきます!!』

『ライドから落とせば勝ちですからね!!』


大歓声の中、実況と解説(※要は、志藤さんと雛鳥さん)の声が響き渡る。

その通りだ!!


拘束式猪突猛進バインドドライブは完全に犬神さんの動きを封じている。

あとは、場外に出せば(※というか突き落とせば)、三村の勝ちだ!!


……勝ちなんだけど。

目に見えて、三村の体調が悪い。


「け……賢崎さん?」

「藍華ですよ、ユウト。……大丈夫、あの感じなら、ギリギリもちます。救護班の手配はしてますし」

色々完璧な賢崎さん。

だが、その表情は、あまり明るくはない。


「ただ……」

「?」


「ひょっとしたら、少し甘かったかもしれません」



☆☆☆☆☆☆☆



『いいですか、三村さん』

激しい頭痛に苛まれる三村の脳内に、賢崎藍華の言葉が流れる。


『私が自律機動ブーストとしてアレンジして使っている過剰負荷ブーストは、ほぼ無制限に使用できるという意味では完成形です。しかし、本来の意味からすれば、劣化複写ですらない粗悪品です』

くいっと眼鏡を持ち上げる仕草までが、鮮明に思い出せる。


『本当の過剰負荷ブーストを使った反動は、使った本人にしか分かりません』

(つか、使った本人にも良く分からないんすけど……!?)


脳内映像の藍華に叫ぶ三村。


症状は頭痛に似ている。

……だが違う。

脳の血管が暴走しているかのような激痛とともに、強制的に意識を奪われそうな強烈な眠気。

全身が締め付けられるような違和感と、内臓が2・3個機能停止したかのような異常な吐き気。


一度も経験したことのない痛みなので、どうやって和らげればいいのかも分からない。

ただ……。


『レオとの闘いで澄空さんが経験したものと同じ痛みです』

「…………っ」


ならば、耐えない訳にはいかない。

歯を食いしばりながら、一歩ずつライドの端に歩いていく。


と。


「……こんなに情熱的に抱きしめられたんは初めてやなぁ」

「え?」

左脇を左腕で持ち上げられ、胴回りを右腕で抱えられ持ち上げられた不安定な姿勢のまま、犬神彰が呑気な声を出した。


「あの魔女さんのすることはウチにはよう分からんけど。ソレの代償は、たぶん安かないで」

「……知って……ます」

「そんなにエリカはんが好きなんか?」

「もち……ろんです!!」

言って、犬神の背中に顔をうずめる三村。


……視界がぼやけて来たのだ。

どうせ見えにくいなら、この方が力が込めやすい。……ような気が、三村はした。


「確かに、エリカはんは国家機密級に可愛いけど……」

「けど」

「ん?」

「……あいつに歯牙にもかけてもらえないのは……寂しいですからね……」

「!」

犬神彰の表情に、今日一番の驚きが走る。

それから、一転。

優しい表情になる。


「それは……ひょっとしたら、エリカはんGETするより難しいかもしれへんで……」

「……出来の良すぎる弟を持った……、兄貴の気分です」

犬神の背に押し付け、誰にも見えない位置で。

三村も微笑んだ。


良く見えようと見えまいと、ライドの面積には限りがある。

犬神彰を抱えた三村宗一は、ライドの端に到達した。


「犬神さんの経歴に……傷を……付けてしまうかもしれません

「キズモノいうんも、萌えるなぁ」

不敵に笑う犬神彰の足もとには、もう床はない。


いくら最速のBMP能力者とはいえ、さすがに空は飛べない。


「俺なんかが泥を塗ってしまって……ほんとに……すみません」

と。

三村が犬神の身体を離す。


力場で包まれた犬神は電速パルスを使えず。

スローモーションのように下に……。


「いいや。むしろ誇りに思うで」

「っ!!」

冬場のドアノブの静電気を何倍にもしたような音とともに。

拘束式猪突猛進バインドドライブの力場が引き千切られる。


「な……!?」

「けど、それくらいじゃ、まだウチは墜とせんなぁ!!」

犬神の腕とライドの床が、電撃で結ばれ。


伸びきったゴムが戻るような勢いで、三村の身体は、犬神を乗せたままライドの床に叩き付けられる。



☆☆☆☆☆☆☆



『……な!』

『あ……!?』


「なんだよ、今のは!!」

声にならない実況&解説に代わって、俺が叫ぶ。


三村の拘束式猪突猛進バインドドライブとやらは、敵の出力を押し留める。

賢崎さんはそう説明してたし、俺もそうだと思う。

なのに……。


攻撃的力場破壊バスターキャンセル

「え?」

いきなり耳元で囁く賢崎さんに驚く。


「BMP能力の力場を、力づくで破る技術です」

「あ……」

覚えている。

タケゾウお兄さんがテレビでやっていた、三大キャンセル技の一つ。


「ただ……出力そのものを封じられた状態から破るなんて、技術だけとも言えませんね」

「え?」

「少々未来を予測できたところで……。魔女の浅知恵ではこれが限度ですか……」

「…………」

駄目だ。

……強ぇ。


「今さら言うのは恥ずかしいですが……。やはり、もう少し無茶をしてでも、イノセントドライブを身に付けさせておくべきでした」



☆☆☆☆☆☆☆



360度ループなどの山場は越えたジェットコースターだが、まだまだ元気に走行中である。

安全バーなしでは、生身の人間など一秒もライドの上に居続けられない。


「降参か? 三村君」

力なく仰向けに横たわる三村の身体を飛ばないように押さえつけているのは、犬神彰。


「……降参です……」

虚勢すら張らずに答える三村。

完全に万策尽きた。


確かに、賢崎藍華の予知は完全ではない。

しかし、三村にとって最も勝つ可能性の高い展開になり……。

事実、9割9分勝っていた状態を、力づくで覆された。


彼女も、三村が追う魔人と同じ、確率を覆す実力者。

しかも、正直に言って、まだ闘いたそうな表情をしている。


「すみません。もう、BMP能力どころか、指一本動かせないんです……」

「そか……」

「ライドから……落としてください」

自分から求める三村。

情けないが、もう、自分で端まで歩いていく力も残っていないのだ。


が。


「いんや。落とさん」

「へ?」

霞む目で間抜け面を晒す三村に。

見る人によっては頬を染めているようにも見えなくもないような表情で。

犬神彰が言う。


「発着場はもうすぐや。……一周はエスコートしてくれるんやろ」



◇◆◇◆◇◆◇



三村宗一vs犬神彰のルーキーズマッチが行われた翌日。

俺は、少し沈んだ気分で登校していた。


結果だけ見れば、あまりにも順当な結果とはいえ、あと一歩のところだったのに……。

というか、ほとんど勝っていたのに……。


「三村、あんなに頑張ったのに……」


どうして……。


「少しは落ち込まないんだ?」

「ん?」

相変わらずのイケメンを台無しにする緩そうな表情で、三村が俺に顔を向ける。


「もう少しでクリスタルランスから大金星をあげられたのに、なんでそんな平然と翌朝から登校しているんだ?」

改めて、俺は聞く。

休まず登校するのはいいことだが、今日くらいはさすがに落ち込んでもいいと思うのだが……。


「いやいや。実は、昨夜、犬神さんから、こんなメールが来てな……」

と、三村が携帯を見せてくる。


そこには、激闘への労いと、予想を超えた成長への賛辞とともに。

エリカを巡る戦闘前の賭けについては、とりあえず三村の勝ちとする旨が書かれていた。


「別に、これでエリカと付き合えるわけじゃないけど、とりあえずの脅威は去って一安心ってところだ」

「……そういや、賭けの内容は『ウチに指一本でも触れられたら、エリカはんを諦めたる。それもできんくらいなら、身を引きや』だったな……」

俺は記憶をたどって言う。

そういう意味では、確かに勝利条件は満たしていたことになるが……。


いや、しかし……。


「あんな格好いい大技まで編み出しておいて、それでいいのか……? それだったら、最初の迎撃攻撃で終わってたじゃないか?」

「いいんだよ。大金星はおまえに任せるよ」

「……女性がらみだとあんなにうるさいくせに、分からん男だ……」

さっぱりし過ぎの三村に、峰が指で自分の額を押さえる。

俺もさっぱり分からん。

こいつは、テレビでいいところを見せて、若い女性ファンの人気を集めたいんじゃなかったのかい?

まぁ、いいけどな……。


「しかし、このメールによると……」

と、三村の携帯を見ていた峰が口を開く。


「三村は、犬神さんと付き合うのか?」

「アホか。そりゃ、社交辞令……というか、犬神さんの冗談だ」

男前な癖に漫画の主人公並みに女心の分からない峰に、三村が呆れたように返事をする。


「峰って、ほんとに硬派だよなぁ……」

言いながら思う。


確かに、これくらいの結末で良かったのかも、と。



☆☆☆☆☆☆☆



男三人が昨日の激闘を語りながら(※と普通は考えるが、実際ほとんど戦闘の話はしていない)歩いている後ろ。

ソードウエポンこと剣麗華は、ナックルウエポンこと賢崎藍華と並んで、男達から少し離れて歩いてた。


昨日の闘いは、エリカを巡る賭けを抜きにしても、三村にとって大事な闘いだったのは間違いない。

なので、女性である麗華は、少なくとも今朝は男達の会話に混ざらないようにしようと思ったのである。

空気を読むのが苦手なことを自覚しているからこそ空気を読めるグッジョブである(※と本人は思っているが、実際そこまで深刻な空気ではなかった)。


それはともかく。


「ナックルウエポン、携帯を見ながら歩くのは危ない……いや、ナックルウエポンなら危なくないかもしれないけど、お行儀悪いよ」

「あら、確かに。失礼しました」

と、何故か麗華に、さきほどまで自分が見ていた携帯を渡す藍華。


「ナックルウエポン、これは……?」

「ええ。犬神さんが三村さんに送ったメールです」

「ナックルウエポン。法に触れる行為はほどほどにしないと、訴えられるよ?」

「……失礼なヒトですね……」

極めて心外だ、というような顔をする眼鏡の藍華。


「それは正真正銘、三村さんが送って来た転送メールです。決して、不正な手段で入手したのではありません」

「どうして、三村がこんなものを送ってくるの?」

「頼んだわけではないですよ。三村さんから、『今日、善戦できたのは全部藍華様のおかけです! 犬神さんから、戦闘についてのメールが来たので報告します!!』って送って来たんです」

「…………」

「一時的なものだとは思いますが、あの特訓で調教ができてしまうとは思いませんでした。ソードウエポンにも、やり方教えましょうか?」

「要らない」

明確に否定し、剣麗華はメールの文面に目を通す。

あまり行儀がいい行為だとは思わないが、やはり少しは気になるのである。


文面に書かれていたのは、激闘への労いと、予想を超えた成長への賛辞と、エリカを巡る賭けについて三村の勝ちとする旨と……。


それから。


「ナックルウエポン、これって。……私が思うには、なんだけど」

「私が思うには、でもですよ……」

自信なさげな麗華に、ため息で返す藍華。


「澄空さんだけかと思っていましたが、男の子っていうのは、全体的に結構鈍いんですね」



◇◆

『ルーキーズマッチ三村宗一vs犬神彰』結果報告

・勝者:犬神彰

・試合時間:5分30秒

・フィニッシュ:場外(発着場にて降車)

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