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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
186/336

ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』5

ジェットコースターがゆっくりと登り始める。


これからのスリルを予感させる静寂の時間帯であり、最大の位置エネルギーを溜めるための準備期間。

慣性もGも働かない、三村宗一が唯一同等の条件で闘える時間帯なのだが……。


『三村君、動きませんね、雛鳥さん?』

『はい……。加速が始まったら、ますます不利になると思うんですけど……』

アナウンスを努めるBMP管理局員達も心配している。


「怖気づいとる……。という訳でもないんやろ、三村君?」

「いやぁ。案外、そうかもしれないっすよー」

軽口で返す三村。


<いいですか、三村さん>


脳裏に響くのは、予め賢崎藍華から教わっていた作戦。


<最初の上り坂では絶対に仕掛けないでください。実力差は歴然なんですから、対等な条件で闘えたところで、全く有利にはなりません>


一言一句違えず脳内再生できるくらい、脳みそに刻み込んでいる。


「ウチから仕掛けるのは、がっついとると思われるし……。スピードが出る前に勝負が付くのは寒すぎるなぁ……」

開幕と同時に三村が仕掛けてくると思っていた犬神彰は、困ったように腕組みをして唸っている。


<犬神さんは他のメンバーと違って、ある意味一番普通の女性です。おそらく空気を読みます>


(こんだけ人集めたイベントで秒殺なんてイベンター涙目だからな……)


<とはいえ、実力差が歴然な以上、引き伸ばすのも不自然だし見苦しいものです>


(俺が力場展開できるかどうか分からない状態なら、なおさら)


<ファーストアタックは、落下が始まってスピードに乗った瞬間。遊びなしで来ます>


(このジェットコースターの加速の癖とタイミングは完全に把握している)


<うまくいけば、これで決まります>



☆☆☆☆☆☆☆



「三村、ひょっとしてカウンターを狙ってるのか……?」

と、俺が何気なく呟いた一言に、賢崎さんが目を丸くした。


「どうして、そう思うんです?」

「いや、それ以外に上り坂の途中で仕掛けない理由が分からないし……」

という俺の答えに、賢崎さんがますます疑問符を浮かべる。


「怖気づいている、とは考えないんですか?」

「それはないよ」

俺は断言した。


「男同士、というやつですか……。少し妬けますね」

「三村の場合、怖気づいたら、まず突進する。というか、その前にジェットコースターに乗ってない」

「すみません。前言撤回です。全然妬けません」

賢崎さんが何故か落胆している!?


「まぁ、とにかく正解です。本来なら、簡単に見抜かれてしまう作戦なんですけど」

「?」

「犬神さんは今、三村さんのことを見ていません。お客さんの反応とか、イベントの成功とか、そういうことをメインに考えています」

「意外に常識人なのか……」

「非常識ですよ」

「え?」

断定的な賢崎さんの言葉に、少し驚く。


「いくら格下相手でも、いくらエキシビジョンでも、これはれっきとした闘いです。対戦相手のことを第一に考えないなんて、ありえません」

「それは確かに……」

「元々のムラッ気と……。ライバルが居ない期間が長すぎましたね。今回のルーキーズマッチで、私の次に難易度の低い対戦かもしれません」

「そりゃ、賢崎さんは超楽勝だろうけど……」

「体当たりするだけの簡単なお仕事です。確率は20パーセント程度ですが」

と、賢崎さんは自分の眼鏡をいじる。


「三村さんに運があるなら……これで決まりますよ」



☆☆☆☆☆☆☆



ライドが頂点に達し、位置エネルギーが最大になる。

先頭側に立つ犬神彰と後尾側に立つ三村宗一の高さが等しくなる。

一瞬の静止の後。


落ちる。


「…………電速パルス!」

瞬間的に達した最高速に逆らうように、犬神彰の身体がライドを駆け上がってくる。

電光を纏って高速で接近する物体は『紫電の脅威』の異名の通り、恐怖以外の何物でもない。

だが。


超加速システムアクセル……」

三村は、ライドの速度を借りるように……。

犬神彰に向かって『落ちる』!


「なっ……」

迎撃式猪突猛進カウンタードライブ!」

最高速に達しないと使えない猪突猛進オーバードライブの改良型。

相手の速度を利用して放つ迎撃攻撃。


「っ……!」

「ぎっ!」

青い光に包まれた三村の右拳と、打ち込まれた犬神の腹部の間で、激しい火花が散る。

カウンターを取ったのに力負けした三村が、ライドの表面に叩き付けられる。

が。


「……!!」

犬神彰の身体は宙に浮いた。


もともと三村はダメージを与えようなどとは考えていない。

狙いは最初からリングアウト。


『あ……』

『まさか……』

実況を努める志藤と雛鳥も完全に不意を突かれる。

もちろん、観客も。


急降下するライドから犬神は投げ出され。

空中で一瞬静止したように見え。

落下が始まる直前。


犬神の脚とライドの間が、電撃で結ばれる。


「!?」


次の瞬間。

磁力によって引き寄せられるかのように、犬神彰の身体がライドの上に戻ってくる。


「な……!」

「あっぶなー……」



☆☆☆☆☆☆☆



『な……なんでしょうか今のは! なんでしょうか今のは!! 三村君も凄かったけど、その後の犬神さんの何あれ結城ちゃん!!』

『力場の展開です!! 下方向に力場を展開して……三村君も同じ方法でライドから落ちずにこらえてるんですけど。犬神さんのは、全然レベルが違います!!』


実況と解説のお二人が興奮している。

無理もない。

犬神さんの身体は、完全にライドの外に出ていたのに……。


「三村さんには少し驚きましたが……」

「やっぱ、彰ねえさん凄ぇ……」

ハカセとガッツが口をぽかんと開けて見入っている。


「リングアウトは無理か……」

「そんなことないですよ」

と、俺の感想に賢崎さんが反論してくる。


「あと50センチ遠くに飛ばしていれば、力場の展開が間に合わなかったはずです」

「そ……そうなの?」

「最高のタイミングだったのに……。20パーセントの確率を掴めないとは、報われない人です……」

賢崎さんが若干お怒りである。


しかし、20パーセントということは、5回に4回は失敗するということで。


「まぁ、いいでしょう。せっかく色々仕込んだんですから、披露させてくれる機会が増えただけのことです」

くふふ、と笑いながら言う魔女さんは、味方になると頼もしいことこの上ない。


……若干、死亡フラグのような気もするが。

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