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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』4

『さぁ、いよいよ今年もやってまいりました! 次代を担うルーキーの祭典、ルーキーズマッチ!! 今年は、最強チーム、クリスタルランスの参加で例年以上に盛り上がっております! 実況は、私、BMP管理局オペレータの志藤美琴が!』

『解説は、私、BMP管理局所属、複合電算シミュレータの雛鳥結城がお伝えします』


開戦5分前。

対決の舞台であるジェットコースターの前に集まった群衆に、どこからともかく(※もちろんスピーカーからだが)アナウンスが語りかける。

そして。


……なんでやねん、と思った。

いくら業務分担不明の志藤さんとはいえ、対戦中の実況くらいプロに外部委託すべきではないのか?


『このお祭り騒ぎの中で、管理局がアナウンサーを外注しなかったことに突っ込む暇人はいないと思いますが、一応説明しておきますと予算が足りなくなったためです』


唐突にそんなことを言う、雛鳥さん。

しかし……。


「今年はたくさん予算が付いたって聞いてたけどな……」


『予算費目というものがあるのですよ。どこかの美琴ちゃんが盛大に積算を誤りまして』

『結城ちゃん、なんでそれ言っちゃうの!!』


アナウンスで喧嘩を始めるオペレータ達。

しかし……。


「流用とかいうのができるって、城守さんか麗華さんから聞いたような気がするけどな……」


『判明したのが直前でして。もちろんそんなものどうとでもなるのですが、城守局長が冗談で、志藤君にアナウンサーをやってもらうしかないですかね、というのを本気にしてしまって自分で手続きを。全く、どうでも良くなってから、どうでもいい方向に有能な同僚で困ります』

『結城ちゃん、やっぱり怒ってるのね!! あんなに謝ったのに!! いつもいつも晩御飯一回くらいの奢りでテキパキフォローしてくれるのに、今回だけどうしてそんなに怒るの!?』


ルーキーズマッチの開戦を告げるアナウンスで、いきなり内向きの口喧嘩を始められて、会場が困惑し始める。

俺が悪いわけでは全くないが、知り合いとして少し恥ずかしくなる。

城守さんは、その100倍くらい胃を痛めていることだろう。


……それはともかく。


「雛鳥さんが怒っているのは、志藤さんがアナウンサーに連れ出したからじゃないかな……?」


『その通りです。何を怒られているのか分からないのは、この子の数ある最大の欠点の中の一つです』


「最大の欠点が数あるんですか……」


『数あるんですよ』


と。


「お、おい。澄空……」

驚いたような顔で、峰が俺の肩を掴んでくる。


「どうした、峰?」

「どうしたというか……。君、今、アナウンスと会話してなかったか?」

「へ?」

……え?


……。

…………。

……………………。


「こんにちはー……」


『こんにちはー』


「っ!!」

思わず峰と抱き合ってしまう。

……なんだ、これは!?


「面白いことをしますね」

ざわめく俺の周囲の中、賢崎さんだけが愉快そうに微笑む。


いや、これ。

どうやってるのか分からないけど、あんまり面白くはないぞ……。


『結城ちゃん……?』

『申し訳ありません、少し混線したみたいですね。お詫び申し上げます。……ほら、志藤さん、対戦者の準備を』


『あ、そ、そうでした。三村宗一さん、犬神彰さん。ルーキーズマッチ、まもなく開戦いたしますので、乗車してください』



☆☆☆☆☆☆☆



新月テーマパーク・アミューズメントエリア・ジェットコースター乗り場。


普段は1時間以上待たなければまず乗れない人気アトラクションだが、今の乗客は二人しかいない。

もちろん、ルーキーズマッチ対戦者の犬神彰と三村宗一だ。


その片方、ルーキーである三村宗一は、乗り場に用意されているライドを見て、改めて顔を青くしていた。


「あはは。相変わらずおもろいなー、あの二人は」


ライドには目もくれずにころころと笑う対戦者、犬神彰の神経が信じられない。


「ほんとに……。良くこんなもの作るよ……」

思わず愚痴が出る。


そのライドには、一切の座席がなかった。

大きさは本物と変わらない(※というより、稼働中のライドから座席を取り去っただけである)。

走る機能はそのままに、人に係る部分だけを取り去ったそれは、巨大な棺桶のように見えた。

……というか、実際に巨大な棺桶だった。


「三村君、そんなに青い顔せんでも、安全ネットが完璧に張り巡らされとるから、大丈夫やで」

とても棺桶に乗る人間には見えない顔の犬神彰。

「ダメージ無効化結界もちゃんと張られとる。首都の横断歩道渡るよりよっぽど安全やで」

「…………」

「命だけならやけどな」

と、パリッという音とともに、犬神の指先で火花が弾ける。

ダメージ無効化結界は、『痛み』までは無効化しない。

管理局籠城戦で見た、犬神彰の破壊的な高速機動攻撃が三村の脳裏に蘇る。


そう。


下っ端ハンターには一生縁のないルーキーズマッチの緊張感よりも。

走る棺桶に乗り込む恐怖よりも。

今目の前に居る一人の女性の方が、遥かに強烈な感情を呼び起こす。


「レディファーストって訳かいな。……ほな」

と、ひらりと犬神はライドに飛び乗る。

「……えとな。ひょっとして、初歩的な力場制御も習得できとらんのやったら、ほんまに止めた方がええで。ウチも敗者に鞭打つようなことはせんし」

さらに、心配までしてくる。


対して三村は。


「御心配なく。せめて一周はエスコートしますから」

不敵に微笑んで、ライドに乗り込む。



☆☆☆☆☆☆☆☆



「けん……藍華。三村、大丈夫なんだよな……」

発着場を覗きながら、賢崎さんにそう聞かずにはいられなかった。


「澄空悠斗じゃないんですから、絶対大丈夫はないですよ。もともと勝率の低い闘いですから」

「いや、そういう意味じゃなく……」

澄空悠斗なら絶対大丈夫と言われても困るが、とりあえずそれは置いておいて。


「ちゃんとした闘いに……というか、本当にあんなのに乗れるのか?」

座席のないライドにぽつんと立っている三村を見ると、とても不安になる。

三村が残念とかそういう次元の問題ではなく、冷静に考えて(※冷静に考えなくてもだが)、これはやはりちょっとあり得ない気がする。


「この私が指導したんですよ。大丈夫です」

伊達眼鏡をくいっと持ち上げながら、賢崎さんが言う。

「そうか……」

「ええ。勝てる見込みがなかったら、そもそも引き受けてませんし」

「……」

非常にリアリスティックな発言だが、それも無理はない。

賢崎さんは未来が見える。


「誰もが澄空悠斗のようにはできませんからね。奇跡がそんなにたくさん起きても困りますし」

俺の方を見て口元に微かに笑みを浮かべながら、賢崎さんが言う。

「奇跡が必要な状況になってしまうことが問題だと、私は考える」

「あら、同意です、ソードウエポン。気が合いますね」

そして、麗華さんと賢崎さんが視線で火花を散らす。怖い。


「あの。ちょっといいですか、賢崎さん?」

「はい。なんですか、明日香さん?」

話に割り込んできた姉御に、賢崎さんが応える。


「あの……さっきからの話しぶりを聞いていると、澄空悠斗さんは奇跡すら自由に起こせるように聞こえるんですけど……」

「残念ながら、その通りです。あれは、もはや人外と言っていいですね」

賢崎さんのぶっ飛んだ回答に、姉御達が悲鳴にも似た感嘆の声を上げる。


「き……奇跡を自由に起こすなんて、どんな能力ですか……!?」

「能力というより、キャラクターですね、あれは」

ハカセの疑問に、眼鏡をいじる賢崎さん。


「私のアイズオブフォアサイトを……、絶対の運命を破った唯一無二の存在です。我々の常識で測るだけ無駄なんですよ」

「す、すごいです……」

エールがポーっと頬を赤らめる。

これはアカン。

どんどん俺が澄空悠斗だと名乗れなくなっている……!!

……というか、それが目的なんだろうなぁ、やっぱり。


「しかし……」

嬉しそうな顔してるなぁ、賢崎さん。


「あら、どうしましたか、ユウト?」

「俺、けんざ……藍華のこと、良く分からなくなって来たよ……」

「それは、仕方がないですね。私も今の私のことが良く分かってないんですから」

「どういうこと?」

「こんな風に考えたり感じたりするのが初めての経験で、正直、楽しいんです」

「?」

賢崎さんの難解なセリフに、俺は疑問符を浮かべる。


「三村さんの戦闘を見ていれば、分かりますよ」

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