ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』
新月テーマパーク。
総合テーマは何か知らないが、いくつかの区画に分かれたテーマパークである。
その中のアミューズメントパーク(※の半分)を借り切って、ルーキーズマッチ『三村宗一vs犬神彰』は行われる。
3時間待ちとかざらにある人気アトラクション達もこの日ばかりは見向きもされず、全ての人はルーキーズマッチが行われる『ジェットコースター』に集まってきていた。
……というか。
「人、多いな……」
「ルーキーズマッチ初戦だし、ここはアクセスもいいし、クリスタルランスも出るし、公式ホームページで『魔人の下側』って紹介されてたのも大きかったと思う」
俺の独り言に応えてくれる麗華さん。
あと、確認したわけではないが、そのホームページを作ったのは間違いなく志藤さんだろう。
つくづく、ロクな異名を付けてもらえない男だ……。
「剣、もう少し顔を隠せ。注目され過ぎているぞ」
「麗華さん、美人ですカラ、どうしてモ目立ちマスよね……」
未だメディア露出をしていない麗華さんを心配して、峰とエリカが声を掛けてくる。
『君達自身も結構目立ってるけどな』と心の中で僻むのは、本名を明かしてすら信じてくれない俺、澄空悠斗である。
『高BMP能力者は美形が多い』という何の根拠もない噂を全力で肯定している(※俺除く)メンツ。
小野は用事があるとかで来れないらしいが、ここに三村と賢崎さんが加わったらどうなるんだろうか?
「ところで、三村はまだなのか?」
峰が言う。
「二週間モ学校を休んデ特訓なんテ、少し心配デスよね」
「賢崎さんも一緒だし、心配はないと思うが……」
という峰の一言が一番の不安材料なのを、俺は言うべきだろうか?
「峰、違う。ナックルウエポンが一緒だから、心配なの」
麗華さんが言った!!
やっぱり、まだまだこの人、空気読むの苦手や……。
と。
「失礼ですね、ソードウエポン」
周りの人のざわめきとともに、聞き慣れた声が聞こえてきた。
麗華さんと違って顔を隠す必要はない。
賢崎財閥次期頭首にして、すでに凄腕経営者。
「賢崎さ……」
振り返りながら絶句する。
賢崎さんの背後に控えるのは、お人形さんのように美しい少女を筆頭にした四人の小学生。
そうだった、賢崎さんが姉御達を連れて来てくれることになってたんだ。
……ということは。
「あ、藍華……。おはよう」
「おはようございます、ユウト。……って、何だか照れますね(はあと)」
誓って言うが、『(はあと)』を付けるほど微笑ましい経緯ではない。
「お、おい。なんだ、あいつ。賢崎財閥の次期頭首を呼び捨てにしてるぞ……」
「あの美形軍団の中で一人普通だし……」
「な、何者だ。新月学園には、澄空悠斗の他にもまだ隠れたBMP能力者がいるのか……!?」
とかなんとか周りの人に言われているし。
「あの、賢崎さん?」
「なんですか、明日香さん?」
「ほんとにこんなユウトに呼び捨てにされていいんですか? 賢崎さんの格を落とすような気がするし。万が一……というか兆が一くらいですけど、怪しい関係とか思われたりしたら……」
キラキラ目とジトジト目で交互に賢崎さんと俺を見ながら、姉御が余計(※でもないけど)なことを言う。
「別に構いませんよ」
「それは……。確かに、賢崎さんは他人の評判なんて気にしないでしょうけど」
「いえ、恋仲になっても構わないということです」
「「!!」」
小学生グループに緊張が走る。
「ど、どうしてですか!?」
「人間的に非常に魅力的な男性ですので。澄空悠斗さんの次くらいに好みでしょうか」
「「!?」」
小学生グループが驚愕する。
「ユウト、一体何者なの?」
と姉御。
「大人の人の好みは分からねぇ」
とガッツ。
「ええ。僕にはさっぱり分かりません」
とハカセ。
「私、『人間的魅力』なんて、『お金目当てで結婚』の代替語だと思ってました。大人って凄いです!」
とエール。
賢崎さんの冗談はともかくとして、エールの達観ぶりが若干気になるところだ。
いや、それはともかく。
「け……藍華。悪いな、明日香達を連れて来てもらって……」
「いえいえ」
「それで、三村は?」
と、気になっていたことを聞いてみる。
観客ならともかく、参加者はそろそろ来てないとまずい。
「まだ、来てませんか?」
「ああ。さっきから掛けてるんだが、携帯にも出ない」
「あ、携帯なら、特訓の途中で壊れましたので」
携帯電話を手にした峰の問いに、地味に不吉なセリフで返す、藍……賢崎さん。
「朝は一緒に出ましたから。明日香さん達を迎えに行った私よりは早く着くはずなんですが……」
「迷ってるのかな?」
「だとしても、携帯がないんじゃ連絡の取りようがないな……」
「ま、迷ってるクライならいいんデスけど……」
エリカの顔が見る間に青くなっていく。
今さらだが、BMP能力者も交通事故には遭う。
幻影獣と交戦中、くらいならまだましなんだが……。
「麗華さん。城守さんへ連絡頼む。俺は、ちょっと探しに……」
「いや、大丈夫だ、澄空」
「!?」
いきなりの声に、俺は固まる。
意表を突かれたのはもちろんだが……。
「み、三村……」
「悪いな。ちょっと途中で立ったまま気を失ってた」
「……」
どんな特訓したんや。
……いや、それより。
「三村……?」
から、『弱ナンパ男臭』が消えている。
平常時なのにシリアスモードができるくらいに。
たぶん、一時的なものだとは思うんだけど……。
「い、一体、どんな地獄の特訓をしたんだ」
「いや、正直、記憶が少し飛んでる」
……おいおい。
「ただ、やり遂げたのは確かだ。藍華様も『これならいけるかもしれません』って言ってたしな」
「へ?」
「悪い、澄空。時間がないから集合場所に行くわ。藍華様も、また後で」
と、三村は爽やかな笑顔を残して、颯爽と走り去っていった。
……だがしかし。
「『藍華様』?」
「ユウト。私達にはまだそんなプレイは早過ぎます」
「じゃあ、三村にもしないでくださいな!」
そのうち誰かがツッコムんだろうが、やはりこういう時は俺が一番初めにツッコム率が高い。
「大丈夫ですよ」
「いや、全然大丈夫な感じがしなかったぞ、今!」
滅茶苦茶ナチュラルに呼んでたし。
「特訓効率を上げるために、少し精神的に調教しただけです。1か月くらいで元に戻りますよ」
「どんな調教したら、あそこまでナチュラルに『様』付ができるんだよ……」
「軍隊式風でやったはずなんですが……。ひょっとして、三村さん、少しMなのかもしれませんね」
「…………」
俺は思った。
やっぱり、この人、怖い。