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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
181/336

魔女の本来業務

切った。

番組。

麗華さんが。


「やっぱり、テレビ見ながらの食事はお行儀が悪いかな……」

とかなんとか言いながら。


いや、それはいいんだけど……。


「じぇ……ジェットコースターバトルって、これ、マジなのか……?」

「1時間ほど前にBMP管理局から正式発表があったから、本当だと思う」

「? 知ってたのなら、何故、さっきの番組を?」

「? タケゾウお兄さんのファンだからだけど」

「…………」

さいですか。

ファン多いな、あの人。


いや、それもどうでもいい。


「三村、大丈夫かな?」

「力場制御はそんなに簡単じゃない。普通に考えたら、今の三村には無理」

「じゃあ、なんで、あんなトリッキーな対戦方法を……?」

「ナックルウエポンが味方に付いたのを確認したからだと思うけど……。ちょっと、今の管理局……というより、業界全体が焦り過ぎている気もする」

「焦る?」

「悠斗君の活躍が刺激的過ぎるから。世間の関心が集まり過ぎてるの。悪いことではないのかもしれないけど、とりあえず城守さん達が大変そうなのは確か」

「は、はぁ」

良く分からんが、とりあえず、今度会ったら謝っておこう。


待てよ、そういや……。


「麗華さん」

「ん?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」

みそ味ラーメンを食べながら聞いて来る麗華さん。


「明日香達の前での賢崎さんの呼び名なんだけど。なんで、『藍華さん』じゃっ……。……だ、駄目なんでしょうか……?」

途中で突発的に発生した麗華さんの怒気に当てられながらも、何とか最後まで言い切る健気な俺。


「…………」

「い、いや! 文句とかじゃなくて! 『藍華』の方が、もっと馴れ馴れしいのかなとか思ったわけで……」

麗華さんが本気で怒ったら、俺はきっと漏らすと思う。

なので、機嫌が悪いだけでも結構怖い。

でも、実際『藍華』の方が、『藍華さん』より問題あるよな……?


「……」

「……」

「…………」

「……あの?」

「悠斗君の言葉遣いに文句を付けようなんて気持ちはないの」

「へ?」

唐突な麗華さんに、俺は疑問符を浮かべる。


「悠斗君。私達がお互いを呼び合う時の呼び方。変だと思ったことはなかった?」

「呼び方?」

俺が『麗華さん』で、麗華さんが『悠斗君』だろ?

最初からそうだったし、特に変なところは……。

…………最初から?


「うん。こういうと失礼なのかもしれないけど、悠斗君はどちらかというと異性にあまり積極的ではないタイプのはず。初対面で同年代の女性を名前で呼ぶことはあまりなかったんじゃないかな?」

「た、確かに……」

「私も同じ。ねえ悠斗君。私が三村のことを『宗一君』って呼んだら、どんな感じ?」

「む……」

あ、あれ?

イラっとしたぞ?

「なら、『宗一』なら?」

「……それほどでもない」

なんだ、これ?


「私にも良く分からないけど、そういうことなの」

「な、なるほど……」

俺にも理屈はさっぱり分からないけど、結論は分かった。


「しかし……」

と、記憶を探ってみる。


「麗華さんは確かに他の人にこの呼び方はしてないけど、俺は何人かしてたような……」

「さっきも言ったように、悠斗君の言葉遣いに文句を付けようなんて気持ちはないの。多少の浮気は大目に見る」

「さ、サンクスです……」

寛大な麗華さんに感謝する。

「でも、ナックルウエポンは駄目」

「りょ、了解です」

我儘な麗華さんに屈服する。


「じゃあ、今度は私も聞いてもいい?」

みそラーメンを食べ終わった麗華さんが、顎の下で手を組んで聞いて来る。


「なに?」

「あの小学生の子達との関係性を知りたい」

「ぶっ!」

予想されていた質問だったのに、ここまで質問されなかったから質問されないと思っていた俺が噴いた。


「違うんだ麗華さん」

「悠斗君。その否定の仕方は、何かを肯定している可能性の高い否定の仕方」

「いや、ほんとに違う」

「何が違うの?」

「俺は……」

と、勢いで言いそうになって考える。

『ロリコン』じゃないと自分から言って、そこを争点化する必要があるだろうか。

こう言っちゃなんだが、麗華さんは浮世離れしたところがあるし、俺と全然違うところが気になっているのかもしれない。

ここは、一つ探りを入れながら……。


「別に悠斗君が幼女性愛者でも、軽蔑したりはしない」

「分かってるじゃねーか!」

……っと、思わず突っ込んでしまった。


「ただ、彼女達と知り合いになった経緯には興味がある」

「いや、その前に俺がロリコンでないことを認めてくれないと、話を先に進めるわけにはいかない」

「悠斗君に恋人がいない以上、それを証明するのは困難だと思う」

「いやいや。見たら、分かるだろ?」

「? どうして?」

「ぐ……」

『告白するぞ、この世間知らずお嬢様が!』と言いそうになったのを慌てて止める。

しかし、確かに論理的に説明するのは難しい。

……もう、ロリコンかもしれない可能性がある、ということでいいか。


と、良く分からん覚悟を決めようとしていると。

「え?」

くすくすと麗華さんが笑っている?


「れ、麗華さん……?」

「ごめん。少し意地悪したの」

「い……」

意地悪ですと!?


「さすがの私でも、それくらいは分かるよ」

と、麗華さんが口の端を少しだけ歪め。

「でも、これは楽しい。ナックルウエポンの気持ちが少しだけ分かる」

とんでもなく不吉なことを言った。



☆☆☆☆☆☆☆



澄空悠斗と剣麗華の住むマンションからそんなに離れていない場所。

同じくらい豪華なマンションの最上階に、『彼女』の部屋はあった。

というか、このマンション自体が『彼女』の持ち物である。

というか、賢崎藍華である。


「どうしました、三村さん?」

「い、いや。こんな遅くに女の子の部屋に入るの初めてなもんで、ちょっと緊張して……」

「その緊張は次回に取っておいた方がいいですね。今から、あまり微笑ましくない話をしますから」

身も蓋もなく言い放った賢崎藍華は、三村を自室の大型液晶テレビの前に座らせる。

そして、録画しておいた動画を再生。

三村を残して、コーヒーを淹れ。

一息つく。

そして、三村が動画を見終えたのを見て、一言。


「どうでした?」

「全く動きが見えないっす……」

完全にヘコタレた三村が泣き言を漏らす。


「それが、犬神さんの切り札、電光石火スパークシュートです」

賢崎藍華が言う。

三村に見せたのは、賢崎一族が密かに収集しているBMP能力者に関する情報の一部である。


「こんな技があったなんて……」

「別に本人は隠している訳じゃないそうですけどね。あまり使う機会がないだけだ、と言ってました」

「次元が違い過ぎる……」

三村がさらに凹む。


彼女の『速度』は一度見たことがある。

十分以上に電速パルスの名に相応しいBMP能力者だと思っていたが……。


「この速度は本当に……」

「しかし、これより速いBMP能力が存在します」

三村のセリフを遮って、賢崎藍華が言う。


電光石火スパークシュートの発動の瞬間……。18パターンほどありますが、タイミングを完全に覚えてください。ゼロの取り合いなら、未来の貴方に勝てる人はいません」

「い、いやでも。そもそもこの技までたどり着けるのか……? あんなとんでもないルールで……」

「何を言ってるんですか? あれはむしろチャンスなんですよ」

と、伊達眼鏡を直しながらの藍華。

「制限の大きい闘いほど、展開が読み易い。私にはもう見えていますよ。犬神さんに切り札を切らせる展開が」

「そ、それは凄いけど、俺そもそも、ジェットコースターに乗って闘うなんて無理だぞ……」

当然の結論に、三村が頭を抱える。


「ルーキーズマッチまで、まだ二週間近くあります。力場の展開方向を少しいじるだけですよ。三村さんなら、一年もあれば覚えられます」

「……少し計算おかしくない?」

「あ、あと、過剰負荷ブースト習得のためにあそこに行かないといけませんし……。あの技の習得もありますね。電光石火スパークシュートのタイミングも覚える必要がありますし……」

「……」

「学校は休むしかありませんね」

「いや、そのくらいでどうにかなるものじゃないような気が……」

「大丈夫です。私も休みます」

「それは嬉しいけど……。……というか、何でそこまで?」

絶望的な特訓目標より、そこが気になる三村。


「魔女の本来業務は、勇者を導くことではないんですよ」


「え?」

「欲にまみれた一般人の、身の程知らずな野望を、対価を頂いて叶える。そっちの方が、むしろ得意です」

「た、対価っていっても……」

「本当に限界ギリギリまでやるつもりです。さすがに死ぬことはないでしょうが、ルーキーズマッチに出られなくなることは大いにあります」

「あ……」

「そうです。ルーキーズマッチは出ることに意味がある。どれだけ鍛えても、出られなければ全く意味はありません」

「……」

「それでも……やりますか?」


「もちろんだ。勝てないと、もっと意味がない」


「いい返事です」

と、賢崎さんが微笑む。


「そういうのが、(魔女)は大好きなんですよ」

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