過剰と思える演出でも面白いと思うことはあります
「私は、新月学園在学時には『孤高の城守』と呼ばれていました」
城守さんが、(※特に誰が聞いたという訳ではないのだが)自分の思い出を語り始める。
「学園生はおろか、先生方も迂闊に口出しすることはできないような状態で……。正直、協調性があったとは言えませんね……」
「は、はい……」
「『学園最強』と言われながら風紀委員長を努めなかったのは、新月学園の歴史の中でも私が初めてのはずです。……全く褒められたことではありませんが」
「そ、そうですか……」
風紀委員長は、基本的に『学園最強』の生徒がなるものらしい。
それは分かったが、この昔話の意図はなんだ?
「しかし……。しかしです……!!」
城守さんが拳を握りしめる。
「誓って言いますが、私は怖がられることは何もしていなかった。犯罪行為はもちろん、理不尽な暴力や物言い、不必要な威圧など一切しなかった。むしろ、当時学生ながらにトップランカーに迫る勢いで幻影獣を倒していた正義の味方的な存在であったはずなんです……!」
拳を震わせながら真剣な表情で言う城守さん。
「その時の闘いぶりがあまりに凄まじかったから怖がられてたんですよね……」
「『孤高の城守』は本人に聞かせる用の異名で、裏では『血まみれ凶戦士』とか言われてたとかなんとか……」
そして、俺の背後で(※ギリギリ俺に聞こえるくらいの声で)言う雛鳥さんと志藤さん。
原因知ってるのなら、教えてやってくださいよ……。
「悠斗君に分かりますか……? 周囲の席の生徒が震えながら授業を受けているのを見かねて、自分から左斜め後ろに席を動かす私の気持ちが……。文化祭だというのにお通夜みたいな空気で大道具を作っているクラスに笑顔を取り戻すために、自分から敢えて準備をサボる気持ちが……!!」
「い、いや……。分かりません……。すみません」
随分アクティブなぼっちだというのは分かるが……。
「新月学園のイベントでフォークダンスとかがなくて良かったですよ……。あってもサボりましたけどね!!」
「城守さん。それくらいにしないと、キャラが壊れかけてますよ……」
と、とりあえず何とか諌めてみる。
「そのうち私は考えるようになったのです。私がぼっ……孤独なのは、私の容姿や言動や霊的資質に問題があるのではなく、強すぎるせいなのでは、と……」
「そのうちも何も、それ以外に原因は考えられないと思いますけど……」
あと、霊的資質はさすがに関係あるまい。
「そして、そのまま半分グレた状態の時に、悠斗君と出会い、コテンパンに敗北して改心し、今に至る次第です」
「……そ、そうなんですか」
と答えるしかあるまい。
「いい話だと思ってたし、事実大筋はいい話なんですけど、何故か急にそうだと思えなくなりました……」
「残念臭ってヤツよ、結城ちゃん。ミムリンが放つのと同じアレ」
「無理やり俺を引き合いに出さないでください……」
そして、俺の背後で(※ギリギリ俺に聞こえるくらいの声で)ボソボソ言う、雛鳥さんと志藤さんと三村。
「でも、実際に城守さんは強すぎるし、高校生じゃ仕方ないですよ。今は、孤独どころか、BMP管理局長にまでなっているし、たくさんの部下に慕われているじゃないですか」
事実をもってフォローとする(※最後の一文は少し怪しいが)。
が。
「私も、そう思っていました……」
城守さんの空気がおかしい。
「何か違うんですか……?」
「……貴方ですよ、悠斗君」
と、ジト目で俺を見る城守さん。
「? 俺がどうかしました?」
「……私が強すぎて、ぼっ……孤独だったのなら、その私を小学生の頃に倒した貴方が孤立しないのは何故なんですか……?」
「…………あれ?」
そういえば……。
「そう……。私も貴方のように、ぼっち……孤独でない学園生活を送ることができたはずなんです。貴方の存在そのものが、私の過ちを証明し続けているんですよ……」
「い、いや、でもほら。周りの環境も違うし……。たまたま、俺の周りにいい人が多かっただけとか……。あ、いや、もちろん、当時の学園生を悪く言う訳ではないんですが……」
しろどもどろになりながら、弁明する俺。
が、城守さんの眼鏡……じゃなくて表情はますます曇る。
「確かに、新月学園は性質上、BMP能力者を受け入れやすい。反面、学外の友人は作りにくい。学外の友人持ち、略して『外友』は当時の学園生の間でも、ちょっとしたステータスでした」
「そ、そうなんですか……」
なんつう略称のセンスだ。
「……そんなデータありませんけど……?」
「しっ、結城ちゃん。あんまり局長が可哀そうだから私が吹き込んだの。優しい嘘ってヤツよ」
「その割に、このネタ、喜色満面で漫画にしてましたよね」
……いい加減、くーにゃんズ・ファンタジーの面々を黙らせないとまずい気がしてきた。
「私以上の強さを誇る悠斗君が『外友』とは……。しかも小学生? 転んだ小学生を助け起こしてあげただけなのに『殺さないでくださいぃ』と本気で泣かれた私は、一体なんなんですか?」
「な……なんなんでしょうか……?」
だんだんフォローするのがつらくなってきた。
というか、聞いてるのがつらくなってきた。
「やはり、貴方はどこまでも私の前に立ちはだかるのですね……」
「いえ、すぐにどきます」
というか、むしろ喜んで差し出したい『外友』関係なんですが……。
「…………まぁいいでしょう。チケット四枚ですね。用意しておきます」
◇◆◇◆◇◆◇
BMP管理局から帰った後の夕食は、インスタントラーメンだった。
「……」
「どうしたの、悠斗君?」
「いや……」
色々あって疲れたから、作っている時は何も感じなかったが、現在こうしてラーメンを啜っている麗華さんを見ていると、とんでもないことをしている気がしてきた。
俺は三村ほどゲーム脳ではないが、それでも、このクラスの美少女の夕食にインスタントラーメンを出すような男は死んでしまったほうがいいような気がしてきた。
「悠斗君。やっぱり、とんこつ味の方が好きなの?」
「……まぁ、一応は」
と、みそ味を食べながら聞いて来る麗華さんに答える。
しかし、それは、現首相の孫娘の夕食にスーパーで投げ売りしていたインスタントラーメンを食べさせていることと比べれば、まったく大した問題ではない。
やはり、お手伝いさん欲しいな……。それとも、配食サービスにでも頼ってみるか?
などと考えていると。
「悠斗君。テレビつけていいかな?」
「いいけど?」
少し驚きながら答える。
麗華さんはお嬢様だからして、食事時にテレビをつけるのは無意識に嫌がっている気がしてたんだけど……。
「なにか気になる番組でも……」
と聞こうとした、まさにその瞬間。
『気になる番組』が始まった。
『
シンイチクン:さぁ! いよいよ始まったよ!! 『教えてタケゾウお兄さんinゴールデン』!!! いくら視聴率超低空飛行継続中のテレビ局とはいえ、これはヒドイ!! まさしく暴挙(笑)!! 労せず、大爆死した伝説のドラマ『家があったような気がする子』以来のゴールデン枠を手に入れた僕、大正義!! シンイチクンです!!!!
メロンさん:同じく、メロンちゃんことメロンさんです!! もうほんとに仕事がなくて、実家への帰省代を稼ぐ、くらいの気持ちで出演したのに、ゴールデンなんて……!! 純代は幸せです!!!
タケゾウお兄さん:え、えーと、二人とも? 気持ちは分かるんだけど、前の番組が不祥事で突如終了しただけの代替番組枠だからね。あまり、喜びすぎない方がいいよ。……あ、タケゾウお兄さんです。
※以下、面倒くさいので、タケゾウお兄さん→タ、シンイチクン→シ、メロンさん→メで。
メ:何言ってるんですか、タケゾウお兄さん! これはチャンスなんですよ!! この局には、前番組並みのクオリティを作る人材も資金力も熱意も、もうありません。今回の放送でそこそこの視聴率を出せば、なし崩し的にレギュラー取れるんです!? 私、ポロリぐらいなら全然する気ですよ! 脱ぎやすい衣装ですし!! 胸だけは自慢ですし!!
シ:僕だって脱ぐよ!! 無駄かもしれないと思いながらも、特殊な層のファンを取り込むために磨き上げたこの体を!! というか、タケゾウお兄さんは、なんでそんな特徴のない身体をしてるの!! せめてマッチョなら、需要があるのに!!
タ:中年ライターに無茶言わないでよ……。
メ:とにかく! いよいよ、来週からいよいよ始まります、ルーキーズマッチ!! この国、いや、世界の命運を担う若き戦士達の聖なる宴です! トトカルチョができる、なんて言っている輩は、出直してきてください!!
シ:初戦は、あの澄空悠斗さんの仲間の一人、『残念ナイト』こと三村宗一さんと、『紫電の脅威』犬神彰さんの一戦だよ!!
メ:三村君、美形なんですよねー!! 犬神さんも格好良くて、見ているだけでドキドキします……。
シ:見た目だけじゃないんだよ!! なんと!! ……なんと!! ……タケゾウお兄さん! なんと、なんだったっけ!?
タ:……初戦の対決方式は、『ジェットコースターバトル』。難度が非常に高いけど、とても派手な対決だよ。
メ:ジェットコースターなんですか!! ドキドキします!!
シ:どんなんだよ、タケゾウお兄さん!!
タ:その名の通り、稼働しているジェットコースターの上で闘う対戦方式だよ。安全バーなんてもちろん使わない。どっちかが落ちるまで闘う。
メ:そんなの、闘うまでもなく落ちちゃうじゃないですか!! あ、私もポロリしますか!?
タ:ポロリはしなくていいから……。高速移動系のBMP能力は力場の汎用性が高い。犬神さんクラスの実力者なら、重力制御の真似事くらいはできるんじゃないかな?
シ:三村さんはどうなるのさ!! そして、僕はもう脱いでもいいの!?
タ:脱がなくていい。確かに、高校生にできるような技術じゃないけど、管理局がこの対戦方式を選んだ以上、できるってことなんだろうね。さすがは、『魔人の下側』ってところかな。
メ:イケメンで強いなんて、素敵過ぎです! 脱ぎます!!
タ:脱いじゃ駄目!!
シ:何はともあれ、よい子のみんな! 来週末は『新月テーマパーク』に集合だー!! 僕も脱ぐぞー!!
タ:脱ぐな!!
』
ブチッと。