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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
177/336

悠斗とユウト

この中では峰が一番身体が大きい。

なので、大急ぎで峰の背中に身を隠す。

「?」

峰が疑問符を浮かべているが、もちろん説明している暇はない。


幸いにして俺はBMP能力者特有のプレッシャーがない。

あと、男子高校生としての魅力的なオーラ的なもの……要するに存在感がそんなにない。

麗華さん初め、これだけ個性の強いメンバーの中に紛れていれば、ひょっとしたら気付かれないかもしれない。


というか、何故あの4人がここに居る!?

そんな伏線、全くなかったぞ!!


「どうしました? 間違えたということは、BMP測定希望の方ですか?」

突然の乱入者に対し、職員である志藤さんより早く対応する、さすがの賢崎さん。

しかし、普通に喋っているだけなのに何故か怖い。


「あ、あのですね……」

「間違えたという自覚があるようなのでご存知でしょうが、今はこの測定室を私達が借り切っています。別の測定室を探すか、あと20分ほど待っていただければ、ここを使っていただいてもいいと思いますが」

「は、はい……」

何か言おうとしたハカセが、一瞬で黙らされる。

同じ眼鏡使いでも、小学生眼鏡とドジっ娘でない眼鏡っ娘では、あまりにも容赦のなさが違い過ぎる。


賢崎さんも怒っているわけではなくて、早いところ追い出して、とっとと測定済ませて場所を譲ってあげようとしているだけなんだと思うんだけど……。


と。


「私の友達が失礼いたしました」

俺が目を疑うほど優雅な仕草で、姉御……じゃなくて明日香が頭を下げる。


「私は鏡明日香と申します。もし、私の記憶に間違いがなければ、貴方は我が国の至宝、ナックルウエポンの賢崎藍華様ではないですか?」

「至宝と呼ばれるほどの者ではありませんが、おっしゃる通り、賢崎藍華です」

「それに、そちらのこの世のものとも思えないほどお美しい方は、もしや、情報が公開されていないソードウエポンの剣麗華様では?」

「ええ。その通りです。ただ、彼女は私と違ってメディア露出をしませんから、写真撮影等はご遠慮ください」

『アイドルかよ!』という突っ込みは置いておいて、賢崎さんも明日香がただものではないのを感じ取ったらしい。

いくら何でも小学生相手に『S』を発揮したりはしないと思うけど……。


「やはりそうですか!」

パンと手を打ち合わせ目を輝かせる明日香。

本性を知っているからかもしれないが、まるで天才子役の演技のように見える。……というか、姉御一体何が目的だ?


「BMP測定のことはどうでも良くなりました。決してお邪魔は致しませんので、我が国を代表するお二人ともう少しだけお時間を過ごさせていただくわけにはいきませんでしょうか?」

可愛らしく、しかし品を失わない、完璧な仕草で姉御が賢崎さんにお願いする。


「ふむ……」

賢崎さんが少し考える。

追い出すのは簡単だがあまり邪見にするのも気の毒、といった感じだろうか。

……ちなみに、すでに三村のクライマックスシーンを台無しにするという最大級のお邪魔をかましているのだが……。


「えっと。その前に、三村さん。過剰負荷ブースト覚えるということでいいんですよね?」

「あ、ああ……」

「了解です」

物凄くアッサリと三村のクライマックスシーンを省く魔女さん。

いまさらやり直すのが難しいのは確かだが、エリカも見ていることだし、もう少し盛り上げてやるわけにはいかなかったのだろうか?


「明日香さん。お気持ちは大変嬉しいのですが、私達はもう目的を達したので引き上げようと思っています。良ければ、この部屋を使ってください」

現実的な判断をする賢崎さん。

まだ測ってないのは、俺・麗華さん・小野の『まずBMP値に変動があるはずがない』トリオなので、測らなくても全く問題ない。

このまま、退散することができれば……。


「ユウト?」

「ひっ」

思わず悲鳴が漏れる。


一瞬の気の緩みか、姉御に見つかった。

……俺のバカバカバカ!!


「新月学園生というのは知っていたけど、我が国の誇るツインウエポンと一緒に測定に来る仲なんて……。凄いじゃない」

「い、いや、そんなことは……」

素直に驚く明日香とその仲間達を尻目に、俺の視線は賢崎さんへ。


忘れている人はいないと思うが、賢崎さんは魔眼を持つ魔女さんである。あと、Sである。

いくら何でも一瞬で俺を取り巻くややこしい状況を理解できる訳はないと思うんだが……。


「ふ……」

「ひっ」

わ、笑った!?

賢崎さん、今、凄く邪悪な笑い方をしたぞ。


「失礼しました、明日香さん。ユウトと知り合いだったんですね」

「は、はい。私も驚きました。澄空悠斗さんと同名というだけで、BMP能力者でもないユウトと賢崎さん達が知り合いなんて」

「ほんとに。世間は狭いですね♪」

♪を使う賢崎さんはヤバい!

こども先生の1.1倍くらいヤバい!


「け、賢崎さん……!!」

「あら『賢崎さん』だなんて。いつものように、『藍華』と呼んでいただいていいんですよ、ユウト?」

「いやいやいやいや!」

そんな呼び方してないし、されてない!


「では、何と呼べばいいんですか?」

「『澄空さん』でいいだろ……」

「? 何故私がユウト如きに『さん』付を? 調子に乗ってるんですか?」

「……ぐ」

3分前まで『澄空さん』って呼んでたじゃないか!!


「ちょっと待って、ナックルウエポン」

麗華さんが口を挟んできた。

他の皆は全く状況が把握できていないようだが、この人は何となく分かっているような気がする。


「詳しい事情は分からないけど、それは『ゴリ押し』というんじゃないかな? 悠斗君困ってる」

用語のチョイスはともかく、Sでない麗華さんは女神のように見える。

「そんなことありませんよ、嫌なら呼ばなければいいんですから。もっとも、私は澄空悠斗さん以外を『澄空さん』と呼ぶつもりはないですが」

そして、嫌らしい理屈で開き直る賢崎さんは、見えるじゃなくて魔女だ。


「筋が通ってなくはないと思うけど……」

「ソードウエポンも、『ユウト』と呼べばいいじゃないですか」

「ん……」

と、麗華さんが俺の方を向く。

「…………」

しばし何か考えて。

「ううん。悠斗君は悠斗君でいい」

言った。

……良く分からないけど、今なんか微妙な雰囲気だったような……?


「? あの、そういえば、澄空悠斗さんはいらっしゃらないんでしょうか?」

微妙な雰囲気に首を傾げながらも、明日香が『澄空悠斗』について聞いて来る。

……もうしゃあない。

姉御も、まさか『澄空悠斗』に対してロリコン性犯罪者呼ばわりはするまい(※といいなと思う)。

証言者も居ることだし、俺が『澄空悠斗』だと今こそ……!


「そうなんだ……。何を隠そう『澄空悠斗』は……!」

「山に修行に行きました」

「ぶっ!!」

賢崎さんのあまりにあまりなセリフに、思わず咽る俺。


「や……山籠もりですか?」

「はい。絶望の幻影獣を倒したとはいえ、仲間を犠牲にしたことを深く悔やんだ彼は、より高みを目指すための修行に入ったのです」

ハカセの質問に大真面目な顔で答える賢崎さん。

……というか、仲間、誰も死んでないし。

……それ以前に、訓練するなら新月学園かBMP管理局でした方がよっぽど効率がいいから、山に入る意味もないし……。


「いいのか、澄空?」

だんだん事情が分かってきたらしい三村が聞いてくる。

「良くないけどどうしようもない」

そして、俺は本音で返す。


「しかし、賢崎さん、どういうつもりだ?」

明日香達と意気投合し始めた賢崎さんを見ながら思う。


あの人のことだから、俺の事情はだいたい察してくれていると思うのに、何のために明日香達を引き留めるんだ?

こうやって俺を追い詰めてまで、明日香達を留めておく理由が……。


「……いや」

ひょっとして。


俺を追い詰めるのが目的……?


戦慄すべき考えが浮かんだ俺と賢崎さんの眼が合う。

そして。


まるで小さい女の子のように自由に。

しかし、邪悪に。


賢崎さんがペロッと舌を出した。

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