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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
176/336

『特性』談義

三村と言えば『残念』。


アイツが嫌いな訳ではないのだが、いつの頃からか(※でも割と早い段階で)俺の中の印象は、そう固まっていた。

世間一般の方々にとってもその印象は同じのようで、学内新聞『季報・新月』でも、三村の記事が載るときには異様なまでに『残念』の文字が多い。

その記事を書いている新條文氏(※実はうちのクラスの委員長)も、三村のことは嫌いでないらしいので、『残念』は三村にとって悪口ではなく、もはやキャラクター性として認知されている感がある。


なので、この結果には心底驚いた。


「ひゃ……『131』……です」

三村の測定結果について、戦慄すら感じさせる口調で、志藤さんが呟く。


前回測定時の三村のBMP値は121。

入学時に測ったらしいから、半年間で『10』伸びたことになる。


高BMP能力者に比べればまだ伸びやすいとはいえ、BMP値は基本は増えない。

エリカの『6』でも、新月学園史に残る大記録だと思っていたのだが……。


「おそらく世界記録です……。後で記録認定申請の手続きをお願いします……」

驚愕に目を見開きながらも、志藤さんに対して事務上の指示をする、優秀な賢崎さん。


「念のため、機械の故障も疑った方がいい。半年間で『10』は、基本的に人間には無理」

人類の限界点『BMP170』を超え、一部学者を学会から追放させることになった張本人が言う。

まぁ、麗華さんはBMP関係の学者でもあるらしいから、純粋に科学的見地からの意見であって、悪気はないんだろう。


「どうしたの宗一君、キャラ忘れちゃったの?」

一方、悪気てんこ盛りの小野だが、実は俺も同じ感想だったりする。


「さすが……俺のライバルだ」

「それはお断りしたはずだが……?」

感慨深げな峰の言葉を即座に否定する三村。

まぁ、気持ちは分かる。

俺が『二度と賢崎さんと闘いたくない』というのと、同じ感覚なんだろう。


「凄いデス。凄いデス! 凄いデス!! 三村さん!!」

金髪を揺らして、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶエリカ。

「あ、ありがと。エリカ」

『でも抱きついてはくれないんだな……。ちっ、澄空のクソ野郎』みたいな顔を三村がしているように見えるのは、俺の気のせいだろう。


「機械の故障の可能性って本当にあるんですか?」

志藤さんに聞いてみる俺。

別に水を差そうとしている訳ではない。

本当に故障なら、峰やエリカも気の毒だと思っただけだ。


「先週入れ替えたばかりですから、その可能性は低いと思うんですけど……。あと、安心の『国産』ですし」

「ならいいんですけど」

『国産』をアピールする愛国心溢れる志藤さんの言葉を信じたいところである。


「なら……」

と、麗華さんを見る俺。

パートナーとして、麗華さんの言うことは信じたいところなんだけど……。


「悠斗君。私はそんなに頭が固くない。起こった事実に従って学説を修正するくらいのことはする」

「素敵な考え方だと思うよ」

「学説を破ったのが三村だったから、少し混乱しただけ」

「うん。次は婉曲表現を覚えようね、麗華さん」

ポロっと本音を零す可愛い麗華さんに、パートナーの責務として一応忠告する俺。


「実は私もソードウエポンに賛成です。半年で『10』は少し無理があります。……本当はエリカさんの『6』にもかなり驚いたのですが……」

と、今度は賢崎さんが議論に加わってくる。


「だから、学説の修正が必要なんだと思う。自己の限界を超えるストレスとそれを克服する意思は、今までの『深い経験』の概念を超えることがあるのかもしれない」

「いえ、もちろんその可能性もあるんですが、私はむしろ三村さん固有の現象なのかと思うんです」

麗華さんの発言に対し、難しい顔で返答を返す賢崎さん。


「ソードウエポンは、以前、澄空さんの『劣化複写イレギュラーコピー』は複写ではなく、『学習』の属性があると言ってましたよね?」

「うん」

「しかし、世界中探しても、『学習』のBMP能力者は他にいないんです」

「ひょっとして『特性』の話をしているの?」

「はい。貴方がた学者は否定的ですが、賢崎の後継者として、『特性』持ちだと思われる人物に何人か心当たりがあるんです」

……何か話がややこしくなって来た。

この二人に自由に話をさせるとすぐに俺が付いていけなくなるので、少し口を挟もう。


「ごめん、賢崎さん。『特性』って何?」

「あ、すみません。『特性』というのは、個々の人間が持っているユニークスキル……いえ、ユニークステータスですね。BMP能力は同じものを持っている人間が何人か居ますが、『特性』は基本的に同じものを持った人間は居ません」

「麗華さんの『幻影耐性』とは違うのか?」

「あれはウエポンクラスの固有スキルです。ウエポンクラスなら、私も……三村さんも同じように持っています。対して、澄空さんの『学習』は、澄空さん以外に持っている人がいない『特性』じゃないかと思うんです。学会では否定的な概念ですが……」

俺の質問に答えてくれながら、賢崎さんが麗華さんの顔色を窺う。


「さっきも言った通り、私はそんなに頭が固くない。『特性』だって頭ごなしに否定するつもりはない。私が『悠斗君は特性持ち』だと言ったようなものだし」

「そう言ってくれて助かります。……さり気にノロケを入れるあたり、さすが理系女子という感じもしますが」

なんかブツブツ言っているが、とりあえず『頭いいコンビ』の議論はケリが付いたらしい。


「……ということでですね」

と、賢崎さんが三村を指し。

「澄空さんに『学習』の属性があるのと同様に、三村さんには『成長』の属性があるのではないかと思うんです」

「せ……成長?」

「はい。才能や向上心とは全く別の次元の、ステータスとしての『成長属性』です。……たぶん」

語尾を濁したのと、わずかに伏し目がちなのは、『特性』云々の説得力が問題ではないのだろう。


「でも、三村だよ……?」

「澄空! おまえこそ、婉曲表現を覚えろ!!」

賢崎さんの心の声を代弁して、つい本音が漏れた俺のセリフに、三村が突っ込んでくる。


「……すみません。私も共感を得にくいのは分かっているんです。しかし、ソードウエポンも言うように、事実は事実として認めなければ話を進められません」

「賢崎さんも! お願いだから、オブラートに包んで!」

三村の悲痛な叫び。……だんだん可哀そうになってきた。


「以前から、少し異常な成長速度のかただとは思ってたんです。確信に近いものになったのは、レオとの闘いでですけど」

「レオとの……?」

三村、なんかしたっけ?


疑問符を浮かべる俺を尻目に、賢崎さんが三村に向き直る。


「何はともあれ、これはとても嬉しい誤算です。三村さん。貴方ほど過剰負荷ブーストに相応しいBMP能力者は、賢崎にも、この国にも、世界にも他に居ません」

「……!!」

三村の表情が引き締まる。


過剰負荷ブーストと私の策略、澄空さんの見せてくれた未来……。BMP131の貴方でも、犬神さんに勝つ可能性がわずかに出てきました」

賢崎さんの言葉(※『俺の見せる未来』云々は謎だが)は、力強いが容赦がない。

なぜなら……。


「あとは……、貴方の覚悟次第です」


最後に選択を迫るから。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

沈黙が続く。

黙っていれば非常に男前の三村だが、今は普段の残念ぶりを残念がっている場合ではない。

……犬神さんとの事情を知らないとはいえ、エリカも居る。

前に進むしかない状態ではあるのかもしれないが……。

本当に……。


「いや」

どの道、俺には止められない。

三村の選択に任せるまでだ。


「賢崎さん」

「はい」

エリカを含め、俺たちの見守る中、うっかり惚れてしまいそうなほどに男前度を上げた三村が賢崎さんに呼びかける。


「俺に……」

「……」

「俺に、過剰負荷ブーストを……」

「…………」

「教え……」


「あー!! 間違えたー!!」

「すみません!」

「間違えましたー!」


「てってって……」

三村が噛む。


三村の今季クライマックスシーンを邪魔したのは、入り口から入ってきた4人の小学生たち。

しかも、見覚えがある!


「げ……」

わざとらしく叫ぶ三人を従えるお人形さんのように美しい少女を見て、思わず声が漏れる。

『今一番会いたくない人』の名前を挙げろと言われれば、間違いなく彼女を挙げるだろう。


三村は喋ると男前から残念3枚目にクラスダウンするだけだが、彼女は喋ると超美少女から精神破壊者にクラスチェンジする。


今の俺にとっての天敵(※だって麗華さんと賢崎さんが居るし!)。


鏡明日香と愉快な仲間たちが、BMP測定室の入口でふんぞり返っていた。

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