測ってみよう、BMP2
「キサラギさ……じゃなかった、志藤さん。それくらいにしてください……」
やりたい放題な職員さんを見かねた三村が苦言を呈する。
……というか、この二人知り合いか?
「おや、ミムリンじゃないの? 相変わらずイケメンで何より」
「今気が付いたんですか……。あと、ミムリンやめてください……」
やっぱり知り合いらしい(※にしては、三村がげんなりしているが)。
「なぁ、三村。この人……」
「あ、ああ。プライベートのちょっとした知り合いなんだけど、まさか今日の担当職員だとは思わなかった」
「何言ってるのよ。賢崎さんが測定室予約したって聞いて、ミムリンに会えるかもって思って来たんじゃない」
「いや、明らかについさっき気が付いてましたよね……?」
とても珍しい。
三村が押されている?
「ほら、ミムリン、紹介紹介」
「はいはい……。えーと、澄空。こちら、BMP管理局のオペレータで志藤美琴さん。おまえの連絡担当のはずなんだけど、声聞いたことないか?」
「あ!」
思い出した!
そっか、どうりで聞いたことがあるはずだ。
「初めまして……はおかしいですね。BMP管理局オペレータにして、澄空悠斗ファンクラブ初代会長にして『くーにゃんず・ファンタジー』主宰、くーにゃん・キサラギこと、志藤美琴です。今後とも、ますますよろしくお願いしますね」
「…………よ、よろしくお願いしま……す?」
謎の単語を連発されて、俺の返事が疑問形になってしまった……
というか、オペレータさん、こんな人だったのか!?
しょっちゅうテンパるけど、良く通る声を持った素敵な女性だと思っていたのだが……。
って、そんなことより、エリカのBMP値測定中だ!!
「っと! ごめんエリカ! 測定結果どうだった? 120超えて……たか?」
呼び掛けながら、最後が疑問形になる俺。
エリカが両手を口元に当てて、表示画面を目を見開いて凝視しているのだ。
信じられないものを見ているかのように。
「え……エリカ、どうした?」
まさか値が下がったのか、と心配になって表示画面を覗き込むと。
『125』と表示されていた。
「ひゃ……125!?」
前回が119だったから……、6ポイントの増加!?
「これは……本当に驚いたね……」
ぽかーんとしている皆を代表して、小野が感想を漏らす。
緋色先生授業によると、BMP値はそもそも伸びない方が普通らしい。
それこそ、別人になってしまうくらい激しい経験をしなければ……。
「…………」
そう。
『深い経験と強い決意』がなければ、成長しないのだ。
エリカをそこまで成長させたイベントとして思い浮かぶのは、麗華さんから聞いたレオとの初遭遇の時のこと。
「う……嬉しいデス……」
喜びで目をわずかに潤ませているエリカを見ながら思う。
レオから麗華さんを逃がすために、どれほどの決意が必要だったのかを……。
だから。
「エリカ……」
「は、ハイ……?」
俺が言うことじゃないのかもしれないけど。
「ありがとう、エリカ」
「!」
瞬間。
座ったままのエリカに、いきなり抱きしめられた。
微かなのに強烈な印象を残す香りと、至近距離の流れるような金髪に圧倒される。
「エ……エリ……」
「! ご、ゴメンなさいデス、麗華さん!」
いきなり突き飛ばされる。
というか何故麗華さんに謝る!?
「エリカ……?」
「ユ……悠斗さんモ悪いんデスよ。ダ……誰にデモ甘い顔するカラ……」
顔を真っ赤にして、伏し目がちに言うエリカ。
「そ……そんなこともないと思うんだけど」
言いながら思う。
コレは可愛い。
三村が惚れるのも無理はない。
と、肝心の三村を見ると。
「…………」
「じゃ、測ろっかミムリン?」
「ミムリン言わないでください……」
「大丈夫よ。あと100年もしたら、また残念系イケメンの時代が来るって!」
「100年前にそんな時代があったみたいな言い方は止めてください……」
志藤さんに絡まれながら、眼に見えて残念臭を発していた。
今日は、三村のBMPを測るのが主目的なはずなのだが……。
「これは、駄目かもしれないな……」
☆☆☆☆☆☆☆
などと、澄空悠斗がエリカの真の可愛さと『くーにゃんず・ファンタジー』の謎の一端に触れていた頃。
BMP管理局のエントランスホールの掲示板を見ながら、4人の少年少女達が顔を突き合わせて議論していた。
「姉御。測定室、どこも1時間待ちみたいだぞ」
「……まったく。そんな頻繁に測ったって変わらないって言うのに、みんな好きねぇ」
「ダイエット中に女性が何度も体重計に乗る、みたいなものですかね」
「あ、私、それ、分かる」
お人形さんのように美しい少女を含む小学生の四人組。
鏡明日香とその仲間達である。
「どうします、姉御? 外出時間も余り残っていませんから、今日はとりあえず帰りますか?」
「そね。次は予約してから来ましょ」
眼鏡をかけた賢そうな男の子……澄空悠斗言うところの『ハカセ』の進言を聞き入れて、明日香が帰ろうとしたところで。
「って、ちょっと待て、何だよ、これ!?」
元気そうな男の子……澄空悠斗言うところの『ガッツ』が大きな声を出す。
「どうしたの?」
キョトンという感嘆符を浮かべながら、可愛らしい女の子……澄空悠斗言うところの『エール』がガッツに質問する。
「いや、この第3測定室だよ! こんなに混んでるのに、『1時間貸切』ってなんだよ、これ?」
「1時間? それは凄いわね。どこの1流ハンター?」
興味を持った明日香が聞く。
「えっと、申請者は……賢崎……藍華?」
「って、ナックルウエポンじゃないですか!?」
ハカセが驚く。
「ら……ラプラスの魔女さんが来てるんですか?」
「それだけじゃないですよ。『他6名』って書いてますから、ソードウエポンや本物の澄空悠斗も来てるかも……!?」
若干不安そうなエールに対して、興奮気味のハカセが言う。
「終わるまで待ってたら、サインとか貰えるかな?」
「外出時間が終わってしまいますよ」
「怒られるのは嫌だよね……」
ガッツ達が年相応の可愛らしい葛藤をしているところへ。
「ふむ」
姉御が頷いて。
言う。
「間違えたふりして、入れてもらいましょう」