測ってみよう、BMP
「賢崎さん。俺に過剰負荷を教えてくれ!!」
ある朝の教室。
愛の告白と見まごうばかりの真剣な表情で、三村は賢崎さんに言った。
「本当にいいんですね?」
「ああ」
「知らないより知っておいた方がいい、というのはこの場合は当てはまりません。使えるようになってしまえば、貴方はもう、そういう状況が来れば、使わなければならなくなるでしょう」
「分かってる」
「貴方は澄空さんとは違います。無理にこの領域にまで足を突っ込まなくてもいいんですよ?」
「身の程は知ってる。それでもやりたいんだ!」
…………。
……なんだ、これ?
朝の教室でやるにはあまりに緊迫感があり過ぎるんだけど……。
クラスメイトも静まり返ってしまってるし……。
「……いいでしょう。その気があるのなら、私は教えるだけです」
賢崎さんが静かに言葉を発する。
こういう時の賢崎さんは、本当に『魔女』というのがぴったりの表情をする。
過剰負荷とやらがどのくらい危険な裏技なのかは分からないが、止めるのは今しかない気がする。
賢崎さんの言うとおり、習得してしまえば、状況次第で使わざるを得ない。
……けど。
俺が三村なら……。
「じゃあ、とりあえず今日の放課後、空けておいてください」
と、俺の微妙な心情に係わりなく、賢崎さんが話を進めていく。
「特訓か?」
「いえ。その前に、BMP能力値を測りに行こうと思います」
「え?」
予想外の言葉に、三村が疑問符を浮かべる。
「過剰負荷の伝授の前に、少しでも正確な値が欲しいんです」
「といっても、半年前に測ったばかりだけど」
「深い経験と強い決意は、BMP能力の成長を促進させます」
三村の疑問に、賢崎さんが理論で答える。
「この半年、澄空さん達には普通ではありえないほどたくさんのことがあったと思いますから」
遠い目をする賢崎さん。
……確かに色々あった。
普通の人生では1回遭遇すればいいようなイベントに、何度も遭遇してる。
別人のように成長していてもおかしくないのかもしれない。
「俺も連れて行ってくれ。是非測りたいと思ってたんだ」
峰が割り込んでくる。
そういやコイツ測りたがってたような気がするな。
「そうですね。密度の濃い経験はBMPを促進します。峰さんも測っておいた方がいい時期でしょうね」
「ああ!」
嬉しそうな峰。
コイツは本当に強くなることに迷いがないよな……。
「同じ経験をしているので、エリカさんも誘いましょう。『120』を超えていたら、そのままチーム登録してもいいですし。あと、あまり意味はないかもしれませんが、念のため、ソードウエポンと小野さんも」
高BMP能力者ほど数値が上がりにくい。
賢崎さんが『念のため』というのも頷ける二人である。
と。
「それから……」
賢崎さんがこちらを向く。
「澄空さんも……測っておきますか」
◇◆
という訳で、BMP能力値を測りにBMP管理局までやってきたわけだが。
どうやって測るのか皆さんも非常に興味があることだと思う。
ここは、賢崎さんが測る様子を例にして紹介しよう。
「では、まず私から測りますね」
と、すわり心地のいいリラックスチェアに腰掛ける。
「どうぞ」
そこに、BMP管理局の女性職員さんが縦長の機械……『BMP測定器』を近づけてくる。
「では……」
と、賢崎さんが左手でBMP測定器に触れる。
「……」
30秒ほど待つ。
「…………」
ピピッと音がして、測定器上部の画面に『168』と表示される。
「まぁ、変わる訳がありませんけど」
賢崎さんが呟く。
以上である。
『そんなに簡単なんかい!』という方は、俺の描写能力が乏しいわけではなく、我が国技術者の研究と努力の賜物だと知るがいい。
なんせ、この業界では、我が国のシェアは8割近い(※らしい)。
それはともかく。
「じゃあ、次は俺だな」
語尾に『♪』が付きそうなほどの上機嫌で、峰がチェアに腰掛ける。
「お願いします」
「あら、やっぱりいい男。これは、男好きするわね……」
「ありがとうございます」
職員さんの怪しげなセリフと視線にも気が付かないくらい上機嫌である(※というか、この職員さんの声、どこかで聞いたことあるぞ?)。
「前回記録は137……。増えているといいですね」
という職員さんの声と共に、待つこと30秒。
電子音と共に表示されたのは……。
「凄い! 『140』ですよ」
驚いたような職員さんの声。
無理もない。
BMP値『140』ともなると、少なくとも能力値的にはエリートの仲間入りである。
「……これは驚きましたね」
「凄いね、達哉」
賢崎さんと小野が素直に驚いている。
『168』と『161』の二人だが、別に上から目線で言っている訳ではないことは俺が保証しよう。
BMP値を上げるというのは、それだけ大変なことなのである。
「良かったな、峰」
俺は峰に声をかけた。
「…………」
が、何やら峰の様子がおかしい。
「峰?」
「正直、もう成長は止まったと思ってた……」
目を見開いて画面を凝視したまま、峰が言う。
「毎回『こんどこそは!』と思いながら測定して、何度も落胆したが、今回こそはという思いはあった……」
と、なぜか峰が俺の手を握ってくる。
「『1』上がっただけでも飛び上がって喜ぶつもりだったのに、まさか『140』の壁を高校生のうちに突破できるなんて……」
「あ、ああ……」
それは分かったが、なぜ両手で俺の手を握る?
「君と共に闘った日々のおかげだ! 一生付いて行くぞ、澄空!」
「りょ、了解だ……」
けど、少し近い。
あと、女性職員さんが『キタコレー!』と天を仰いで叫んでいるのが気になる(※というか、あの職員さん、何かおかしくないか?)。
「でハ、次は私ガ……」
次はエリカ。
「エリカ、『120』超えていたら、そのままチーム登録しよう」
「ハイ!」
三村の声掛けに、笑顔で答えるエリカ。
そうなのである。
先月俺の実家で決めた通り、俺たちはBMPハンターチームを結成するつもりである。
エリカが『120』を超え、BMPハンターになれたら、今日にでもチーム結成してもいい。
……もちろん、俺も入る。
エリカがチェアに腰掛ける。
「よろシク、お願いしマス」
「はい。えーと、前回は119ですか。今度こそ、120超えているといいですね♪」
とニコヤカに返事をした職員さん。
だが……。
「しかし、見れば見るほど正統派美少女だわ……。しかも金髪……。これはサブヒロインにしておくのは、あまりにももったいないわね……」
なんか、ブツブツ言っている。
「あノ?。測定器ヲ……」
「あ、ごめんなさいね。ところで、好きな人とか居る?」
「「え?」」
測定器を差し出しながらの突然の質問に、周りで見ている俺達全員が驚きの声を上げた(※なんと、峰も)。
「…………?」
あまりにも場違いの質問だったからか、エリカはきょとんとした顔のまま測定器に手を当て。
「……?」
「……(わくわく)」
「…………」
「…………(うずうず)」
「……………………」
「……………………」
「もちロン、麗華さんデスけど♪」
ピピッという電子音と共に、輝くような笑顔で答えたエリカ。
ふ、普通に可愛い……。
正統派って凄いな……。
と。
「そう来たかー!!」
職員さんがいきなり奇声を上げる。
「ヤヴァイ! ヤヴァイわコレ! なんか色々想像できる! 裏の事情とか乙女心的なものが大量に押し寄せてくる! エリカさん、最高ー!! もう、悠斗君取っちゃえー!」
「「…………」」
……何なの、この人?