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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
171/336

運命を前借りする

「……」

まだ、天竜院先輩の香りが残っているような気がする。

天竜だからかどうかは知らないが、肉食系の良い香り。

……肉食系の香りいうのが何なのか説明できそうにはないが。

「…………」

しかし、凄い人だった。

帯刀してるのに色っぽいし……。

あんなに胸が大きいのにイケメンだし……。

BMP過程とかで遠目に見ている分には『美人だなぁ』くらいにしか思わなかったのだが……。

「イケメン度なら、麗華さんより上だよなぁ……」

「イケメン度?」

「うん」

麗華さんは確かにほぼ全てのパラメータがマックスに近いが、あのイケメンさだけは真似できまい。


「そう。麗華さんよりもイケメンなんだよ」

「でも、普通女性に対して『イケメン』なんて形容詞は使わないと思う」

「……」

「使わないと思うんだけど……?」

いつの間にかスーパーから戻ってきていた麗華さんが、両手に缶ジュースを一本ずつ持ったまま小首を傾げる。

……また気が付かなかった。

ちょっとぼんやりし過ぎか、俺……?


「え……と」

「教えて悠斗君。今のは少し気になる」

麗華さんが気になってしまった。

世間知らずを直そうとするのはいいんだけど、『コレ』は説明する必要がないような気もするんだけど……。


「悠斗君」

「格好いい女性のことをイケメンと呼ぶこともあるんだ(※たぶん)」

「『格好いい』と『イケメン』は少し違う概念のような気がする。男性に使う『イケメン』を女性に使う理由も良く分からない」

何かの儀式のように両手で缶ジュースを掲げたまま疑問符を浮かべる麗華さん。

きちんと説明しない限り、あのジュースにありつくことはできないらしい。

しかし、単純に『男っぽい』とも違うし、難しい……。

……というか、何故俺達はこんなくだらないことを真剣に話し合っているのだろうか?


「ごめん麗華さん。実は俺にもうまく説明できない」

「悠斗君がそれだと困る。私は誰に聞けばいいの?」

「どっちかというと感覚的なものだから……。『天竜院先輩はイケメン』っていうフレーズで納得できないと、いくら説明しても納得するのは難しいと思うんだけど」

「とーこ姉?」

「へ?」

唐突な呼び名に、一瞬思考が止まる。

今、何て言った? とーこ姉?


「とーこ姉がイケメン……?」

麗華さんは謎の呼び名を繰り返し……。

缶ジュースをベンチに置いてから、ポンと手を打った。


「悠斗君、凄く良く分かった」

「そ、そう?」

「うん。良く分かる。今まで悠斗君が教えてくれた中で、一番良く分かった」

「…………」

それは何より……なんだけど。


「麗華さんって、天竜院先輩と知り合いなの……?」

「うん。昔、面倒を見てもらっていた」

そんな、あっさり認められても。


「なら、なんで今は……。その……」

避けてるんだろうか……?


「……とーこ姉の右眼見たことある?」

俺の言いたかったことが分かったのか、麗華さんは自分の右眼を指差しながら聞いて来た。

「ちょっと変だったような気はしたけど……」

「あれは私がやったの」

「え!?」

思わずベンチから立ち上がる俺。


「覚醒時衝動の時に」

「…………」

「護衛を生業とするとーこ姉にとって、視野と視力がどれくらい大切かは言うまでもないから……」

「…………」

しかし、天竜院先輩の話では、負い目があるのはむしろ先輩の方だったようだけど……?


「麗華さ……」

言いかけてやめる。

たぶん、これは俺が口を出すことじゃない。

……と思う。


「悠斗君。さっきとーこ姉と会ってたんだよね?」

「ああ。護衛として雇わないかとか言ってた」

と、天竜院先輩の携帯番号を麗華さんに見せる。

「それは凄くいいことだと思う!」

麗華さんが喰い付いて来た!


「そ……そっすか?」

「うん。『誰かを守る』ということに関して、とーこ姉の右に出る者はいない」



☆☆☆☆☆☆☆



「もういいですよ」

との賢崎藍華の声を聞き。

「…………了解っ!!」

と答えて、数歩歩いた後、そのまま地面にへたり込む三村宗一。


「し……死ぬかと思った……」

「正直、後30分続けていれば、本当に危険な状態になってましたよ?」

へたり込んだ三村を見下ろしながら言う藍華。


藍華が一緒に走っていたのは最初だけで、途中からは付いていく必要もなくなった。

EOFを使わなくても分かる。

三村宗一は、誰に言われるまでもなく、本当に限界すれすれまで走っていた。


「人を見る眼には自信があるつもりだったんですが……。正直、驚きました」

賢崎藍華も驚かざるを得ない。


「そ……そんなことより……賢崎さん……」

過呼吸気味になりながら、三村が言う。

「大丈夫ですよ。まだ酸素吸入器が必要なほどではありません」

的確かつクールな藍華。普段の三村なら、Mに目覚めてしまいそうなほどである。


「い、いや……。そうじゃなくて……」

「?」

「別に文句言う訳じゃないけど、本当にこれで犬神さんに勝てるのか?」

「ああ、その話ですか」

賢崎藍華が、くいっと眼鏡を上げる。


「基礎体力が大事なのは分かるけど、エキシビジョンマッチまで時間がないのに……。本当にこれで大丈夫なのか? てっきり俺は、裏技めいた特訓をやるんだとばかり……」

「もちろんやりますよ」

「は? ……へ?」

三村の顎がかくんと落ちる。


「幼稚園児がプロボクサーに挑むようなものですから、思いっきり裏技を使います」

「そ……そうなんだ……」

「誰にでも向いている技ではないので……。最低限の適性を見るため、限界ギリギリの状態を観察させてもらう必要があったんですよね」

「……っ」

知性のある獣のような表情をする眼鏡っ子に、三村が戦慄を覚える。


「では、そろそろ奥義伝授を始めましょうか……?」

「ち……ちょっと待ってくれ」

「はい?」

「そ……その、今さらなんだけど、本当にその技、大丈夫なやつなのか?」

今さらながらに慌てだす三村。

脳裏には、今日一日の澄空悠斗の狼狽した表情が浮かぶ。


そうなのだ。

クール系美人などというのは、ほんの表層に過ぎない。

彼女は、魔人も恐れる魔女なのである。


「確かに、外部はおろか一族にすらほとんど教えていない危険な秘技ですが、さっきまでの男らしさはどこに行ったんですか、三村さん?」

「賢崎さんの笑顔で消し飛んだ……」

とても素直な三村。


賢崎藍華は、そんな三村に対してわずかに微笑む。


「メリットも大きいですが、それ以上にデメリットの大きい技です。良く考えてみるのもいいでしょう。ただ、他の方法では絶対に犬神さんには勝てないでしょうね」

「参考までに、どんな技か聞いてもいいのかな……」

「そうですね……一言で言うなら」

と、藍華は顎の下を人差し指で掻き……。


「未来を前借りするような技……でしょうか」

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