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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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魔人と天竜

麗華さんが『スーパー・トミタケ』にジュースを買いに行った後、俺はベンチに腰掛け一人黄昏ていた。

正直、今日の出来事は地味にこたえたのだ。


「まさか、基礎体力にまでこんなに差があるとは……」

賢崎さんとあれだけ激しいバトルを繰り広げられたのが嘘みたいだ(※その後、一週間寝込んでいるが)。

今はBMP能力が使えないのに、体力までないなんて、足手まといとかいうレベルではない。


「まぁ、BMP能力が戻らなかったら、体力あってもしょうがないけどな……」


口に出すとますます不安になる。

原因不明とはいえ、みんな元に戻る可能性の方が高いと思っているようだが、なぜか俺自身は戻らない可能性の方が高いような気がしていた。

ただ単にナーバスになっているだけならいいのだが……。


もし、万が一、BMP能力が使えなくなったら。


BMPハンターは、止めるしかない。

新月学園は、通わせてくれるかもしれないが、正直、凄まじく行きづらい。

三村達は、……もう仲間とは呼べないかもしれない。


それから。

麗華さんとは……。


「離れざるを得ないだろうなぁ……やっぱり」


今日一日分の疲れを込めた溜息が漏れる。

契約が取れなかった営業マン並みの見事な溜息だった。


…………いや。

契約が取れない営業マンはもっとつらいに違いない。

BMP能力がなくなるくらいで無効になる関係程度で悩んでいる俺とは違う。


「すみません。営業マンさん」

「私は営業マンではないが?」

俯いていた顔を上げて、この空の下のどこかに居る営業マンに謝ったつもりが、俺の視線と声は天に届く前に一人の女性の顔で止められていた。

「……」

「営業マンではないぞ?」

それは分かる。

いくら物騒な御時世とはいえ、帯刀した営業マンはさすがに居ないだろう。

ジャージと上気した頬を見る限り、俺達と同じくランニング中なんだろう(※ランニング中に帯刀するのがこの街の常識という意味ではない)。

「えーと……」

「それに、君は私のことを知っているはずだが……。ひょっとして自己紹介が必要なのか?」

「いえ、その必要はないですが……」

もちろん知っている。

彼女がランニングで近づいて来たうえ、座り込む俺のすぐ目の前に立っていたのに気付かなかった、俺自身の気配察知能力の無さに若干衝撃を受けていただけである。


「それならいいが……。念のため、私の名前を言ってもらえるか?」

と、ポニーテールにした髪を軽く揺らして迫ってくる。


凛とした表情は武士を想像させるが、艶やかな黒髪と整った顔は美人としか言いようがなく。

俺より高い長身と腰に下げた刀からは紛れもない強者の香りがするが。

実力十分なのに性格残念な『あの人』より豊かな二つの胸は、やはり色っぽいとしか言いようがない。


歴史上の大物武将が、現代の美女に転生したらこんな感じだろうか……。


城守さんの再来と言われる『もう一人のブレードウエポン』。

新月学園風紀委員長にして五帝最強。


「天竜院透子先輩です」

「うん。『初めまして』はおかしいが、こうやって話すのは初めてだな、澄空悠斗君」

と天竜院先輩はにこりと笑う。

イケメンなのに色っぽい……。

中性的というより、イケメンと色気双方のパラメータがそれぞれマックスに達しているような感じだ。


「今日は一人なのか?」

「はい。麗華さんは飲み物を買いにスーパー・トミタケへ」

向かいの店舗を指差した俺に、天竜院先輩は不思議そうな顔をした。

「君の背後に自販機があるようだが……?」

「気が合いますね、天竜院先輩」

などと天竜院先輩と気を合わせてみる。


「全く。相変わらずのようだな、麗華様は」

「そうなんですよ」

爽やかに笑う天竜院先輩につられて、俺にもつい笑みがこぼれる。


……いや、ちょっと待て。


「今、『麗華様』って言いました?」

「ん? それがどうかしたか?」

「……えと」

どうかしてないんだろうか?


天竜院先輩は、女性には必ず『様』を付けるとか……?

…………んな馬鹿な。


「ひょっとして、麗華様から私のことを聞いていないのか?」

「? いえ、聞いてませんけど」

「なるほど……。まぁ、そういうこともあるか」

と、天竜院先輩は何やら頷く。


「君は、天竜院家が要人警護を生業としているのは知っているか?」

「それは何となく聞いたことがありますけど」

「その関係でな。私は昔、麗華様のボディガードのようなことをしていたことがある」

「え!?」

「まぁ、お互い幼かったから、遊び相手兼……といった感じだったが」

「は、初めて聞きました……」

俺は素直に驚いた。


剣首相の孫娘なんだから護衛くらい付いてもいいとは思うが、その相手が天竜院先輩とは……。


「しかし、天竜院先輩と麗華さんって、微妙に仲が悪い……ですよね?」

前から少しだけ気になっていたことを思い切って聞いてみる。

そう。彼女ら二人は、異学年合同のBMP過程でも、ほとんど話さないのだ。

……というか、普段から積極的に話さない麗華さんがあからさまに避けるから、余計に目立つ。


「やっぱり、気付かれていたか……」

「気付いてない人いないと思いますけど……」

なのに、誰も(※情報通の三村や委員長含めて)理由を知らないのだ。


「……少しな」

「は?」

「会わせる顔がない状態なんだ」

「え?」

会わせる顔がない?

どゆこと?


「というか、麗華さんの方が避けてたのかと思ってたんですけど……?」

「不器用な方だからな……。問題があるのは私の方だ」

真面目な顔で呟く天竜院先輩。

「どんなことか……聞いてもいいですか?」

「君になら……。…………いや」

「?」

「止めておこう。君だからこそ、麗華様から聞くべきだ」

「……はい」

確かにその通り。

麗華さんが話したくないことなら、俺も知らない方がいい。


「という訳で、麗華様と仲がいい君と私は、普段なかなか話せない間柄な訳だが……」

と、9月にもなってようやく初めてまともに会話することになった設定上の理由を説明しながらの天竜院先輩。

「せっかくだから、対戦の約束でもしておくか?」

「は?」

「BMP能力復帰後のリハビリ戦としては、それなりの相手だと思うが?」

と豊かな二つの胸の中心を親指で指しながら提案してくる。


「……遠慮させていただきます」

天竜院先輩のBMP能力がどんなものか知らないが、自信に満ち溢れた顔と腰に下げた刀と暴力的な胸を見る限り、俺の勝ち目はとても薄い。

「何故だ? 世界最強の『絶望の幻影獣』を倒した君が、『学園最強』かどうか分からないのはおかしいと思わないのか?」

「思いませんよ」

全く思わない。


「あの時は必要があったからレオと闘っただけで、そうじゃなければ『御近所最強』の肩書きだって必要ありません」

「ならば、必要ならば私とも闘うということか?」

「ほんとのほんとにどうしても必要なら……」

と、賢崎さんにボコボコにされた苦い記憶を思い出しながら答える。

正直、ほんとにもう勘弁してほしいんだが……。

それでも……。


「必要なだけの強さは……やっぱり必要ですよね?」


自分でも何を言っているのか、良く分からない。

が。


「危ういな、君は」

「?」

天竜院先輩の唐突なセリフに、疑問符を浮かべる。


「もっとも、そうでなければ、とても『絶望の幻影獣』など倒せなかっただろうが……」

「?」

なんの話だ?


「ふむ……」

と、何かを考えているかのような天竜院先輩の顔を見つめているうちに気が付く。

……先輩、右目の色が少し薄くないか?


「天竜院先……!?」

質問しようとした俺に、天竜院先輩は顔を近づけ、数桁の番号を囁く。

携帯の番号だと気付いた俺は、慌ててその番号を自分の携帯に打ち込む。


「天竜院先輩……?」

「天竜院家の者は皆、要人警護のスペシャリストだ。君が自分自身のことを危ういと感じるようになったら、私を雇うことを検討してくれ。安くはないかもしれないが、それだけの価値はあると思う」

「いや、俺、要人でもなんでもないですよ」

「ふ。面白いことを言うな、君は」

言って、凶悪な視覚効果を残す揺れを伴いながら、背筋を伸ばす。


「重要でない人間など居るものか」

「……!」

俺の頭をぽんぽんと叩く。

「では、またな」

身を翻し、走り去っていく天竜院先輩。


「か…………」

格好いい……!

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