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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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最高のコーチ(ただしS)

「よくぞ私に相談してくれました」

犬神さん達に会った翌日の学校での、賢崎さんの輝くような笑顔を、俺はたぶん三か月くらいは忘れない。

恐縮しながら特訓指導を依頼する三村に、賢崎さんは(※不気味なくらい)快く頷いた。


「ほ……本当にいいのか? 賢崎さん、凄い忙しいそうなのに……」

「私は、少し無理目の野心を持ったBMPハンターが大好きなんです。澄空さんクラスのスーパールーキーになると壊しちゃいけないので、ストレスも溜まりますが」

……ちょっと待った方が良くないか。

今のセリフ、『三村なら壊れるくらい厳しい特訓でも構わない』的な意味にも聞こえたんだが。


「ありがとう。本当に助かるよ」

「いいんですよ。『ティーチング・デストロイヤー』と呼ばれる私に教えを乞いに来てくれる人を、蔑ろになんかしません」

「いや、ちょっと待って!」

頭を下げる三村を優しく見つめる賢崎さんに、俺は思わず待ったをかけた。


「なんですか、澄空さん?」

「そんな二つ名、聞いたことないんだけど……」

「そうですか? 結構有名だと思ってたんですけど……」

「…………」

やっぱり、ヤバすぎる。

賢崎さんは、基本、凄く真面目な人だ。あとSだ。

三村の目標が『犬神さんに勝ちたい』というのであれば、本当にその水準まで高めてくれかねない。

が、現実は漫画のように甘くはない。

三村が短期間で犬神さんクラスにまで急成長するには、相当の無理をしなければならない。


「いや、いいんだ、澄空」

と、三村が俺の肩に手を置いてくる。

「三村?」

「別に、楽しようなんて最初から思ってない。『犬神さんに勝つ』と言った時点で、もしもの時の覚悟は最初からできてる」

「…………」

誰や、このイケメン?


◇◆


その日の放課後。

覚悟を決めた三村は間違いなくイケメンだったが、そうは言っても心配なので、俺も特訓を見に行くことにした。

『なら私も行く』ということで麗華さんも付いて来た。

峰は特訓、エリカ・小野は用事。


「では、まずランニングから始めましょうか」

トレーニングウェアに着替えた賢崎さんが宣言する。

もちろん、眼鏡は外していない。

前の眼鏡は俺との戦闘中に捨ててしまったので、新眼鏡だが、これも良く似合ってる。

伊達眼鏡らしいけど。


「どこを走るの、ナックルウエポン?」

「ここから、スーパー・トミタケの前を走るコースですね。10キロくらいですか」

「い、いきなり、10キロですか……」

最後のセリフは俺。

鍛えてたら走れない距離じゃないが、きつくない訳でもない。


と。


「一周じゃないですよ?」

「へ?」

優しく笑う般若、としか表現しようのない顔で賢崎さんが微笑む。

「『10キロのコース』を『私がいいと言うまで』走ります。スピードは私基準。私に抜かれそうになったら蹴ります」

「怖いよ!!」

思わず突っ込む俺。

精神的に怖いうえに、この人の蹴りは物理的にも怖い。


しかし。

「分かった。もう初めていいのか?」

入念にストレッチをしていた三村は、驚いた顔すら見せずに言う。

「どうぞ。最初はゆっくり走ってください。徐々にプレッシャーを掛けます」

「了解。よろしくお願いします」

と、軽く会釈をして走り出す三村。

「…………」

やばい、格好いい……。


「じゃ、私達も追いかけましょうか?」

という賢崎さんに続いて、俺と麗華さんも走り出した。


◇◆


10分経過。


スーパー・トミタケの前あたりで俺はうずくまってしまった。


「どうしました、澄空さん?」

「どうしたの、悠斗君?」

「…………」

どうしたもこうしたも……。


「脇腹が凄い痛いです……」

若干涙目になりながら、泣き言を言う俺。


一言で言おう。

速過ぎる!!


ゆっくりだったのは最初だけで、途中からは、ほとんど俺の全力疾走のスピードと変わらない。


三村にはとっくの昔に置いて行かれるし……。

麗華さんはともかく、指導役の賢崎さんまで俺に付いているのは、申し訳ないとしか……。


「ひょっとして、体調が悪かったんですか?」

「い、いや……。単純に体力不足です……」

賢崎さんに白状する俺。

壊されるどころか、付いていくこともできないなんて、情けないにも程がある。


「全く運動をしていない人よりはましですが……。スポーツマンとさえ言えない体力ですね……。ソードウエポン、どういうことですか?」

「トレーニングはちゃんと一緒にしてる。悠斗君が無理をしない範囲で」

「無理させなさ過ぎではないんですか?」

「…………悠斗君がつらそうにしているの見たくない」

「へ?」

思わず声が零れる。

それって……。


「ソードウエポン。過負荷は禁物ですが、少し苦しいくらいじゃないとトレーニングになりませんよ? まして、私達は、常在戦場のBMPハンターなんですから」

「…………反省している」

「三村さんのルーキーズマッチが終わったら、私がトレーニングに付き合いましょうか?」

「それは駄目。悠斗君が死んでしまう」

……ちょっと待てい。


「……まぁいいです。私は、三村さんのトレーニングに戻りますので、お二人はここで休んでいてください」

と賢崎さんは言い残し、残響が残りそうな速度で三村を追って行ってしまった。

少し心配だが、今の俺には心配する資格さえなさそうである……。


「仕方ない。休憩するか……」

脇腹の痛みはあんまり治まっていない。

俺はおあつらえ向きに設置されていたベンチに腰を下ろした。

道路を挟んで反対側に『スーパー・トミタケ』が見えるベンチだ。


「ごめんな麗華さん。俺、ちょっと休憩していくから」

「…………」

「麗華さんは、先に三村達を……」

と言いかけて気づく。

麗華さん一人であの二人に付いて行ったところで、あんまり意味がない。

俺が回復するまで、ぼーっと待っているしかない訳で。

……申し訳ないにも程がある。


「えっと、麗華さ……」

「悠斗君」

「はい?」

「怒ってる?」

「は?」

唐突な麗華さんのセリフに一瞬固まる。

怒る? 俺が? 麗華さんに?


「その……毎日のトレーニングを勝手に軽めにしてて」

「あ、ああ、その話か」

さすがに、この状態で怒るほど、俺はプライドを無くしていない。


ただ……。


「もちろん怒るなんてことはないけど……。お願いがあるんだ」

「なに?」

「これからは、できたら、もう少し厳しくして欲しい」

「…………」

無表情のまま『うん分かった』と言ってもらえると思っていたのだが、麗華さんはなぜか難しい顔をした。


「麗華さん?」

「私は人にものを教えるのがうまくない」

「?」

「限界を把握して、その上で無理をさせるナックルウエポンとは違う。私に任せると、無理をさせ過ぎる可能性が高い」

「いやいや。俺、そんなに根性ないから大丈夫。つらくなったら、つらいって言うし」

と自慢でもなんでもないことを堂々と俺が言うと。


「ほんとに?」

「え?」

「ほんとに『つらい』って言ってくれるの?」

「え、え?」

なんの話だ?


「悠斗君は、ちゃんと、死ぬこと、怖いよね?」

「は、はい」

「だったら、私にも、つらい時には教えて。難しくても、ちゃんと一緒に考えるから」

「…………」

「ね?」

「ああ。分かった」

麗華さんがどういう理由でそう考えたのかは分からないけど。

言いたいことはなんとなく分かる。


「ほんとに?」

「ああ」

「約束できる?」

「できる」

「ならいい……かな。明日から、少しだけ厳しくする」

「よろしくお願いします」

と、頭を下げる俺。

ほんとは『少しだけ』では駄目なんだが、今さら焦っても……。


「悠斗君、どうかした?」

わずかに曇った俺の表情を察知したのか、麗華さんが声をかけてくる。

今日の麗華さんは敏感すぎる……というか、やっぱり何か変だ。


「いや、ちょっと喉が渇いてて」

「待ってて。買ってくる」

「え? ちょ?」

と俺が制止するのも聞かずに、麗華さんは『スーパー・トミタケ』に入って行ってしまった。


……ベンチの右後方1メートルくらいの地点に、飲料水自動販売機があるんだが……。

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