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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
168/335

光速の(※恋の)ライバル

「飛ばしとるなぁ、光……。あ、ここええか?」

「どうぞ」

了解を得て、小野の隣に犬神さんが座る。

「……というか、この新顔の美少年は、ひょっとして、引力を操るとかいう小野倉太君か?」

「斥力もいけますよ」

格好いい手の動きをしながら、微笑する小野。


「……待てよ。そや!」

「どしたの、彰」

「いや、あのベルゼブブな。小野君に拘束しといてもらえばええんちゃう。こう、ギュッと!」

茜嶋さんの問いに、何かを握りつぶすような仕草で犬神さんが答える。

「なるほど、悪くない」

「けど、攻撃がなぁ。天閃レイでも、間に合わんくらいに分裂が速いし……」

「うん。強力な範囲攻撃で一気に焼き払うくらいじゃないとベルゼブブは……。……ん?」

と、茜嶋さんの眼が麗華さんに向く。

「「…………ふむ」」

犬神さんと茜嶋さんは頷き合い。


「小野君」

「ソードウエポン」

「非常時用にやな」

「呼びたいので」

「「ケータイ教えて」」

犬神さんは小野に、茜嶋さんは麗華さんに、それぞれ携帯電話を差し出す。

……それはともかく、今ちょっと卒業式チックだったのは突っ込んでいいのか?


というかそんなことより。


「『ベルゼブブ』ってなんなんですか?」

と聞いてみる。

微妙にラスボス臭のする名前なので、若干嫌な予感がしたのだ。


ということで、犬神さんに説明してもらったことをまとめると。

①ベルゼブブはBランク幻影獣である。

②飛び回って噛み砕くだけの単調な攻撃パターンで、装甲も大したことはないが。

③攻撃を当てる度に分裂する。

④同時分裂数と拡散範囲に制限はあるらしいが。

⑤分裂回数に制限はないし、分裂で新生した側は体力が回復する模様。

⑥なら、小野君の引斥自在ストレンジャーで一か所に固めて、剣さんのレーヴァテインで焼き払えばどうだろう?

⑦きっと倒せるに違いない。

⑧それはともかく、名前の由来はハエの姿をしているから。

⑨えいむかつくあのハエ野郎。

とのことだった。


「ということは、そのBランク幻影獣、まだこの辺に居るんですか!?」

「いや、どっか飛んでった」

俺の質問に投げやりに返す犬神さん。……どっか、って……。


「ほんとにその通りなの、ユトユト。いきなり現れたと思ったら、私達と闘って。またいきなり飛んで行ったの。……他に一般の人も居たのに、眼もくれずに」

「おかげで助かったけれどな……。Aランクは論外として、Bランクも最近結構訳分からんで……」

取り逃したのがショックなのか落ち込む二人だが、被害がないのならまずは良かった。


「ま、なにはともあれ、次は小野君と剣さん呼ぶから大丈夫や! 今日のところは、憂さ晴らしにカラオケでも行こか!」

あまりにも切り替えの早い犬神さんが提案する。

まぁ悪い話じゃないか。

こっちにも……って、ちょっと待て。


「三村君もええやろ、ウチに負ける憂さ晴らしの前借りってことで!」

「さすがに気が早すぎませんか……」

さっきまで静かだった(※というか犬神さん達が現れてから一言もしゃべってなかった)三村が、ジト目で犬神さんを睨みつける。

そうだった。この二人、ルーキーズマッチ初戦の対戦カードなんだ……。


「早いも遅いもないやろ? まさか、一兆分の一でもウチに勝てると思とっるんやったら、イケメン過ぎて惚れるで?」

「ぐっ……。そ、そりゃ、実力差は歴然ですが……」

押されながらも引かない三村。

……妙だな。こういうところで意地を張るタイプじゃないと思ってたけど……?


「ま、あんまり無様に負けんことやな。ウチが目立ち過ぎると、エリカはんに惚れられてしまうかもしれん」

「その心配はないですね。エリカはノーマルですから」

「彼氏おらんのやから、そんなん分からんやろ? それともひょっとして、三村君が彼氏やったんか?」

「『現時点では』違いますね」

「言うやないか、イケメン。なら、勝負しよか?」

「勝負?」

「ルーキーズマッチ。ウチに指一本でも触れられたら、エリカはんを諦めたる。それもできんくらいなら、身を引きや」

「俺が勝ったらどうするんですか?」

「その時は、ウチが二号さんにでもなったるわ」

鼻で笑って席を立つ犬神さん。


美人は悪役をやっても映える。


優雅に出口に向かい。

2・3歩進んで振り返る。

「……光。一緒に帰らんの……?」

「どうして? せっかくだし、ユトユトともう少しお話しする」

「いや、そんなこと言うても……。空気ゆうもんがあるやろ? ウチにどんな顔して残れ言うねん?」

前言撤回。

美人も情けない時は情けない。


「? 彰一人で帰ればいいんじゃないかな?」

そんな犬神さんに茜嶋さんの無情の追撃!

顔を青くして犬神さんが絶句している。

……さすがにこれはちょっと、と俺が思っていると。


「……ゆ」

「ゆ?」

「悠斗君のアホタレー!」

と大声を出しながら、犬神さんは走り去っていった……。


「モテる男はつらいねー」

と小野。

「今のは、単純な罵倒には聞こえなかったけど……。あれも好意表現?」

と麗華さん。

「ううん。彰は女の子の方が好きだから」

と茜嶋さん。

というか、この二人しゃべり方似てるな……。


しかし、途中まで完全に脇役だったのに、最後の最後で一番直接的に罵倒された俺は一体何者だ?

いや、それより。


「…………」

じっ、と三村に視線が集まる。

「……無謀なのは分かってるよ。でも、あの場合はしょうがないだろ?」

「いや……」

それより何より。


「三村って、エリカのこと好きだったのか?」

「そこかよ!」

三村がホームドラマのお父さんみたいな恰好で突っ込んでくる。


「どう見たって惚れてただろ! 何で気が付かないんだよ!」

「と、言われましても……」

嫌いじゃないとは思ってたけど、片思いまでいってるとは思わなかったんです……。


「宗一君は誰とでも結構フランクに話すから、分かりにくくても仕方ないよ。だから誰も難聴系主人公ウゼエとか思わないから安心していいんだよ、悠斗君」

小野が慰めて(?)くれるが、難聴系主人公ってなんですか?

「私も全然気が付かなかった……」

「……まぁ剣さんは仕方ないよ」

と小野。うん、俺もそう思う。


……しかし、だとすると。


「ちょっときつくないか?」

「分かってる……」

うなだれる三村。


犬神さんは高速移動系最強にして最速のBMP能力者。

ある意味で、三村が目指すべき最終目標。

まともに勝負するのは、いくらなんでも早過ぎる。

……告白前から、なんてハードルの高い恋だ……。


「特訓するしかない……!!」

と三村は決意しているが。


「彰は強いよ」

茜嶋さんが口を挟む。

「茜嶋さんの方がポイントは上ですよね?」

「一対一となるとまた別の話。確実に勝てそうなのは、私の知る限りでは蓮くらい」

「城守さんですか……」

さすがにあの人なら勝てるかもしれないが、BMP管理局長にルーキーズマッチの特訓を手伝ってもらう訳にもいかない。


「麗華さんは?」

『歴代最強』の城守さんを追い抜きそうな最強ウエポンさんに聞いてみる。

「勝てる確率の方が高いとは思うけど、絶対はない。私は近接特化してる訳でもないし」

「近接特化型ではないけど、万能殲滅無敵型って感じだよね……」

小野の余計なツッコミに俺も深く頷いてしまう。

「なにより、あまり人にものを教えるのに向いてない」

という麗華さんの言葉に、さらに深く頷いてしまう。


ということで、三村特訓の教官像をまとめると。

①城守さんクラスの実力者で。

②近接特化型で。

③しかも人にものを教えるのがうまくて。

④放課後特訓に付き合ってくれるくらい身近な人。

ということになる。

そんな人、居るわけがない……。

のが普通なんだけど。


「おかしいな。俺、心当たりがある」

という俺の言葉に、三村や小野はおろか、麗華さんまでが頷く。


そう、居るのだ適任者が。

おまけに、『美人』で『頭脳明晰』で『お嬢様』というプラス属性まで付く!

……まぁ、『ドS』というマイナス属性も付くんだけど……。


……なにはともあれ。


「頼むしかないか」

賢崎さんに。

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