考察『ギュッテスト』
「はぁ……」
新月学園の校門をくぐったあたりでため息が出る。
体育祭休暇期間中に入院することになったものだから、学校にくるのは2週間ぶりくらいなのだ。
ただでさえ成績悪いのに、この遅れは正直洒落にならない。
「大丈夫。世界を救った休暇なんだから、誰も責める人なんていない」
と、一緒に登校する麗華さんは慰めてくれるが、世界を救っても俺の赤点は回避されない。
「大丈夫。悠斗君の赤点と出席日数に関しては超法規的措置が取られる予定。留年の心配はない」
「……勉強します」
こんなことで我が国政府に超法規的措置を取らせたら、麗華さんのおじい様に殺されかねない。
◇◆
ということで、我がクラス1-C前まで来た。
「ドアを開けるの緊張するな……」
「大丈夫。いきなり襲撃されるようなことはない」
「そりゃそうだけど……」
ドアを開ける。
と。
いきなり柔らかいものがぶつかって来た。
「!?」
続いて胸元にふにゃりとした感触。
微香が鼻を刺激して。
胴回りを拘束される。
「れ……れれ、麗華さん……!」
お、襲われましたけど!
と。
「あら違いますよ? 酷い人ですね」
と、頬で頬を撫で上げられる。
「私の感触。もう忘れてしまったんですか?」
最初から知らんけど!
というか。
「け……」
「何やってるの、ナックルウエポン……?」
麗華さんが静かな声を発する。
イメージで言うと、見えない手が賢崎さんの襟首を掴みあげるような感じ。
「もちろん、再会のハグですが? 御存じありませんか?」
「御存じだけど、今やる意味が分からない」
「もちろん、私が、今、それをしたかったからですが? 何か問題があるでしょうか?」
「ないと結論付けた思考経路が知りたいくらい」
「知りたいんですか? いやらしい人ですね……」
「ちょっと待った! 待った!」
俺は大きな声で制止する。
我が新月学園の校舎は、ウエポン二人の激突に耐えられるようには設計されていない。
そして、徐々に見物人が増えているから是非やめて欲しい。
あと、お尻を撫で回すのも止めてほしい。
「冗談ですよ」
と、賢崎さんが唐突に離れる。
「心臓に悪い冗談は止めてくれ……」
「いえ、ちょっとした実験なんですよ」
「実験?」
「はい」
賢崎さんは誇らしげに胸を張る。
「たくさんの知り合いの前で異性に抱きつかれた時にどう反応するのか? 反射的に拒絶するのか、戸惑いながらも受け入れるのか? それを見るテストです。『ギュッテスト』とでもお呼びください」
「…………」
なんだその恐ろしいテストは?
「澄空さんは典型的な後者ですね。簡単に落とせそうです」
「お……落とされるんですか……?」
と、俺が何故か敬語になると。
「ちょっと待ってナックルウエポン」
麗華さんが口を挟む。
「今のは、悠斗君と恋人関係になりたいということ?」
「!!」
ざわっと。
麗華さんの危険な発言に、廊下に集まった見物人達に動揺が広がる。
「正しい解釈ですね。まぁ、私の場合は早く婚約関係になって子作りする必要があるので、恋人期間は早めに終わらせますが」
「!!!」
再び、見物人たちに動揺が走る。
「や……やばいんじゃないのか、これ?」
「ソードウエポン対ナックルウエポンって、普通に全滅フラグじゃねぇか……」
「先生達呼んで来い!」
「アホか、人類の貴重な戦力を無駄死にさせてどうする? 逃げるように伝えてくるんだ!」
「私達死ぬの……?」
「いや……ただの修羅場だろ、これ?」
「にしては、全然、澄空君が羨ましくないのはどうしてだ?」
聴衆と俺の感想が珍しく合う。
少なくとも形の上では、これだけの美少女二人に取り合いをされているというのに、全くリア充感がない。
……というか、俺、本当に取り合いされてるんだろうな?
と。
「それは困る」
口を開く麗華さん。
「何か問題でも?」
「悠斗君は、現在私と同居関係にある。ナックルウエポンと恋人関係になられると、色々と不都合が生じると思う」
「? 同時に私と同居関係にもなればいいじゃないですか?」
「!?」
麗華さんが息を飲む。
「さすがナックルウエポン……」
そして、感心する。
「いや、ちょっと待って麗華さん」
話が逸れている気がする。
というか、どんどんまずい方向に向かっている気がする。
「つまり悠斗君の選択肢は、①ナックルウエポンと恋人関係かつ同居関係になる、か、②私と同居関係かつ恋人関係になる、ということ……!?」
「いや、ほんとに、ちょっと待って、麗華さん!!」
今、思考が2段階くらい飛んだ!
「な……ナックルウエポン。少し話が急すぎると思う。結論を急がないで……」
「急がせたつもりはないんですが、申し訳ありませんでした……。まさかそこまで混乱されるとは思ってなかったもので……」
上目使いで譲歩し合う最強ウエポン二人。
殲滅戦闘が回避されたので、見物人兼新月学園生達は、胸を撫で下ろしていたが。
俺は最後まで状況を把握することができなかった。