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BMP187  作者: ST
第四章『境界の勇者』
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終幕に向けての準備期間

首都の一角。新月学園にほど近い繁華街。

授業終了間際の時間帯に、新月学園生徒と新月学園養護教諭が歩いていた。


……さぼりとも言う。


「授業が終わってからで良かったんじゃないかしら」

「人間の授業なんか、僕にはね……。ミーシャの方がよっぽどまずいんじゃない?」

「だから、勤務時間が終わるまで待てって言ったんでしょうが……!」

唐突に怒りを露わにし、ポカポカと殴りかかる新月学園養護教諭にして四聖獣、ミーシャ・ラインアウト。

「つ、付いて来てなんて言ってないよね!?」

普通に涙目になりながら反論するのは、新月学園生徒にして四聖獣、小野倉太。


100年変わらない関係性。


しばらくポカポカ殴り続け。

「もう……」

と、息を吐き。

もう一回、ボカと殴り。


「いい、ソータ」

「いいけど……。最後の一発、絶対余計だったよね……?」

「いいから」

と、さらにもう一発殴るミーシャ。

レオが消滅してから、明らかに殴る回数が多くなっている。


「何者かは知らないけど、この先で待ってるのはAランクの幻影獣なのよ。あんた一人じゃ危険でしょうが?」

「僕だってAランク幻影獣だよ」

「あんたは四聖獣最弱でしょうが!?」

「……そんな身も蓋もない……」

落ち込む倉太。


「というか、相手、本当にAランク幻影獣なの? 100年間、僕ら以外のAランクに会わなかったのに、突然現れるとか……」

「101年目に会ったって不思議じゃないでしょ、別に?」

平然と答えるミーシャ。


四聖獣というのは、たまたま一緒に行動していた四体のAランク幻影獣が名乗り出した呼称に過ぎない。

それ以外に、Aランク幻影獣が何体居るのかなど、良く知らなかった。


「おまけに、悠斗君の症状についても知ってるなんて……」

「まぁ、そっちはあんまり期待できないけど、ダメ元ってことで。……って、ここか」

と、見上げるのは、ありふれた雑居ビルの屋上。

テナントのほとんどが夜からの飲食店らしく、ほぼ無人に見える。


◇◆


半信半疑ながらもエレベーターに乗り込み、鍵のかかっていない扉から屋上に出る二体。

そこに待っていたのは……。


「あれかな?」

「他にないでしょ、どう見ても」

頷き合う小野とミーシャ。


幻影獣やBMP能力者に特有のプレッシャーは感じない。

しかし、待っていた者は、どう見ても人間ではなかった。


ベースは、美しい人間の女の姿。

しかし、右の肩甲骨のあたりから、羽毛のような純白の羽が生えている。

左の羽はない。

というよりも、左側は、肩から先がなかった。


「来ていただいて、ありがとうございます」

機械音声すれすれの透明な声音が響く。


敵意もプレッシャーも感じないが……。


「どう思う? Aランク幻影獣だと思う?」

小野の耳元で質問するミーシャ。

「? 会ったことなかったの?」

「初めてよ」

「じゃあ、どうして、Aランク幻影獣だと思ったの?」

「携帯メールを使う幻影獣なんて、Aランクに決まってるじゃない」

「……そんな見分け方なの……?」

超適当なミーシャに、さすがの小野も絶句する。


と。


「『四聖獣』を名乗っている……、ミーシャ・ラインアウトに、小野倉太、ですね?」

隻腕隻翼の女性が質問してくる。

四聖獣を見れば分かるように、Aランク幻影獣はそれなりに表情豊かなはずなのだが……。

彼女には、表情が全くない。

美しい女性の顔が、能面のように張り付いたままである。


「僕らのことはそれで間違いないけど。……君は?」

「ザクヤ・アロンダイトと申します。『はじまりの幻影獣』でも『神獣』でも、御自由にお呼びください」

全く抑揚のない口調で、自己紹介をするザクヤ。


「ちょっと待って、貴方。今さらっと、とんでもない二つ名を名乗ったけど、物凄い説明を要するわよ?」

さっそく噛み付くミーシャ。

「どうぞ」

に対して、さらっと促すザクヤ。


「まず、『はじまりの幻影獣』って何?」

「『約束の幻影獣』と対になります。物語の始まりと成長を司ります」

「じゃあ、『神獣』は? 魔女さんが言ってた時は適当に話合わせてたけど、本当にそんなの居るの?」

「『魔獣』と対になります。属性や性質を表しているというよりは、立場を表しています。人間が名づけた呼称ですので、あまり気にしなくてよいかと考えます」

「『約束の幻影獣』って何?」

「私と対になる神獣です。コレを倒すことが私の最終目標です」

「『魔獣』って何!?」

「神獣と対になります。属性や性質を表しているというよりは、立場を表しています。人間が名づけた呼称です」

「『約束の幻影獣』を倒すとどうなるの!?」

「世界が救われます。もしくは、終わります」

「貴方が何言っているのかさっぱり分からないんだけど!? なにそれ、レオの真似!?」

「落ち着いて、ミーシャ」

キレ始めたミーシャを小野が宥める。


「だって、この子。訳わかんないんだけど!?」

「いや、だいたい分かったよ」

「え?」

「この子、悠斗君の匂いがするんだよ」

「へ?」

疑問符を浮かべるミーシャ。


「表現としては、澄空悠斗から私の匂いがする、の方が適切かと思われますが」

「どっちでもいいよ」

訂正するザクヤに対して、小野が静かに凄む。


「もう、これは僕ら四聖獣のゲームだ。君が原作者だとしても、今さら口出しして欲しくはないんだけど?」

「口出しするつもりはありません」

「じゃあ、何?」

「澄空悠斗がBMP能力を使えなくなったはずです」

「ぐ……!」

文字通り、ぐうの音も出なくなる小野。


「あれは、生存本能の一種です。通常の手段では、復帰することはできません」

「貴方なら、どうにかできるとでも?」

「可能です」

「!?」

即答され、ミーシャも黙り込む。


「ただし、現段階では条件を満たしません」

「どうすればいいのよ?」

「ミーシャ・ラインアウトが迷宮に捕えている魂を使用してください」

「!? あれは、私のお気に入りよ!」

「ミーシャ?」

いきなり蚊帳の外に放り出された小野がいぶかしむ。


「ただの悲劇では駄目なのです。澄空悠斗が最後の壁を超えるためには、彼の魂を揺さぶる何かである必要があるのです」

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