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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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第三章『パンドラブレイカー』エピローグ

「悠斗様、こう考えてください」

「は、はい」

不必要に胸を押し付けてくる春香さんに、びびりながら答える俺。


「たかが、唇と唇が触れるだけです」

「いや、しかし……」

「唇がお嬢様の第2の感応部位なのは本当です。全く無意味でもないんですよ。ね、雪風」

「…………(こく)」

あれ、雪風君、肯定?


「成功すれば感謝されるし、起きなきゃ起きないで、いー思いができるだけじゃないですか? 合法セクハラです」

「セクハラに合法なんかないと思うんですが」

「みなさんだって、黙ってくれますよね?」

と、みんなを見回す春香さん。


「まあ、それで元に戻るなら、試す価値はあると思う」

真面目な峰は、普通に賛成した。

「前と似たような状況だよなぁ……」

三村が何故か怒らない。

レオの絶望に当てられて、少し心を病んでしまったのか?


エリカは車内で寝てるし。


麗華さんは……。


「!!」

!!!!


「や……やっぱり、こういうのは、良くないよね! 麗華さん!」

「……どうして? 命がかかっているんだから、試さない理由はない」

「い……いや、しかし……」

「やるといい。私の時と同じように」

「!!!!」


全員で仲良く震え始める。


お、怒っているよな、これ、やっぱり!

怒ってなくても、殺されそうなのは間違いない!

というか、怒ってないのに殺されたくない!

いや、怒ってても殺されたくないけど!


「ゆ、悠斗様。分かってますよねー。もちろん冗談ですよー」

「そ、そーですよねー」

「ううん。可能性は高くないけど、試す価値がないほどじゃない」

「「…………」」

元凶と俺は、揃って黙り込む。


死後の裁きとはこんな感じなんだろうか。

もう普通に怖い。


「悠斗様。一緒に死にましょう」

「春香さんが元凶でしょうが……!」

憤りながらも、賢崎さんの唇に視線を戻す。


ごくりと唾を飲み込む。

やっぱり綺麗だ。


「…………」

俺も春香さんも、たぶん大丈夫、とは思ってるけど。

もちろん、絶対はない。

もし万が一戻らなかったら、後悔するどころの話じゃない。


やっぱり、やるしかないのか……。

と、思っていると、賢崎さんと目が合う。


…………?

目?


「全く……。何をやっているんですか?」

「!!」

け、けけけけけけ……。


「賢崎さん!!」

「おはようございます」

腰を抜かしそうになっている俺たちに、クールに挨拶する賢崎さん。


「…………ん。違和感が全然ありませんね。こんなあっさり戻れるとは、少し意外です」

あっさりと立ち上がり、普通に伸びをする賢崎さん。


「ほ、本当に、大丈夫なのか?」

「ええ、全く問題ありません。澄空さんこそ大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

ちょっと頭が痛いけど。


「お嬢様、早いですよ。もう少しで既成事実ができたのに」

「必要ないですよ。もう心まで繋がりましたし」

「へ?」

賢崎さんのセリフに、全員が一瞬ぽかんとする。


融合進化ハイブーストしたじゃないですか?」

「あ……ああ。そういう意味か」

しかし、今の表現、なんか違和感が。


「ソードウエポン、お見事でした。貴方のカラドボルグがなければ、決して勝てなかった」

「ううん。ナックルウエポンがいなければ、そもそも闘う土俵に立てなかった」

お互いを讃えあう賢崎さんと麗華さん。

こういうの、いいよなぁ。


「でも、一番頑張ったのは、やっぱり澄空さんですよね?」

「うん。本当に凄かった」

「あ……いや、俺は助けられただけで」

と、謙遜でも何でもない謙遜をしようとすると。


「【次】も頑張りましょうね、澄空さん」


…………。

「…………え?」

次?


「? 賢崎の勇者様なんだから、当然でしょう?」

「ちょっと待って、ナックルウエポン」

「はい?」

融合進化ハイブーストは、お互いに負担がかかり過ぎる。あまり使わない方がいい」

「それはもちろん分かってますよ。でも、いざという時はしょうがないですよね。もう他の人とはできないんですから」

「…………」

あ、あれ?

何か雰囲気が……?


「【絶望の幻影獣】にも負けないくらい心を通じ合わせた二人なんですから、どんな困難にも立ち向かえますね♪」

「それはおかしい。融合進化ハイブーストと心を通じ合わせるには関連性がない」

「いえ、通じ合いましたよ。義兄さんにも了解もらいましたし。……ね。澄空さん」

「ち、ちょっと待って待って!」

何言ってるのかさっぱりわからないが、とりあえずちょっと待って!


と。


「あん、悠斗様。私、怖いー」

「ちょ、春香さん。邪魔しないで!」

春香さんがわざとらしく背後から抱きついてくる。

「…………(ふるふるふるふると)」

「雪風君も微妙に邪魔!」

雪風君まで、意味もなく前から抱きついて来る。


「一人のテイマーに、ウエポンは二人も要らない」

「激しく同意です。はっきりさせましょうか、ソードウエポン?」

「望むところ」

構えを取る最強ウエポン二人。


って、『望むところ』じゃねぇ!!


「だから、待てって! せっかく救った世界を滅ぼす気かー!」



☆☆☆☆☆☆☆



という、上記、痴話げんか(※たぶん)を眺めながら。


「なぁ、三村」

と、峰が三村に話しかける。


「なんだよ?」

「いや、なんというか……」

峰は、一瞬沈黙し。


「発作は大丈夫か?」

「へ?」

「いや。おまえは、クラスメイトが三角関係を作っていると発作を起こすんだろう? 俺には良く分からんが、あれは三角関係じゃないのか?」

「あ……ああ。その話か……」

大真面目な峰に苦笑しながらも、三村は少し真面目な顔をする。


「いや、どんな美味いステーキでも、食い過ぎると飽きてくるだろ?」

「?」

「極上ステーキの後に高級寿司とかくると最高なんだけど、ステーキ→ステーキ→ステーキ、だとキツクないか?」

「??」

峰の頭上に、はてなマークが乱舞する。


「いや、だからな。ハーレムの魅力は多様性だと思うんだよ。巨乳→ロリ→クール→天然、みたいな」

「……すまん、三村。結論から言ってくれ」

早々に根を上げる、二次耐性のない峰。


「……つまりだな。いくら、極上スペック美少女とはいえ、同じようなタイプに惚れられてもそれほど羨ましくないというか……。むしろ、気の毒というか」

「? 同じ?」

と、麗華たちを見る峰。


「似てるか……?」

「似てるよ。そっくりだ」

妙に男前な口調で言う三村に、峰ももう一度視線を戻す。


剣麗華と、賢崎藍華。


最強幻想を具現化する女神と、接近戦最強の魔女。


戦闘能力はほぼ互角。


あらゆる戦術を無意味にする天性と、あらゆる策を見破る魔眼。


財力・権力ともに、おそらくこの国で最も恵まれた二人であり。


浮世離れした雰囲気の美女と、怜悧な印象の美女。


共に常識では考えられないレベルで文武両道を兼ね備え。


操るのは、剣と拳。


それから……。


「なるほど」

と、式姉弟を引きずりながら二人のウエポンの間に飛び込む澄空悠斗を見て、峰が呟く。


「そっくりだ」



◇◆◇◆◇◆◇



8人の人間以外に何もなくなった荒野。

遥か遠くにシーポートのロビー部分であったものの残骸が見える場所で、二体の幻影獣が立っていた。


「まさか、レオが負けるなんて。どうなってるの、あの子は……」

美女に扮する幻影獣が呟く。

「レオのBMPは393。実効BMPで193。レオを倒せないようじゃ、どのみち境界にはたどり着けないよ」

少年に扮する幻影獣が答える。


「レオが悠斗君に仕掛けるって言った時に、あんたが何も言わなかったのは、こうなることが分かってたから?」

「信じてた、でもいいけどね」

「レオは絶望と破壊を司る最強の幻影獣なのよ」

「絶望は希望を育み、破壊の後には創造が産まれる。テンプレ通りだと思うけど?」

「……あんた、本当に幻影獣?」

呆れた顔でミーシャが言う。


「で、どうするの? 最強の幻影獣が倒されても、悠斗君は境界に至らない。ゲームは失敗?」

「いや、これでようやく最終章が始められるんだよ」

悠斗たちに背を向けて歩き出す小野倉太。


「ちょ、ちょっと待ってよ。あんたのBMPは361でしょ? 殺すだけじゃ意味がないし、どうやったって、悠斗君を境界に導くのは不可能よ」

慌てて追いかけるミーシャ。


「一瞬でいいんだよ、超えるのは」

「?」

「この旅行に来る前くらいかな。ようやく【コア】の制御の算段がついたって連絡があったんだよ」

「!」

ミーシャの足が止まる。


「ソータ、死ぬ気?」

「幻影は消えるだけだよ」

「言葉遊びはいいから」

「……」

小野が振り返り、ミーシャと向かい合う。


「ひょっとして、寂しい?」

「殴るわよ」

「殴ってから言わないでよ……」

幻影獣のくせに、頭を押さえて涙目になる小野。


「もう普通に悠斗君とラブラブしたら? なんとでもやりようはあるでしょう? 協力はするわよ」

「駄目だよ。悠斗君の方に時間がない」

「……副首都区は私たちにとってもパンドラの箱よ。何が起きるか分からない」

「ドラゴンもいるんだっけね?」

「……協力しないわよ」

「最後くらい協力してよ」

「……」

「……」

二人はしばらく見つめ合い。

やがて、ミーシャがため息を吐く。


「あんた一人じゃ、いくらなんでも心配よ」

「ありがとミーシャ、愛してるよ。悠斗君の次にだけど」

「それはどうも」

呆れた顔で。

しかし、どこか寂しそうなミーシャ。


「でも、【コア】の扱いには本当に気を付けてよ。あんたは、悠斗君とイチャイチャできればいいかもしれないけど、本当に世界を滅ぼす代物なのよ、アレ」

「大丈夫だよ」

自信満々に。

「パンドラにもラプラスにも」

幻影獣は言う。



「澄空悠斗は倒せない」




第三章『パンドラブレイカー』完。

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