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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
160/336

運命の破り方(上級編)

咆哮が障壁を撃ち抜いた感触はある。

けど、一瞬意識が飛んだ。


気が付いたら、麗華さんのカラドボルグは消え、レオと俺の咆哮は消え。

俺も麗華さんも。

それからレオも。


何事もなかったかのように立っていた。


「駄目……か」


寿命が縮まったかのような、どうしようもない脱力感。

思わず倒れかけたところを麗華さんに支えられる。

麗華さんも同じくらい消耗してるはずなんだけど……。


「大丈夫、悠斗君?」

麗華さんの言葉も視線も姿勢も、戦闘開始前と一切変わりがない。


「あ……ああ」

あんまり大丈夫じゃない。

もう最後かもしれないのに、最後まで対等にはなれないのか……?


「あ……」

思わず声が漏れる。


レオが近づいて来る。

至高の咆哮(ライオンハート)一発で確実に終わる状況なのに……。


「麗華さん。俺のことはもう……」

「良くない」

一言の元に否定される俺。

その言葉には、あまりに迷いがなくて……。


と。


「情けない顔をするな、澄空悠斗」

「え?」

意外なレオの一言に、思わず顔を上げる俺。


「俺に勝った人間なのだからな」

「あ……」

気付く。

レオの左胸に、小さな風穴が空いている。


「見事な咆哮だった。文句の付けようがないな」

「…………」

レオの左手が、さらさらと散っていく。

砂のように。

あるいは。


「幻影は消えるものだ」

「レオ……」

「もう少し勝ち誇れ、澄空悠斗。敗者の気分に酔えないではないか」

「…………」

勝ったという実感は全くない。

力を借りたのはもちろん。

……どちらかというと。


「負けなかった……って感じだ」

「絶望に対して、それ以上の勝利宣言があるか」

レオが笑う。

左腕だけでなく、全身の密度が薄れているように見える。


「やれやれ……。俺にとってこれ以上の喜びはないというのに……」

「?」

「未練など抱くとはな」

「え?」

薄れているレオの身体。

もう幻と区別がつかない。


「俺はいつでもどこにでもいる。そのうちまた闘おう」

と言い残し。



レオの姿は掻き消えた。



「……どこにでも、か」

本家を倒したんだし、もうしばらくは、くじけることもないのかな?


「悠斗君?」

「ん。大丈夫」

軽く麗華さんを押して、放してもらう。


「勝った……かな?」

「大丈夫。今度は確実に倒した」

と、麗華さんがお墨付きをくれたから大丈夫だろう。


……それはいいんだけど。


「ん?」

と首を傾げる麗華さんが、普通すぎる。

今、絶望を乗り越える的な、世界を救うクラスのラスボス戦を戦った直後だというのに、どうやったら、そんな普通にできるんだ?


「?」

「…………ったく」

賢崎さんの方が、まだ感情表現豊かだよな。


《らしいぞ?》

《私は豊かですよ。ダウナー系なのは、ただのポーズです》

《……いや、大将のはダウナー系って言うのか……?》

《……というか》


「悠斗君、どうかしたの?」

「いや」

とんでもない子を好きになったもんだと思っただけだ。


ま、今さら後悔しても遅い。


「ナイスファイト。麗華さん」

軽く右手を上げて、麗華さんとハイタッチをしようとする俺。


が。


「…………」

「……麗華さん?」

麗華さんが右手を合わせてこない。

というか、ちょっと怒っている?


「悠斗君。それは良くない」

「へ?」

何が?

ひょっとして、片手ハイタッチには、BMPハンター的に良くない謂れかなんかがあるのか?


「さっきも言ったように、カラドボルグで至高の咆哮(ライオンハート)を引き裂くのは、至難の業だった」

「あ……ああ」

それは覚えているけど。


「こう見えて、私は結構堅実派。確実じゃないことはあんまりやらない」

「は……はぁ」

まぁ、この子がいちかばちかをやらないといけないのは、今回みたいな超例外だけだろうからなぁ。


「……検証もせずに実践したのは、悠斗君が危なかったからなんだよ」

「は……はい……?」

それは嬉しいんですけど。


「…………二回目なんかは本当に、うまくいったのが奇跡」

「う……うむ」

「…………幸運だけじゃなくて、私もたくさん頑張った。悠斗君と同じくらい」

「わ……分かってる」

「表情が乏しいから分かりにくいだけ。実は、凄い頑張った」

「いや、分かってるって」

ほんとに、どうしたんだ、麗華さん?


「なら」

「ん?」


「なら、もっと褒めないといけない」


…………?

は?


「……《ナイスファイト》では、素っ気なさすぎると思う。頑張った時には、それなりに褒めないといけない。私は意外と、褒められると伸びるタイプ。……だと思う」

「……………………」

「…………だと、思うんだけど」


…………。


《…………》

《……だから言ったでしょう?》

《はへ?》

《ソードウエポンは、可愛い女性なんですよ》


「…………」

どうしよう。

屋外でなければ、正直押し倒したい。


《やめとけ》


だな。


「麗華さん」

「ん?」

「麗華さんが……」


世界で一番だ。



☆☆☆☆☆☆☆



「ぷはっ」

と、瓦礫の下から三村が姿を現す。

「終わった……みたいだな」

続いて峰も。


「エリカは?」

「最後の澄空の技にあてられて気絶してる」

「まぁ、無理もないが……」

言いながら周りを見回す峰。


瓦礫なのはロビー部分だったところだけで、それ以外は綺麗さっぱり何もなくなっていた。

周りは完全な荒野なので、この瓦礫の下に隠れていたのは誰でも分かる状況だが、とっくにレオの興味は失われていたのだろう。


「とりあえず、澄空に声をかけるか」

「いや、ちょっと待て」

と、三村が携帯電話を取り出す。


「普通に壊れてない。やっぱり、我が国の技術力は大したもんだな」

自国の技術力に感心しながら、どこかにコールする。


「三村?」

「どの道このままじゃ移動できないだろ? 賢崎さん達を呼ぶから、それまで邪魔しないでおこうぜ」

なぜか麗華の頭をよしよししている澄空悠斗を見ながら言う。


「意外だな」

「何がだよ? 言っておくが、賢崎さん達の携帯番号を聞いたのは、もしもの時の連絡用だぞ? 決して、弱ナンパ属性をこじらせたからじゃないぞ?」

「いや、そうじゃなくてだな……」

「じゃあ、何だよ……。あ、ちょっと待て。もしもし、三村です」

「…………」

真剣な顔で通話を始める三村を見ながら、峰は思う。


(モテたいなら、なぜ普段わざわざ誤解させる言動をするんだ、こいつは?)


と。



☆☆☆☆☆☆☆



結論から言うと。

ほぼ全員無事だった。


安全圏に避難していた春香さんと雪風君(※と賢崎さんの身体)は、三村の電話で引き返してきてくれた(※しかも、車二台で。普通に助かる)。

三村と峰も無事(※変な縛られ方をされてたせいで、腰がバキバキに痛いらしいが)。

エリカは車の中で寝かせている。もちろん医者には見せた方がいいが、とりあえずは問題ないと春香さんが言っていた。

俺と麗華さんも、もちろん無事。


じゃあ、何が『ほぼ』なのかと言うと。


「お嬢様ー。朝ですよー。起きないと遅刻しますよー。お嬢様ー」

すでに暗くなり始めているのに、微妙なギャグを交えるのは、もちろん春香さん。

そう。賢崎さん(※の身体)が眼を覚まさないのだ。

言われた通りに、賢崎さんの右手をしっかり握りしめているのに。


「これは……本格的にセクハラして欲しいという、お嬢様なりの乙女心でしょうか?」

「セクハラと乙女心を同じ文脈で使わないでください」

ある意味麗華さん以上に、全く普段と変わらない春香さんに苦言を呈する俺。


「精神が溶け合ってしまってるのなら、発展継承イノベーションなんて、スーパーチート演算ができるはずもないし……。雪風、何かわかる?」

「…………(ふるふると)」

「なるほど。お嬢様と悠斗様がキスをすれば元に戻ると」

「! …………!(ふるふるふるふると)」

「という訳で、悠斗様。お願いします」

と、春香さんが賢崎さんの頭を起こす。


「雪風君、どう見ても否定してるんですけど?」

「御心配なく。雪風は、こう見えてツンデレです」

「言ってる意味が分かりません」

「いいから早く既成事実を作ってください。そうじゃないと、私が代わりにお嬢様を襲います」

「春香さん。お願いですから、少し落ち着いてください」

右手で賢崎さんの手を握りしめながら、左手で春香さんを落ち着かせようとする俺。

雪風君も止めようとしてくれているが、長くはもちそうにない。



★☆★☆★☆★



☆長くはもちそうにないらしいぞ。


★ですね。本当に困った人です。


☆なぜ、戻らないんだ?


★春香が変に煽るから呼吸が合わないんですよ……。


☆本当に迷惑な巨乳だな。


★全く……。彼女だけは、昔から全然変わりません。


☆……。


★……。


☆…………。


★…………翔さん。


☆あん?


★今回奇跡が起こせたのは、貴方の力も大きかったと思います。……ありがとうございました。


☆大将ほどじゃねぇよ。


★藍華でもいいですよ。


☆デレんなよ大将。


★別にデレてはないですが。


☆……。


★……。


☆…………。


★……次、貴方を呼ぶときにはどうすればいいですか?


☆呼ぶな。


★……。


☆この技も、もう使うな。大将にも悠斗にも負担がかかりすぎる。


★それには同意ですけど。


☆なんだよ?


★【ここ】が居心地のいい場所なのは私も同意ですけど。それだけだと、胎内から出たくない赤ん坊と同じですよ。


☆……もう死んでんだ。くそったれだった人生の分、少しいい思いをして、何が悪い。


★いえ、悪くはないです。


☆……。


★……。


☆……普通に。


★はい?


☆普通に呼べ。声だけはいつでも聞こえてる。どうしても必要な時は、出てやる。


★はい。約束しましたよ。

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