勇気の咆哮
「っ!!」
《これは……》
《凄ぇ……》
振り下ろされる刃に合わせて、絶望の理を斬り裂いていく次元断層。
至高の咆哮は完全に引き裂かれ。
次元の刃は、絶対無敵の盾で止められる。
これで、レオとの間の障害は、絶対無敵の盾のみ。
しかも、『咆哮』中で出力が弱まっている。
「悠斗君」
「よし!」
麗華さんの真横で、右手を突き出すようにして……。
頼むぞ、賢崎さん!
《マジで頼むぞ、大将!》
《世界法則演算開始。最優先は威力。他の仕様は全てランクダウンします。補助演算なしでの単独起動も不可。発動不能確率も50パーセント弱》
《いいから!》
《撃ちます》
「劣化複写:至高の咆哮!」
叫んだ瞬間、今まで経験したことのない感覚が身体を満たす。
……たぶん成功だ。
読み通り、この技を複写できないのは、単純に俺の能力不足。
発展継承なんてチート技を成立させる賢崎さんのサポートがあれば、使えないはずがない!
「っと」
咆哮に先駆けて、身体の表面に薄い膜が出現する。
いや、膜じゃない。
これはおそらく、絶対無敵の盾。
どんな攻撃も弾く無敵の盾。
……なんだけど、範囲が狭すぎて麗華さんまで覆えない。
全くもって意味がないが、たぶん、これと至高の咆哮でセットになっててどうしようもない。
このまま行く!
「っぎ!」
右手から『何か』が発生した瞬間、強烈な反動を感じた。
砲撃城塞を撃った時のような物理的な反動じゃない。
世界の理を捻じ曲げているかのような、強烈な違和感。
《こ……こりゃあ……》
《きつい……ですね……》
自分で使うと分かる。
これは間違いなく、普通のBMP能力とは質が違う。
『咆哮』中で出力の弱まっている絶対無敵の盾なら……!
「あ……れ?」
なん……だ?
《こいつは……!?》
俺の至高の咆哮が、半分から前に進まない。
……なんというか。
斬り裂かれているレオの至高の咆哮と……。
「引っ掛かってる……?」
「んなアホな!」
思わず間抜けな悲鳴が漏れる。
だって、そうだろう!?
無形の咆哮攻撃が、同じく無形の咆哮に引っ掛かる訳が……!!
《接触した部分から干渉されてるんです。出力差が痛い……!》
《じゃあ、攻撃範囲を絞ればいいだろ!》
《……駄目なんです。その機能は削除されました》
《な!?》
《攻撃力を再現するのが精一杯で……。攻撃範囲は最大で固定されています。調整は効きません》
「悠斗君」
「だ、大丈夫!!」
だと思いたい!
《こちらも干渉を振り切るくらいの攻撃力を出せればいいんですが》
《無理っぽいぞ!!》
《……ですね》
《ですね、じゃなくてな! 何か案があるんだろう、大将!!》
《いえ》
《?》
《ありません》
《な……何言ってんだ、大将?》
「か……が……く……」
全力疾走で無限に走り続けてる最中みたいだ……。
「悠斗君?」
「だ……大丈夫!」
……たぶん。
《大将は、最善の策を選択し続ける魔女なんだろ!?》
《これが【最善】なんですよ》
《あん!?》
《ギリギリの綱渡りを何度も成功させて到達する最善の……最も勝利に近づける展開。【ここ】が、私のEOFが見れたゴールです》
《…………》
《確率にして、1パーセント未満といったところだったでしょうか。ここまで来れただけでも、私は、澄空さん達を誇りに思います》
《【これ】が最善って……。大将、最初から死ぬ気だったのか?》
《……自殺に付き合うつもりはありませんよ》
「か……か……は……」
「悠斗君! もう息が……!」
「だ……大丈夫……」
麗華さんだって、カラドボルグでレオの咆哮を斬り裂き続けてくれてるんだ。
これくらい……!
《EOFで見れるのはここまでで……。私一人の力では、これ以上の未来は見えません》
《?》
《だから、力を合わせるんですよね?》
《!》
《【こう】じゃない可能性を……。この先の未来を……》
《…………》
《見せてください! BMPヴァンガード!》
「ぎ……っくしょう!」
ここが正念場なんだ!
全部の力を……最後まで。ある限り、絞り出してやる!
最後の一滴まで……!!
「悠斗君」
「何! 麗華さん!」
今、結構忙しい!!
「逃げようか?」
「それも悪く……。って、はい!?」
何言ってんの、麗華さん!?
「エリカたちなら大丈夫。この状態から、もう一度狙われる可能性は低いと思う」
「そ……そりゃ、そうかもしれないけど。今逃げても……」
「レオの力はもう分かった。ちゃんと準備すれは次は大丈夫」
「…………」
そんなはずはない。
ヤツの力は次元が違う。
俺にでも分かる。
万が一にでも倒せるチャンスは、今しかない。
「私もまだ余力がある。二人で逃げるくらいは問題ない」
「…………」
嘘だ。
賢崎さんの力も借りずに、一人で発展継承モードのカラドボルグでこんな神業をしてるんだ。
余力なんかある訳がない。
「麗華さん……。幻影耐性のあるウエポンクラスが嘘ついてどうするんだよ?」
「嘘なんてついてない」
「俺が……やらなきゃいけない時だ。今は、絶対に負けられ」
「だから、嘘なんてついてない!」
「!?」
れ、麗華さんが、声を荒げた?
「いつもいつも。悠斗君ばっかりが『負けちゃいけない闘い』をしないといけないのはおかしい。負けたっていいはず」
「……麗華さん?」
「強くなくても構わない。死ぬのが怖くても軽蔑しない。逃げたって問題ない」
「……」
「いつか、なんて言わない。幻想の悠斗君なんて望んでない。今のままでいい」
「…………」
「最後までエリカ達を見捨てなかった……。優しい悠斗君が、一番好き」
「!!」
「だから逃げよう、悠斗君。……ね」
「ぐ……」
この人は……。
肝心なことが分かってない!
俺は、麗華さんに嫌われたくないんじゃなくて。
できたら。
「……っ!」
《や……やべえぞ、大将! 悠斗の出力が弱まってきやがった!》
《? いえ、違います!!》
《あん!?》
《これは……。攻撃範囲を絞っている!?》
自分のできることを完全にやり切るのがプロの仕事。
良くは知らんが、おそらく人生の9割9分はそれで十分なはず。
なので今は。
「残りの1分……だな!」
「悠斗君?」
状況の変化に、麗華さんが疑問符を浮かべる。
発展継承の仕様について、俺なりに仮説を立てた。
劣化複写したBMP能力を、賢崎さんの演算能力を借りて進化させる。
これはおそらく間違いない。
進化の上限は、実効BMP値の上限まで。進化の回数は1回のみ。進化させてしまえば、融合進化中は、旧ヴァージョンは使えない。
《大将……》
《せ……正解です》
それから。
進化は必ずしもパワーアップを意味しない。
例えば。
『最大』の攻撃範囲を『最小』の攻撃範囲に変更する。
とかでも、可能なはず。
《そ……その通りですけど! 半径100キロの殲滅攻撃……。一人で一軍……いえ、それ以上に匹敵する最強の矛を失うことになるんですよ?》
問題ない。
俺には、残念系だったり、硬派系だったり、美少年系だったり、クール系だったり、癒し系だったりと、コンビニの品揃え並みの仲間が居る。
俺一人で闘う必要はどこにもない。
「悠斗君! 至高の咆哮が!」
「よっしゃ!」
俺の至高の咆哮の攻撃範囲が縮小され、接触部分がなくなり。
拳大の直径の直線攻撃が、レオを襲う。
「いけ……!」
俺の咆哮とレオの障壁が激しくぶつかる。
出力が極端に落ちている絶対無敵の盾に、一筋の大きなヒビが入る。
「いけるの……?」
一筋のヒビは二筋に。
二筋のヒビは三筋に。
それから。
無数に。
「今度こそ!」
今度こそ!
……。
…………。
が。
「駄目……」
「ぐ……!」
もう少しなのに、貫けない。
ヒビだらけの障壁に埋まったまま、俺の咆哮は、それ以上前に進まない。
《【咆哮】中は、出力が弱まるんじゃなかったのかよ!!》
《弱まってます、確実に! しかも、威力を一点集中した至高の咆哮なのに……!》
《なんで、貫けない!》
《……ここまでやっても、まだ出力に差がある……。やっぱり、どうやったって、絶望の幻影獣には勝てない……?》
「いや!」
なんとおっしゃるうさぎさん。
まだ、削ってないものがある!
「ゆ、悠斗君! 悠斗君の絶対無敵の盾が!」
「ああ」
そう。
これも要らない。
凄まじく出力を無駄遣いしているのだ。
《でも……。どんな攻撃からも守ってくれる、無敵の盾なんですよ!》
要らない。
俺には命を預けても悔いのない、最高のパートナーが居てくれる。
俺は、俺しか助からない絶対防御になんか、今のところ用はない!
《そんな……。自分から、最強の矛と盾を捨てるなんて……》
《違うな》
《え?》
俺のやることはただ一つ。
《これが【最強】だ》
やつを……最強の幻影獣を。
《澄空悠斗が【最強】だ》
絶望の幻影獣を。
《誇れよ、大将》
レオを。
《大将がどれだけ自分のことを嫌いかは知らねぇが》
倒すだけだ!
《男を見る眼は、超一級品だぜ》
《…………はい!》
咆哮を発する右手に、左手を重ねる。
レオと同じ体勢。
《やれ、藍華!》
《はい! 世界法則演算開始! 不可逆の変性。完結から無限へ。万能から可能性へ。絶望から勇気へ! 命名!!》
《ぶちかませ、悠斗!》
合点承知!!
《《「発展継承:勇気の咆哮!!!」》》