最強の幻想
「麗華さん!」
駆け寄る、俺。
「悠斗君、大丈夫?」
「だ、大丈夫! 完全に死んだと思ったけど!」
「さっき言った通り、悠斗君には、私が……ソードウエポンが付いてる。そんな簡単には死なない」
《ナックルウエポンも付いてますよー》
《今言っても、あかん……》
「って、そういや、エリカ達は!」
と、振り返ってみると。
「いない! なんで!? 足場は無事なのに!?」
「悠斗君、大丈夫」
パニクりかける俺を、麗華さんが諭す。
「さっきの戦闘の隙に、エリカ達の拘束は解いて来た。スカッド・アナザー4体も、ちゃんと倒しておいたから大丈夫」
「そ……そうですか……」
凄ぇ。
やっぱ、この子、色んな意味で優秀すぎる。
と。
「驚いたな……」
レオが驚いている。
「まさか、こんな切り札があるとは……。どうりで、あの時、自信満々だったわけだ」
「別に、自信なんかなかった。……一つ目の奇跡が起きただけ」
「え?」
麗華さんの意外な一言に、軽くびっくりする。
「それは悪くないな。……いや。とてもいい」
「?」
「?」
レオの謎のセリフに、俺たち二人の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
いや、それより。
今の技、もう一度できるなら……!
「麗華さん、俺に考えが!」
ちらりとレオを横目で確認してから、麗華さんに話しかける。
大丈夫。
レオは『最後だし、好きなだけ相談するなり語り合うなりすればいい』的なオーラを出している!
「何、悠斗君」
麗華さんもそんな空気を感じ取ったのか、レオを気にしながらも、こちらに向き直ってくれる。
「ない頭絞って考えたんだけど……」
と、麗華さんに俺が考えた作戦を話す。
お互いのIQの差を忘れたわけじゃない。
どっちが考えた作戦が有効なのかなんて考えるまでもない話だけど。
この作戦は……かなりいいと思う!!
《どう思う、大将? ひねくれ者のアイズオブゴールド的には、ありなんだが》
《優等生のEOFから見ても、唯一の正解に見えます。ただ……》
「…………」
「えーと……」
麗華さんが凄い微妙な顔をしている。
結構会心の案だと思ったんだけど、天才さんから見ると失敗なのか?
「や、やっぱ、だめかな?」
「ううん。悪くない……というより、それしかないと思う」
「え?」
まじで?
「ただ……問題もある」
「何?」
と、俺が聞くと、何故か麗華さんは気まずそうな顔をする。
「さっきの技、次も成功するとは限らない」
「……そうなのか?」
まぁ、俺の眼から見ても、凄まじい超絶技巧なのは分かったけど……。
「それに……その案の難度は、さっきの比じゃない。下手をしたら、悠斗君を巻き込んで自滅する。……あの時みたいに」
「麗華さん、それは」
……クラブの時のこと……だよな?
「悠斗君は、それでも、私を……」
「?」
「信じ……られる?」
「!!」
気に……してたんだよな、やっぱり。
答えは、もちろん、考えるまでもない。
「もちろん、信じられる」
「……根拠が知りたい」
「根拠?」
「悠斗君は優しいから、気遣いなのか本心なのか、私には判別が付かない」
「…………」
疑り深い美少女だ。
でも。
あるんだよな、根拠。
「完璧なだけじゃなくてさ」
「?」
いや、もちろん完璧は完璧なんだけど。
それだけじゃなく。
「何でもできる麗華さんのその裏に。……苦手なことにも逃げずに取り組む、麗華さんを知ってるから」
「え!?」
すっごい意外ではあったけど。
今までよりもっと……。
「信じられるよ、間違いない」
「…………だ、誰から聞いたの?」
「それは、秘密で」
一応守秘義務がある。
「……ナックルウエポンの馬鹿」
速攻ばれたが。
ぷいっと横を向いてしまう麗華さん。
怒ったのか、レオの方を睨みつけているのか、今いち分かりずらい構図ではあるが。
「麗華さん。実は、賢崎さんと約束したことがあってさ」
「ん?」
「BMPハンターになることにした」
「え?」
賢崎さんの愚痴を聞くという大目標と共に。
「いつまでも見惚れているだけじゃ、どうかと思うからな」
「…………」
「麗華さんと対等……は無理にしても、少しは使えるかな、くらいにはなりたいんだ」
どうだろう?
少し実現が難しい程度の、いい目標だと思うんだが。
「……」
「……」
「…………」
「…………二つ目の奇跡」
「え?」
「悠斗君、一つだけ」
レオの方を睨みつけたまま、麗華さんが呟く。
戦闘中のためか、頬がほのかに赤い。
「私は、悠斗君のことを、自分より下だと思ったことなんて、一度もないよ」
「麗華さん」
「やろう、悠斗君。その作戦、私も乗る」
と、話がまとまったところで。
「……もういいか?」
レオが話しかけてきた。
ほんとに律儀にここまで待ってくれてたらしい。
「気味が悪いくらい紳士だな……」
「倒すだけなら簡単だがな。ガルアもそうだっただろう?」
その一言で、ガルアとの闘いを思い出す。
確かに最後は俺が勝ったが、あれはどう考えても、ガルアに勝つ気はなかった。
俺が境界を超えるために……。
「一つ聞かせろ、レオ」
「なんだ、澄空悠斗」
「幻影獣は、どうして、人を殺す?」
「……」
「……」
「……放っておいても、自分たちで殺し合うだろう、貴様らは?」
わずかに視線をそらすレオ。
「悠斗君、説得は……」
「もし」
と、麗華さんの制止を振り切って、言葉を続ける。
「【そう】じゃなくなれば、人を殺すことはなくなるのか?」
「……起きてしまったことは変えられん。そんな世界が見たければ、とりあえず、境界を超えることだ」
「……」
「……」
「……あんたの動機は?」
「もちろん、今、この時だ」
と。
レオが両手を重ねて、前方に突き出す。
「絶望は立ち向かうからこそ価値がある。希望が持てない言い訳にされるのはもう飽きた」
空間を埋め尽くすプレッシャー。
麗華さんがカラドボルグを構える。
俺が麗華さんの背後に寄る。
レオの周りの空間が歪み。
破壊の理が撃ち出される。
そして。
麗華さんが、カラドボルグで斬り上げる。
「良しっ!」
《斬れてるぞ!》
至高の咆哮が、麗華さんの次元断層に切り裂かれていく。
やっぱり、麗華さんにできないことなんて……!
「駄目……」
「え?」
予想外の一言に、一瞬固まる。
そして、その言葉を裏付けるかのように、中間地点まで進んだ次元断層がそれ以上進まない。
《なんでだ……?》
《技術的には、恐ろしいくらいに完璧です。けど……》
威力が足りないのか?
……というより。
「至高の咆哮の威力が、さっきまでと全然違う」
焦りの見える麗華さんの表情。
《両手撃ちだからか……?》
「ふざけるなよ……!」
ここまで来て、そんな単純な切り札で……!!
「く……」
「麗華さん!」
でも、押されている。
こんな表情の麗華さんは初めて見る。
正直信じられなかった。
天才で完璧で。
苦手なことからも逃げない麗華さんにできないことがあるなんて。
「だ……め」
「…………」
だからまぁ。
これはこれで諦めがつくというものでもある。
「ごめん、悠斗君」
「いや」
謝らないでいい。
麗華さんにできないなら、たぶん、この世界の誰にもできないから。
「技、借りるね」
「大丈……? は?」
今、何て言った?
《技……?》
《借りる?》
全員が疑問符を浮かべる目の前で。
斬り上げられたカラドボルグが、麗華さんの手から消失する。
空白は一瞬。
次の瞬間には再出現する幻想剣。
だが形が違う。
サイズは一回り大きく。
無駄に壮麗な外見に、さらに追加された装飾。
……というか。
これって……。
俺の次元断層剣verのカラドボルグ?
《再複写……いえ、幻想強化!?》
《まじかよ、おい!!》
「これなら、いけると思う」
「…………」
根本的なことを忘れてた。
「悠斗君、準備はいい?」
「あ、ああ」
俺のパートナーの称号はソードウエポン。
「じゃ、いくよ」
世界最強の幻想の使い手!
「斬り裂け断層剣。カラドボルグ全開」