幻影戦闘『四聖獣レオ』
「くそっ。やっぱり、駄目か……!」
進化版カラドボルグを消しながら吐き捨てる俺。
視線の先に見えるのは、ロビーの真ん中あたりで縛り付けられているエリカ達と、その下でこちらを迎え撃つレオの姿。
背後から全開の次元断層亀裂をぶつけてやったのに……。
《全然効いてねぇ》
《やっぱり、【咆哮中】じゃないと無理ですね……》
《って、やべえぞ、おい!》
レオが右手を振り上げる。
スカッド・アナザーは口が発射口だったが、おそらくレオは右手から『咆哮』を放つ。
……真後ろ以外、半径100キロを消滅させる破壊の理を。
《なんとか、背後に潜り込まないと……!》
《んなこと言っても、ミドルレンジどころかロングレンジだぞ!》
……距離が開き過ぎている。
本来は、もっとこっそり近寄る予定だったけど、こうするしかなかった!
超加速では、どう頑張っても、レオの『咆哮』の方が速い……。
もちろん、俊足でも。……いや、他のどんなBMP能力でも無理だ。
レオが【技を確定してから発動するまで】の間に、【背後】に潜り込まないといけないんだから……。
それこそ、瞬間移動でもしないと……!
《オーダー入ったぞ、大将!》
《い……いきなり、ヘビーですね。…………澄空さん! 出鱈目でもいいです! できるだけ、強く・具体的にイメージしてください!》
……ベースは三村の超加速。
単純な速さだけなら最高ランクのあの技を。
さらに速く。
空間を超えるくらいにまで速く!
《大将!》
《世界法則演算開始。加速の限界。絶対の速度。命名・絶対加速!》
脳内に響く声に合わせて、レオの『咆哮』が轟く。
スカッドやアナザーの上位互換……と言うには、あまりにも質の違う何か。
振り下ろした右手を起点に、破壊の理が周囲に解き放たれ。
我が故郷の誇りである『シーポート』の広い敷地も建物も。
道路も。
その先の港も。
さらにその先の海も。
まるで自発的に分子結合を解いているかのように、空間ごと消滅していく。
麗華さんのシミュレーションを信じるなら、ヤツの『咆哮』は半径100キロ超。
下手をすると、内海全滅どころか、対岸にまで届く。
けど。
発射口の後方にだけは安全地帯がある!
「瞬間移動だと!!」
驚愕のレオ。
一方、俺は気持ち悪い。
越えちゃいけない一線を越えたような感覚がある。SFじゃあるまいし。
過程をすっとばして空間位置だけ変更されるもんだから、正直吐き気を催すほどの違和感。
……全部三村のせいということにしよう。
けど、これなら、先の先も後の先も関係ない!
必ず、俺が速い。
《悠斗!》
《チャンスです、澄空さん!》
「発展継承・幻想剣・次元断層剣カラドボルグ!」
「くっ」
振り返ったレオの左手と、装飾過多な俺のカラドボルグが激突する。
「ぎぎ……」
「ぐ」
《ぐ……おいおい……》
《こ、ここまで振動が……?》
接触点を中心に、自分で言うのもなんだが、人外の衝撃が大気を震わせる。
理と理がぶつかりあっているかのような、異次元の鍔迫り合い。
現実感なんて、どこにもない。
けど、現実だ。
俺の後ろには、エリカ達が居る。
「ぐ……お……おおあぁあああああああああ!」
「く……ぐ……」
と。
ピシッと、音がしたような気がした。
「ち……厄介だな、その剣」
「え?」
苦虫を噛み潰したかのようなレオのセリフ。
これ、ひょっとして、いける?
が。
「え?」
レオの左手がカラドボルグの真ん中程を握りしめる。
右手が剣先を握り。
ぽきっと。
折れた?
「な、なななななななななな! か、か、からど! かっかかかかかか……!」
《お……落ち着け、悠斗! パニくってる場合じゃねぇ!》
《そうです、澄空さん! 良く見てください!》
あ!?
眼前の空間に……。
いや、レオの周囲に張り巡らされている絶対無敵の盾に。
ヒビが……!
「っ!」
反射的に、ヒビに手を潜り込ませる俺。
弾力のあるガラス、としか俺の語彙力では表現しようのない感触を突き抜け。
突き抜け……。
「く……そ!」
あと、10センチ……。いや、あと5センチなのに!!
届かない!!
《悠斗! 砲撃城塞だ! 空気の代わりに、ヤツの力場を圧縮して削り取れ!!》
《ちょっ!! 何、ムチャクチャ言ってるんですか!?》
「っ!」
ナイスアイディア!
《ナイスアイディアじゃないですよ!!》
《頼む大将! もうそれしかない! 草食は嫌いなんだろ!? 敵の力場を削り取るなんて、滅茶苦茶肉食じゃねぇか!!》
《まだ、そのネタ引っ張りますか!? いいでしょう!! だったら見せてください、肉食もいけるところを!!》
《おお、やるやる! あいつ実はたぶん肉食だぜ! 俺は不感症だが!》
《世界法則演算開始! 収集から強奪へ! 砲撃から爆撃へ! 命名・爆撃領域!》
「今度は、こう来たか!」
レオが叫ぶと同時。
くしゃっと、空間……いや、絶対無敵の盾の一部が、握りつぶされたビニール袋のように変形する。
【空気を圧縮して放つ】いつもの砲撃城塞の代わりに、レオの力場を削り取る!
……と良かったんだが……。
「……こ、これ以上は……」
ちょっと無理っぽい。
けど!
「頼むぞ、峰ぇーーー!!」
削り取るだけ削り取って、攻撃力に変えて放つ!!
それも下から、かち上げるように!!
「!!」
自身の障壁と同質の攻撃を受けて、レオの身体が浮き上がる。
俺のほぼ真上。
5メートルほどの高さに。
《絶対無敵の盾、たぶん出力低下!》
《確定情報が欲しいが仕方ねぇ! 悠斗、レーヴァテインだ! 細かいことはいい!! 問題なのは威力だけだ!!》
《あの人の技は、燃費の悪さなら右に出る者はいませんから、簡単ですね! 命名は、【獄炎剣】で行きましょう!!》
「発展継承:幻想剣:獄炎剣レーヴァテイン!!」
斬り上げた剣から膨大な炎が解き放たれる。
現代兵器ではあり得ない、炎そのものによる殲滅攻撃。
シーポートの『タワー』がすっぽり収まるほどの炎の体積。
回避がどうとかいう次元ではない。
天をも焦がす炎が、レオの身体を完全に包み込む。
「よし!」
まぁ、どうせ効かないだろうけど。
ただの目くらましだから問題ない。
本命は……!
「劣化複写:捕食行動!」
召喚した『口』が、炎に飛び込んで行く。
二番煎じと笑わば笑え。
あんな化け物とまともにやってられるか!!
《行けますよ!》
レオが咆哮するよりも早く。
『口』がレオが居た辺りを炎ごと飲み込み。
《完璧だ、悠斗!!》
『口』が閉じる。
「勝っ……!」
た、と思った瞬間。
轟音が。
世界を揺るがした。