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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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ヒーローを待つ時間

「…………ッ!」

オーソドックスに十字に縛られているエリカが、弾かれたように顔を上げる。


「ど、どうした、エリカ?」

三村が心配して声をかける。


拘束されているうえに、いつ殺されてもおかしくない状況である。

いくらBMPハンターとはいえ、体力的・精神的な消耗は激しい。

三村が心配するのも当然だった。

……まぁ、丸焼き豚体勢で縛られている三村の疲労はエリカの比ではないはずだが、意外と元気そうなのはさすがと言うしかない。


それはともかく。


「い、いえアノ……。何カ、震えたヨウナ気がしたんデスガ……」

「震えた? 何がだ?」

「エ……えとデスね……」

三村と同じように適当に縛られている峰の質問に、何故かエリカは口ごもる。


「エト……」

と、地面を見、空を見、こちらに背を向けたまま椅子に腰を下ろしているレオを見、三村と峰を見。

もう一度、空を見て。

「世界……デショウか……?」

思いっきり自信なさげに答えた。


「世界って……」

「すみませんデス。今のは、ナシでお願いシマス……」

困惑する三村に、即座に否定するエリカ。


と。


「いや、あながち、間違ってもいないぞ」

今まで、エリカ達を一顧だにしなかったレオが、椅子から立ち上がって、下から見上げて来ていた。


「どういう意味だ」

「……というか、聞こえてたのかよ今の……」

聞き返す峰に対して、レオの耳の良さに突っ込む三村。

ロビーの高いところで縛られている三村たちと、下のレオとの間は、それなりに距離がある。

小声で話せば、人間の耳で聞き取れる距離ではなかった。


「どんな手品を使ったのかは知らんが、大した力だ。実効BMPで190は超えているか……。一応、あいつの作戦通りか」

三村の疑問を完全に無視して呟くレオ。

「しかも、まだまだ先がありそうだ」

『ソレ』が人間と同じ意味を持つ表情ならば。

レオは、確かに嬉しそうだった。


「これから、どうするつもりだ?」

適当に縛られている峰が問う。


「もう貴様らに用はない。……というより、邪魔だな。そこに居られては、澄空悠斗が闘いにくいだろう」

答えるレオ。

自分で攫っておいて身勝手にも程がある言い分だが、確かにその通りである。

今の澄空悠斗とレオがぶつかれば、周囲の人間はほぼ確実に巻き込まれる。


そして、それを気にしながら闘う澄空悠斗では、レオの相手にならないだろう。


「ここから先のアドバイスは受けていないが……」

と、レオが右手を振り上げ。

「片づけておくか」

エリカ達に向ける。


「……ッ!」

「くそ……」

「まじかよ……」

エリカ達が呻く。


「このクラスのBMP能力者を殺すのは正直惜しいが……。仲間三人分の死体を用意すれば、澄空悠斗の本気を引き出せるだろう」

「……ち、ちょっと待った!」

唐突に三村が口を挟む。


「? なんだ?」

「おまえは、澄空悠斗という人間を分かっちゃいない」

「なんだと?」

(※丸焼き豚体勢のまま)不敵な笑みを浮かべる三村に、レオが動きを止める。


「あいつは、(※たぶん)誰かを守る時に真の強さを発揮する男だ!」

「!」

「!!」

「なんだと……」

レオが興味を示す。


「怒りや憎しみに任せて闘う澄空悠斗など、本来のあいつの100分の1の力も発揮しない(※ような気がしないでもない)!」

「三村さん……」

「三村……」

(※)の心の声部分が聞こえないエリカと峰が、三村に熱いまなざしを向ける。


「しかし、貴様らを守りながら、俺と闘えるとは思えんが……」

「甘く見るな! あいつは、境界をどーとかする男だ(※的なことを新幹線の中で賢崎さんが言っていたような気がする)! 誰かを守りながら闘うのは、あいつにとってハンデになどならない(※といいなと思う)! 人間には絶望より強いものがあると知れ、幻影獣(※それが何かは知らんけど)!」

「く……」

三村渾身のハッタリに、レオが僅かに怯む。


「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……………………」

「…………お前たち人間は、本当に分からん」

と、レオがため息を吐く。


「虚勢の匂いはするが、嘘の匂いはない……。正直、俺には判断がつかん……」

「……」

「……いいだろう。お前の案で試してやる」

「お」

と安心したのもつかの間。


「ただし、一人には死んでもらう」

レオの右手が、三村に向く。


「その方が、より澄空悠斗のやる気が増すと思うのだが?」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……そうだな……」

「三村さん!?」

「三村!?」

「いいバランスだぜ、幻影獣。俺を殺して、二人は人質にしろ。そしたら、最高の澄空悠斗とやり合えるぞ」

「マ……待ってくだサイ、三村さん!」

「馬鹿なことを言うな、三村!」

驚愕の二人を尻目に、三村はむしろ落ち着いた様子だった。


「……本当に人間は分からん」

と、レオは二・三度首を振った後。

「正直、殺すのは惜しいがな」

身体から、周囲の空間を圧迫するプレッシャーを発する。


「確かに良いバランスだ。これで本気を出せないなら、澄空悠斗ではそもそも境界を越えられん」


現実世界に顕現する破壊の理。

四聖獣レオのBMP能力『至高の咆哮(ライオンハート)』が。

人間のものと全く見分けのつかない、その右手から……。


「悪く思うな、人間」

放たれ……。


「!」

なかった!


「な……に!」

驚愕のレオの背中で。

真一文字に空間が裂け。

直後に、開く。


異界の扉が開いたかのような空間亀裂。


「澄空……悠斗か!!」

振り返ったレオの絶対無敵の盾(イージス)と空間亀裂が衝突し、火花を散らす。

空間を揺るがす衝撃が走ったのは一瞬。


異界につながる空間亀裂は、あまりにもあっさりと姿を消した。

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