「決意」の発展継承(イノベーション)
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★確かに、融合進化は全能力を底上げするスキルですから、BMP能力が強化されてもおかしくはないんですけど……。
☆…………。
★澄空さんの劣化複写はオリジナル以上にならない仕様なので、相性が悪いかなと思ってたんですよね……。
☆…………。
★それをまさか。複写されるBMP能力ではなく、複写する仕組みの方を強化……というより機能拡張するなんて。発想の転換というか、発想自体が異次元というか……。
☆…………。
★劣化状態で複写したBMP能力を、独自に発展強化するBMP能力。劣化複写ならぬ発展継承と言ったところでしょうか。
☆…………。
★ところで、少し狭いですね。もう少し、そちらに寄ってもらえませんか?
☆…………ここは一人用だ。
★お久しぶりですね、アイズオブゴールド。10年ぶりくらいですか?
☆バレバレか……。
★金色の瞳のBMP能力者なんて、他に知りませんから。雰囲気が凄く変わっていて、さっきは戸惑いましたけど。
☆……牙でも抜かれたか?
★いえ。亡くなる前より遥かに素敵ですよ。
☆……亡くなった相手と普通に会話する大将の方が凄ぇよ……。
★人格をデータ化するスキルでしたっけ? アイズオブクリムゾンがそんな話をしていたような気がします。
☆それもバレてんのか……。
★翔さんが亡くなった時に、人格をデータ化して自分の中に保管しておく。しばらく後、澄空さんの中にデータ化した人格を転写する。しかも、精神が混じり合ってしまわないよう、ご丁寧に隔離領域まで作って。……神業なんてものじゃないですよね?
☆姉貴は、100回に1回が2回連続で最初に来ただけだ、って言ってたけどな。
★万分の一ですか……。そういえば、澄空さんが旧クリスタルランスメンバーのBMP能力を使えないのは、アイズオブクリムゾンが翔さんに制御権を設定したからですか?
☆大将……。話してて面白くない女だって言われないか?
★? 良く言われますけど?
☆…………。
★何はともあれ、僥倖ですね。少し狭いですが、この隔離領域のおかげで【精神が溶け合ってしまう】という融合進化最大のリスクはあっさりと回避できました。これならいつでも分離できます。
☆…………そいつは良かった。
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「つ……」
カラドボルグを握ったまま、左手で頭を押さえる俺。
頭が痛い……、という訳ではない。
「頭痛は収まってる」
……んだけど。
なんというか。
えーと。
「頭の中が……騒がしい?」
……のか?
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★こちらの声は聞こえない仕様なんですね。
☆強く念じればニュアンスくらいは伝わるけどな。……まぁ悠斗のテンション次第だ。
★外の様子を知る手段は?
☆同調だ。周りをスクリーンに見立てるといい。大将なら簡単だろ?
★あら、ほんとですね。見えてきました。
☆……ほんとに簡単にやるなよ……。
★……?
☆どした?
★いえ、なんというか……。景色が……。
☆……。
★……いえ、なんでもありません。
☆…………。
★しかし、見事な剣ですね。【断層剣カラドボルグ】改め【次元断層剣カラドボルグ】という名前はどうでしょう?
☆……好きにしろよ。
★あら、名前は重要ですよ。これだけ仕様が変わると、技名を管理局に登録し直さないといけないでしょうし。良ければ、ここから先の命名は全て私が引き受けようと思うのですが?
☆? ちょっと待て。他の技も、【こう】なるのか?
★もちろんですよ。劣化複写しているBMP能力は、全て発展継承の対象です。
☆んな馬鹿な。そんな都合よく行くかよ……。
★澄空さんの決意が奇跡を呼んだ……的なノリではいけませんか?
☆ノリとか言うなよ……。俺より、大将の方がよっぽど変わったんじゃねぇか?
★そんなことないですよ。私はもともとこんなです。カマトトと言うんでしょうか?
☆カマトトはいいけどよ……。全ての技を発展させるっつっても、世界法則演算はどうするんだ? こう言っちゃなんだが、うちの悠斗はあんまり頭良くないぞ……。
★それは、私の管轄らしいですよ。
☆あん!?
★さっきもそうでした。澄空さんが、『またかわされるの鬱陶しい』と思ったから、かわされないように私がデザインし直したんです。
☆……まじか……。
★澄空さんが願い、私が形にする。融合進化って、まるで私達のために在るみたいですよね?
☆…………。
★ひょっとしたら、実は、私がメインヒロインなんでしょうか?
☆……知らねーよ。
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「…………っ」
あ、頭が騒がしい。
まるで、頭の中で誰かが騒いでいるみたいだ。
まぁ、賢崎さんと融合進化した途端にこうなったんだから、原因は賢崎さんしかいない訳だが……。
……というか。
この感じ、いつもの謎の(アニキっぽい)声が聞こえる時と感じが似てるんだが……。
賢崎さんが『入った』途端に聞こえるということは、俺の中には、元から誰かが『居る』のか……?
と、突然記憶がフラッシュバックする。
思い出すのは、10年前。
首都橋で大暴れした後に、緋色先生のお姉さんに取り押さえられた時のセリフ。
『私の弟を捧げますから』
それから。
二度目の覚醒時衝動から復帰した後に、緋色先生が言った名前。
つまり。
今まで(たぶん10年間)俺の中に居て。
今現在(たぶん)賢崎さんと賑やかにやっている人物は……。
「緋色……翔?」
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★バレちゃいましたね……。普段自分のことバカバカ言っている割に、鋭い方です。
☆ひでぇとばっちりだ。俺の一人損じゃねぇか……。
★別にバレても気にするような人ではないと思いますが……。というより。
☆あん?
★私の見た感じ、貴方の方が支配権が上に設定されていますよね? その気になれば、この身体を乗っ取ることも可能だったのに、どうしてしなかったんですか?
☆…………。
★乗っ取るでもなく、存在を知らせるでもなく。ただ、【居る】だけ。……アイズオブクリムゾンの意図も分かりませんけど、貴方はどうして、そこまで『安全装置』に拘るんですか?
☆…………。
★この景色に……関係してますか?
☆……大将はあんまり驚いてなかったみたいだけどな。
★え?
☆俺の場合は、大将の比じゃなかった。
★…………。
☆世界は見る人間によって色を変える。ただの綺麗事だとは思ってなかったが、ここまで露骨に見せられたらな……。
★…………。
☆姉貴の思惑なんざ知らねぇ。俺が、もう少しここに居たいだけだ。
★…………。
☆…………。
★…………ひとつだけ。
☆なんだよ?
★お義兄さん的には、私とソードウエポン、どちらが澄空さんのお相手に相応しいと考えているんですか?
☆……………………誰が義兄さんだ。それから、なんだ、その質問は?
★大事な質問ですよ? 今現在の私のやる気に直結する質問です。
☆大将……。それは、脅迫と言わないか?
★? 純粋な好奇心から出た、邪気のない質問だと思いますが?
☆……あのなぁ。
★はい?。
☆…………わーったよ。大将の方に付く。
★良かった。これで、少しは面白くなりそうですね。今のままだと麗華さんが有利過ぎて、澄空さんも退屈するでしょうから。
☆……正直、どっちもお勧めしたくないんだけどな……。
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