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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
150/336

絶望の対処法3 ~『闘い方』を見つける~

「…………(そそっと)」

「ど、どうも……」

と、運転中の雪風君から携帯電話を受け取る俺。

もちろん、俺の携帯電話である。

なくなってたことにすら気づかなかったが、どうも賢崎さんとの戦闘中は、雪風君が預かっておいてくれたらしい。

ほんとに良くできた小学生である。


と、返された携帯電話が急に鳴り出した。


「はい。澄空です」

『悠斗君!? 無事ですか!? 城守です!』

「は、はい。なんとか……」

『一体何があったんですか!? 全員と電話が通じなくなるなんて……。みんな無事なんですか?』

「え、えーと……」

何があったか、どころの話ではないのだが。

今は、全部説明するような気力はないし、全部説明できるわけもないし……。


「すみません。幻影獣の襲撃を受けました。エリカと、三村と、峰が攫われました。麗華さんは連絡取れなくて……。他の人は命に別状ありませんが戦闘不能です」

『な……』

嘘にならない程度に適当にまとめる俺。

詳しく説明したところで、外部からの助けは期待できないし。


……さっきから、頭が痛い。

あまり長く話したい状態ではなかった。


『決して楽観視していた訳ではないのですが……。あのメンバーでここまでやられるとは……』

「【人と幻影獣は本来勝負になっていない】っていうのが、ようやく実感できましたよ」

自嘲気味に呟く俺。

まぁ、自棄になっていないかと言われれば、半分なっているような状態かもしれない。


『死ぬ気ですか? 悠斗君……』

「一応、それは大丈夫だそうです」

今は、魔女の加護を信じるしかない。

というか、頭が痛い。

城守さんには悪いけど、今は少しでも休んでおかないと……。


『私に一つだけレオを倒せる切り札があります』


「え?」

『と言ったらどうしますか?』

「……」

『……』

「…………」

『…………』

「……海上封鎖が解けて、こっちに来れるようになったら、俺の仇討ちをお願いします」

『ふ』

と。

受話器の向こうで、城守さんが微笑んだような気がした。


『【首都橋の悪魔】健在……、ですか』

「え?」

『なんでもありません』

なんだ?

何か、城守さん、嬉しそうじゃないか……?


『悠斗君』

「は、はい……?」

『レオは、至高の咆哮(ライオンハート)よりも絶対無敵の盾(イージス)の方が厄介です』

「え?」

『LCCを希望込の最大限に評価したカラドボルグでも、あの障壁を突破するのは不可能です』

「…………」

『ただし、スカッドの戦闘状況を見る限り、至高の咆哮(ライオンハート)使用時だけは、一時的に絶対無敵の盾(イージス)の出力が下がる可能性が高い』

「……そんなこと言っても」

咆哮された瞬間に、半径100キロは消滅するんだが……。


『レオの咆哮。実は、真後ろにだけは放つことができません』


「え?」

『咆哮の瞬間、真後ろに居ることができれば、勝機があります』

「ま……」

マジで……?

『しかし、やつの【咆哮】は展開が速い。ミドルレンジ以上で撃たれれば、為す術がありません』

「…………」

『誰かが囮にならなければ、難しい作戦です』

「…………それは……」

難しい。

相手がレオでは、囮というより生贄だし。

そもそも、今、一緒に闘ってくれる味方がいない。


『……ショートレンジで、超反応を可能にするBMP能力を使用すれば、背後を取れるかもしれません』

「……それって……」

調律メンテナンス自分掛けのことか?

「あれを……もう一回?」

呟いた瞬間、頭痛が強まったような気がした。


『……』

「……」

『…………』

「…………」

つまり。

①レオに気づかれずにショートレンジまで接近して。

②レオの咆哮に合わせて、調律メンテナンスで背後を取り。

③LCCとやらが載った全開のカラドボルグで切り捨てる。

と、いうことらしい。


複合電算シミュレータの頭脳と、私の長年の実戦経験と、【管理局最強】女性職員の勢いが捻り出した唯一の戦闘方法です。参考にしてください』

「結構、きっついんですけど……」

『ゼロに近い可能性ですからね。難しいと感じるのは当たり前ですよ』

「そりゃそうでしょうけど」

『貴方を倒すのは私なんですから。頑張ってください』

「…………」

…………。


「……あの、城守さん?」

『はい?』

「普通、この会話って、止める流れだと思うんですけど」

『いえ、私も最初はそのつもりだったんですけどね……』

「え?」

『余計な心配だと気が付きました』

「?」


『【絶望】より強い敵を相手にしたトラウマを思い出しましたから』



☆☆☆☆☆☆☆



「ふぅ……」

BMP管理局管制室で、携帯電話を切った城守蓮がため息を吐く。


「ねぇ、蓮にい」

そんな城守に、新月学園教諭にして、BMP管理局特別顧問の緋色香が話しかける。

「切り札って、まさか村正のこと?」

「まぁ、そうですね」

「蓮にいも死ぬ気なの?」

「勝ち逃げされるくらいなら、それでもいいかと思ってたのは事実ですけどね……」

と、城守はなぜか嬉しそうに笑う。


「『俺より弱いくせに外野は引っ込んでろ』と言われましたからね。大人しく、住民避難の指揮に全力を注ぎましょう」

「悠斗君はそんなつもりで言ったんじゃないと思うんだけど……。本当は、止めて欲しかったんじゃ……」

「貴方は【首都橋の悪魔】を知りませんからね」

訳知り顔で言う城守。


「賢崎さんとなら、共感できますかね」



☆☆☆☆☆☆☆



「…………(こくこくと)」

「雪風君、ありがとう」

雪風君は、第37支局の入っているシーポートからは、少し離れた場所で車を止めた。

今の体調だと歩くのが面倒な距離だが、確かにここから先は慎重に進んだ方が良さそうだ。


「……というか、歩くのが面倒、なんて言ってて、レオに勝てるわけもないな」

軽口を叩きながら、勢いよく自動車のドアを開き。

元気よく車外に飛び出したところで。


強烈な頭痛に襲われた。


「ぎっ……が……」

今まで経験したことのない質と強さの頭痛。

まるで、脳みそ自体が悲鳴を上げているかのような……。


今まで考えないようにしてはいたが。

これはやっぱり、調律メンテナンスの副作用か……?

こんな状態で、本当にレオと闘うのか……?


と、いきなり視界が暗転する。

「や……やば……」

為す術なく崩れ落ちそうになったところで、何かに支えられた。


「雪風君」

が、下から支えてくれていた。

「ありがと、雪風君。助かった」

と離そうとするが、離れない雪風君。


「雪風君?」

「…………(ふるふると)」

首を振る雪風君。

「もういいから逃げろ、ってことか?」

「…………(こくこくと)」

頷く雪風君。


まるで【今逃げても誰も貴方を責めない】と言っているかのようだった。

まぁ、俺も、誰かに具体的に責められるとは思わないけど。


「でもな、雪風君」

「?」

「俺が許せないと思うんだ」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……(こくりと)」

雪風君が離れていく。


そのまま何も言わずに(元から喋らないキャラだが)運転席のドアを開け。

ぺこりと一礼し。

車を運転して去って行った。


「さてと」

とりあえずなんか飲もう。


◇◆


戦争後のような有様になっていたシーポートだったが、レオが咆哮を使ったわけではないらしく、全てが消滅していた訳ではなかった。

とはいえ、稼働中の自販機が見つかったのは、やはり運がいいと言うことができるだろう。

ちょっと探すのに時間がかかったが、まだ大丈夫……というか、もう少し休憩しないと闘えそうにない。


「っぷはぁ」

『なんたらの天然水』と書かれたペットボトルを半分ほど飲み、残りの半分を頭から被る。

少しでも頭痛が和らいでくれればと思ったのだが……。

「……痛ぇ」

もちろんそんなことはなかった。


これは、本気でやばい。

短時間の戦闘ならなんとか我慢できそうな気もするのだが……。

「これ、たぶん……」

俺の推測でしかないのだが。

ほぼ間違いないと確信をもって言えるのだが。


……BMP能力を使うと、頭痛が悪化する気がする。


「……い」

一回でいいんだ。

そもそも、レオと長時間の戦闘なんかできる訳がない。

城守さんの作戦通り。

一撃に全てを……。


「って、ちょっと待て!!!」

一人で突っ込む。


なぜなら、俺の視線の先。

20メートルくらい先に、ボロボロの黒いマントを羽織った人影。


「スカッド・アナザー……!」

油断した!

なんの根拠もないのに、もうレオ以外の敵には会わないと決めてしまっていた!!


「く……。お、落ち着け落ち着け……」

痛む頭を押さえながら、自分で繰り返す。

そう、落ち着こう。

相手はたかが一体。

1回で良かったのが、2回必要になっただけのこと。

むしろ、対レオの練習台にちょうどいい!!


相手が戦闘態勢に入る前に……!

劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

で距離を詰めて、咆哮に合わせて背後に潜り込んで、後ろからカラドボルグ!

……と思っていたのだが。


「ぎっ……」

スカッド・アナザーとの中間地点あたりで力場が消えて、豪快に転倒する俺。

原因はもちろん副作用の頭痛だ。

……これはだめだ。

気合や根性で堪えられる類の痛みじゃない!


と。

勝手に転倒した俺を不思議そうに眺めていたスカッド・アナザーの鉄仮面が笑ったような気がした。

「……やば」

遊園地でも見た、空気を吸い込むような独特の予備動作。

咆哮が来る!!


「劣化……ぎ!」

無理だ! 使えない!

「くそ……」

再度転倒した俺の前で、スカッド・アナザーの予備動作が終わる。


「じょ……冗談だろ」

こんなところで、終わりなのか?


「…………っ」

為す術ない俺の前で。

思う存分空気を吸い込んだスカッド・アナザーが。


咆哮した。


「…………」

……。

…………。

「…………?」

咆哮した、のだが?

「あれ?」

スカッド・アナザーの咆哮は、レオのものとちがって直線状である。

とはいえ、外すような距離ではないはずなのだが……。

「外れてる?」

ヤツの咆哮は、俺が居る場所より1メートルほど右を直線状に抉っていた。


これは一体?

と、視線を戻した俺の前で。


スカッド・アナザーの鉄仮面が胴から切り離されて宙を舞った。

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