絶望の対処法2 ~『生き方』を思い出す~
★☆★☆★☆★
★…………。
★…………。
★…………。
☆ねえ?
★…………。
★…………。
☆ねえ?
★…………。
☆ねえってば。
★なんですか?
☆何やってるの?
★見て分かりませんか?
☆うん。
★……落ち込んでるんです。
☆落ち込んでるの?
★誰かのためになると思って人生最大の独り相撲をした結果、完膚なきまでに振られましたから。もうしばらく、人前に出られないレベルです。
☆独り相撲だったかなぁ……。
★独り相撲に決まってるじゃないですか……。というか、誰のせいだと思ってるんですか……。しかも、なぜ、貴方は縮んでるんですか……。
☆……。
★……。
☆ねぇ、藍華ちゃん。
★あ、藍華ちゃん!?
☆行こ。
★い、嫌ですよ。
☆? どうして?
★なぜ私が、貴方の自殺に付き合わないといけないんですか!?
☆絶対に死なないって言ったくせに。
★い……言いましたけど。あれはリップサービスです……。ない可能性は、どうやったって実現できないんです。
☆そんなことないよ。
★あるに決まってます……。
☆ないよ。
★あります!
☆大丈夫。
★どこに大丈夫な要素があるんですか!? いくら貴方でも無理なものは無理なんです。私があんなにムキになってまで止めようとしたのに!! なんで、あんな無駄に格好つけるんですか!?
☆大丈夫。
★だから……!!
☆君が一緒に居てくれれば、運命とだって闘える。
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「……」
「……」
「…………」
「……起きましたか、お嬢様?」
「起きましたので、胸を揉むのを止めてください」
言われて、横向きに寝ていた藍華の両胸から、春香が手を離す。
「寝ていると聞いてはいましたが……。まさか胸を揉みしだいても起きないほど熟睡しているとは思いませんでした」
両手をわきわきとさせながら言う春香。
「なぜ、わざわざ性的な言い方をするんですか、貴方は……」
嫌そうに言いながら、藍華も立ち上がる。
「しかし、常に最高効率で闘うことができるお嬢様がそこまで消耗するなんて……。一体、何をやったんですか?」
「全力を出しただけですよ」
と、親指の爪を噛む。
「全く……。何が『君が一緒に居てくれれば、運命とだって闘える』ですか……。格好いいとでも思ってるんでしょうか? ……まぁ、格好良くないとは言いませんけど……」
そして、何やらブツブツ言う。
「あの、お嬢様?」
「何ですか?」
「今のお嬢様がツンデレにしか見えないのは、私が変態だからですか?」
「? 何を今さら? 確認するようなことですか、それ?」
全く容赦のないお嬢様。
と、春香の胸元で携帯の着信音が響く。
「私の携帯の着信音……。そう言えば、預けてましたね」
「ダンディの方の佐藤社長から何回もかかってくるんですよ。そろそろ出てあげてもらっていいですか?」
「ダンディじゃない方の佐藤社長が誰なのかは知りませんが……」
と、携帯を受け取る藍華。
「もしもし、藍華です」
『お、お嬢様!? 御無事でしたか!!』
「すみません。心配させましたか?」
『もちろんです。お嬢様に何かあれば、この国の経済界の未来は真っ暗ですから』
「この星の未来の命運を握るかもしれない勇者様は、突貫しちゃいましたけどね」
『え?』
「……すみません。失敗しました」
『それは……。仕方ありません。お嬢様が無事なだけでも良かった……』
「……」
『……』
「佐藤社長」
『は、はい』
「佐藤社長に引き継いだアドバンテック新月の社長机なんですが、一番下の引き出しにダイヤル式の鍵を掛けてますよね」
『? はい』
「あの鍵、佐藤社長の知ってる数字で開けられます。何度か試してみてください」
『? 試すのはいいのですが、一体……』
「私の遺書が入ってます」
『!!』
「それをですね」
『お、お待ちください、お嬢様!』
「この後……」
『澄空様が重要人物であるのは疑いありませんが、お嬢様が命を賭ける必要などありません! お嬢様は……!!』
「破り捨ててください」
『賢崎一族の最後の……!! ……?』
「破り捨ててください」
『? は、はい?』
「もう必要ありませんから」
『そ……』
「生き方を思い出しに行くんです。死ぬ準備は要りません」
『お……お嬢様……』
「それから本家に伝言です。【貴方の娘は悪い男に騙されました。私に何かあったら、全部彼のせいです】と」
『……』
「……」
『…………』
「……すみません。呆れましたか?」
『いえ……。今のお嬢様の雄姿が見られないことを悔しく思っておりました』
「携帯メールで良ければ送りますよ?」
『……お願いします』
「はい。では、あとはよろしくお願いしますね」
『お任せください! アドバンテック新月社員一同、お嬢様の御帰還を心からお待ちしております! 御武運を!』
体育館に響き渡る激励の声を残して、携帯電話は切れた。
「自殺には付き合わないんじゃなかったんですか?」
「寝言まで聞かれてたんですか……。最悪ですね……」
悪い顔で言う春香に、心底嫌そうな顔で藍華が答える。
「まぁ、大丈夫なんじゃないですか。あのジゴロさんが、絶対大丈夫、と言ってましたから」
投げ遣りにも見える態度で答える藍華。
「生き方、思い出せそうですか?」
『BMP法第167条適用』と書かれた自分の顔写真入りのカードを取り出しながら、春香がいやらしい顔で迫る。
「どうですかね……?」
そんな春香を適当にあしらいながら。
「あの優男を連れ戻してから考えましょう」
と、藍華はかすかに微笑んだ。