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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
147/336

運命の破り方(中級編)

「いよいよ、クライマックスね」

「……だね」

「ほんとに凄く楽しめたわね。……終わっちゃうのが惜しいくらい」

「僕は、悠斗君が大怪我する前に、早く終わってほしいけどね」


「……」

「……」


「ね。そろそろ、結論を出しましょうか?」

「結論?」

「そ。どっちが勝つのか」

「ふむ……。別にいいけど?」

「なら、まず、私からね」

「ん」


「……」

「……」


「私は、断然、藍華さんね」

「根拠は?」

「実力差は当然として……。そもそも、彼女は未来が見えるのよ」

「……」

「勝てない勝負なら最初からしない。闘っている以上は、必ず勝てるってこと」

「……」

「唯一可能性があるとすれば、彼女の迷い。……って、悠斗君は思ってたのかもしれないけどね。どれだけ迷っても、絶対に投げないのよ。あの、優しい魔女さんは」

「……」

「じゃ、次。ソータは?」

「そうだね」


「……」

「……」


「悠斗君だね」

「……そう言うとは思ってたけど。根拠は? もう、それこそ、漫画の主人公でもない限り、どうにもならなさそうな状況だけど」

「根拠はね」

「うん?」


「澄空悠斗は、倒せない」


「……」

「……」


「話、終わっちゃうじゃない」

「終わらせようとしてたんだよね?」

「いや。そりゃそうだけど……」


「彼のことを10年間見続けた、イチ幻影獣の感想だよ」

「え?」

「……強さじゃどうにもできない強さもある。どれだけ確率と理論を積み重ねても、届かないものもある」

「……」

「澄空悠斗は倒せない。……未来が見えるくらいじゃ、保険にもならない」

「…………」


「彼女にも、すぐに、わかるよ」



☆☆☆☆☆☆☆



賢崎さんが、大地を蹴る。


同時に、俺の感覚が引き伸ばされ、時間の流れが緩やかになる。


踏み込んでくる賢崎さん。


速いだけじゃない。


認識の隙を付くタイミング。視覚を誤認させる体さばき。一切の無駄を省いた空間移動。


全てが連動して生み出される、究極の『速さ』。


『まるで』じゃない。まさしく、拳の奥義。


加速させた感覚でさえ捉えきれない速さで、賢崎さんが俺の懐に潜り込む。


撃ち出されるのは右の正拳。


身体の中央……どこに逃げても一番当たりやすい場所を狙って繰り出される、優しさに溢れた無慈悲な拳。


為すすべもなく立ち尽くす俺の身体に、右拳が吸い込まれ。


接触する直前。



俺の右手が動く。



賢崎さんの驚愕の表情を瞳に焼き付けたまま。


右手で右拳を外側に払い。


手首を捻りあげながら。


左足を払って、宙を舞わせる。


一撃に全てを賭けていた賢崎さんは、全く対応できず。


受け身すら取れずに、背中を床に激しく打ち付ける。


肺の空気が絞り出される瞬間に合わせて。


仰向けになった賢崎さんの上に乗る。


同じようにされた時の賢崎さんの優雅さとは程遠く。


尻で腹を下敷きにするだけの強引なマウントポジション。


そして、両胸の中央に右手を当てる。


俺の場合は『撃ち抜く』必要すらない。


ゼロ距離からでも発射できる砲撃城塞ガンキャッスルの体勢。


ショットガンを胸元に突き付けたのと、同じこと。


つまりは、これで。



「勝負あり……だ」


◇◆


「……」

「……」

「……?」

「……」

「…………??」

「……」

無理もないかもしれないけど。


賢崎さんが目を白黒させている。

普段とのギャップがあまりにも激しすぎる。

これは可愛い。


いや、そんな場合ではなく。


「私……何、されたんですか?」

「……」

若干、誤解を招きそうなセリフではある。

いや、だから、そんな場合ではなく。


「澄空さんのレパートリーは、完全に把握しているはずなのに……。いえ、それどころか、今のBMP能力……オリジナルすら分からない……」

「えーと……」

「貴方は、本当に、運命を覆す救世主様だとでも言うんですか?」

「んなことはない」

ちゃんと理屈のある技だ。


「でも……。こんな土壇場で……私も知らないBMP能力を使うなんて……」

「いや」

そんなことはない。


「賢崎さんも良く知っているはずだけどな」

「え?」

「一緒に、授業も受けたし」

……まぁ、どちらかというと、これはやっちゃいけない方の使い方だが。


「……ま」

「……」

「まさか……」

「ああ」

そう。

これが俺の、対賢崎さん用の本当の切り札。


調律メンテナンス自分掛け。


「な……! 何を考えているんですか!!」

「ぐっ」

下敷きにした賢崎さんに、下から襟首を締め上げられる。


「分かってるんですか! ウエポンテイマーは、ウエポンじゃないんですよ!! おまけに、自分に掛けるなんて!!!」

「わ……分かってる!」

自分の盲腸を手術できる外科医が居るか、という話だ。

……まぁ、中には、居るかもしれないけど。


「分かってません!! どんな副作用が出るか分からないんですよ! ただでさえ危険なのに……。これから、あの、『絶望の幻影獣』と闘わないといけないんですよ!!!」

「ぐっ……。で、でも……。まず、ここを抜けないと、レオと闘うも何もないし……」

襟首を絞められたまま揺すられながら、なんとか返答する。


「そんな状態で闘うくらいなら、私に行かせた方がよほどマシです!! もしくは、説得してください!! 貴方なら、私なんか簡単に説得できるでしょう!!」

「い、いや……」

そう思ってるの。たぶん、賢崎さんだけなんじゃないかなぁ。


「なんで、私なんかを相手に、そんなムキになったんですか!? 貴方は、熱い心を秘めていても、常に物事を冷静に判断できる賢い男性でしょう!?」

「そんなキャラ設定、初耳だけど……」

「貴方が知らないだけです!!」

「ぐっ……」

ほとんど首絞めの状態になってきた。


「どうして、こんな無茶したんですか! これじゃ、私、澄空さんの足を引っ張っただけじゃないですか……」

「……」

「貴方が無茶するのは、仲間のためだけのはずでしょう!!」

「?」

「『?』じゃ、ありません!!」

「い……いや……」

だって。


「賢崎さんだって、仲間だろ?」

「……?」

「……」

「…………え?」

いや、『え?』と言われても。

……ちょっと待てよ。



★☆★☆★☆★



★BMPハンターチームですか。これで、私も皆さんの仲間ということですね。


★私を仲間にしたこと、後悔しました?


★私だけでなく、澄空さんの仲間はみんな分かってます。誰も澄空さんを責めたりしませんよ。


★BMPヴァンガードともあろう方が、私だけ仲間外れにしたりはしませんよね?。


★どうしたら、貴方を説得できますか? 賢崎の後継者としてじゃなくて、仲間としての言葉なら届きますか?



★☆★☆★☆★



五回も言ってるじゃないか。

これで、「仲間じゃない」なんて言われても困るんだが。


「た、確かに、仲間だとは言いましたけど……」

「だろ?」

「い、いえでも。……待ってください。貴方は、この闘いが、ただの仲間割れだったとでも言うつもりですか?」

「いや。割れまでいってないと思う」

少し意見がぶつかっただけで。


「私を……許すとでも言いたいんですか?」

「許すも何も」

……別に怒ってないけど。


「私は、貴方に、一生後悔する選択をさせようとしたんですよ!」

「命を助けようとしてくれたんじゃないか」

「……なぜ、そんなこと言うんです?」


なぜ、と言われてもな……。


「私は、確率にしか興味のない、冷たい女ですよ」

「……今さら、そんなこと言われても……」

「何ですか?」

「…………」


愚直なまでに、確率を重視するのも。

それでも零れ落ちる誰かが居るのが許せないのも。


「全部、賢崎さんが優しいからだろ」

言ってから。

何言ってんだ俺、と思った。


「な!」

「……ぁ」

「な、何を言ってるんですか……?」

と、俺の襟首を絞めていた手を離し、顔を覆ってしまう賢崎さん。

いや、ほんとに何言ってるんだろう?


「私は……貴方みたいに甘々じゃないんです。義務とか仕事で……頑張ってるだけです」

「…………」

でも。


「子どものままです。腹いせで納得しないだけの、ガキ女なんです」

「…………」

この人、誰かが言わなきゃ、一生気が付かない気がする。

こういうの本当はイケメンの仕事のはずなんだが。

というか、さっき一回言ったんだけど。


頑固者め……。


……もう一回。


「賢崎さんは、凄く優しい」

「だから! そういうこと、言わないでください! 私は。私のことを認めたくないんです!!」

「別に、犠牲になった人達のこと忘れろと言ってる訳じゃない」

「!!」

「もっと肩の力を抜けよ……。とか言ってる訳でもない」

そういうことじゃなくて。


初めて会った時から。

今では、さらに強く感じる。


麗華さんと同じくらい美人で。

麗華さんと同じくらい賢くて。

麗華さんと同じくらいお嬢様で。

麗華さんと同じくらい強くて。


それから、優しい。


恨むも憎むも、あまりにもったいない。

こんな凄い女の子がそばに居てくれるなら。

俺が愚痴を聞く代わりに。


「ご指導ご鞭撻を……。よろしくお願いしたいと思ってます」

「ご、ご指導ご鞭撻……?」

「ああ」

なんというか。

技術だけじゃなくて、生き方そのものが。

俺と少し似てて。

比べ物にならないくらい凄いと思うから。


……目標にしたい訳である。


「どんなもんでしょうか?」

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……」

「……」

「……あ」

「あ?」

「貴方は馬鹿ですか?」

「ぐ!」

そ、そりゃ、馬鹿ではありますが。


《いや、そこ、確認したわけじゃないと思うぞ……》


「全く……。女性の腹を座布団にしたまま『ご指導ご鞭撻』とは……」

自分の顔を両手で覆い隠したまま。

「全く……。本当に。あなたは……。あなたには……」

「……賢崎……さん?」

「あなたには……」

「…………」

「……」

「……」


「負け……ましたぁ……」


「賢崎さん?」

「生まれて初めて、心の底から……」

「…………」


「あなたに会えて……良かった……です」

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