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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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ナックルウエポンを倒せ(真)

「凄い子ね……」

「まぁね」

体育館を覗く二体の幻影獣が語り合う。


「どうする? やっぱり乱入する?」

「分かってるくせに……。無理だよ、あれじゃ」

体育館の中で対峙する二人を見ながら、小野が諦めたように答える。


「「まったく」」

そして、同時に。


「そんなに凄いから、誰も構えなくなっちゃうのよ、藍華さん」

「そんなに優しいから、時々無駄にモテるんだよ、悠斗君」



☆☆☆☆☆☆☆



「ま……」

マジで……?


「覚悟はしてましたけど、やっぱり結構痛いですね……」

呟く賢崎さんの手から干渉剣が生えている。


いや、もう少し正確に言うと。

俺のフラガラックは、賢崎さんの左手から腕を刺し貫き、左肩から剣先を突き出している。

どれだけ力を入れてもビクともしない。


干渉剣フラガラックは、精神のみを攻撃する魔剣。

物理的な力で止められるはずはないんだけど。

……まぁ、今さらこの人の引き出しがどれだけあったって驚くほどのことでもない。


問題なのは……。


「マイナス100点ですね、澄空さん」

「…………」

《マイナスかよ……》


「どうして、よりによって干渉剣なんですか?」

「……」

「他の……物理攻撃力を伴う技なら。どれを選んでも澄空さんの勝ちだったのに」

「…………」

「気づいてなかったなんて言わせませんよ? 貴方は、唯一失敗する可能性のある選択肢を選んだ……。最後の最後で、私を傷つけるのを恐れたんです」

「……」

「幻滅です、澄空さん。貴方は、優しくても強くはないです」


《何言ってんだか大将。優しいやつってのは、たいてい強いぜ?》


「……いくら貴方でも、何でもは無理ですよ? 澄空さん……」

「……ああ」

そうだろうな。

確かに、一瞬、嫌な予感はしたんだ。


レオを倒して。

エリカ達全員を助けるだけじゃなく。

賢崎さんを無傷で抑えて。


……確かに、少し欲張り過ぎたのかもしれない。


俺の……負けだ。


《そうでもないぞ》


《確かにフラガラック以外なら100パー勝ってたろうが、フラガラックだって、まともじゃ止められるはずがなかった》

え?


《俺が……アイズオブゴールドが保証してやる。大将は、干渉剣で来るのが分かってた。だから、あのタイミングで間に合った》

干渉剣が……分かってた?


《唯一失敗する可能性のある選択肢……一番可能性の低い選択肢に。お前の甘さにベットしやがった》

それって……。


《確率しか信じない魔女が、最後に甘さを……優しさを信じた。結果はどうあれ、この勝負はお前の勝ちだ》

そっか。


「終わりです、澄空さん」

ギュッと、賢崎さんの左手が剣の柄越しに俺の右手を握りしめる。

「私がちゃんとみんなを助けられたら、今度は私の言うことも聞いてくださいね」

薄く微笑み。

賢崎さんの必殺の右が。

下から天井に向かって、俺の顎をかちあげる。


今までの人生で経験したことがない強烈な衝撃に、俺の魂が口から飛び出たような錯覚を覚える。


口から飛び出した魂は、体育館の天井近くまで飛び上がり。

間抜けな顔で撃ち抜かれた俺の顔を上空から見下ろし。

さらに天井を抜けようとして。


方向を転換した。


下へ。

俺の口の中に。

俺の体目掛けて魂が戻ってくる。


さすがの賢崎さんも疲労を覚えるほどの激闘だったのか。

俺の顎を砕くのは、さすがに忍びないと思ったのか。


俺の意識は飛びきらなかった。


それでも痛いけど……。

滅茶苦茶に重いけど!


まだ。

やれる!


「っん、ぎ……!」

干渉剣に力を込める。


しかし、万力で締め付けられたようにびくともしない。


「無駄です、澄空さん! 精神支配については、私にも多少の心得があります。貴方の干渉剣は、まだまだ初心者レベルです!」

「そんなこた、最初から分かってる!!」

「!」

それを言い訳にできない状況だから!


無理かもしれないと思っても!


「全力を……尽くす!」

「す……澄空さ……!」



☆★☆☆★☆



★干渉剣の極意?


☆ああ。飯田先輩も、一撃で倒せなかったし……。今いち俺のやつは威力が低いみたいなんで。本家に教えてもらえれば助かるかなー、なんて。


★うーん。干渉剣……というか、幻想剣すべてに当てはまるんだけど。


☆うん?


★便宜上、剣の形を取っているけど、別に、《斬る》ことにこだわる必要はないの。


☆へ?


★干渉するの。相手の精神に。


☆相手の……精神に?


★うん。それから……


☆それから?


★叩き付けるのは。


☆?


★……自分の精神。



☆★☆☆★☆



「っつぉお……おおおおおおおあああぁああああああ!!!」

「す……凄……」

文字通りの全身全霊。

俺の魂そのものを叩き付けるような感覚で力を込める。


と。


賢崎さんの左腕に埋まっていた干渉剣が。

上に抜ける。


そのまま左の肩口から賢崎さんの体内に侵入し。

袈裟斬りに心臓を通り過ぎ。

右のわき腹から抜ける。


「~~~~~~!」

顎をのけ反らせて、賢崎さんの絶叫が木霊する。


でも。

俺には分かる。


まだ足りない。


この人の心を制圧するには、あと一撃!


振りぬいた剣を腰だめに構え。

もう一度、俺の『全力』を載せて。


まっすぐに突き出した。



☆☆☆☆☆☆☆



「どうなってるの、あの子?」

「なんというか……ある意味、麗華さん以上ね。精神攻撃で倒すのは無理よ」



☆☆☆☆☆☆☆



「あ……」

頭が痛い……。

側頭部がずきずきする……。


『全力』を載せて突き出した干渉剣は見事に空を切り。

賢崎さんは2・5メートルくらい離れた場所で平然と佇んでいる。


当たらなかったのは間違いない。

しかも、かわされると同時に、下から蹴り上げられた。

おまけにそのままバク宙を決められた。


……というか、今の……。


「ギロチンサマソ……?」

……にしては、角度も速度も全然違うけど……?


「EXアーツ『孤月』です」

「え?」

唐突な賢崎さんのセリフに疑問符を返す俺。


というか、『孤月』?

ギロチンサマソじゃなくて?


《二重の罠になってた訳だ》

……へ?


《EXアーツ『孤月』をわざと劣化させて見せ技に使い、いざという時には切り札に使う。一度罠に使われてるもんだから、こちらの警戒も緩む。……というか、良くかわせたな今の?》

「偶然っすよ……」

中の人に謙虚に答えては見るが。

……正直、ほんとにただの偶然だったりする。


もう数センチ賢崎さんの爪先がずれていれば、確実に終わってた。

というか、ずれていなくても、現在進行形で側頭部が凄い痛い。


対して賢崎さんは、平然としてる。

最後の一撃が入らなかったとはいえ、全開の干渉剣で斬り付けたのに……。

「効いてない……のか?」


「いえ。ポーカーフェイスが上手いだけですよ」

「……へ?」

「恥ずかしながら……、もう立っているのもつらいです」

「け……賢崎さん?」


良く見ると、賢崎さんの体が小刻みに震えている。

そして、額にはうっすらと汗。


「やっぱり、干渉剣は失敗でしたね」

「え?」

「そんなに激しい気持ちをぶつけられたら……私も負けちゃいけないって気持ちになります」

顔色も良くはない。

本当に今にも倒れそうなくらいに……。


「どうして、そこまで……」

「? 仲間のために身体を張るのが、そんなに変ですか?」

「いや、そんなことは……」

「いえ。変ですね」

「?」

なんだ、それは?


「本当は、貴方がこれだけの力と意思を見せてくれるのなら、大人しく道を譲るつもりでした」

「え?」

「……率直に言って、確かにちょっとムキになってます」

「…………」

「こんな風に優先順位をつけるのは……生まれて初めてですね」

と。

賢崎さんは薄く微笑み。


「貴方を……制圧します」

と。

腰だめに拳を構える。


それは、正拳突きに似た姿勢。

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