表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
142/336

魔女と踊る

「~~~~~~!」

賢崎さんの絶叫が木霊する。


完全なマウントポジションをあっさりと投げ捨て。

頭を抱えて、天井を仰いで。


「…………」

ゆっくりと立ち上がる俺。


アイズオブエメラルドを、賢崎さんのかなり深いところまで打ち込んだ。

意識を失わなかっただけでも驚きで、俺がアイズオブエメラルドを使っている間は、もうEOFは使えないだろう。


でも……。

脱出方法としては完璧だったが。

緋色先生の幻影に警告されるまでもなく、今のは見てはいけないヴィジョンだった……!


「賢ざ……」

「同情は」

「え?」

何と言っていいか分からず呼びかける俺に、賢崎さんが言葉を被せる。


「同情は大歓迎です、澄空さん」

「え……」

「こんなもので澄空さんが止まってくれるなら……。いくらでもお見せします」

「…………」

なら。

手で隠した目じりに見える水滴は……錯覚なのだろうか?


「また一つ嘘がバレましたね」

「……嘘?」


「私と澄空さんは似てなんていません」

きっぱりと言う賢崎さん。


「私にとって大事なのは、世界でもその前の何かでもなく。ただの腹いせです」

「…………」

「いつもいつも私を嘲笑う運命に、一度でいいから『ざまぁみろ』って言ってやりたいんです」

「今じゃ駄目なのか?」

心の底から思う。

相手は絶望そのもので。

……それでも賢崎さんが力を貸してくれれば!


「今はまだ駄目です。準備が整ってません。貴方は最高の能力を持っているかもしれませんが、まだ最強の戦士じゃないです」

「そんなこと言っている間に、手遅れになったらどうするんだ……?」


「それこそ、望むところじゃないですか?」

「!?」

賢崎さんの気迫に、一瞬気圧される。


「全部が手遅れになれば、私、もうこれ以上絶望しなくて済むんですよ……?」

「そ……」

「諦め続けるのにも、もう飽きました。情けないと言われようと……もう無理なんです」

「…………」


「貴方で最後です」


迷いのない口調に。

「え?」

疑問符で返す俺。


「貴方で駄目なら、もう私はこれ以上逆らいません」

「……」

「最後だから、慎重にもなります」

「……」

「可能性を抱えたまま……溺死することも厭いません」

「……っ」


「EOFを封じたくらいで勝ったと思わないでください。まだ、私には自律機動ブーストがあります」


言い捨て。

賢崎さんが地を蹴る。


高速かつ重い突きを正面から受け止める。


「はっ!」

「くっ……!」

賢崎さんと俺の速さが、ほぼ拮抗する。


もう、さっきみたいに防御を捨てる真似はしない。

正真正銘。真正面からぶつかり合う!


拳を弾き合い。

蹴りを捌き合い。

投げを警戒し合い。

関節を狙い合い。


隙を窺い合う。


「はぁっ!」

俺の強く撃ち抜く右ストレート。

「大振りですよ! 澄空さん!」

案の定、右手で右側に弾かれるが。


「!」

驚愕の賢崎さん。

弾かれた俺の右手が、弾いた賢崎さんの右手首を掴んでいる。


「はっ」

俺が軽く息を吐くと同時。

賢崎さんの体が魔法のように宙を舞う。


が。


「っは!」

く、空中で一回転して、着地なされた!


「何食べたら、そんなことできるの!?」

「良質のたんぱく質を中心に。お野菜も忘れないでください!」

ご丁寧にレクチャーしてくれながらの、賢崎さんの水面蹴り。


右側から豪快に両脚を狩られ、俺の体が宙に浮く。


「悪く思わないでください、澄空さん!」

「そっちこそ!」

「!?」

追撃の右ストレートを放とうとする賢崎さんに。

宙に浮いた姿勢のまま、側頭部を狙った飛び回し蹴り。


しっかりガードはされるが。


「女性に、手どころか脚をあげるなんて……」

「何を今さら……!」

賢崎さんがよろめく。


その隙に左腕を掴みに……!

「くっ!」

いったところを弾かれる。


けど。


いける!

……かもしれない。


「EOFが使えないくらいで……。なんて無様な……」

「いや!」

なんとおっしゃるうさぎさん。


かなり深い層まで打ち込んだアイズオブエメラルドは、EOFを封じているだけじゃない。


賢崎さんの心を読む。


賢崎さんが何をしようとしていて。


賢崎さんに何をすれば対処できるのか。


「全て教えてくれてる!」

「!」


だからだろうか?

これだけ激しく打撃の応酬をしているのに。


なぜか、闘っているという感覚が薄れてきた。


むしろ、これは……。


《ダンスだな……》

ダンス?


《経験豊富な姫君にリードされる田舎育ちの騎士ってのはどうだ?》

……詩的だな、アニキ(※誰か知らんけど)。

まぁ。

ダンスってイメージは悪くない。


「何故……。突き放せないの? こんなに打ち込んでるのに……!」


そりゃそうだ。

彼女にリードされるままステップを刻むだけなら、有利も不利も存在しない。

する訳がない。


「あなたは……。本当に私を倒す気があるんですか!?」

「いや……」

正直言うとそんなにない。

エリカ達を助けに行かないといけないのはもちろんだが。

賢崎さん自身に恨みがあるはずもなく。

むしろ。


「これほど心強い仲間は他に居ないって……。」


「……っ! なんて人でしょう。戦闘の最中に女性を口説くなんて……。麗華さんに言いつけますよ!」

「なんでやねん!」

こんなときだけ、『麗華さん』って言いおってからに!


と。

賢崎さんの左拳が『ブレ』た。


「っ」

顔面に衝撃。

これはギロチンサマソの直前に喰らった『見えない打撃』……。

左ジャブか……?


《悠斗!》

アニキ(※誰か知らんけど)の警告と同時に、俺の背中にも戦慄が走る。


賢崎さんの右腕が、『く』の字に折り曲げられている。

まるで、死神の鎌をタメているかのような、独特の姿勢。

「っ!」

全ての攻撃を放棄して、全力で上半身を逸らす。


逸らした場所を賢崎さんの右腕がなぞった後、ギロチン振り子が通り過ぎた時のような異様な音が大気を震わせる。


「な……なな……」

なんだ、今の!

なんか、今までの技とは、明らかにかつ根本的に何かが違うぞ!


「『首狩り』です」

「く……くく……首狩り?」

「危ないので、間違っても当らないでください」

「間違っても当たっちゃいけない技は、間違っても使わないようにしていただきたい!」

思わず怒鳴るものの。


今の技はいくらなんでもおかしい。

自律機動ブーストは身体能力は強化されないはず。

あんな、スピードとパワーと設定のおかしい技が混ざるはずが……!?


「ちょっとした必殺技のようなものです」

「ひ……必殺技?」

「身体に負担がかかるので連発はできませんが……。『EXアーツ』とでもお呼びください」

「EX……」

「EOFが使えないし……、少しくらいはいいですよね?」

「…………」

いいわけあるかい。


というか、その言い方だと。


『EXアーツ』ってやつ。

他にもあるのか……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ