表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
141/338

パンドラの箱の中で3

★☆★☆★☆★



☆なんだ、ここ?

 ついさっきまで、賢崎さんと闘って……というか、制圧されていたはずなのに……。


★アイズオブエメラルドですね。


☆賢崎さん?


★参りました。あの技だけは警戒していたのですが、まさかあんなに鮮やかに起動するなんて……。

 主観にやられたのは、私も同じですか……。


☆じゃあ、ここは……?

 って、何か見えてきた!?


★…………。


☆これは……馬鹿でかい……和室?


★賢崎本家の大広間ですね。


☆上座に居る無茶苦茶綺麗な小さい女の子は……。やっぱり賢崎さん?


★その横に居るのが、父親です。


☆人多いな……。何やってるの?


★褒められてますね。


☆褒められて……?


★大きな闘いの直後ですね。

 犠牲者が三桁行かなかった大勝利、ということで、祝勝会といったところです。確か、この後、宴会がありましたか。


☆賢崎さんは何の関係が?


★指揮を取ったんですよ。


☆指揮?

 指揮って……、賢崎さん小さいよ?


★9歳くらいでしたか。

 初陣です。


☆!!

 ……凄すぎる。

 そりゃ、褒められるわ……。


★そうですか?


☆? そりゃ、そうだろ?


★90人以上は死んでるんですよ?


☆!


★どこに褒められる要素があったのか……。

 壮大な冗談かと思いました。


☆……。

 …………。

 ……場面が変わった。

 屋敷の外?


★お見送りが終わった後くらいですね。


☆賢崎さん! 小さい賢崎さんの頭から血が!


★石をぶつけられたんですよね。


☆石?


★弾道からして、たぶん子供でした。

 それも、私と同じくらいの年ごろの……。


☆…………。


★100人近くは死んでるんですから、誰に恨まれてもおかしくはない状態でしたけどね。


☆……。


★でも、実際にぶつけられると……。少しだけほっとしました。


☆え?


★これが最善の選択肢じゃない、と。

 そう考えてくれている子もいるんだって。

 賢崎本家の娘に石をぶつけるなんて大ごとです。

 ひょっとして、その子は、誰かに気づかれて、酷い罰を受けたのかもしれません。

 それでも、ちゃんと伝えてくれたんです。

 この『展開』は間違ってるって。


☆…………。

 また場面が変わったな……。


★これも懐かしいですね。

 12・3歳くらいの頃でしょうか?

 初めて立て直した会社です。


☆あのロゴ、見たことあるな。


★今ではそこそこ有名な会社になりましたからね。


☆賢崎さんのおかげで?


★私のせいで。……と言った方がいいのかもしれません。


☆?


★4割以上の従業員をリストラしたのだから、そこそこ盛り返してくれなければ困ります。

 ……といったところでしょうか?


☆よ……4割?


★人員過剰なのは、確かに誰の目にも明らかでしたけど。

 それでも、あれほど迷いなく実行できたのは、それが『最善の選択肢』だという確信があったからです。

 ……いえ確信ではありませんね。『回答』です。

 EOFが教えてくれる、未来のカンニング。


☆賢崎さんは、ひょっとしたら、EOFが嫌いかもしれないと思ってたんだけど……。


★大嫌いですよ。決まってるじゃないですか。


☆…………。


★澄空さんが複写してしまって、『この人も私と同じ気持ちを味わうことになる』と考えてたんですけど。

 劣化複写イレギュラーコピーの際に、あんなに仕様を変えてしまうなんて。


☆嗜好や方針の問題じゃないよ。ただ単に、能力が足りなかっただけだ。


★でも、たぶん。澄空さんの使い方が正解なんです。

 私は、自分からパンドラの箱の中に引きこもってしまいました……。


☆……。


★……。


☆……凄いイケメンの社員がいるね。


★緑川さんですね。


☆女子社員にモテモテだ。


★でも、一途な方なんですよ。

 奥様と娘さんをとても大事にしていて。


☆でも、仮にも社長の賢崎さんに、あれはフランク過ぎやしないか。


★TPOはわきまえてましたよ。

 これは、クリスマスプレゼントの相談をされてるんですね。


☆同僚に相談しろよ……。


★最高のプレゼントがしたいから、最高の展開を教えてほしい。……みたいなことを言われましたね。

 ずいぶん、安っぽい使い方をされるものだと当時は思いましたが……。

 これが一番嬉しかった……。ような気もします。


☆この人、仕事はできたの……?


★無能ではありませんでしたが……。

 優秀とまでは言えませんでしたね。


☆じゃあ?


★はい。

 リストラしました。


☆……。


★……。


☆…………。


★…………プレゼントは、買えたのかどうか。

 知る勇気もありませんでした。

 ……なんて言っても、贖罪にもなりませんよね。


☆賢崎さんには悪いけど。

 俺にはとても指導者は無理だな。

 EOF複写に失敗したのも当然だ。


★私だって向いてませんよ。


☆じゃあ、何で続けるんだ?


★腹が立ったからですよ。


☆?


★運命の高笑いに。

 たった1回のハッピーエンドも許さない、狭量な世界に。


☆…………。


★完全無欠のハッピーエンドを一度でも見ないうちは……死んでも死にきれません。


☆どうすれば見れる?


★準備をするんです。


☆準備?


★ハッピーエンドにたどり着けないのは、その選択肢が存在しないからです。……今回のように。

 人が足りなくて失敗したのなら、人を。

 モノが足りなかったのなら、お金を。

 力が足りなかったのなら、力を。

 ラプラスが認めるまで、積み上げます。


☆…………。


★第5次首都防衛戦のことを知った時、この人だ、って思ったんです。

 この人が味方になってくれれば、理不尽な運命に対抗できる。

 道理に合わない展開をチャラにしてくれる、『こちら側』の理屈を超えた力だって。


☆……。


★どんな低確率でも、EOFに現れたなら、もう逃がさない。

 どんな綱渡りをしても、絶対に実現させます。


☆賢崎さん程の人でも……そこまで難しいのか。


★私は、そこまで凄くないですよ。


☆そうかな?


★負けたことはありませんけど。

 勝ったこともないです。

 成功したこともなくて。

 あの日からずっと。

 ……全部失敗だらけです。



賢崎さんの姿と声が薄れていく。


過去のヴィジョンもゆっくりと薄れ。


最後に。


映ったヴィジョンは……。



呆然と立ち尽くす幼い賢崎さんと。

体の中央を刺し貫かれた、賢崎さんに似た美しい女性の姿。



★☆★☆★☆★

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ