vsラプラス3
「アイズオブゴールド、来たー!」
なぜか、小野の頭をグリグリしながら叫ぶミーシャ。
「引きこもりの安全装置が表に出るとは……。愛されてるねぇ、悠斗君」
なぜか、紅茶とコーヒーをブレンドした訳の分からない飲み物を飲みながら、ミーシャにグリグリされたままで格好をつける小野。
「で、どうなの、あれ?」
どこから取り出したのか、ポッキーを口に咥えながら澄空悠斗の方を指す、くつろぎ過ぎのミーシャに。
ため息一つつきながら、小野が答える。
「まぁ、とりあえず、相手が悪いよ」
《《《《《《《
「なんて女だ……」
思わず呟く。
あまり都合のいいことは考えてなかったが、まさか、前兆なしのゼロ距離電撃を、あのタイミングでかわすとはな……。
「澄空……さん……?」
「ふん……」
呼びかけを一蹴し、体表面をめぐる電撃の感触を確かめる。
相手は賢崎藍華。
出し惜しみをして勝てる相手じゃねぇな……。
「き……金色!?」
「あー……。轟け迅雷、貫け閃拳っと!」
頼むぜ、姉御!
「劣化複写:電速!」
「!」
ひたすら直線の、悠斗お気に入りの超加速とは違う。
優美な曲線を描く、最速の移動攻撃。
ヤツの右側に回り込んで、雷を纏った右拳を撃ち出す!
撃ち抜く必要はねぇ。
熊でもなければ、触れただけで、いー気持ちになる!
「……あ?」
が。
ヤツが妙な動きをする。
素早い動作で、右手のオープンフィンガーグローブを脱ぎ去ったかと思えば。
その右の掌で、俺の右拳を受け止めやがった!
「んだと!」
「…………」
派手な音を立てて電流を走らせる俺の右拳が、あっという間におとなしくなっていく。
……電流が消えていく。
無効化……?
いや。
これは……。
「なるほど……。さすがは、賢崎の後継者様ってことかよ……」
「あなたこそ……一体何者です? 澄空さんとは、言動も技もあまりに違いますし。それに、その目……。金色……ですか?」
「ただの安全装置だ、よっと!」
左手を引いて……。
任せた、旦那!
「劣化複写:怪力無双!」
臥淵の旦那のパワーを借りた、左のアッパーカット。
「っ!」
もちろん、当然のごとくかわされるが。
そんなものは想定内。
大きく飛びずさって体勢の崩れる着地点目掛けて。
「うっしゃ」
決めろよ、光!
「劣化複写:天閃!」
最強の遠距離攻撃の模倣。
四つの光線が、四方からヤツに迫る!
いくらヤツでも、着地の瞬間に四発の同時攻撃がかわせる訳がねぇ!
悠斗を心配してくれたのは有難いから、気持ちだけもらっておくな! 大怪我すんなよ!
「あば…………よ?」
……。
…………?
…………まじか。
四本の光線が通り過ぎた後も、ヤツは何事もなかったかのように立っている。
俺からはすり抜けたようにしか見えなかったが……。
着地と同時に、その場で回転しながら微妙な動きで全弾かわしやがった……。
いくら、未来が読めるっつっても。これは、いくらなんでも……。
「攻撃パターンは、だいたい把握できました」
「…………」
「その瞳が私の知っているものと同じなら、少してこずりそうですが」
「…………」
「そちらも、ブランクは長いようですね?」
「…………」
……やべぇ。
やっぱ大将、めっちゃ強えぇ。
ロートルにどうにかできる相手じゃねぇ。
「くそったれ……」
顔に手をやる。
「戻すぞ、悠斗」
役に立たなくて、すまん。
》》》》》》》
「……っ」
な、なんだ?
一体……?
確か、賢崎さんの脚で落とされそうになってたはずだが……。
「…………」
「……?」
当の賢崎さんは、3メートルくらい離れた場所から、滅茶苦茶怪訝そうな顔でこちらを見ている。
俺もいつの間にか、立ち上がっているし……。
とりあえず、何とか危機を脱したみたいだけど……。
一体、全体、何が起こった?
「……」
「……?」
「…………」
「…………?」
「……澄空さん。……ですか?」
「はい?」
……そりゃ、澄空さんだが。
賢崎さんは、一体、何を……?
「目の色も戻っている……。やっぱり、元に戻ったみたいですね」
「え……」
元に戻る?
なんのこっちゃ?
「澄空さん」
「は、はいな?」
「澄空さん。心の中に、何か飼っていますね?」
「へ?」
なにそれ、格好いい。
《そんな大仰なもんじゃねぇよ。ただの安全装置だ》
って、あんた、誰!?
《? 俺の声が聞こえてるのか?》
あ、ああ……。
ばっちり聞こえてるけど。
《ちっ。お互い緊張状態が長く続きすぎて、一時的に精神の壁が薄くなってるのか……》
あ、あんた、ひょっとして……。
前に三村とエリカが見たっていう、例の第2人格……?
《あまりいい状態じゃないが……。おい、悠斗!》
は……はい!
なんでしょ、アニキ(※誰か知らんけど)。
《こうなった以上は、俺も協力する。絞め技系はなんとかするから、お前は打撃に集中しろ》
それは、ありがたいけど……。
あんたは、一体……?
と。
「解せませんね。貴方も私と同じ気持ちのはず……。どうして、邪魔をするんです?」
唐突な賢崎さんの問いかけ。
頭の悪い俺にでも分かるが、間違いなく俺に聞いてきてはいない。
《うちのバカは、言っても聞かねぇからだよ……》
だるそうに答える、俺の中の人。
その答えが、賢崎さんに聞こえるはずがないのだが……。
「子供の教育方針で揉める夫婦みたいですね……」
まるで聞こえたかのように、ため息を吐きながらこぼす賢崎さん。
「とはいえ、これで本当に打撃以外は封じられましたね……」
オープンフィンガーグローブを着けなおしながら呟く。
今度はマジっぽい。
これ以降は、絞め技でいきなり落とされる可能性は低くなった。
けど……。
打撃戦しかなくなったということは……。
「澄空さん」
「ああ……」
「少し、痛い思いをしますよ……?」
飲み過ぎた旦那をしかる新妻のように。
少し上目使いで賢崎さんが告げてくる。
《悠斗……》
ああ……。
《あいつ……》
「あの人……」
《メチャ怖えぇ》
滅茶苦茶怖い。