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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
137/336

vsラプラス2

「あると思う? 5パーセント」

悠斗たちが闘っている体育館向かいのカフェで、コーヒーの次に紅茶を飲みながら、美女の幻影獣が語りかける。


「そんなものだと思うよ、ハードルは高いけどね」

対抗したわけではないだろうが、高校生に扮する幻影獣も紅茶を飲んでいた。


「実力差は歴然だと思うんだけどねぇ。ところで、ハードルって?」

だらしなくテーブルに寄りかかりながら、美女が高校生に尋ねる。


「とりあえず、掴まれるとまずいよ。普通に」



☆☆☆☆☆☆☆



「っつ! く! はっ!」

息も絶え絶えになりながら、容赦のない賢崎さんの連続攻撃をかわしつづける俺。

「く! こ……!  の!」

本当に容赦がなくて、全く反撃に移れない。

俺の方のEOFも有効なのに、予測が意味を成さないくらい、賢崎さんが速い。


このままじゃ……。

いや!


「ここだ!」


賢崎さんが僅かにモーションの大きい右の突きを仕掛けてくる。

EOFで読んだ動きの通りに、賢崎さんの右拳を右手で強く外に弾いて!

そのまま……!?


「え?」

「甘いです」

いたずらっ子を咎める年上のお姉さんのように。

「な?」

弾いたはずの俺の右手首が、弾かれたはずの賢崎さんの右手に掴まれている。


ヤバい!

いきなり捕まった!?


「はっ」

賢崎さんが軽く息を吐くと同時。

俺の体が魔法のように宙を舞う。

「くっ!」

空中で完全に一回転させられながらも、なんとか仰向けで受け身を取る。

もちろん、こんなアクロバティックな受け身ができるのは、EOFのおかげだ。


だが。

「ぐっ!」

顔めがけて、容赦のない賢崎さんの足裏が降ってくる。

なんとか、転がってかわす。


と。


「え?」

思わず、間抜けな声が漏れる。

仰向けから右に半回転したところで、回転が止められた?


俺の左腕を脇に抱え。

俺の首に右腕を回し。

俺の背中に胸を寄せる。


こ、これって!


「チェックメイト。ですかね?」

「!」

させるか!


劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード・干渉剣フラガラック!」

完全に技が決まる前に!

俺は、自由になる右手で、精神攻撃の魔剣を自分の胸に突き立てる!

一か八かの賭けだが、うまくいけばこれで勝負が決まる!


……が。


「驚きましたね……」

決死の思いで自分の胸に干渉剣を突き立てた俺を見下ろすように。

いつの間にか、賢崎さんは離れた場所に立っていた。


「フラガラックは精神攻撃用の剣ですから、自分ごと串刺しにして相手の精神だけを攻撃する……ということも不可能ではないと思いますけど」

「…………」

「実戦でいきなりやるとは……。これはさらに加点が必要ですね。99・5点くらいでしょうか?」

「く……」

なんて余裕だ。


「いえ。実際に少し困りました。それをやられると固め技の類は使えません。まさか本当に折るわけにもいきませんから、関節技も駄目ですね。投げ技も……難しそうですね。澄空さん、投げられながらでもさっきの技を狙ってきそうですから」

「お見込みの通り……」

とはいえ。

少しは状況が好転したか?



☆☆☆☆☆☆☆



「凄いじゃない、ソータ! まるでアクション映画みたい! 悠斗君、見事に打撃戦に持ち込んだわよ!」

コーヒーに適当に牛乳を混ぜたカフェオレもどきを飲みがなら、ミーシャが興奮したように小野を揺する。


「僕は、悠斗君が殴られるのなんか見たくないんだけどね」

カフェオレもどきを飲みながらも、ミーシャにいいように揺さぶられる小野。

が、さすがに彼は聞き逃していない。


「騙されちゃだめだよ、悠斗君。今、一つ言わなかったよ」



☆☆☆☆☆☆☆



「く……く……く……!」

打撃戦になったところで、俺が有利になるわけではなく。

賢崎さんの連続攻撃の前に、うめき声しか上げられないくらい防戦一方の俺。


この闘いの勝利条件ははっきりしている。

俺は、この体育館を脱出すること。

賢崎さんは、俺を24時間(※あと何時間あるか分からないが)足止めすること。


なので、賢崎さんは決して無理な攻撃はしてこない。

このまま、平気で24時間組手を続けられそうな人だ。

俺の方から、何とかしないと!


と。


珍しく大振りの右のハイキックが飛んでくる。

スピードも威力も十分だが、どう見ても技後の隙が大きい。


多少の危険はあるが、ここで反撃しないと!

まず、かわして……!


「だから、甘いですって」

仲のいい幼馴染のように。

「え?」

振り切ったはずの右脚が、まるで大蛇のように、膝裏から俺の首に巻きつく。

「な……!」

そのまま俺の頭は少し下に下げられ、彼女の右脚による締め付けが増す。


頭を垂れたような姿勢の俺と、徐々に圧迫感の増していく賢崎さんの右脚。

だんだん、息苦しくなってくる。


「ま……」

まさか……。

滅茶苦茶、変則だけど。

これって……?


「絞め技……は言いませんでしたよね?」

しれっと言う賢崎さん。

そういや確かに、言ってなかったね!


「フラガラック!」

頭を地面に向けられたままながらも、精神攻撃の魔剣を召喚し。

なんとか賢崎さんを串刺しにしようとするが……。


「な……?」


賢崎さんの左足が地面から離れる。

そのまま、俺の首を基点にして、まるでアクション映画のように賢崎さんが大車輪を決める。


「あ……」

俺は翻弄されるばかりで。

前後左右はおろか、天地すらも分からなくなる。


気が付くと、いつの間にか、俺は仰向けに寝転んでいた。


背中の下には、賢崎さんの左脚。

首の上には、賢崎さんの右脚。


「脚で失礼します。澄空さんが脚フェチだといいんですけど」

いたずらっぽいクラスメイトのように。

「脚フェチ……じゃ……ない!」

わざわざ答えなくてもいいことに答えながら、俺は再度フラガラックを召喚し。

賢崎さんを……。


「お休みなさい、澄空さん」


と、賢崎さんの声がすると同時。

彼女の右脚の圧迫感が強まる。

さきほどの大車輪で、右脚は完全に俺の顎の下に潜り込んでおり。

俺の意識はあっという間に薄れていく。


「じょ……」

冗談だろ!

こんな、あっさり……。


終わりなのか……?


《…………》


何も、できなかった……。


《…………》


これじゃ、スーパーヒーローどころか、エリカ達の仲間だと名乗ることさえ……。


《…………っ》


あの子と……麗華さんに、俺、なんて言えば……。


《…………っっ》


賢崎さんに…………。


《……くそったれ! 代われ、悠斗!》


脳内に、それまでに聞いたことがないほど強い声が響く。

内側から魂が溢れ出してくるような衝撃ととともに。


俺の全身を電撃が駆け抜け。


俺は意識を失った。

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