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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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vsラプラス

「どう、1.5幕は?」

「いや、これ。普通に、第2幕だよね? 下手すると第3幕までいかないじゃないか」

「だからいいんじゃない? いくらなんでも今の悠斗君にレオと闘わせるのは無理よ。これなら、レオも文句ないでしょ?」


悠斗たちが闘っている体育館の向かいにカフェがある。

ついでに言うとプールと会議室とトレーニングルームもある複合施設なのだが。

とにかく、そのカフェで勝手に淹れたコーヒーを飲みながら、ドレスと白衣をまとう美女と、高校生に扮する幻影獣が向かい合って座っている。


「悠斗君が勝たないといけないんじゃないの?」

「最終的にはね。でも、今じゃなくていいし。そもそもバトルで勝つ必要もないわ。彼、ジゴロだし」

「……そんなことないよ。時々変にモテるだけで、悠斗君は純情だ」

カップを机に置く小野倉太。


体育館の窓は大きい。

彼らの視力を持ってすれば、魔人と魔女の闘いは全て観察できる。


「にしても、良くこの展開に持ち込めたものだよね?」

「簡単よ。迷宮に出口を一つだけ作ってやればいいの。お互いが強ければ強いほど……。ぶつかるしかないわ」

「……レオは、エリカさん達を殺すかな?」

「全員無事に返す訳にはいかないと思うけどね。次もあるでしょうし」

ミーシャもカップを机に置く。


と。


「なら、悠斗君は負けるわけにいかないね」


小野が言う。


「……無理でしょ、いくらなんでも。あの二人の実力差は大きすぎるわよ? 本気のラプラスの魔女は、私から見ても底が知れないわ」

「だよね」

と言いながらも、小野の目には迷いがなく。


「でも……。どっちかというと、君まで悠斗君に惚れちゃわないかが、僕は心配だよ」



☆☆☆☆☆☆☆



眼鏡を外した賢崎さんを久しぶりに見る。


前に見たのは、Bランク幻影獣・クラブと闘った時か?


賢崎さんの戦闘態勢。

別に身体能力が強化されるとか、シークレットスキルが発動するとかいうことはないと思うけど。


「御心配なく。ただの伊達眼鏡です」

投げ捨てられた眼鏡を見ながら、賢崎さんが言う。

「いや……」

別に眼鏡の心配はしてないけどね。

「まぁ。値段はともかく、お気に入りの眼鏡なので、少し残念ですけど」

「じゃあ、捨てなきゃいいのに……」

そして、別に眼鏡の心配はしてない。


と。

劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」


虚を突き、いきなりの高速バックステップ。

まともにやって勝てる相手じゃないことは、俺が一番分かってる!


奇襲で距離をとっての範囲攻撃。

しかも都合のいいことに、隙の大きいレーヴァテインではなく、別の範囲攻撃を習得済みなのである。


が。

「っ!」

ふくらはぎの裏あたりに感触。

そして、真横には賢崎さん。


「……な!」

裏側を刈る賢崎さんの足払いを喰らい。

高速バックステップの始動が豪快に潰される。


「……! ……!」

慣性を殺し切れず、後方に物凄い勢いで転がっていく俺。

念のため、EOFを起動しながら。


「っつ。この……!」

10メートルくらい転がったところで、勢いを殺せないまま起き上がるが……。


「!」

全力で逸らした上半身があった場所を、刃のような爪先が通り抜ける。

使っててよかったEOF!

賢崎さんの前蹴り上げ。

かわさなければ、俺の頭が……!


いや! まだだ!


殺し切っていなかった慣性を利用して、さらに一歩バックステップ。


さきほどまで俺の頭があった場所を、金槌のような踵がなぞる!

蹴り上げた右足をそのまま使っての、賢崎さんの踵落とし。


隙があるとかないとか。もうそういう次元の動きじゃない!

というか、まだだ!


振り下ろした右足を基点にしての……。


「はっ!」

「ぐ!」

まるで攻城兵器を連想させる右の掌底攻撃。


両腕でガードしたものの、そのまま2・3メートル吹っ飛ばされる。


「い、痛ぇ」

賢崎さんから目を離さないまま、何とか立ち上がるが。

両腕がめちゃめちゃ痛い。

少しでも当たり所が悪いと、ガードしても骨折しそうだ。


というか。


なんなんだ、今のは!?

2・3メートルは離れてたのに、超加速システムアクセル発動した俺が、後ろから足を刈られるとか!

自律機動ブーストは身体能力が強化される訳じゃない、ってのはガセか!


《単純に速いだけじゃないな……。おそらく武術の技法の類だ。……それより、悠斗》


「ああ……」

そうだ。

賢崎さんが速い以上に、もっと問題なのは……。


「その通りです、澄空さん」

「え?」

いきなり、賢崎さんが話しかけてくる。


超加速システムアクセルの複写精度は確かに高い。澄空さんが複写した中でもトップレベルだと思います」

「……」

そう。

俺の劣化複写イレギュラーコピーの最大の弱点は複写精度。

丸写しではなく、俺にも使えるような状態にして『学習』するため、ものによっては大きく劣化する。

超加速システムアクセルは、相性も良く、使用頻度も高いおかげで、本家三村にも引けをとらない程だと思ってたのだが……。


「三村さんのものに比べて、『起動が遅い』です」

「…………」

全くもってそのとおり。

といっても今まで自分でも気づかないくらい僅かな違いだったのだが。


……賢崎さんには通じない。


「…………」

やばすぎる。

超加速システムアクセルが使えない以上、距離が取れない。

接近戦最強の賢崎さんと、接近戦しかできない!

こうなったら、賢崎さんの打撃を利用して距離を取るしか……。


と。


「99点ですね」

「へ?」

いきなり賢崎さんが妙なことを言う。


「いきなりの奇襲に、距離をとっての範囲攻撃。失敗するとわかると同時に、アイズオブフォアサイトで近接防御。危機を凌ぐと共に、問題点の検証と、今後の作戦立案。判断力・冷静さ・思い切り・冷酷さ。どれも非の打ちどころがありませんね」

「……」

「そのムラッ気がどこから来るのかは分かりませんが、とりあえず99点です」

「あとの1点は?」

嫌な予感がしながらも、俺は尋ねてしまう。


「もちろん、勝てない闘いを始めたことです」


拳を固めた魔女の宣告。


「EOFを使いながらも、あまり先の未来を見たがらない魔人さんのために、教えてあげます」

「…………」


「貴方が私に勝てる確率は、5パーセント以下ですよ」


……。

……ほんとに、そんなにあるのか?

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