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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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逃避行

『最悪ですね……』


幻影獣の宣戦布告を聞き、大慌てで電話した城守さんの第一声がそれだった。

「やっぱり、そうですか……?」

『残念ながら、その放送の主の言っていることは全て真実です。第37支局は落ち、海岸線には100体のスカッド。スカッド・アナザーの攻撃はまだ始まっていないようですが、避難が間に合うか……』

ひょっとしたらハッタリかも、という淡い希望はいきなり崩れ去った。


「どうしたらいいですか?」

『さきのガルア・テトラの時とはまるで戦力が違います。今、その軍勢が首都に攻め上がってきたら、今日で、この国は終わりでしょう』

「お……終わりって……」

そんなあっさり……!?


「澄空さん」

と、賢崎さんが声を掛けてくる。

「何?」

「前から言われてはいたんですよ。『幻影獣が、本当に組織だって襲いかかってきたら、持ちこたえられる国はどこにもない』と。自然災害が意思を持って襲いかかってくるようなものです。凌ぐ手段はありません」

「それって……」

「敵が本気を出せば、いつでも負ける。勝負になっていないんですよ。本来、人と幻影獣は」

「な……」

と、突然、何を!

それじゃ、俺ら人間は、最後は絶対に死ぬしかないってことじゃ……。


『冷静になってください、悠斗君。この話は、もうずいぶん前から言われていることですが、今現実に人類が滅んでいない以上、それなりの理由があるはずなんです』

「そ……それは、そうかもしれませんけど……」

『今回もそうです。うちの複合電算シミュレータも、その軍勢が首都に攻め上がる可能性は低いと言っています。賢崎さんも同じ意見なのでは?』

言われて、賢崎さんの方を見る。

と、彼女は頷きで返してくれた。


「同意見みたいです」

『でしょう。奴らにはこの国を滅ぼしたくない理由があるはずなんです。……滅ぼしたい理由がないだけかもしれませんが』

「どちらにしてもヘコむ話ですね……」

『ヘコんでいる場合ではありませんよ。どう考えても、奴らのターゲットはあなたです』

「はい」

それは分かっている。

体育祭の前に、俺に姿を見せたあいつが四聖獣レオで間違いない。

ガルアの時と同じ。闘う前に、わざわざ先にBMP能力を見せに来た。

俺を焚きつけるために、わざわざ無関係の人間を巻き込む方法も全く同じだ!


「あいつら、一体、何が目的なんですか!?」

『仮説はいくつかあるんですが……。それよりも、今は生き延びることを考えましょう。恐らく、奴らは自分で提示したルールは守ります。24時間、何とか逃げ切ってください』

「え?」

今、なんて?

『申し訳ありませんが、海岸線に配置されたスカッドのせいで、そちらの地方に近づけません。海も空もダメです。何とか自力で逃げてもらうしかありません』

「そうじゃなくて! 倒さないんですか、レオを? ヤツ自身はスカッド100体で守備を固めている訳でもないし、奴さえ倒せれば! このままじゃ、被害がどんどん……!」

『警察や国家治安維持軍とも連携しながら、総力を挙げて対処しています。被害は最小限に喰い止めます』

「い、いや、でも! 出るんですよね、被害? 倒してしまえば……!」


「倒せないんですよ、レオは」


と。

唐突に賢崎さんが電話に割り込んでくる。

「賢崎さん……?」

「【絶望の幻影獣】。BMP管理局も、レオの正体を、そう考えているはずです」

と賢崎さんが言った時。

俺達全員の動きが止まった。


「絶望の幻影獣、って……」

「小学校の教科書に出てくる……。アレか……?」

三村と峰が呟く。

「と、父様……?」

「お嬢様が言うのなら……。あり得ない話ではないのかもしれない……」

山を抉った傷跡を見ながら、上杉親子が歯噛みする。


俺も知ってる。


100年前の【人間同士の最後の世界大戦】で、大陸間弾道ミサイルを洋上で全て消滅させた幻影獣。

歴史上初めて確認された幻影獣で。

最初は『希望』と呼ばれ、その後『絶望』と呼ばれた。

伝説の……そして、おそらくは最強の幻影獣。


大陸間弾道ミサイルの消滅は、はっきりと記録が残っているから、実在の幻影獣なのは間違いないと言われていたけど。


「城守さん……?」

『残念ですが、その通りです。スカッドを眷族として使役すること。悠斗君から聞いたレオのBMP能力。それに何より、第37支局での戦いぶり……。間違いありません』

「そんな……」

『スペックで表現するなら、スカッドの超上位互換。防御不可能の超広範囲攻撃と、破壊不可能の障壁を持っています。間違ってもカラドボルグなら通用すると思わないでください。スカッドのものとは出力が全く違います』

「じゃあ……」

麗華さんでも……?


と麗華さんに振り向くと。

「【絶望の幻影獣】なら資料が色々と残っているから、シミュレーションしたことがある」

と言って来た。

「ど……どうだったの?」

「カラドボルグの出力じゃ、100回斬っても障壁を突破できない。そもそも【絶望の幻影獣】の攻撃は、スカッドとは違って範囲攻撃。半径も100キロ超。防御不可能だし、そもそも近づけない」

淡々と無表情で教えてくれる麗華さん。

というか、なんだ、その絶望的なスペックは!

俺、体育祭前に、そんな化け物と話してたのか!?

「補足しますと、攻撃をスカッドのように直線状に絞った場合の射程は、5000キロに及んだそうです。残念ですが、倒す倒さないの次元ではありません。アレは、自然災害なんです」

賢崎さんがとどめを刺してくる。

そもそも半径100キロなら、ここもすでに攻撃範囲に入っている。

奴がその気になれば、次の瞬間にも……。


『自然災害と違うところは、奴には思考があるということです』

携帯電話から城守さんの声が聞こえてくる。

『ゲームに乗ってください、悠斗君。24時間逃げ切れば勝ちというなら、それに賭けるしかありません。こちらでもできる限りの対策は取りますから。間違っても闘おうとはしないように。いいですね! 絶対に闘わないでください。お願いします!』

と言って。

城守さんの携帯電話は切れた。


「BMPハンターにも倒せない幻影獣が居るのか……」

「もう一度言いますが、あれは自然災害です。幻影獣と考える必要はないんですよ」

俺の呟きに、賢崎さんが反応してくる。

「過ぎ去るのを待つしかない……のか」

「不満ですか?」

「いや……」

そういう訳じゃないんだけど……。


と。

「澄空さん。少し、嫌な話をします」

「え?」

唐突な賢崎さんのセリフに、少し面喰う。

「もし、レオと澄空さんが戦闘状態になった場合、間違いなくここにいる全員が参戦します」

「急に何を……」


「そして、何人かは死にます」

「!!」


「……」

「……」

「…………」

「…………分かったよ」

大きく息を吐きながら言う。

俺も馬鹿じゃない。あと、別にテンプレな正義の味方でもない。

賢崎さんの言いたいことくらいは分かる。


「すみません。本当に嫌な言い方でしたね」

「いや、俺の方こそ、ぐずって悪かった。指示してくれ、賢崎さん。何とか24時間、逃げ延びよう」

「……もちろんです」


自覚はなかったが。

俺と賢崎さんのやり取りは、だいぶ緊迫していたらしい。

みんな(※麗華さん除く)が、ほーっ、と大きく息を吐くのが分かった。


「とりあえず車で移動しましょう。スカッドの砲撃は、EOFでほぼ完全に予測できるので大丈夫です。このメンツなら、集団に出くわさなければ、スカッド・アナザー程度にそうそう後れを取ることもないでしょうし。レオの襲撃に警戒しながら、適度に移動を繰り返すのが一番でしょう。進路は私に任せてください」

という賢崎さん。

こういう時は(※別に、こういう時に限らないが)本当に頼もしい人である。

「次、分乗案です。まず、澄空さんが乗る車。雪風、春香、澄空さん、私、とします」

「え?」

賢崎さんが一緒に乗るのは分かるけど……。麗華さんは?

「奴らの思惑は実に分かりやすいんです。最初に狙われるのは、十中八九、『澄空さん以外の誰か』です」

俺の心の中の疑問に答えるように、賢崎さんが言う。

「そうか……。みんなを人質にして……」

「人質くらいで済ませてくれれば御の字です。奴らの目的が、本当に澄空さんの本気を出させることなら……必ずしも全員を生かしておく必要はありませんから」

「……っ」

賢崎さんの言葉は、本当に正確で容赦がない。

俺なんかじゃ、対抗意見すら出せない。


「続けます。2号車。上杉さん、時子さん、ソードウエポン、エリカさん。戦力的には申し分ありませんが、その……。おそらく一番狙われやすい二人です。十分に注意してください」

「うん、大丈夫」

緊張とは無縁の涼しい顔で答える麗華さん。

俺も、たぶん、この中で一番危険から程遠い人だと思うけど……。

俺は……。


「最後、3号車。武田さん、紬さん、三村さん、峰さん、小野さん。大変失礼な言い方ですが、戦力的に最も劣ります。くれぐれも注意してください」

「お嬢様と剣の御令嬢と比べてのこととはいえ……。時代は変わりましたなぁ……」

「ぼやかない、父さん。その分、私の時代が来るって!」

落ち込む一高さんと、それでも明るい紬さん。

「追い打ちをかけるようで悪いですが、3号車のエースは小野さんです。他の方はサポートを心がけてください」

「……ますます落ち込みますわぁ」

本当に追い打ちをかける賢崎さんに、さらに落ち込む一高さん。


そんな一高さんの様子を見て、場に少しだけ弛緩した空気が流れる。


「では、いいですか? あまり時間もありません。すぐに行動を……」

「待ってクダサイ」

行動開始を呼びかけようとした賢崎さんを、エリカが止める。

「エリカさん?」

「賢崎さんガ正しいノハ分かりマスケド、ヤッパリ、悠斗さんト麗華さんハ、同乗するベキだと思うんデス」

「……分かってください、エリカさん。本当に嫌な言い方になりますが、難易度を加味すると、一番狙われやすいのはあなたなんです。私は、澄空さんの傍を離れる訳に行きませんし、春香でもソードウエポンの替わりは務まりません。貴方が人質になれば、全員が危険に晒されるんですよ」

「その時ハ、自ら命ヲ絶ちマス!」


ちょっ!!


「「エリ……」」

と叫ぼうとした俺と三村より早く。


「エリカ」

麗華さんがエリカの名を呼ぶ。

「麗華サン……」

「私は今日はエリカを守る」

「デモ……」

「ナックルウエポンも付いているし、悠斗君なら大丈夫」

ね、とばかりに俺に振ってくる麗華さん。


「あ、ああ。大丈夫だ、エリカ」

「本当ニ大丈夫なんデスか?」

俺の心を見透かしたかのようなエリカの問い。


もちろん大丈夫じゃないに決まってる。


麗華さんに近くに居て欲しいに決まっている。

けど……。


「ああ、大丈夫。心配いらない」

と言うしかないだろ。

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